長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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Death Parade ⑫

 □■【慧鬼帝 エフティアノス】について

 

 彼は元々小さな群れに生まれたゴブリンだった。

 特別な血統の末裔というわけではないし、突然変異の亜種だったということもない。

 ただ他の個体と違っていた点は、身体が非常に小さく、か弱かったこと。

 矮躯につられるようにステータスは一桁のまま伸びず、武器を持ち上げることすら困難なほど非力だった。

 狩りもできない足手まといの穀潰しを、群れのメンバーは心よく思わない。

 

 だから彼は自分に出来ることを探した。

 戦えないのなら、皆が使う武器を作れないか。

 狩りができないのなら、他の方法で食べ物を。

 子を守るために雌に混じって仕事を。

 

 初めはわからないことばかり。失敗続き。

 だから、とにかく学んだ。

 群れの年長者に教えを乞い。ゴブリンの知識で足りないのなら群れの外、他のモンスターを観察して。時には密かに人里に近づいて人間の技術を盗んだ。

 

 それでも群れに認められなかった彼は、とうとう家族からも見放され、群れから追い出された。

 圧倒的弱者である彼は、群れの庇護がなければその日の食糧さえ満足に手に入れられない。

 彼が頼れるのは知恵だけだった。

 頭脳を鍛え、相手を観察し、工夫を凝らした。

 他者の長所を模倣する、争い合うモンスターの共倒れを狙って利益を掠め取る。

 ときに泥水を啜って生き長らえ、力を付けていく。

 スキルを身につけ、新しい技術を学び、強くなる。

 

 そうして各地を放浪していた彼は、自分と同じ「はぐれ」のゴブリンが流れ着く集落を見つけた。

 飢えて死を待つばかりのゴブリンたちは、生気の無い目で彼を迎え入れた。

 

『どうせ明日には死んでいる。そうでなくても明後日までは生きられない』

 

 生きることを諦めたゴブリンに、彼は言った。

 

『なら、その命を預けてみないか』

 

 まず手始めに罠で地竜を仕留めた彼は、大量の肉を持ち帰り……すぐに集落の頂点に立った。

 それからはあっという間だ。

 次々と改革をもたらし、集落を豊かにした彼の噂を聞きつけたゴブリンが傘下に入り、他所の群れを併合し、一大コミュニティを形成した。

 その特異性を管理AI四号ジャバウォックに認定され、彼は<UBM>に進化した。

 

 だが、旅の中でいくら成長しても、<UBM>化に伴う外付けのリソースを獲得しても、エフティアノスの身体は強化されなかった。

 桁違いに上昇したMPとSPを除いて、戦闘に関与するステータスは軒並み低いまま。群れの子ゴブリンと相撲しても負けるほど。

 彼は小柄で貧弱な、少し賢いだけの小鬼だった。

 

『余の虚弱体質は宿命ということか? ならば技巧で補うのみよ』

 

 統率者も、個の武が必要になるときはある。

 保有する数多のスキルで自分を多重に強化し、一時は他の<UBM>と遜色ない強さを発揮する。

 ラーニングの欠点となる成長速度の問題は《戦技連結》による編纂で解消済み。ひたすらにスキルを観察して己がものとするほかない。

 いくらスキルを揃えても、身体にかかる負荷と反動はゼロにはできない。クールタイム・効果時間もあり、戦闘の継続時間に制限がかかるという問題だけはどうあっても解決できなかったが……それは配下を育てるしかない。

 

 本来なら幼いうちに死ぬ個体も彼は見捨てなかった。

 個体の適性を見極めて、できる仕事に従事させる。

 戦いだけがすべてではないことを彼は知っていた。適材適所、そのためには弱者を見捨てず、教育に力を入れることが重要だ。

 質の良い武器とエフティアノスの戦術のおかげで、狩りの犠牲者は皆無。集落には回復魔法を使えるものを備え、病気や怪我に備える。

 知恵を磨き、互いに助け合う。それがエフティアノスの治世だった。

 

 そうして、一年と経たずにエフティアノスの群れはレジェンダリアの各地に潜む一大勢力となった。

 死者の減少と出産の増加に伴う群れの巨大化で、自然と発生する課題は食糧と住処の確保だ。

 

 地属性魔法による土地の開拓とジオフロントの形成、植物の品種改良などで手は尽くした。

 地下空間への移住は試験的に成功を収めた。ただし後者はリソースの関係で劇的な食糧問題の解決には至らない。できた種子の多くはモンスター化してしまい、可食部も酷い悪臭で使いものにならないのが現実で。

 

 あまりにも急速に数が増えたことで発生した問題に対処する方法は、二つしかなかった。

 

『……選別か、侵略』

 

 口減らしで群れの一部を追放、もしくは殺害するか。

 

 潤沢な資源を他所から奪い取るか。

 

『賢君は前者を選ぶのだろうな』

 

 エフティアノスは苦悩し、嘆息する。

 前提として、どちらも犠牲無しにはなし得ない。

 けれど、侵略戦争は文字通りの総力戦になる。

 勝てるかも分からない戦いだ。最善の手を選び続けても、全滅する未来はあり得る。

 

『だが……許せ。余は、多数のために少数を切り捨てることはできんのだ』

 

 なぜなら、少数として切り捨てられる辛さを彼自身が一番良く理解しているから。

 

『なんとまあ、自暴自棄な独裁者よ。それでも。やるからには勝たねばなるまい』

 

 たとえ、どれだけ血を流しても。

 道の半ばで屍の山を築いても。

 彼は心を鬼にする。

 矛盾していると笑いたければ笑うがいい。

 

 あの日、彼らの命を預かった瞬間から。

 より良い未来に導く責任を負ったのだから。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■プリコット・東門

 

 鬼人は焼けるような痛みに襲われて膝をつく。

 脳裏を過ぎるのは、生涯で体験してきた出来事。

 いわゆる走馬灯というものだった。

 

『……ッ、何が起きた?』

 

 敵は既に倒した。残っているのは城壁に下がった騎士団だけで、まだ【エフティアノス】が瀕死であることには気が付いていない。

 新手ではない。痛みは肉体の内側から生じており、単なる攻撃でないことは明白だ。

 

 そして、驚くべきことに【エフティアノス】の膨大なMPとSPが枯渇寸前になっていた。

 

 当然だが鬼人は余力を十分に残していた。

 己の生命線となる魔力と魂力を浪費するのは自殺行為であり、常に総量の半分を下回らないよう気を配っていた。

 しかし、今は継続回復で補填した端から湯水のように力が流れ出していく感覚があった。

 否、正確には吸われている(・・・・・・)

 

『行く先は、余の中だと?』

 

 鬼人は肉体の内側に意識を集中する。

 筋組織と骨と神経に絡み、全身を蝕むもの。

 生命力(HP)すら奪い取ろうと、潤沢な栄養を吸収して成長するのは種子から伸びた植物の蔓。

 絶え間ない激痛を与えて宿主を食い潰そうとする苗木が【エフティアノス】の身体に寄生している。

 

『このような害虫に気付かぬはず……いや……あのとき、か?』

 

 原因として考えられるのは、カヅキが最後に撃った悪臭の煙玉を吸ったことくらい。

 直接体内に吸引した攻撃は他にない。

 

『いやおかしい! 無害であることは確かめた! あれは植物をすり潰しただけのもの!』

 

 鬼人の推測は正しく、そして誤りだった。

 

 カヅキの<エンブリオ>はTYPE:メイデンwithアームズ、【奪力乙女 ミストルティン】。

 彼女はスリングショットともう一つ、プランターの形態を持っており、植物の栽培が可能となっている。

 ミストルティンは育てた植物にある特性を付与させることができる。

 

 ――植物をミストルティンの子機にする、という。

 

 枝葉や根から花粉、種子、体組織の一片に至るまで。

 子機になった植物を撃ち出すことでミストルティンはスキルの遠隔発動を可能としているのである。

 子機自体にミストルティンが宿っているわけではないので、加工してしまえば痕跡は目立たない。

 忘れてはいけないのが、これはあくまでスキルを使用するための前提。ミストルティンの本質は別にある。

 

 子機を撃ち込まれた者は、あらゆる(ステータス)を奪われる。

 STRやEND、DEX、LUC、そしてHPなど。他者の素質を吸収することで<マスター>の糧にする。

 

 そして、必殺スキルの《黄昏の鏑矢(ミストルティン)》はTYPE:メイデンの例に漏れず、己の力を一点に集中させ、限定条件下で強者を倒す技。

 効果は『対象から吸収したMPとSPの総量に比例する効果時間・強度のヤドリギが持続的に対象の最大HP値ごと体力を吸い取る』というもの。

 対象の精神と体力を徐々に蝕み食い尽くすそれは、どこまでも相手に依存するジャイアントキリング。

 

 とはいえ、スキルの詳細を知ったところで【エフティアノス】はどうしようもない。

 植物を改良するスキルはある。肉体を切開して傷を残さず摘出することも、回復魔法を使うこともできる。

 しかしだ。スキルに依存する【エフティアノス】は、コスト抜きでスキルを使用できない。

 わずかに回復したMPとSPは即座にヤドリギへ吸われていく。

 

 だからこれは、鬼人にとって致命的に相性が悪かったというだけの話。

 

『あ、が……』

 

 体力が失われていく。【エフティアノス】は飢えと渇きに意識を飛ばしかけたところで……

 

『ぐっ、おおおおおおおお!?』

 

 肉に指を突き立てて、強引にヤドリギを引き抜いた。

 死にかけの体がさらに傷ついた代わりに吸収は止まり、徐々に魔力が回復していく。

 

『あとは……回復、を』

 

 膝をついた鬼人は魔法を使おうとしたが、こめかみに当てられた銃口の冷たさを感じ取って、伸ばした手を頭の上まで掲げる。

 降参を示す姿勢に、拳銃を構えたヘイゼルは片眉をわずかに跳ね上げた。

 

『潔いですね』

『余が動くより貴殿が引き金を引く方が早かろう。……しかし、しぶといな。たしかに胴体を貫いたはずだが』

『生物ではありませんからね。親の顔ほどに見た躯体ですので、応急処置はお手の物です』

 

 ヘイゼルは塗装されていない剥き出しの胸部装甲を撫でて答える。炉心さえ壊れていなければ彼女は自己修復が可能であり、その時間と材料は十分にあった。

 

『何か言い残すことがあれば聞きますが』

 

 これで最後と、ヘイゼルは敗者に問いかけ。

 

 鬼人はぽつりと呟く。

 

『余は、間違っていたのだろうか』

『そうですね。どのような理由があるにせよ、勝ち目のない戦を挑んだ時点で愚王の誹りは免れなかったでしょう。多くの兵が死ぬのですから』

『……そうか』

 

 ■■は天を仰ぎ、

 

『どうしたら、良かったのかな』

 

 一発の銃声に倒れた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 【<UBM>【慧鬼帝 エフティアノス】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【カヅキ】がMVPに選出されました】

 【【カヅキ】にMVP特典【封芸璽 エフティアノス】を贈与します】

 

To be continued




余談というか今回の蛇足。
【エフティアノス】
(U・ω・U)<作者にとっての想定外、書いていたらどんどん話が膨らんでしまった

(U・ω・U)<誰もが幸せに暮らせる福祉国家を目指した君主

(U・ω・U)<飢えもなく、命の危険もない理想郷……

(U・ω・U)<モンスターである以上は不可能だと理解していたのにね


【ミストルティン】
(U・ω・U)<メイデンとしての強者打破は『力を奪い続ければ、どんな生命もやがては枯れる』

(U・ω・U)<他二人はネタ枠っぽさがあるけどこれはもうチートに足をかけた魔術師・武芸家殺し

(U・ω・U)<引きこもり君の<エンブリオ>で相手を食い潰したと考えると皮肉なものがある

(U・ω・U)<それに、カヅキが使った植物は……


ヘイゼル
(U・ω・U)<経験上、無能な王のせいで兵士が無駄死にすることは愚かだと思っているけど

(U・ω・U)<今回はやむに止まれぬ事情があったことを察して、王と戦士に敬意を表した
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