長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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(U・ω・U)<最初に言っておく、ごめんなさいと


Death Parade ⑪

 □■プリコット・東門

 

「あのバカ! 一人で突撃しやがった!」

 

 パーティメンバーの暴走にカヅキは天を仰ぐ。

 

 ゴブリンから逃げていた彼ら四人組は、いつの間にか東門付近にまで逆走してしまっていた。

 様子を窺っていたところで、【エフティアノス】を目にしたクッコロが理性を失い爆進したのである。

 

「仕方あるまい。彼女は限界だった。さながら深き業を背負いし辛苦の騎士といった体だったぞ」

「無理して厨二っぽい言動しなくていいんだぞエクス。ファッションなのはわかってるから」

「はー!? ファッションちゃうわ! バーカバーカ!」

「はいはい……っと、それどころじゃねえ!」

 

 ポカポカと殴ってくるエクスをあしらい、カヅキは戦場に意識を向けた。

 囲まれたクッコロは飛びかかってくるゴブリンを切り捨て、近くのゴブリンに詰め寄り、怯んだ相手を片っ端から倒している。

 

「……意外といけるか?」

「あれでも元は王国の決闘ランカーらしいぞ」

 

 二人が健闘を見守っていると、クッコロは突然わざとらしい動作で転び、両手剣を手放して倒れた。

 

「あ〜れ〜、やーらーれーたー」

「明らかに自演だろうが! ダイコンにもほどがあるぞクッコロぉ!」

 

 カヅキの突っ込みも意に介さず、クッコロは起き上がることなくやられたフリを続けている。

 ゴブリンも毒気を抜かれて困惑しており、何かの罠かと疑っている様子だった。

 

「……」

『……』

 

 そのまま、しばらく沈黙がその場を支配して。

 

「――なぜ私を慰みものにしないのですッ!?」

 

 救いようのない叫びがこだました。

 

「美貌と強さを併せ持つ女騎士ですよ? 金髪に強気な表情、スタイル抜群の女騎士ですよ!? ゴブリンなら……いいえ、雄ならその獣欲を余すことなくぶつけるべきでしょう! 恥を知りなさい!」

 

 現在進行形で痴態を撒き散らす人に言われてもゴブリンが困るだろうとパーティメンバーの内心は一致し。

 ゴブリンはそもそも人間の言葉を理解できるものが少なく、ただ内容がどうしようもないものということだけは口調から察して。

 彼女の言葉をまともに取り合ったのは、【エフティアノス】だけだった。

 

『ふむ……面白い』

 

 鬼人は上から下までクッコロの体をつぶさに観察して、真剣な表情で思案する。

 

『あの女のお陰で余の配下は壊滅したのでな。いずれ補充はしなければならぬと考えていた』

 

(嘘だろ? それでいいのか<UBM>)

(うわぁ……)

 

『だが、母体となるには強者でなくてはならぬ。そして、余が抱くのは自ら勝ち取った戦利品のみ』

 

 クッコロが取り落とした両手剣を拾った【エフティアノス】は、それを彼女の眼前に突き立てる。

 それを見たゴブリンはそそくさと後ろに下がり、鬼人と女騎士を中心とした円形の囲いを作った。

 

『余は一騎討ちを所望する。殺す気で来い』

「ふっ、いいでしょう」

 

 再び剣を手にしたクッコロは立ち上がり、不意をつく勢いで【エフティアノス】に切りかかる。

 下段からの切り上げ、切り下ろし、そして回転しながらの水平切り。流れるような剣技を、鬼人は大剣を合わせることで難なく捌いた。

 

「とああああ!」

 

 崩れた体勢のまま、軸足を変えて肩からタックルしたクッコロは小柄な鬼人に覆い被さるようにのしかかる。

 自重をかけて動きを制限したまま、手首を使って小鬼の頸動脈を裂こうと剣を引くが。

 

「っ、硬い!?」

『当然よ。貴殿に余は傷つけられん』

 

 耐性を上昇させた【エフティアノス】の防御を貫いてダメージを発生させることすらできない。

 

「それならっ……《グランドクロス》ッ!」

 

 零距離で放たれる光の奔流が両者を焼く。

 聖属性の光は使い手であるクッコロをも傷つけ、手にした両手剣は熱に耐えられず融解していく。

 さしもの【エフティアノス】も奥義を受ければ無傷とはいかない。クッコロの判断は間違いではなかったが。

 

『残念であったな』

 

 人外の膂力を発揮した鬼人が彼女を押し返す。

 大剣が半ばから折れた両手剣を弾き、打ち砕く。

 地に伏したクッコロに【エフティアノス】が大剣を突きつけて、それでおしまい。

 

 鬼人に外傷は皆無。受けた傷はすべて、《ゴブリンエンパイア》により配下に転嫁しているのだから。

 始めから勝負は見えていた。【エフティアノス】が勝つ以外の結末は残されていない。

 

「くっそ……しょうがねえなあ」

 

 それを黙って見ているカヅキではない。

 次に狙われるのは自分だから。

 今から逃げ出しても追いつかれる。

 なら、クッコロという盾を失うわけにはいかない。

 

「卑怯だろおい! こんなの無効試合だ!」

 

 カヅキはゴブリンの囲いを押し除け、クッコロを助け起こす。

 

「ほら終わりだ! 帰るぞ!」

「い、いえ。ですがカヅキ、まだ」

「黙れこのドM騎士! 十八禁ルートはまだ早い!」

「うひぃん!?」

 

 叱咤と臀部へのビンタにクッコロはなんともいえない悲鳴を上げて抵抗の意思を失う。

 カヅキはエクスの手を借りて満身創痍の彼女を運び出そうとする。

 

 しかし、彼の前に鬼人が立ち塞がった。

 

『小僧、何を憤っている? もとより余が勝つことが前提の戯れであろう。そこの娘も合意の上だ』

「うっせーわ! こんな茶番にはうんざりだ! そもそも何が小僧だ。お前の方が小さいくせによ!」

『……ほう』

 

 静かに、されど確実に憤怒を帯びた鬼人。

 放たれる威圧感はみるみるうちに増大していき、強化スキルを併用した【エフティアノス】の全身からはオーラが立ち昇る。

 鬼人の逆鱗に触れたことに気がついていても、カヅキの口は止まらない。

 

「どうせあれだろ? 身長でコンプレックス抱いてるんだろ? だってお前、普通のゴブリンより小さいもんな? そのなりで皇帝とかちゃんちゃらおかしいぜ。むしろお世話される赤ちゃんじゃないんでちゅかー?」

『――そうまで死に急ぐか』

 

 超音速で大剣が振られる。

 それはプリコットの森を丸ごと切り裂いたのと同じ、スキルで多重に強化した横薙ぎの斬撃。

 その場の誰も視認することはできず、あっけなく、カヅキの胴体は上下に切り裂かれる――

 

「ふぎぃ!」

「くっそ、ビビった! 超こえー!? 生きてる? 俺生きてるよな?」

 ――はずだった。

 

 それでも【エフティアノス】は冷静だった。

 まず間違いなく【ブローチ】を装備していたのだろうと判断して、続く二の太刀で無礼な男の首を跳ね飛ばし、

 

「ぬほっ!」

「くそ、容赦ねえなあ!」

『何だと……』

 

 ここで【エフティアノス】は動揺した。

 ただ、<マスター>と<エンブリオ>について学んでいた鬼人は、理不尽の塊のような生き物がこの世界には存在することを知っていた。

 目の前の不死身は何らかのタネがある。

 単なるスキルでも、物理攻撃無効、ダメージ転嫁、無敵化などが考えられる。

 

 カヅキを《看破》した鬼人は、目の前の男が貧弱な……レベル200にも届かない弱者であると読み取り。

 そこからどのような原理だろうと、カヅキの様子から長時間は持続しない制限時間付きのスキルと予想して。

 有用なスキルならラーニングしてやろうと、スキル発動の前兆を見逃さないようにしながら猛攻を仕掛けた。

 

 ……しかし、倒れない。

 

 カヅキにスキルを発動している様子はなく、ステータスにも変動はない。

 

『小僧、何をした?』

「俺は何もしてねえよ。もう少し視野を広く取ったらどうだ?」

 

 そう言われて鬼人は周囲を見回す。

 配下のゴブリン、先程の一騎討ちで数を減らしているが未だに健在。

 あとはそう。一騎討ちの相手だったクッコロが地面に倒れて、気味の悪い笑いを浮かべながら、【エフティアノス】の攻撃と同じタイミングで奇声を上げているだけで……

 

『貴殿……か?』

「うひっ、んほぉっ!」

 

 会話にならないが鬼人の推測は正解である。

 クッコロの鎧、【供儀贄鎧 アルケスティス】。

 その効果は『パーティメンバーが受けるダメージ・状態異常の肩代わり』。

 ダメージ転嫁の亜種であり、仲間の傷を一身に引き受ける博愛精神から生まれた<エンブリオ>である。

 

 クッコロは《聖騎士の加護》でダメージを軽減し、さらにサブに置いた【獣拳士】の《甲亀の構え》と【僧兵】の《五体投地結界》、必殺スキルの《災禍を祓う献身(アルケスティス)》で防御力を十倍以上に跳ね上げた上で。

 【ブローチ】や【身代わり竜鱗】などのアクセサリーでひたすらに攻撃を耐えるタンクビルドの【聖騎士】。

 

「ふふ……あは……ひひ……くっ、ころせぇ……!」

 

 見た目は、地面に伏せて悶える騎士という情けない格好になるのだが。

 

『……先に貴殿を仕留めるほかないようだな』

 

 クッコロに狙いを澄ませた【エフティアノス】は彼女のビルドの弱点を見破っていた。

 即死級の攻撃を確実に防げるのは【ブローチ】が機能する一回のみ。

 あとは純粋なダメージを受けるだけで、強力な状態異常への対策が不十分だ。

 そして、地に伏せることが条件なら地属性魔法で地面を陥没させても良い。

 

「いいのか? お前、誰かを忘れてるぜ」

『無駄だ小僧。少々面食らったが、余はそちらに気を配りながら娘を殺すなど雑作もない』

「いや俺じゃなく」

 

 カヅキが指差した方向、【エフティアノス】の背後に立っているのはエクス…… X・プロード。

 こうばしい風に指の間に挟んでいるのは四つの【ジェム】と四本の爆薬、【ダイナマイト・ポーション】。

 彼女の表情はまるでお気に入りのオモチャを並べられた子供のように生き生きと輝いていた。

 

「いいんだなっ? 今日は思う存分やってしまってもいいんだよなっ、カヅキ!?」

「ああ。小鬼さんはお疲れみたいだからな。目が覚めるくらいのド派手な衝撃をご所望だ――やっちまえ」

 

 親指を下に出した握り拳のゴーサインで、エクスは鬼人へと突撃する。

 

『ッ、誰か! そやつを止めろ! 殺せ!』

 

 本能で危険を察知した【エフティアノス】は配下のゴブリンに命令するが、ゴブリンの剣も、槍も、魔法も、エクスには通じない。女騎士が喜悦の悲鳴を奏でるだけ。

 

「此の世は闇夜、一寸先に光なし。行先見えぬ道ならば、咲かせて照らせ紅蓮華!」

 

 エクスは(何の意味もない)口上を述べながら、【ジェム‐《クリムゾン・スフィア》】を起動する。

 

「命を燃やせ! 魂を焼け! その輝きを見せつけろ! 《煉極焦土(カグツチ)》ぃ!」

 

 TYPE:ルール、【自爆自炎 カグツチ】。

 その唯一の特性は『自身爆薬化』。

 一切の制御を投げ捨てた必殺スキルは、エクスの全身を超級職の奥義を優に超える威力の爆弾にする。

 

 そして【発破工】系統の《設置爆弾強化》が適用されることで、その威力はさらに高まり。

 

「爆発は……芸術だぁーーッ!!」

 

 爆炎が、すべてを燃やし尽くした。

 

 

 ◇◆

 

 

 辺り一面を吹き飛ばした大爆発。

 プリコットの城壁にまで被害を及ぼしたエクスの自爆を受けて、立ち上がることができた生命はたった一つ。

 限界を迎えて崩れ落ちた岩塊の中から這い出たのは……【エフティアノス】。

 

『なんと、いう、ざまか』

 

 鬼人は肩口から千切れた左腕を止血し、息も絶え絶えになりながら状況の把握に努める。

 配下のゴブリンは全滅した。

 自身は片腕が欠損、全身に酷い火傷を負っている。

 

 爆発の直前、咄嗟に発動した炎熱耐性スキルと地属性魔法のトーチカで身を守ってなおこの威力。

 ダメージ転嫁を突き抜けて【エフティアノス】本体も少なくない傷を受けた。

 否、本来は致命傷であった。

 鬼人が倒れていないのは足元に転がる破損した装飾品…… かつて強奪し、虎の子として用意していた【救命のブローチ】のおかげに過ぎない。

 

『認めよう。この戦、余の敗北だ』

 

 群としての戦で負け、個としての勝負に敗れ、配下を失い、死の間際まで追い詰められた。

 もはや【エフティアノス】はかつてほどの脅威として認識はされないだろう。

 一刻も早くこの場を立ち去り、敗戦の将として落ち延びる選択しか取ることができない。

 

 だが、生きている。かろうじて生き延びている。

 自己修復に注力して足を動かす。

 鬼人は生き汚さだけは他の追随を許さない。

 

『やはり、一万では足りん。しかし、兵を賄うには先立つものがいる……堂々巡りというやつよ』

 

 教訓は得た。

 念入りに準備をして、それでも<マスター>についての見通しが甘かった。

 二度と奇天烈な言動に惑わされたりしない。

 獲得したスキルを吟味する時間も必要だ。

 ひとつ腹立たしいのは、これほどの被害を与えた二名のスキルの有効活用法が少ないということ。

 死ぬ思いをしてラーニングしたスキルが自爆と身代わりとはどういうことか。

 鬼人が使うのは論外、いたずらに配下を減らすのは運用としてよろしくない。

 

『かろうじて死に際に、か? 次までに策を練らねばな。そうとも……まだ、終わってはおらぬ』

 

 この場は引こう。しかし、次がある。

 また配下を集め、育て、力を蓄えるのだ。

 死ななければ、何度だって再起をはかれる。

 

「そうね。でも、そういうのって暑苦しいわ」

 

 聞き覚えのない気怠げな声に【エフティアノス】は思わず足を止める。

 背後を振り返ると、布を一枚巻いただけの少女がしゃがんで爆心地を漁っていた。

 鬼人は記憶を呼び起こし、彼女の外見はカヅキが背負っていた眠りこける少女と一致することに気がつく。

 

「エクスは自爆。クッコロはやられちゃったわね。いつもフルパワーで、見ている私の方が疲れちゃう」

 

 少女は深いため息を吐いた。

 兵器の残骸や瓦礫をどかすのも億劫なのか、指でつまむことのできる小石だけをひょいひょいと取り除いている。

 

「あっ、いたいた。起きなさいカヅキ」

「痛っ!? お前、人を椅子にするな!」

「だって疲れたんだもの」

 

 少女が腰掛けるカヅキは鬼人と同じく満身創痍だった。

 下半身は倒れた防壁に挟まって動けない。

 既にHPはごく僅か。放っておいても傷痍系状態異常ですぐにデスペナルティになる。

 

「あー、状況は?」

「パーティは全滅、敵は小さいゴブリンが一匹よ。おー、ゆうしゃよ。死んでしまうとは情けない。柄にもなく頑張ったのに残念ね?」

「何言ってんだ。あいつらが暴走しただけで、俺は別に頑張ってないし」

「男のツンデレって需要ないわよ」

「うっせ」

 

 二人は軽口を叩き合うと。

 

「トルテ。最後に一仕事頼めるか?」

「戦うのは面倒だから嫌いって言ってるのに……はあ、しょうがないから今回は助けてあげる。感謝しなさい」

 

 直後、トルテは少女から木製のスリングショットへとその姿を変えた。

 カヅキはそれを【エフティアノス】に突きつける。

 

『Form Shift 【Sapling Arrow】――』

「くらいやがれゴブリン――」

 

 鬼人の直感は警鐘を鳴らす。

 あれを撃たせてはいけないと。

 この場面で手札を切るということは、当然【エフティアノス】を倒せる自信があるということ。

 今の鬼人はかつてないほどに傷を負っている。

 ダメージを転嫁する配下はいない。

 

『ッ、舐めるなぁ!』

 

 追い詰められた【エフティアノス】が取った行動は迎撃でも逃走でもなく、速攻。

 接近するリスクはあるが、無防備な背後から追い打ちを受ける方が危険。

 瞬時になけなしの気力を振り絞って身体強化を施し、全速力で駆け出す。

 狙いはカヅキ。蘇生不可能なほどに脳を潰せば、カヅキは即座にデスペナルティになる。

 

 鬼人の隻腕がカヅキの頭部を貫くのと、弓なりに引き絞られた小枝から弾が撃ち出されるのはほぼ同時。

 

 鬼人は首を傾けて弾を避けようとしたが、それより手前の地点でそれは破裂した(・・・・)

 

『ぬッ……?』

 

 目と鼻を刺激する悪臭が周囲に立ち込め、煙を思い切り吸ってしまった【エフティアノス】は咳き込む。

 だが、それだけ。ダメージはない。状態異常には罹患していない。分析をかけても煙は肉体に何ら害を及ぼすものではない。

 植物の粘液が素材の、単なる嫌がらせ。

 

『ふ、はは。最後まで余を謀りおって』

 

 安堵した【エフティアノス】は念入りにカヅキの肉体を破壊し、光の塵となって消えていくのを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―― 《黄昏の鏑矢(ミストルティン)》』

 

 その直前、少女の声が置き土産を残していったことに気づいたときには……もう手遅れだった。

 

To be continued

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