長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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Death Parade ⑭

 □■ひよ蒟蒻について

 

 【征伐王】ひよ蒟蒻は凖<超級>でありながら、他者と比較しても多くの特典武具を獲得している。

 それは彼が同じだけのトラブルに巻き込まれ、また首を突っ込んできた証だ。

 たいていの<UBM>は強力な固有スキルを持つが、彼が使う奥義はその特異性を封じることができる。

 それこそ【超闘士】や【殲滅王】のような万能性・対応力はないものの、相手の長所を発揮させない戦いに持ち込めるという点はアドバンテージと言えるだろう。

 

 だが実は、ひよ蒟蒻が普段使いする特典武具は超級職に就く以前に手に入れたものがほとんどだ。

 いずれも運と機転で討伐せしめた戦いばかりで、ひよ蒟蒻は「同じ戦いをしたら次は負ける」と確信している。

 ここで補足しておくと、戦いにおける彼の技量が低いわけでは決してない。そして複数の<UBM>と遭遇する幸運はすべてが偶然とも言いがたい。

 とまあ、それはさておき。

 

 これまでに経験した<UBM>戦の中で、特にひよ蒟蒻の印象に残っているのは三つ。

 いずれも敗北感を色濃く刻まれた戦いである。

 

 一つは【隕鉄竜星 アーステラー】との初遭遇。

 師を失った、忘れることができない思い出だ。

 

 二つ目はR・I・Pと共闘した【不朽魁偉 ドロ】討伐。

 強くなりたいという思いを打ち砕かれるような、どうしようもない無力感を味合わされた戦い。

 大地に接している限りリソースを吸収して無限に回復し、尋常でない耐性を誇った巨人の進撃。

 ひよ蒟蒻ができたことは、せいぜいが巨人の足を引っかけて転ばした程度だった。

 もしR・I・Pがいなければ巨人を止められず、レジェンダリアの集落はいくつか壊滅していたかもしれない。

 

 三つ目は、とある剣士との決闘。

 ギデオンに存在しないはずの第十四闘技場。

 かつて裏賭博が行われ、今は忘れ去られた地下深く。

 そこには挑戦者を待ち続けた剣鬼がいた。

 死してなお色褪せぬ技の冴えにて迷い込んだ者を倒し、それでも晴れぬ執着に囚われた決闘王者。

 ひよ蒟蒻は死力を尽くして剣鬼を打ち破り、最初の特典武具を獲得したわけだが……仮に生前のままだったなら、ひよ蒟蒻は超級職を得た今でも瞬殺されるに違いない。

 

 そうした経緯がゆえに、ひよ蒟蒻は剣鬼の概念が宿った特典武具を重宝している。

 この一振りがあるからと他の剣を持たないほどに。

 最も信頼する切り札といってもいい。

 つまるところ、それはひよ蒟蒻にとって最強の武器。

 

 ただ、最高の武器はまた別にあるのだが。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■ プリコット・西門

 

 【ドロ・レプリカ】の肩から地上を見下ろしていたリップは、ひよ蒟蒻の雰囲気が一変したことに気がついた。

 熱い眼差しを感じて、リップはぞくりと身を震わせる。

 

(嗚呼! やっとその気になっていただけたのですね!)

 

 巨人の攻勢は緩めない。

 リップが打ち倒されるには、ひよ蒟蒻にとっての悪役でなければならないからだ。

 なにより、せっかくひよ蒟蒻がやる気を出している。どうせ同じ結末なら熱烈で激しい方がリップにとっては好ましい展開だった。

 その代わりにリップ自身は抵抗しない。

 これからひよ蒟蒻が何をしようと、それが自分を倒すための行為である限り、彼女は妨害行動を取らない。

 どのような方法で殺してくれるのかと心を弾ませながら観察するだけだ。

 

 彼女の期待に応えるように、ひよ蒟蒻はフルンティングを構えて、

 

「――《聖別の銀光》」

 刀身に聖属性とアンデッド特攻を付与する。

 

 銀光を纏う鈍が巨人の拳と接触した瞬間、これまでと比べ物にならない衝撃が【ドロ・レプリカ】を襲う。

 フルンティングの通常攻撃で発生する衝撃波は与ダメージ相当の威力。アンデッドの【ドロ・レプリカ】は十倍以上の強さで押し返され、大きくのけぞった。

 

 ノックバックした巨人はバランスを取るために一歩、二歩と足を下げる。

 三歩目でどうにか態勢を立て直せる……そのタイミングで、ひよ蒟蒻は次の一手に動いていた。

 

「……? どこに」

 

 リップの視界からひよ蒟蒻が消える。

 【ドロ・レプリカ】に掴まりながら、体を乗り出して眼下を探せど姿が見えない。

 

(まさか、逃げた?)

 

 ふと過ぎる推測が熱に浮かされた脳を冷やす。

 リップはほんの少し冷静になった思考を高速で巡らせ、首を振り、嫌な想像を頭の片隅に追いやる。

 

(あり得ません。あの人は、この局面では逃げられない)

 

 わざわざリップを止めに来たと言った。街に被害を出さないように、おそらくは東門の異変を他の人に任せて。

 何の理由なしに逃走を選んでも意味がない。

 

(絶対にいますわ。たしか幻術の特典武具を持っていたはず。ですが、【ドロ・レプリカ】に不意打ちなどたいして意味が……いえ。そもそも隠れていないのだとしたら)

 

 ひよ蒟蒻に隠れているつもりはない。

 ただリップに見えていないだけ。彼女にとって死角になる、そんな場所は限られる。

 

 たとえば、【ドロ・レプリカ】の足元。

 

「っらあ!」

 

 地面から突き上げるような衝撃が伝わり、【ドロ・レプリカ】の巨体がぐらりと傾いだ。

 体重を支えようと巨人が足を下げた三歩目ちょうどの地点に立ち、フルンティングを振り上げたひよ蒟蒻。

 彼は片足立ちになった巨人の、残った軸足目掛けて走り寄り、

 

「【ドロ】のときはこれで倒した。なら複製品だって同じはずだろう!」

 

 振り抜いた一撃は、巨躯を宙に吹き飛ばす。

 

 死骸と鋼鉄を組み合わせた【ドロ・レプリカ】。

 アンデッドと機械の間の子である巨人は、同格のアンデッドを優に超える怪物じみたステータスと、主人のリップに依存しない無尽蔵のスタミナを併せ持つ。

 しかし、それは炉心に動力が供給されていればの話。

 大地から身体が離れたとき、魔力の供給は途切れ……巨人の力は失われる。

 

 今このときに限り、【ドロ・レプリカ】は見掛け倒しの木偶の坊に成り下がる。

 この隙を見逃すひよ蒟蒻ではない。

 巨体が空中に留まるわずかな時間で、巨人を再起不能にできる手札はたったひとつ。

 

「起きろ。出番だ」

 

 アイテムボックスから飛び出したのは一振りの刀剣。

 錆びた鎖が鞘代わりの、禍々しい呪いの黒刀。

 腰に佩かれたそれはひよ蒟蒻の声に応えた。

 雁字搦めに巻きついた鎖は意思を持っているかのように解けて、隠されていた刀身を露わにする。

 緩く反った片刃の表面には蒼白い焔。

 溜め込まれた怨念で鍛え上げられた業物は、強敵との邂逅を喜ぶように燃え上がる。

 

 銘を、【縛鎖業剣 バーテクス】。

 

 柄頭から伸びた鎖が巨人に絡み、そのままひよ蒟蒻を敵の元まで連れて行く。

 急接近したひよ蒟蒻は、

 

「……ッ!」

 片手のフルンティングをもう不要だ(・・・・・)とばかりに思い切り頭上に投げ捨てて(・・・・・・・・・・・・)、【縛鎖業剣】を両手で握る。

 

「《星破剣舞(バーテクス)――」

 

 引き絞られた両腕を導くように、巻きついた鎖がひよ蒟蒻の動作を加速させる。

 

「――ソード・ランペイジ》!」

 

 それはかつて神域と謳われた剣技の片鱗。

 超々音速の域に達した連続剣は【ドロ・レプリカ】を一息に断ち斬る。

 本来の性能を発揮できず、炉心と動力の循環路を破壊され、【ドロ・レプリカ】は無数の破片に細断される。

 

 巨人の命綱である《死人に朽ちなし》は発動しない。

 【屍将軍】の最終奥義はアンデッドを復活させるスキルではあるが、破損した肉体の修復には限度がある。

 なのでアンデッド特有の再生能力で補うのがセオリー。しかし《銀光》を帯びた攻撃の傷は再生不可能。

 復活はできず、沈黙するのみ。

 

「素晴らしいですわ! 素晴らしいですわ! これほどの大技をこの身で受け止めたら……嗚呼! わたくし、想像だけでどうにかなってしまいそうです!」

 

 足場を失って落下するリップは、興奮が最高潮に達していた。

 今の一撃で無傷であることも気にならない。

 あれは【ドロ・レプリカ】に遮られて届かないような生温い攻撃ではなかった。奇跡的に、不運にも当たらなかったと考えるほど愚かではない。

 ひよ蒟蒻はわざと外したのだ。

 

(何故か、なんて考える必要はありませんわ。だって)

 

 爛々と輝く真紅の瞳には一人しか映らない。

 

 落下する破片から破片へ飛び移りながら、リップを目指すひよ蒟蒻の姿を除いて何も見えていない。

 

「こうして今! あなたさまが! わたくしの目の前にいるのですから!」

 

 心の底から湧き上がる悦びに突き動かされて、リップは叫ばずにはいられなかった。

 やっとここまで来たという達成感。そしてようやく殺してもらえることへの充足感の双方に包まれて。

 生まれて初めて手に入れた幸せを噛み締めながら、黒衣の乙女は愛する人を迎えるように手を広げる。

 

「う、あああああああああ!」

 

 全身を縛る恐怖を誤魔化すように、ひよ蒟蒻は雄叫びをあげた。しかし高く掠れたそれは絶叫のようだった。

 揺れる剣鋒がぴたりと定まる。狙いは正中線からわずかに左寄り、激しい鼓動が鳴り止まない自らの心臓であるとリップは見て取った。

 

 さらけ出した懐に、神速の刺突が打ち込まれる。

 

 視認不可能な一撃を受けたリップは、衝撃と同時に視界上のHPバーが勢いよく減少していくのを確認して、

 

「さあ、ともに地獄へ堕ちましょう――」

 

 必殺スキルを宣言する。

 

「――《死がふたりを分かつとも(カロォォォォォン)》」

 

 

 ◇◆

 

 

 【死生幽冥 カローン】。

 TYPE:ルールの<エンブリオ>で、その能力特性を一言で表すと道連れである。

 R・I・Pを殺害した者は、自らも死亡する。

 死というデメリットを前提とするスキルは相手がたとえ格上であろうと問答無用で即死させる最凶の呪詛。

 

 とはいえ、必殺スキルについては【カローン】が保有する下位スキルと少々毛色が異なっている。

 R・I・Pの死亡がトリガーになるのは変わらない。

 異なるのは次の二点。

 R・I・Pを殺害した者ではなく、R・I・Pの最も近くにいた者を道連れの対象にすること。

 即死判定が成功した際、R・I・Pが蘇生すること。

 

 相手と諸共に心中するスキルでありながら、R・I・Pだけは死ぬことがないという矛盾。

 それはデスペナルティによるログイン制限に悩まされることなく、思う存分殺されたいという願いの発露だ。

 あるいは、見方を変えるなら……死にたくても死ねない(・・・・・・・・・・)生死の境を彷徨い続ける(・・・・・・・・・・・)というR・I・Pのパーソナルが現れているのかもしれない。

 モチーフとなった渡し守が、死者を冥府に送りながらも自らは冥界の河に留まるように。

 

 発動したが最後、葬送はなされる。

 

 

 ◇◆

 

 

 攻撃を放つ直前、ひよ蒟蒻は一拍の間を置いた。

 覚悟は既に決めた。

 ゆえに静止は躊躇から来るものではない。

 脳内のカウントとタイミングを合わせるため。

 

 リップを穿つ刺突の軌道に。

 

 フルンティングが落下する(・・・・・・・・・・・・)、そのときを。

 

 鈍色の長剣と黒刀が一直線で重なるわずかな瞬間。

 刀の切先が柄頭に触れると、長剣は粉々に砕け散る。

 フルンティングは緩衝材になり得ない。

 そもそも、ひよ蒟蒻が手放したなまくらだ。余人からすればモチーフ通りの役立たずでしかない。

 

 だが、しかし。ひよ蒟蒻はそれを最高の武器と呼ぶ。

 誰も傷つけたくないという願いを叶えてくれる唯一の剣であり、救いであるからだ。

 そして……彼が自らの意思で救いを手放すとき。

 【勇雄不断 フルンティング】はただ一度の輝きを以って、主人の活路を切り開く。

 

 黒刀は光を帯びてリップの華奢な胴体を貫いた。

 ひよ蒟蒻は拳を握り、刺さる黒刀をさらに打ち込む。

 決して外れぬ楔になれと。

 

「《死がふたりを分かつとも(カロォォォォォン)》――」

 

「――《穿ち絆す毀刃(フルンティング)》ッ!!」

 

 そして、真の切り札が命脈を穿つ。

 

To be continued




余談というか今回の蛇足。
剣鬼
(U・ω・U)<14へ行け


《銀光》
(U・ω・U)<【征伐王】は騎士系統と相性がいい

(Є・◇・)<ちなみに俺のサブは【教会騎士】

(U・ω・U)<しかし、よく習得できたね?

(Є・◇・)<一時期レベルダウンしたことがあって……


【カローン】
(U・ω・U)<実は必殺・下位スキル問わず、即死判定に成功するとデスペナルティが増加するデメリットがある

(Є・◇・)<デスペナ気にしたくないとは

(U・ω・U)<『自死』と『デスペナルティ増加』の二重デメリットで出力を底上げしてるから仕方ないね

(U・ω・U)<下位スキルは3倍、必殺は10倍

(U・ω・U)<蘇生した場合は次回に持ち越し

(U・ω・U)<たとえば必殺スキル→下位スキルだと13倍、必殺スキル→必殺スキルの場合は20倍で加算

(U・ω・U)<……それとは別に、獲得経験値を0にしてクールタイムを短縮するスキルもあるらしいよ


リップの死亡時
(U・ω・U)<ざっくりとこんなイメージ
死亡

蘇生可能時間経過までにスキル使用

即死判定成功時に【カローン】がリソース奪取

【カローン】がリソース補填

アバターを修復して復活

(U・ω・U)<エミリーと違って光の塵から再構成はしない
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