長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□【高位従魔師】サラ
「いい? あんたたちは機械。モンスターを狩るだけの機械よ! じゃんじゃん狩り尽くしなさい!」
「「いえすまむ!」」
ホノルルさんは号令をかけて、赤いツインテールと白衣をひるがえした。
一列に並んだわたしたちはビシッと敬礼をする。
クラン<ルルリリのアトリエ>とそのバイトたちは素材集めの狩りにやってきた。
ギデオンから近い場所ということで、<クルエラ山岳地帯>のモンスターを倒していくよ!
「二人とも、今日はありがとうね。助かるよ」
『
「……確かに少し戦力過剰ではあるかな」
いつもと違って戦闘用の装備を着たリリアンさんが、肩にネズミこと木枯丸次郎吉さんを乗せて苦笑い。
今回のメンバーは五人パーティだ。
<アトリエ>から三人。戦闘に参加するのはリリアンさんと次郎吉さんで、ホノルルさんは監督役らしい。
主戦力になるバイトメンバーはわたしとシャロさん。
わたしは店番をしてたら呼ばれたけど、シャロさんはなんでバイトするんだろう?
「王国、うまいものたくさんでーす……ヨヨヨ」
どうやら食い倒れでお財布がピンチみたいだ。
「ところで、シャロは誰をセイバイするです?」
「あんた話聞いてた!? 今日はPKじゃなくてモンスターを狩るって言ってんの!」
「そろそろ愛闘祭の時期だからね。出店で売るアイテムを作るのに必要な素材が足りなくて」
愛闘祭はギデオンで開催されるお祭りだ。
二日間にかけて、いろんなイベントが行われるとか。
名前の通り「愛」がテーマになっていて、カップルで楽しめる企画があるってマリーさんは言っていた。
ほかにも屋台やお店がたくさん並ぶらしい。
生産職の人にとってはまさに書き入れどき。
「祭りの雰囲気に乗じて一儲けしてやるわ!」
「ルルったら、お金には困ってないのに……」
「いいリリ? お金はあればあるだけいい。そしてがっぽり稼いで、パーっと使うのも最高なの」
ホノルルさんは親指と人差し指で丸を作る。
たしかにお金は持っていると安心だよね。わたしはギデオンの事件での恩賞がまだ残っているけど、最近はちょっと使いすぎちゃっているかも。
でもでも! みんなでおいしいご飯を食べたり、お洋服を買ったりしただけで無駄使いはしてない……よ? ど、どれも女の子にとって必要経費だもん。
「働こう、お財布が空っぽにならないように」
『
「いい心掛けよバイトその1。……っと、言ってるそばから湧いたわね。早速やっちゃいなさい」
離れた茂みから飛び出す【コート・シープ】は丸々とした羊のモンスターだ。まだこっちには気づいてない。
わたしは決めておいた作戦通りの位置についた。みんなの準備が整ったところで、ジェイドに攻撃の合図を送る。
『
鼻先で小さい竜巻が起きて、【コート・シープ】はびっくりぎょうてん、反対方向に走り出した。
慌てた羊は、わたしたちが作った包囲網に自分から飛びこむ形で突進する。
正面ではリリアンさんが待ち構えている。
ハンマーを担いで、ぐっと力をためたリリアンさんは、そのまま羊の顔を思い切り叩いた。
「《スウェルボディ》」
ゴチンと激しい音がして、ハンマーと羊の角がぶつかり合う。おたがいが反動でよろよろと後退すると、【コート・シープ】の身体に変化が起きた。
ぐぐぐんっと羊毛の塊が膨れ上がる。
どんどん大きく、水を吸ったスポンジみたいに量が増えて、つられて羊の身体も大きく成長する。
やがて二回り以上も大きくなった【コート・シープ】は、身体の重さに耐えられず膝をついた。
リリアンさんのイッスンボウシはいろんなものを大きくすることができる。
通常スキルでは時間制限つきの巨大化だけど、この状態では、モンスターの経験値とドロップアイテムが増えるというボーナス効果があるのです!
ただし、相手のHPがものすごい増えるというデメリットをどうにかする必要がある。
「後は任せるです!」
そこで登場するのがシャロさんだ。
身動きが取れない羊の首に円月輪がかかる。
「say! bye! ナムサン!」
シャロさんが手のひらを握りしめると同時に、【コート・シープ】が光の塵に変わる。
シャロさんのメインジョブ【処刑王】は
それに<エンブリオ>のグレイプニルを合わせることで、「念力で飛ばせて伸び縮みする武器」で「大きな敵の急所も確実に狙える」というコンボになるんだとか。
威力は見ての通り。倒すのに時間がかかりそうなモンスターだって、一瞬でやっつけてしまえる。
……見た目はちょっとアレだけどね。
「まだまだいくわよ! 次郎吉が近くのモンスターを釣ってくれるから!」
「こっちで先に大きくしちゃうねー」
「わかりまし……ほえ?」
ドロップアイテムを回収するホノルルさんの応援と、ハンマーを続けて振る音に、顔を上げたわたしたちが見たものは。
こっちを見つめる十数匹のモンスター。
しかも巨大化したバージョンだった。
「群れだーー!?」
「おー、エビデンスタイの鶴とはこのことですね!」
モンスターたちは動きがのっそりとしているけど、体重が増えているから、踏みつけや体当たりを受けたらぺしゃんこになってしまう。
一体だけならだいじょうぶだろう。ただ、大きな身体をくっつけて近づくモンスターは迫力があるし、逃げ場がないからつぶされちゃう。
「わたしたちもやるよ、ジェイド!」
『
シャロさん一人だと大変だから、わたしもがんばってお手伝いしよう!
◇
それから一時間くらい、わたしたちは山道を進みながらモンスターを倒した。戦って、ドロップアイテムを拾って、また戦ってという感じ。
道なりに山を登ると、だんだん辺りの景色が木からむき出しの地面と石に変わる。
草や根っこに足を取られることはないけど、地面は凸凹だから危ないのはおんなじだ。転がっている石ころがモンスターの擬態だったりするからそれも注意だね。
「だいぶ歩いたね。なんだか遠足みたい!」
「お弁当を持ってくれば良かったかな。食材アイテムは使わないから食べても大丈夫だけど、流石に生肉そのままはね……この中に料理できる人、いる?」
注意さえしていたら、モンスターが出ること以外はリアルと変わらない。おしゃべりを楽しむ余裕がある。
今回はパーティの平均レベルが高いのが大きいかも。
シャロさんはもちろん、次郎吉さんは小さい身体であっという間に敵を倒しちゃうし、リリアンさんも元は戦闘職というだけあって戦いに慣れている。
わたしは後ろでみんなをサポートしつつ、危なくなったらホノルルさんを守る役割だ。
「心配無用。こんなこともあろうかと、あたしは握り飯を用意しているわ。もちろん人数分あるわよ」
『
「ヒョーローですか! カタジケナイでござる」
シャロさんは嬉しそうにおにぎりを受け取った。
包み紙をめくろうとして、なにかに気がついたようにピタッと動きが止まる。
おにぎりとホノルルさんを見比べて一言。
「……ヤマブキイロのお菓子です?」
「いくらあたしでも食べものを金塊にはしないわよ!」
するどいツッコミでパシンと叩かれたシャロさんの手からおにぎりが落ちる。
そして、ゆるい坂道をコロコロと転がり落ちていき。
岩陰から出てきたモンスターに、ぺしゃりと踏みつけられてしまった。
「ノーーーーーー!?」
シャロさんは叫んで膝をついた。
その間も、あとから現れたモンスターが列になって、次々とつぶれたおにぎりの上を歩いている。
「シャロの、シャロのヒョーロー……」
「あらら。ほらルル、言うことあるよね」
「あたしが悪いの!? いやまあ責任はあるけど……バイトその2! いい大人が泣かないの!」
「げ、元気出してください! わたしのおにぎりを半分こにしましょう! ね?」
みんなでなぐさめるなか、涙目のシャロさんは肩を震わせて、キッとモンスターの列をにらみつけた。
「……す」
「シャロさん?」
「あいつらまとめてセイバイでーす! 打ち捨てられた食べ物の恨み、ハラサデオクベキカ!」
シャロさんはやる気増し増しでグレイプニルを構えて、
「一身上の都合により、シャロエモンを執行するです! ハイクを詠めアクトー! です!」
ぎゅんっとモンスター目がけて突進する。
よっぽどお腹が空いていたのか、ご飯をめちゃめちゃにされて頭に血がのぼっているようだ。
PK相手に使うはずの決めゼリフまで持ち出している。
気持ちはわかる。おにぎりがもったいないというのも、その通りなんだけど。
『
「うん、暴走しちゃってる」
シャロさんならモンスターの群れに囲まれてもだいじょうぶとはいえ、ちょっと心配だ。
「追いかけなくちゃ!」
「そうだね。それに、気になることがある」
わたしの言葉にうなずくリリアンさん。みんな一緒にシャロさんを追って走り出す。
ところで気になることって?
「さっきのモンスターに違和感があるんだ。他にも気づいた人がいると思う」
わたしはモンスターの様子を思い出す。
ええと。羊や狼みたいな魔獣に、植物系のエレメンタル、あとは岩にそっくりなモンスターもいたっけ。
足取りはふらふらと、まるでぼうっとしながら歩いているみたいだった。一言もしゃべっていなかったし。
「素人考えだけど、種類と様子かしら」
「正解だよルル。本来なら群れない別種のモンスターが一緒にいる。それに、私たちを見て襲いかかることも、逃げることもしない。ただ一列に並んで歩いている……何かに操られているようにね」
『
ボスモンスターか、<マスター>か。
もしかしたら襲われるかもしれない、とリリアンさんたちは言いたいんだろう。
どうやら気を引きしめる必要がありそう。
『……
「どうしたのジェイド?」
『
モンスターが進むほう、そしてシャロさんが走っていっちゃったほうから、変な音が聞こえてくるらしい。
ジェイドが警戒しているから、わたしもそっと耳をすませてみる。でも、聞こえるのは木が揺れる音や鳥の鳴き声だけだった。
わたしたちのやりとりを見ていた他の三人も、おかしな音は聞こえないみたい。
うーん。《
「空耳かもしれないでしょう。そんなので切り札を使うのもどうかと思うわ。それより、あそこ怪しくない?」
ホノルルさんが指差したのは洞窟だ。
ずらっと列を作ったモンスターが、ぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうをしながら、奥に入っていく。
入り口が詰まっているのはドロップアイテムが積み上がっているから。シャロさんが倒したもの以外に、仲間に押しつぶされた子がいたのかもしれない。
「すごいたくさんいますね」
「一体一体はそれほど強くないけど、シャロエモンを見つけてすぐ退散するのが良さそうだね」
「リリ、落ちてる素材を拾うのはあり?」
「謎の洞窟に消えるモンスター。地下深くで行われていたのは、身の毛がよだつ実験か、それとも……」
「ホラーはやめなさいっ! 今デスペナになったら愛闘祭の用意が間に合わないじゃないの!」
欲を引っこめたホノルルさんは、自分の前後にわたしたちを並べて守りを固めた。
さあ、入り口のモンスターを倒して洞窟に入ろう!
◇
洞窟の中はじめじめしてて薄暗い。
わたしたちは明かりを点けて慎重に進む。
先頭で斥候をする次郎吉さんが言うには、ここは人間が掘った横穴なんだそう。
なんでも生活の跡がちらほら見えるとか。折れた松明とか、曲がった鉄格子が落ちている。散らばった道具には、かすれた文字でなにか書いてあった。読める部分を字にすると……<■O■D>かな。
でも人間は見当たらない。どうやら、今は誰にも使われていないみたいだ。
「モンスターは襲ってこないね」
一列で進むモンスターは、わたしたちに目もくれず、ひたすら奥を目指している。
近寄って目を覗き込むと、みんな正気を失っているみたいで少し不気味だ。
『
次郎吉さんの合図で立ち止まる。
ピクピクと耳と鼻を動かして、次郎吉さんは前方の様子を探っている。
明かりで照らしてみると、この先は通路の幅が広がって大部屋になっているみたい。
『
「シャロエモン? それとも敵?」
『……
質問に次郎吉さんが答えるのと同時に、
『Rrrr』
意味のない鳴き声をしたジェイドが、わたしの肩から降りて、ふらふらとモンスターの列に加わる。
「ジェイド? ダメだよ、どこに行くの!」
わたしは慌てて彼の身体を抱き上げた。
ジェイドはどこかぼんやりとしていて、心ここに在らずといった感じ。いくら呼んでも反応しない。
ただ、洞窟の奥に向かおうとジタバタしている。
「どうしたの?」
「急にジェイドが……」
ジェイドの簡易ステータスを確認すると、ある状態異常の名前が表示されていた。
「【催眠】?」
「ふうん。この木偶の坊たちと同じ症状ね。音がどうとか言ってたから、それで罹ったのかしら」
「多分モンスター限定の精神操作だよ。サラちゃん、【快癒万能霊薬】を使ってみて。回復するかも」
リリアンさんから小瓶を受け取って、言われた通りに中身をかける。
『……
「治った!」
ジェイドは目をパチクリとさせて、首をかしげている。操られているときの記憶はないらしい。
よかった! ずっとあのままだったらどうしようかと思ったよ!
「さっさとシャロエモンを連れて帰りましょう。【快癒万能霊薬】の効果時間が切れたら、また操られるわ」
「念のため、私たちも飲んでおこうか」
「わかりました!」
全員で【快癒万能霊薬】を飲んでから、次郎吉さんを先頭に大部屋へ突入した。
大部屋の中はモンスターだらけだった。
今もわたしの横を通って、【催眠】状態のモンスターたちが次々と部屋に入っていく。
それでも大部屋はぜんぜん満員にならない。
なんでかというと、理由は二つだ。
ひとつは部屋を飛び回る円月輪。
操られたモンスターを次々と光の塵に変える、お腹ぺこぺこの戦士が戦っているから。
シャロさんが怒りながら、ものすごい勢いでモンスターを倒している。
もうひとつは跳び回る影だ。
まがまがしいオーラに包まれた黒い人型が、パンチとキックでモンスターを相手に暴れている。
頭の上には【オリハルコン・オーガ】という名前が表示されている。
そして最後に。
大部屋の奥、わたしから見てモンスターをはさんだ反対側に、変わったものが停まっている。
それは一両の機関車だった。煙突は楽器みたいに、横にも穴が空いている。なんだか変わった色と見た目だ。
運転席から男の人が顔を出している。男の人はわたしたちを見て、口パクでこう言った。
――『助けてくれ』と。
To be continued