長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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鬼鉄の戦場

 □【高位従魔師】サラ

 

 機関車に乗った男の人は『SOS』と書かれた白旗を振って、こっちに助けを求めている。

 他のみんなも、遅れて男の人に気がついたみたい。

 助けてあげたほうがいいよね?

 

「怪しくない?」

「怪しいよね」

CHU(サス)

 

 ……あれ、なんだか予想と違う反応だ。

 

「あの人、困ってるみたいですよ」

「洞窟の中で列車が立ち往生っておかしいでしょう。どういう状況よ」

「それはほら。ち、地下鉄とか!」

 

 わたしが思いつきを言ったら、男の人が『その通り』というふうにうなずいている。

 続けて口パクでなにかを伝えようとしている。

 ええと、なになに?

 

「『モンスターをどうにかしてくれ』だって!」

「どうにかと言われてもね」

 

 今のところ、大部屋にいるモンスターはどんどん数が減っているように見える。

 シャロさんと【オリハルコン・オーガ】が洞窟の外から来るモンスターを倒しているからだ。

 討伐スピードが早いからすぐに片づくだろう。

 

「あのねサラちゃん。多分、モンスターを操っているのはあの人だよ」

「え?」

 

 リリアンさんは機関車を指差した。

 

「汽笛で催眠をかける<エンブリオ>だと思う。他にそれらしいものは見当たらないから」

 

 たしかに言われてみるとそうかも。

 シャロさんは違うし、あの鬼もどちらかというとパワーファイターなタイプに見える。

 楽器みたいな機関車が一番あやしい。ということは……これは仕組まれた罠なんだろうか。

 

 男の人に確認すると、微妙な反応が返ってくる。

 なんだか『そうだけどそうじゃない』って感じ。

 

「『他はいいから、鬼を倒してくれ』って言ってますよ。ひょっとして、鬼に襲われたから、モンスターを操って戦ってたんじゃ」

 

 今度は親指を立ててグッドサイン。わたしの考えは合っているみたいだ。

 

「仮にそうだとして、アレをどうにかできるの?」

 

 ホノルルさんがしゃくる先、大部屋の真ん中に立っている影は二つしか残っていなかった。

 シャロさんと黒い鬼だ。つまり、他のモンスターはみんな倒されてしまったということ。

 生き残った二人の視線がぶつかり、火花が散る。

 

「今、シャロは腹の虫が鳴るくらいに居所が悪いです」

『Aaaa……』

 

 そして、

 

「ナムサンッ!」

『Gaaaaaaaa!』

 

 円月輪と拳がぶつかり合う。

 シャロさんのグレイプニルは鬼を捕まえようと迫る。

 鬼はそれを蹴り飛ばして、反撃のパンチを叩き込む。

 遠くから見ているぶんには、なんとか目で追える速さの戦いだ。

 たしかシャロさんはSTRがすごい高いって……それと力比べができる鬼はかなり強い。

 

「あたしとリリは嫌よ。ていうか無理よ」

CHU(ベリーハード)

 

 わたしも、あの中に混ざるのは難しそう。

 一人でパワータイプの前衛と戦ったことはあんまりないし、戦闘はいつも遠くからだったからね。アリアリアちゃんみたいな接近戦はできないや。

 

 戦う以外で、他にやり方はないかな?

 わたしができること。みんなができること。

 それを組み合わせて、二人を止めるには。

 

「……あ。いけるかも」

 

 作戦を思いついたわたしは、リリアンさんたちに考えを説明して、協力をお願いした。

 みんなは少し悩んで、うなずいてくれる。

 

 よーし。クエスト、スタートだよ!

 

 

 ◇

 

 

 ちょっとした準備をしている間に、シャロさんと鬼の戦いは激しさを増していた。

 

 六枚のグレイプニルのうち、二枚を両手に持って、残り四枚を手首と足首につけたシャロさん。

 念動力の応用で自分を振り回しながら(・・・・・・・)、ステータス以上の速度を出して、ひらりひらりと空中を飛ぶ。

 相手の隙を見つけては円月輪を投げたり、叩きつけたりして攻撃している。

 

 その攻撃を、鬼はぜんぶ受け止めている。

 どうやら【オリハルコン・オーガ】の名前にふさわしい頑丈な身体を持っているようだ。

 全身の黒い肌(?)に弾かれて、グレイプニルの攻撃はほとんど効いていない。

 投げられたグレイプニルを打ち返して、シャロさんが近づいたタイミングでの反撃を狙っている。

 

「ムム、やるですね……ならこうです!」

 

 シャロさんは二枚のグレイプニルを投げた。

 狙いは鬼の首だ。急所目がけて飛ぶ円月輪になにかを感じたのか、鬼はジャンプして距離を取る。

 

「甘いでーす!」

『!』

 

 だけど、それを読んでいたシャロさんは三枚目の円月輪を投げていた。右の手首につけていたやつだ。

 ガシャリと首に輪っかがはまる。

 鬼は首輪を外そうとするけど、万力みたいに締めつけたグレイプニルは簡単には取れない。

 

「奥義カイデン! 《処刑宣言(エグゼキュート・オーダー)》」

 

 【処刑王】の奥義、その効果は防御無視。

 

 急所必殺であること。

 自分の攻撃を相手が認識していること。

 二つの条件をクリアしているなら、ENDや防御力、スキル、【ブローチ】だって無効化する反則級の技だ。

 

 首輪が締まり、鬼は光の塵になる……かと思ったら。

 

『Aaaaaaaa!』

 

 鬼は身体を震わせて、首を黒い岩で覆う。

 分厚い岩の鎧が円月輪を防いだ。

 ガードされて、攻撃が急所に届かなかったら、奥義の効果は発動しない。

 

「ヤー!? これを受け止めるとは、敵ながらアッパレなブシドーです!」

 

 驚いたシャロさんは空中で体勢を整える。

 まだまだやる気みたいだけど、二人の距離が離れたこのタイミングは割りこむチャンスだろう。

 

 今こそ、オペレーション『おやつ大作戦』決行のとき。

 

「ジェイド」

Rrrr(うん)

 

 まずは作戦の第一段階。

 シャロさんと鬼の間に風の壁をつくる。一瞬だけスペースを区切ることができたらオッケー。

 これは二人を足止めするためのものだ。また戦いが始まったら、わたしたちはどうしようもないからね。

 

「次郎吉さん、お願い!」

CHU(ラジャ)

 

 次郎吉さんは“あるもの”を担いだ。

 ネズミの小さい足で、走りながら、お札に似ている紙切れをシャロさん目がけて投げる。

 次の瞬間、パッと次郎吉さんが消える。

 もう一度姿を見せたとき……次郎吉さんは、ちょうどシャロさんの真上に転移していた。

 

 おにぎり(・・・・)を抱えて。

 

CHU(アサップ)

「モガっ!?」

 

 ポカンと空いた口にシュート。一仕事を終えた次郎吉さんはすぐにワープで戻ってくる。

 シャロさんは口いっぱいにおにぎりをほおばって、目を白黒させていた。

 

 説明しよう!

 この『おやつ大作戦』は、怒っているシャロさんを正気に戻すためのオペレーションなのです!

 ホノルルさんお手製のおにぎり(わたしたちのぶん)をお口に入れて、シャロさんのお腹をいっぱいにする。

 これでシャロさんは心強い味方に元通り……になるといいなあ。

 

「それとね。『おやつ大作戦』の目標にはあなたも入ってるんだよ、鬼さん!」

 

 風の壁を解除して、わたしは用意したものを投げる。

 へろへろと鬼の手前で落ちちゃうけどそれでいい。

 

 わたしが投げた黄金のボールを拾って、鬼はハテナマークを浮かべる。

 

『?』

「あなたもお腹空いてない? よかったらどうぞ!」

 

 種族名が【オリハルコン・オーガ】だから、ご飯は伝説級金属(オリハルコン)だろう。 【P-DX】でターコイズが調べてくれたから合っているはず。

 黄金のボールはオリハルコンを、ホノルルさんのミダースで【魔金】にしたもの。

 素材の特徴を残しつつ、リソースがぎっしり詰まった<ルルリリのアトリエ>特製の鉱石だ。

 

 つまり栄養たっぷりのおいしいご飯で餌づけしよう! という作戦なわけで。

 

Aaaa(ハン)

 

 鬼はポイっとボールを投げ捨てた。

 

「ちょっと!? 駄目じゃない!」

「でも、気分は落ち着いたみたいですよ」

 

 暴れることをやめた鬼はこっちを観察している。

 相変わらずまがまがしいオーラを纏っているけど、凶暴さはどこかに引っ込んでしまったかのよう。

 ご飯を投げられて気が抜けたのかもしれない。

 それと理性を取り戻したからかな? さっきまでは吠えるだけだった鬼の鳴き声が、ちゃんと意味のある言葉として聞き取れるようになった。

 

 お話ができるなら都合がいい。

 戦って勝てるかわからないし、その場合は誰かがデスペナルティになっちゃうかもしれない。

 ここは見逃してもらえるように頼んでみよう。

 

「あのね、お願いがあるんだ。わたしたちはそこの人を助けたいだけなの。道をあけてくれませんか!」

Aaa(ああ)?』

 

 鬼は血走った目でわたしをにらむ。

 それからおにぎりを食べているシャロさんを見て、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 口に出していないけど、鬼の言いたいことはなんとなくわかる。『先に手を出したのはそっちだろ』という感じが伝わってくる。

 

「攻撃したのは謝るよ。おわびに、そのボールはあげる。おんなじのがあと二つあるから一緒に……」

Aaaa(どうでもいい)

 

 ドスンという足踏みで、わたしの言葉は遮られる。

 

Aaaaaa(そんなの関係ねえ)

 

 鬼は全身に岩を纏う。

 ゴツゴツと尖った鎧のようなフォルムだ。

 げんこつ同士を打ちつけて戦意たっぷりに叫ぶ。

 

Gaaaaaaaaaaaaa(いいからまとめてかかってこいやぁ)!』

 

 もしかして……オーラとか理性は関係ない?

 この鬼、戦うのが好きなだけの暴れん坊だね!

 

Aaaaaaaaaa(来ねえならこっちからいくぞ)!』

 

 作戦失敗の代償として、鬼のすぐ近くにいたわたしが真っ先に狙われる。

 逃げようとするけど足が思うように動かない。

 相手の動きを目で追えることと、実際に相手と戦えることはおんなじようでいてぜんぜん違う。

 

 リリアンさんがハンマーを持って、次郎吉さんは転移で助けようとしてくれている。でも間に合わない。

 まだ鬼に首輪がついてるからシャロさんなら……と思ったら、おにぎりが喉につっかえてむせていた。

 

Rrrrrr(だいじょうぶ)

 

 だから、助けてくれたのはジェイドだった。

 パンチを風のクッションでそらす。そして、バランスを崩した鬼のあごに固めた空気のアッパーカット。

 洞窟を壊さないように気をつけた省エネの反撃だ。

 

『……ッ』

 

 どんなに硬い鎧で守られていても、突き上げられた衝撃で頭が揺れて、鬼はふらふらとよろめいた。

 そこに復帰したシャロさんのグレイプニルがぜんぶ飛んで、鬼の口、首、手足をガッチリと拘束した。

 

「助かったあ……ありがとう!」

Rrrrr(どういたしまして)

「もぐもぐ、ゴクン。霊には及ばないです」

 

 ジェイドには頭をなでて、ほっぺにご飯粒をつけたシャロさんにはぺこりと頭を下げてお礼をする。

 

 それで、鬼はというと。

 

『……』

 

 拘束された状態でうなだれていた。

 グレイプニルから脱出できないと悟ったんだろう。全身を分厚い岩で覆って防御している。

 あと、なにか言いたそうにしている。

 

「ではセイバイ!」

「わー!? ストップストップ!」

 

 わたしは慌てて間に入る。

 

「もう一回、鬼さんとお話させてください」

「? 構いませんが。硬くて時間かかるですし」

 

 シャロさんに頼んで、口の拘束を解いてもらう。

 しゃべれるようになった鬼はわたしじゃなくて、ジェイドを見てこんなことを言った。

 

Aaaa(兄貴)!』

 

 ……ほへ? あにき?

 

 

 ◇

 

 

 混乱するジェイドに向けて、鬼が話したのは次のような内容だった。

 

 自分(鬼)は今まで負け知らずだった。

 大きな身体とパワーでいろんな敵を倒してきた。

 ある日、変な人間たちと戦ってからは、もっと力があふれるようになった。代わりに頭がぼんやりするけど、あんまり気にならなかった。

 ずっとここ(洞窟のことだ)をナワバリにして、好き勝手に生きてきた。

 

 だけど、今の戦いでびっくりした。

 自分より小さい兄貴と姉御(たぶんシャロさんを指していると思う)に強さで負けていると気づいたから。

 とくに兄貴の一撃は芯から震える力強さと、熱い思いを感じ取った。

 こうして負けたからには生かすも殺すも兄貴と姉御の自由だ。自分は二人の決定を受け入れる。

 しかし、できることなら舎弟として迎え入れてほしい。そばで強さの秘訣を見て学びたい。

 

「って、言ってます」

 

 わたしが通訳として説明すると、みんなはなんとも言えない表情をした。

 

「ここまで追い詰めて見逃すの?」

CHU(ハクスラ)

 

 ホノルルさんと次郎吉さんは倒そうと主張する。二人はさっきの戦いでアイテムを使っているから、収穫がゼロなのはもったいないと考えているみたいだ。

 

「サラちゃんはどう思う?」

「わたしは……お願いを聞いてあげたいです!」

Rrrr(おなじく)!』

 

 こうやって仲直り(?)できたもん。

 先にお話を聞いちゃったからね。ここでお願いを無視して倒すのは、ちょっとイヤだなあと思う。

 

「私も倒さないに一票かな。強いとはいえ普通のモンスターだから、一匹見逃しても損失は少ない。それにオリハルコンの在庫はまだあるよ、ルル」

「べ、別に? 使った鉱石をドロップで補充しようとか、そんなの考えてないわよ!」

 

 にやりと笑ってからかうリリアンさんに、ホノルルさんはあわあわとして、静かなシャロさんに話を振った。

 

「バイトその2はどうなの。決定権の半分はあんたにあるんだけど」

「今シャロに話しかけるのよすです。全集中でオーガの岩を砕いているですから」

「ちょっと!? 何勝手に仕留めようとしてんのバイトの分際でっ!」

「セイバイしないですか? 甘ったれ石を雨月をやってみたかったですが……ヤムナシでーす」

「え、まって違うまだ決まってないだけで」

 

 しょんぼりするシャロさん。

 怒られて……というよりも倒さないことを残念そうに、だけど素直に聞き入れて早とちりする。

 ホノルルさんの訂正を待たずにグレイプニルの拘束をぜんぶ外してしまった。

 

 自由になった鬼は膝をついて頭を下げる。

 シャロさんに一度。そしてジェイドに深々と。

 

『……Aaaa(すまねえ)

 

 さっき暴れていたときとは大違い。

 真剣で誠意にあふれた態度を見たら、もう誰も鬼を倒そうとは言わなかった。

 それがほんのちょっぴりうれしいと思ったよ。

 

Aaaaaaaaa(よろしくお願いします兄貴)

Rrrr(うん)

 

 先輩としての威厳を見せようと、ジェイドは背伸びした口調で鬼を歓迎する。

 

Rrrrr(がんばろう)Rrrrrrr(きょうからなかまだ)

『……?』

 

 鬼は意味がわからないみたいだね。

 きちんと説明したほうがよさそうかも。

 

「えっとね。ジェイドはわたしの従魔だから、ジェイドと一緒にいるなら、あなたもわたしがテイムするのが一番かなって思うの」

 

 さすがに野良のモンスターが街にいたら大騒ぎになっちゃうからね。下手したら間違えて倒されてしまうかもだ。それはよろしくない。

 わたしの従魔としてなら街に入れるし、【ジュエル】に納めていつも一緒にいられるだろう。

 

Aaaaaa(このチビに)?』

「いやだったら無理しなくていいよ? ほかの方法を考えるから! でも、わたしもあなたが仲間になってくれたらうれしいなーなんて」

 

 強い前衛がいると心強いからね!

 でもでも、大事なのは本人の気持ち。

 無理やり引き入れるのはNGだ。

 

『……Rrrrrr(ぼく、もっとちいさい)

『Aa!?』

Rrrrrrr(なかまになるよね)?』

 

 鬼はジェイドとなにかを小声で話したあと、ぐにに、とものすごい悩みながら手を差し出した。

 

「わたしはサラ。あなたの名前は?」

『……Aaa(ない)

「そっかあ。じゃあ……クロム! あなたの名前はクロムだよ。これからよろしくね!」

 

 外見が黒い色だったから、というかなり単純な理由で名前をつけたんだけど。

 契約のときに岩の鎧を剥がした本人(鬼)の身体は銀色で、ちょっとバカにした笑いを浮かべるクロムの顔が印象的だった。

 

 

 ◇

 

 

「もう出て大丈夫か?」

「「「あ」」」

 

 機関車の人、すっかり忘れてた!

 

 To be continued




余談というか今回の蛇足。

クロム
(U・ω・U)<不良系戦闘狂

(U・ω・U)<変な人間たち(<VOID>)に喧嘩を売って拠点を一個潰した


《処刑宣言》
(U・ω・U)<死刑執行のためにある奥義

(U・ω・U)<処刑台の上では王も生贄も平等に首を垂れて跪く


次郎吉
(U・ω・U)<転移能力持ち

(U・ω・U)<比較的コスト軽めで連続使用が可能
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