長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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二章 偶像は誰が為に
模擬戦


 □決闘都市ギデオン 【高位従魔師】サラ

 

 わたしがいつものように<ルルリリのアトリエ>で店番をしていると、入口のドアベルが鳴る。

 

「この店はいつ来ても閑古鳥が鳴いているわね」

 

 お客さんはアリアリアちゃんだった。

 だけど、なんだか様子が変だ。

 装備は泥だらけでボロボロ、触ったら壊れてしまいそうなくらいに傷んでいる。

 前と比べて元気がない。どうしたんだろう?

 

「あらサラさん。しばらく姿を見なかったけれど」

「ちょっと出かけてたんだ! アリアリアちゃんはなにをしてたの?」

「基本はレベル上げね。店主を呼んでちょうだい。装備の修理をお願いしたいわ」

 

 山積みのアイテムボックスを投げ出して、どかっと座り込むアリアリアちゃん。しかも足を広げている。

 いつもならお行儀が悪いからって、絶対に両足を閉じて座るのに……これは相当お疲れのようだ。

 

 わたしが呼びかけると、リリアンさんはすぐに来てくれた。

 

「はいはい。修理と素材の買取だね」

「ついでに補給もお願い。ポーションは使い切ったから、前回と同じ数を用意して」

「え、もう無いの? ……うわ。武器の耐久値一桁になってる。さては、また狩場にこもってたね」

「問題ないわ。慣れているから」

 

 あっけらかんと言うアリアリアちゃんに、リリアンさんは心配そうにして困り顔だ。

 どうやら今回がはじめてというわけではないらしい。

 リリアンさんはわたしに目配せをすると、装備入りのアイテムボックスを持って二階に上がる。作業中はアリアリアちゃんをよろしくってことだね。

 

 わたしは素材アイテムを鑑定しつつ、アリアリアちゃんの様子をうかがう。

 背筋をシャキッと伸ばしたのはわたしを心配させないためだろう。休んでって言うのは逆効果かな。

 

「何かしら。じっと見て」

「ううん、なんでもない。そうだ! お土産あげるね! これがカルチェラタンので、こっちがソーマの」

「銘菓に玩具ね。ありがたくいただくわ」

 

 小さいオルゴールから流れるのは落ち着いた音楽だ。

 お菓子の箱はここで開けちゃおう。

 とりあえず一個をアリアリアちゃんに渡す。甘いものを食べさせたら、顔色が少しよくなった気がした。

 

「ふぅ……それにしても、随分と遠出したのね。あなた一人で大丈夫だったの?」

「いろんな人が助けてくれたからね」

 

 わたしは旅の出来事を話した。

 カルチェラタンの街と<境界山脈>、わたしたちが【風竜王】に会ったこと。

 ソーマの街のこと、<VOID>との戦い、Mr.ジョバンニやカルマくんがいたこと。

 アリアリアちゃんは眠たそうに、目をしょぼしょぼさせながら聞いている。

 ときどき、特にバトルの話になると、うとうとした顔を引き締めてあれこれ考えているようだった。

 

「なるほど、ね……第三形態に進化……それは、ぜひ……一度……てあわ、せ、を……」

 

 眠たそうなのに、手の甲をつねって目を覚まそうとするアリアリアちゃん。

 わたしが【横笛】を出したことにも気がつかないで、適当な相槌を打っている。

 

 小さめの音で子守唄を吹く。オルゴールに合わせて、耳心地のいいメロディを奏でる。

 眠気が限界になったのか、そのままアリアリアちゃんはうとうとと眠ってしまった。

 

 

 ◇

 

 

 一時間くらいでアリアリアちゃんは目を覚ました。

 ぐうーっと伸びをして、キョロキョロと周りを見て、それからお腹の毛布に首をかしげる。

 あ、わたしとリリアンさんに気づいた。

 だんだん頭がはっきりしてきたみたいだ。寝る直前のことを思い出して、きゅっとしかめ面になる。

 

「……迷惑をかけたみたいね」

「だいじょうぶ! 気にしないで!」

 

 ばつが悪そうにしているけど、わたしはこれっぽっちも迷惑だなんて思っていない。

 それはリリアンさんも一緒だ。

 

「疲れてたみたいだからね。頑張るのはいいことだけど、根を詰めすぎたら駄目だよ」

「肝に命じるわ。今日は一日休むつもり」

 

 修理した装備とアイテムを受け取ったら、アリアリアちゃんは調子を確かめるように軽いストレッチをして、

 

「それじゃサラさん。模擬戦をしましょうか」

「なんで!?」

 

 ぐいぐいとわたしをお店の外に引っぱる。

 五秒前に休むって言ったのに、どうしてやる気満々なんでしょーか! わたしにわかるように説明して!

 

「もちろん狩りはお休み。長時間ソロでフィールドにいると、やっぱり神経が削られるのね。反省したわ」

「うんうん」

「だからリフレッシュのために、街中で特訓するの」

「……うん?」

「レベル上げ以外に、プレイヤースキルを磨くことも大切だもの。闘技場なら命の心配はないし」

 

 あなたの新しい力を見せてちょうだい、と言ってアリアリアちゃんは好戦的な表情になる。

 お休みのときも特訓を欠かさないのは偉いけど、少しスパルタじゃないかなあ?

 わたしがちょびっと強くなって、期待してくれるのはうれしい。ただ、アリアリアちゃんが無理をするのはよろしくない。まだ全回復したわけじゃないからね。

 

「なんてね、冗談よ。一戦したら終わりにするから」

「わかった。それならいいよ!」

 

 今からやるとして店番はどうしよう。

 怒られちゃうかな、と思ってリリアンさんを見る。

 

「模擬戦をすることはするんだね……サラちゃん、あがって大丈夫だよ。そろそろ次郎吉がインする時間だから」

「はい! ありがとうございます!」

 

 リリアンさんと、次郎吉さん(店番と用心棒をこなすネズミアバターの<マスター>だ)の優しさに感謝だね。

 わたしはお言葉に甘えて、アリアリアちゃんと闘技場に向かったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 闘技場のスペースをレンタルして結界をオン!

 これで外からはわたしたちが見えない。修復機能も使えるから、思い切り戦ってだいじょうぶだ。

 

 これまで、わたしは自分から人と模擬戦をすることはなかった。闘技場はスキルの確認で使ったくらい。

 理由はいくつかある。わたしはアリアリアちゃんのような「どんどん強い人と戦いたい!」ってタイプじゃないというのがひとつ。

 わたしの従魔たちも、バトルが大好きって子はいない。特にジェイドは怖がりだったから戦いは少なめに。狩りとクエストでモンスターを倒すくらいだった。

 もちろん、相手から襲われたら話は別だけど……それはちょっと別のパターンだろう。

 

「ジェイド、いける?」

Rrrr(まかせて)

 

 最近のジェイドは、なんというかイケイケだ。

 前より泣く回数減って、戦いを怖がることがなくなった。強くなったのが自信に繋がったんだろう。

 だからチャレンジというか、興味があるなら、戦闘訓練としていい機会なのかもしれない。

 ただ、成長はうれしいと思う反面、少しだけさびしい気持ちもある。これが親心ってこと?

 

 アリアリアちゃんと離れて向き合う。ルゥは狼の姿のままだ。武器に変形しないのは腕試しだからかな。

 

「まずは小手調べよ」

Wof(いざ尋常に)

 

 ルゥが走って飛びかかる。

 咥えた剣と、身体から生やした剣。マーナガルムが吸収した武器をフル活用した体当たりだ。

 ハリネズミのような針山にぶつかったら、ざくざくと刺さって大変だ。

 

 だから手前で受け止めるよ。

 見えない空気の壁がルゥの勢いを弱める。

 ジェイドの空気操作能力はレベルアップしているんだよ! まだ普段の状態で完璧なバリアを張るのは時間がかかる。でも、ふんわりと受け止めるクッションならパパッとできちゃうわけだ。

 

「バリアならぬ《エアクッション》だよ!」

「それなら……ルゥ、飛ばしなさい」

 

 アリアリアちゃんの指示で、ルゥは身体に生やした剣をミサイルのように発射する。

 これって、決闘ランカーのマックスさんとイペタムが使う遠距離攻撃!?

 

 わたしはちらっと肩の上を見る。ジェイドは攻撃から目をそらしていない。

 なら、だいじょうぶ!

 

「《ウィンドスラッシュ》!」

Rrrr(うん)!』

 

 即席のクッションを突き破った五つの剣を、風の刃で弾き返す!

 

「やるじゃない。でも、【亜竜鱗熊の重剣】は多刃の武器。分離した刀身を合体させることだってできるのよ。こんなふうにね」

 

 散らばった剣がふわりと浮かび上がる。

 尖った先っちょを向けて、わたしを囲んだ。剣は元の姿に戻ろうとして一か所に集合する……中心にいるわたしとジェイドを貫くように。

 

 弾いても、ちょっとキリがないかも?

 どうしようかなと一瞬考えて、アリアリアちゃんが期待たっぷりの目でこっちを見ていることに気がついた。

 わたしがスキルを使うことを誘っているみたいだ。たしかに今回の模擬戦はそういう目的だったもんね。

 

 オッケー。そういうことなら全力でいくよ!

 

「《始まりは遥か遠く(ビヨンド・ザ・スカイ)》!」

 

 突風が剣を吹き飛ばして、わたしを包み込む。

 バフを受けた強化状態のジェイドなら、ルゥの攻撃をガードするバリアをすぐに張れるし、同時に攻撃をすることだってできちゃう。

 

 結界内に吹き荒れる風と、バリアに守られたわたしたちを見て、アリアリアちゃんは表情を変えた。

 

「ッ……話に聞くのと見るのとでは大違いね。こっちもやるわよルゥ」

Wof(承知)

 

 アリアリアちゃんは両手剣に変形したマーナガルムを担いだ。いっぱいに溜めた力で突進。

 周囲に吹いている向かい風をパワーで突破したアリアリアちゃんは、両手剣をバリアに叩きつける。

 ジェイドの操作で厚さと密度を増やしたバリアが攻撃をしっかり受け止めた、そのとき。

 

「ジェム起動――《エメラルド・バースト》」

 

 バリアで攻撃の勢いが止まったタイミングに合わせて、マーナガルムがジェムを吐き出した。

 中身は【翆風術師】の奥義だ。激しい風が空気の流れに干渉して、バリアの正面に穴が空いた。

 少しでもタイミングがずれたら、アリアリアちゃんはバリアか自分が使ったジェムに巻き込まれていただろう。

 シビアな調整は、アリアリアちゃんとマーナガルム(の中のルゥ)が息がぴったりだからできること。

 

「獲った!」

 

 振り下ろした両手剣が大鎌に。

 すくい上げる軌道でわたしの喉と顎を狙った攻撃だ。

 バリアの穴をふさぐ……こともできるけど、せっかくだ。ここは思い切りやってみよう。

 

 ジェイドは全身を包む風を口元に集めて。

 バリアの穴から、ブレスを発射する。

 

Rrrrrrr(やああああ)!』

「!?」

 

 切り札の《トルネード・ラム》はアリアリアちゃんに直撃した。その影響で結界内が竜巻でいっぱいになる。

 わたしはジェイドのバリアで無事。気流を操作して受けるダメージを中和したからだ。

 

 アリアリアちゃんはどうなったかな?

 と思っていたら、スキルが途切れて、ステータスが戦う前の状態に戻った。

 リセットされたということは……。

 

「――っ」

 

 アリアリアちゃんがあお向けに倒れていた。

 ぽかーんと口を開けて、しばらくそのまま空を見上げていたけど、やがてゆっくり起き上がった。

 そして、わたしにパチパチと拍手をしてくれる。

 

「おめでとう。いい勝負だったわ」

「わたしたち……勝ったの?」

「ええ。だからもっと喜びなさいな。この私に勝ったんだから、勝鬨を上げるのはあなたに許された権利よ」

 

 そっかあ。なんだか実感がわかないや。

 わたしの中でのアリアリアちゃんは、レベルが高くて、戦うのが上手で、いつも助けてくれる、すごい強くて優しくてかっこいい人だ。

 そんなアリアリアちゃんにまぐれでも勝てたというのは、まだ信じられないのと同時に、わたしたちが強くなった証をもらえたような気がした。

 

 それじゃあ言われたから、とりあえず。

 せーの。

 

「やったー! いえーい!」

Rrrrrr(いえーい)!』

 

 健闘をたたえてジェイドとハイタッチ!

 おまけに抱っこしてぐるぐるー。

 

「アリアリアちゃんも相手をしてくれてありがとう! すごいすごかったよ!」

「何よその曖昧模糊とした表現は」

「だって本当だもん! バリアを破った魔法、どうやったらあんなに威力が出るの?」

「あれは作成時に大量のMPが込められたものを買って、マーナガルムで強化しただけよ」

 

 なるほど。ジェムの魔法も強化できちゃうんだね。

 武器と魔法の両方で戦えるのは便利だと思う。

 さすがに一回だけの使い切りなのは変わらないみたいだけど、すごい万能なんじゃないだろうか。

 

「ふわああ……あら、ごめんなさい。私ったら」

 

 こちらが眠気を誘われるくらい大きなあくびをして、アリアリアちゃんはまぶたをこすった。

 戦いが終わって気が抜けたのかな。もともと一回だけって決めていたからね。

 

「悪いけれど先に落ちるわ。脳を休めないと」

「そうだね。お疲れさま!」

「ええ、お疲れ。次は負けないわよ」

 

 冗談半分にウィンクして、わたしに背中を向けると、アリアリアちゃんはログアウトした。

 

 やっぱりアリアリアちゃんはすごいね。

 誰に負けても悔しがってすねたり、くじけたりしない。それでいてメラメラと闘志を燃やしている。次は勝つぞって前を見ている。

 

「見習うところがたくさんあるなあ」

Rrrr(だね)

 

 わたしも、もっとがんばらないとだ!

 

 To be continued




余談というか今回の蛇足。

アリアリア
(U・ω・U)<ボスドロップやプレイヤーメイドの便利な装備を集めて使いこなしています

(U・ω・U)<火力はいくらでも強化できるからね
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