長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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王様マイニング

 □【高位従魔師】サラ

 

 安全を確認して機関車から顔を出した男の人は、スーツの汚れを手で払いながら、ぺこりとお辞儀をした。

 

「ありがとう。君たちのお陰で助かった」

 

 そして男の人は順番にわたしたちをじーと見つめた。

 頭のてっぺんからつま先まで、とくに顔と体格と服装は重点的にチェックしている。

 いきなりの視線にみんな顔をしかめているけど、なぜかいやらしさを感じない。表情が真剣だからかな?

 

「わたしはサラっていいます。あなたは?」

「ああ、申し遅れた。俺は藤原永満。<玉月商会>というクランのオーナーをしている者だ。王国には商品の買い付けで訪れた」

 

 続いて全員が自己紹介をする。

 その間に、リリアンさんとホノルルさんはびっくりした様子で話し合っていた。

 

「たしか黄河の大手商業クランだよね。わざわざオーナーが足を運ぶなんて」

「零細ベンチャー並みの度胸があるわね……」

 

 わたしはバイトを通して知ったけど、この世界で商売をするのはとても大変だ。

 なぜなら街の外にモンスターや盗賊がいるから。

 商品を街から街に運ぶ途中、馬車が襲われたら荷物がなくなっちゃうかもしれない。

 大陸の東から西まで旅をするとなったら、危険は山ほどついてくる。護衛を雇うお金もたくさん必要だろう。

 

 大きなクランだったら、所属している戦闘職の人に手伝ってもらえそうなのにね。

 

「直接足を運ぶからこそ、相手に誠意が伝わる。それで商談が成功するなら安いもんだ。<マスター>は死なないからな。一応、フリーの護衛を雇っていたんだが……そいつは途中でいなくなった」

「それはそれは。ジンギにもとる行いですね!」

「……お前のことだよ、“六口”のシャロエモン」

「ヤヤ?」

 

 藤原さんにじっとりとした目でにらまれて、シャロさんは一瞬だけフリーズする。

 こめかみをぐりぐりと刺激して、やっとのことで思い出したみたい。

 

「……おー! チリメンドンヤのワカダンナ! ご無事で何よりでーす!」

「お陰様でな。砂漠越えで何度か死にかけたよ。シャロエモンの名が聞いて呆れるな?」

「ち、違うです。これには飲茶止まれぬ事情が……秘技、ジャパニーズ・ドゲザ・ジツ!」

 

 ダラダラと冷や汗をかいて口ごもるシャロさんの姿はめずらしい。

 最後にはきれいな土下座で、地面におでこをぺたりとくっつけた。

 

「二人は知り合いなんですか?」

「黄河の龍都で、無一文の彼女に食事と宿を提供した関係だな。その礼にと彼女の方から護衛を申し出てきたんだが……カルディナの砂漠で失踪して音沙汰なしだ。流石にあれは脳の神経が切れる音がした」

「ノー! たしかに天地から出てきたばかりでお金ないでしたが! サムライ=ニンジャは一服いっぱいの恩義を忘れません! あれはクセモノをセイバイしていたら道に迷ったです!」

 

 どうやらお金の上下関係ができている。

 わざとじゃなくても、自分から言い出した護衛をすっぽかすのはよくないね。

 

「せめて一言ほしかった」

「ハラキリでお詫びするですっ」

 

 わわっ!? シャロさんがお腹に円月輪を!

 

「ダメですよシャロさん! 死んじゃう!」

「ナサケは不要です。シャロはサムライ=ニンジャの誇りを汚しました。ブシドーはここで死んだのです」

 

 ぜんぜん話を聞いてくれないっ。

 わたしから、シャロさんを許してあげてとお願いするのはちょっと違うかもしれないけど。

 できるなら説得してほしいな、という気持ちを込めて、藤原さんにアイコンタクトをする。

 

「切腹は必要ない。この場で自害されたところで誰も得をしないからな」

 

 やれやれと藤原さんはため息を吐いた。

 

「その代わり……少し耳を貸してくれ」

「?」

 

 藤原さんはシャロさんに耳打ちする。

 機関車をちらちらと気にして、なにかを言い聞かせているように見えるね。

 わたしたちには聞かれたくないお話だろうか。

 ちょっと気になるな……なんて考えていたら、シャロさんが心配無用というように胸を叩いた。

 

「ガッテンです。その中にいる人のことは秘密。決してタゴンはしません!」

 

 シャロさん。大声で言ったら意味ないよ。

 

 みんなの視線が藤原さんに集まる。

 仲間がいるならそう言ってくれたらいいのに。

 どうしてわざわざ隠すのかな。

 

「まさか、野盗紛いの行為をするつもりなの?」

 

 ホノルルさんは再び警戒レベルを引き上げる。

 藤原さんがおとり役で、機関車の中から出てきた人に襲われる……ってことだろうか。

 もしそうなら、しっかり準備をしてるわけだけど。

 

「断じて違う。彼女は少し人見知りなんだ。長旅で疲れているのもあって、車内で休んでいる」

「悪い人じゃないんですよね」

「潔白は保証する」

「なるほど。わかりました!」

 

 わたしが納得したのを見て、藤原さんが嘘をついていないとわかったんだろう。他のみんなも警戒を解く。

 ホノルルさんみたいに戦う力のない<マスター>は、PKとか野盗にとても注意しているんだよね。

 人を疑うのは自衛のために必要なことなんだろう。

 でも、藤原さんは悪い人じゃないとなんとなく感じる。

 

「今はそっとしておきたい。悪いが、車両には近づかないでほしい」

 

 この言葉も、わたしたちがきらいなんじゃなくて、中にいる人を心配しているだけなんだと思う。

 すごい大切に思う気持ちがぎゅっと詰まっている。

 まるでかけがえのない恋人か、もっともっと上の、神さまを拝むみたいな。

 あと、触ったら壊れちゃいそうなガラス玉を大事に守っているような感じがした。

 

「とはいえだ。恩人相手にこの態度、いくらなんでも不義理が過ぎる。せめてお礼を返せたら良いんだが……生憎、商会で取り扱っている品はほとんど手元にないな。本店から取り寄せてもいいが日数がかかる。迅速に、かつ満足度の高い返礼品となると……」

 

 ぶつぶつとつぶやいたあと、藤原さんは質問する。

 

「見たところ、君たちは生産に使う素材集め中だな。何が足りないか教えてもらえるか?」

「けっこうドロップは拾ったから、あとは鉱石ぐらい? オリハルコン使っちゃったし」

「あんまり根に持つと嫌われるよ。でも、ルルの言う通りかな。金属素材は欲しいね」

 

 三人の話し合いを聞きながら、戦闘職のわたしたちは散らばったドロップアイテムを拾っておく。

 アイテムを作るのにどんな素材が必要か、生産職が一番よくわかっているからね。役割分担というやつだ。

 

「これで良し」

 

 確認のために、三人が話し合いで作成した【契約書】を読み上げる藤原さん。

 

「当然だが、先程の戦利品はそちらに所有権がある。君たちが来る以前のドロップも差し上げよう。戦闘で使用した消耗品は全額こちらが負担する」

 

 大量の素材がもらえて、しかも使った【快癒万能霊薬】が返ってくるようだ。

 値段の高いアイテムだからありがたい。

 

「加えて、【採掘王(キング・オブ・マイン)】藤原永満が別途規定された数量の鉱物を無償で提供する」

「助かるよ。これで必要な素材が揃うから」

 

 ふんふん。金属素材をくれるみたい。

 きっと、かなりの量になるんだろうなあ。しかもぜんぶタダとは太っぱらだ。

 まさに情けは人のためならずだね。

 

「ん……【採掘王】?」

 

 それって、超級職ではないでしょーか。

 首をかしげるわたしを置いて、みんなは藤原さんが始めたなにかの作業を見学している。

 誰も驚かないんだね? たまたま助けた人が超級職だった、なんてめずらしいことなのに。

 

Rrrr(なれてる)

「そうかも」

 

 そういえばシャロさんもそうだった。

 わたしの周りには超級職がけっこういる。お友達になると、そういう「すごい人」って意識が薄まっちゃう。

 ……それとも、これが普通なのかな。

 

 わたしが当たり前とはなにかについて考えている間に、藤原さんの作業はどんどん進んでいる。

 洞窟の壁を叩いて反響音を聞く。それから、周りを確認して崩れそうな部分を地属性魔法で補強する。

 風の魔法で換気をするのも忘れない。

 魔法を符で発動するところは大陸の東側らしさがある。迅羽とおんなじだ。

 

 準備を整えた藤原さんがツルハシを取り出す。

 赤色だからヒヒイロカネ製っぽい。

 お値段は1kg1000万リル以上。ENDで表すと数万という硬さの、わたしでも知っているレアな金属だ。

 武器にしたら神話級特典武具クラスの性能になるけど、そのぶん加工がすごい難しいのだとか。

 これ、ぜんぶホノルルさんの受け売りだけどね。

 

 売ったら豪邸が建てられるだろう超高級なツルハシを、藤原さんは雑に振り下ろした。

 カーンと気持ちのいい音がして石ころが落ちる。

 

「〜♪」

 

 お供の鼻歌はなぜかアイドルソング。

 曲に合わせてツルハシが振られると、次から次へと鉱石が転がる。

 カーン、コロン。カーン、コロン。

 カンカン、コロロン。カン、コロロン。

 ついつい口に出したくなるリズムだ。

 

「わあ……!」

 

 あっという間に、鉱石の山が積み上がる。

 黒曜石、銅、鉄。ミスリル、水晶、オリハルコン。

 量も種類もたくさんで、どこにこれだけの石があったんだろうと思うくらいだ。

 

「信じらんない。<クルエラ山岳地帯>にこんな採集スポットあるなんて聞いたことないわよ」

「そうだろうな。とっくの昔に枯れた鉱脈だ。残っていた分は、今のであらかた掘り尽くした」

 

 だから二匹目のドジョウは期待するなよ、となんてことないふうに言って、藤原さんは鉱石を回収する。

 

「俺の手持ちと合わせて、これで足りるだろう」

「流石は採掘のプロだね。もし良かったら、今後もお仕事を頼めない?」

「ありがたい話だが難しいな。王国に滞在する予定はないんだ。東西で運送するとなると、コストが嵩むぞ」

「そっか。残念だけど仕方ないね」

 

 肩をすくめるリリアンさんと藤原さんの間で、鉱石の受け渡しが行われた。

 無事に一仕事が終わり、ツルハシをしまう藤原さん。

 その足元をよく見ると、まだ鉱石が落ちている。

 あれは拾わないのかな。

 

「藤原さん。その石は?」

「拾い忘れがあったか。これは、依頼分には含まれてないな。君が欲しいならあげよう」

 

 指でつまんだ鉱石は灰色で、ところどころ赤や青っぽいところがある。

 

「それはコランダムだ。磨いたら宝石になる」

「こらん……? あ! ミスリルとかオリハルコンみたいに、ファンタジーなやつですね!」

「いや、地球に実在する鉱物だ。ルビーやサファイアと言ったらわかるか」

 

 えー!? これが!?

 

「そのふたつって別の宝石じゃないんですか?」

「混ざる不純物によって色が異なるから区別して呼ばれるが、大元は同じだぞ」

「知らなかった……」

 

 知っているようで知らない雑学だ。デンドロでお勉強した気分になれてちょっとお得。

 フフフ。またひとつ、わたしは賢くなってしまったみたいだね……!

 と、ふざけるのはこれくらいにして。

 

 せっかくだから、コランダムはもらうことにする。

 小さいからアクセサリーにしようかな。おしゃれな指輪か、それともネックレスとか。

 

「ぜひ有効活用してくれ。磨かれない原石は、いつまでも輝けない。それは宝の持ち腐れでしかないからな」

 

 藤原さんは強い決意を込めた口調でそう言うと、ちらりと機関車に視線を向けた。

 すごい熱意と気迫だ。だけど、なんでだろう。今にも倒れちゃいそうなくらいの必死さが伝わってくる。

 話しているわたしが心配しちゃうくらいに。

 

「あの! なにか困ってませんか?」

 

 だから、思わず聞いてしまった。

 

「わたしにできることなら、お手伝いします!」

「その気持ちだけで十分だ。君の手を借りるほどじゃない。それに、もうすぐ解決できるはずなんだ」

 

 その言葉に嘘はない。

 でも、困っていることは否定しなかった。

 本当に解決できる方法があるのか……わたしは力になれないタイプの悩みごとなんだろう。

 

「サラー! 帰るでーす!」

 

 シャロさんが呼んでいる。

 他のみんなは帰る準備ができているようだ。

 

「ほら、行け。仲間を待たせているぞ」

「藤原さんは?」

「俺はもう少しここにいる。連れが本調子に戻ったら、ギデオンに向かうよ……大丈夫だ。あの鬼レベルの例外が出なければ、モンスターはどうにかなる」

 

 結局、藤原さんにさようならをして、わたしはリリアンさんたちと合流した。

 力になれないのは残念だけど、こうして出会ったのはなにかの縁だ。また一緒に遊べたらいいね。

 なかよくなったら、抱えている悩みごとを話してくれるかもしれないし!

 

 To be continued




余談というか今回の蛇足。

鉱石
(U・ω・U)<様々な種類が採れたのは【地神】が地層をまぜまぜ()したからです


藤原
(U・ω・U)<モンスターを避けるために地中を掘って機関車で移動

(U・ω・U)<ぽっかり空いた横穴が、クロムの縄張りと繋がりました


ジャパニーズ・ドゲザ・ジツ
(U・ω・U)<サムライ=ニンジャ最大級の謝罪

(U・ω・U)<大地を舐めて慈悲を乞うアワレ

(U・ω・U)<派生として空中で身体を折りたたむ『ジャンピング・ドゲザ・ジツ』

(U・ω・U)<滑走と同時に姿勢を整える『スライディング・ドゲザ・ジツ』などがある
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