長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□決闘都市ギデオン 【高位従魔師】サラ
「へえ、そんな事があったんだ」
リリアンさんは作業の手を止めてこっちを見た。
ギデオンにある出店のひとつは<ルルリリのアトリエ>が開いているものだ。
遊びにやってきたわたしは、商品の在庫をチェックするリリアンさんに、ついさっきの出来事を話していた。
とくにふれあい広場とワンちゃんについてだ。
「だからルビーはご機嫌斜めなのか」
「そうなんです。ごほうびになんでも好きなものを買ってあげるよって言ったけど、それでもダメで」
『
わたしの腕の中でルビーはそっぽを向く。
ワンちゃんに相手にされなかったことがよっぽど頭にきたんだろうか。あの子はマイペースだったからね。
でもルビーだってかわいいと人気で、きちんとお仕事をやり遂げたと思うよ。
おかげでお客さんはたくさん集まったし、助っ人の従魔師が到着するまで乗り切れたもの!
だから、お手伝いの報酬とは別に、わたしがごほうびを買ってあげることにした。
お店が多い四番街を歩いて、ルビーのほしいものがあるかを探していたんだよね。
でも、なかなか機嫌を直してくれない。高級ブラシや大好物のレムの実じゃ満足できないようだ。
『
『
「なかよく! なかよくね!」
そしてジェイドとケンカをする始末。二体をなだめて、わたしはリリアンさんに向き直る。
「ルビーが喜びそうなもの、ありますか?」
「そうだね。例えばこれとか」
取り出した服はもこもこのパジャマ。
かわいく見えるように形が工夫されている。
特徴的なのはそのサイズだ。
「テイムモンスター用のお洋服だよ。色と生地の種類を選べて、サイズ調整と空調のスキルを付与済み。もちろんパジャマの他に普段着もあるよ。おしゃれに気をつかう方におすすめの一品かな」
「わー! かわいい!」
「そしてなんと、同じデザインで人間用の服も取り揃えてるよ。従魔とお揃いで着替えを楽しめるんだ」
「おおー!」
これはいいものだね! わたしがほしい!
さて、ルビーはどうだろうか。わたしはオーバーなリアクションをして彼女の様子を窺う。
『
六十点。及第点だけど、もっと上がある気がする。
ちらちらと気にしているのは期待の表れだ。
このお洋服がわたしが個人的に買うとして、次のおすすめ商品を見せてもらうことにする。
「こっちにアクセサリーがあるよ。金の指輪とか宝石のイヤリング。デザインには自信があるんだ。スキル上げが途中で装備としての性能は低いけど……性能重視なら、他のお店で買ってるでしょ?」
たしかに並べられた商品はどれもセンスがいい。
リリアンさんは服だけじゃなくて、こういう小物のデザインも得意なんだね。
一個ずつ眺めていると、端っこに未完成っぽいペンダントを見つけた。宝石をはめる部分が空っぽだ。
「これも売り物ですか?」
「それはね、お客さんに素材を持ち込んでもらうの。好きな宝石を使ってオリジナルの一品に。お値段はペンダントと加工代だけでお得だよ」
わたしはちょっと考えて、アイテムボックスからひとつの鉱石を取り出した。
「これでお願いします!」
「オッケー。加工に少し時間をもらうね」
そう言って作業に入るリリアンさん。道具を使って鉱石を磨き上げている。ああいう金属の加工は【彫金師】ができるんだっけ。
たしかリリアンさんは【裁縫職人】と【高位鎧職人】で上級職ふたつを埋めていたはずだから、下級職のスキルアシストだけで作っていることになる。
足りないぶんは本人のセンスで補っているのかな。
しばらく待つと、頼んだものが出来上がった。
「お待たせ。これが完成品だよ」
銀色の細かい鎖に繋がれる、七色の宝石。
きちんとルビーが首にかけられる長さになっている。
アイテム名は【虹輝石の首飾り】。
装備として特別な効果はないけれど、とてもきれいで上品なペンダントだ。
「はいどうぞ」
『
「いいでしょ。ルビーの原石なんだって! あなたにピッタリだと思ったの!」
七色の宝石は、藤原さんからもらったコランダムを磨いたものだ。
鉱石から赤色が見えていたから、てっきりサファイアじゃなくてルビーになると思ったんだけど。
予想が外れて、七つの色が重なって虹のように輝いている。これはこれでいい感じ。
ルビーはピョンと跳ねて、鏡を見たり、ペンダントを光にかざしたりする。
『……
よかった! 気に入ってくれたみたい。
『
「え?」
『
「う、ううん。いいよ、もちろん」
『
ぜんぶ……今日見たものぜんぶってこと?
さすがにお財布がつらいから、どうかひとつだけにはできないかなあ……。
あとでルビーを説得する方法を考えなくちゃ。
とにかく機嫌が直ってよかったね! うん!
「はいサラちゃん、お釣り。それと福引券だよ」
お会計をしたら、リリアンさんがコインと合わせて一枚の紙切れをくれる。
「福引って、あのガラガラ回すやつですよね」
「よく知っているじゃないバイトその1」
はっぴ姿のホノルルさんが現れた! サングラスをつけてハンドベルを持っている。ノリノリだね。
それにしてもいつの間に。福引という単語に反応したのかな。気がついたら出店にガラガラ回して玉を出す装置(正式な名前は知らない)が置かれていた。
「当店でお買い上げのお客様には、一度の買い物で一回、福引を回す権利が与えられるわ。豪華景品が盛り沢山。運試しには最適……当然回していくでしょ?」
回せという圧がすごい。
言われなくても、おもしろそうだから回すよね!
「ちなみに当たりの景品はなんですか? もしかして世界一周旅行とか!」
「そこに書いてあるわ。何等がどれかは回してからのお楽しみってこと」
ホノルルさんはリストを指した。どれどれ?
回復アイテム詰め合わせ、レベルアップアイテム、レア素材のセット、【妖精女王】のコンサートチケット(※使用済み)、お洋服、武器防具、呪いの掃除機に水しか出ないティーポット、などなど。
なんでもありの福袋みたいだ。いくつかいらないものが混ざっているけど、タダだしいっか!
「えいっ」
わたしは考えずにガラガラを回した。
コロンと出たのは金色の玉。
「大当たり〜」
「やった!」
「これは……四等ね」
あれ? 聞き間違いだろうか。
ハンドベルの音でよく聞こえなかったからね。
大当たりで金色の玉なんだから、一等に決まって……
「はい、四等の景品」
「聞き間違いじゃなかった!」
今日一番のびっくりだよ!
「こんな金ピカなのに?」
「玉はミダースで作ったから全部同じよ」
「それに大当たりって」
「ハズレ無しの出血サービス」
クレーム対応では強気な姿勢を崩さないホノルルさんから景品を受け取る。
嘘じゃないからなんともいえない。それに文字通りのサービスだしな、と思いながら中身を確認する。
薄い封筒の中に一枚の紙切れ。まさか使用済みのコンサートチケットが当たってしまったんだろうか。
「えっと、『豪華客船一日クルーズ招待券』?」
「わりと当たりよ、それ。四等はランダムなチケットの類だけど、普通に買ったら一億リルはするわ」
「い、いちおくぅ!?」
一回の船旅で一億リル。リアルだと十億円。
一生使い切れないお金を一日で使うだなんて、いったいどんなセレブが集まるんだろう……ごくり。
なるほど、たしかにこれは大当たりだ。
ホノルルさんが強気な態度を取るのも納得の一品。四等でこれなら、一等はどれだけの景品が?
「なあ、四等で一億だって。ヤバくね?」
「マジか。俺も回してみようかな」
やりとりを見た通行人が注目している。
わたしとおんなじ感想の人が、福引のためにお買い物をしようと出店に集まってくる。
「もう、ルルったら」
リリアンさんはあきれているようだ。どうやら景品はホノルルさんの独断っぽい。
「でも良かったね。そのクルーズ、各国から人が集まるらしいよ。情報収集にはうってつけじゃないかな」
はっ、言われてみれば。
最近はジェイドのお母さん探しが思うようにいかない。
やっぱり王国に集まる情報だけでは限界がある。
なかなか遠出するのが難しい以上、こういう機会は積極的に使っていかないとだね。
「はあー、いいなー。噂だと“プリマドンナ”の公演もあるんだって。私も行きたいなー」
「り、リリアンさんでもこれはあげませんよ! この招待券一人用で……」
「うそうそ、冗談だよ。お店を長くは空けられないもの。代わりにスクリーンショットを撮ってきてほしいな。デザインの参考にしたいんだ」
「はい! それは任せてください!」
情報収集はもちろん、おみやげ話をするために、思い切り楽しまないとだね。
クルーズの日付は決まっているから、愛闘祭が終わったらギデオンを出発しよう!
To be continued
ヒント:福引の玉はどれも全く同じ