長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□■【ピークォド・タイタニック号】・野外劇場
自らの憧れの中でも、とりわけ繰り返し視聴した特撮番組『航海戦隊クルーズファイブ』のリーダー、クルーズレッドの決め台詞を捩った口上を述べるレッド。
客船の周囲に押し寄せる海竜の配置を一瞥で頭に入れて、傍らの相棒に指示を出す。
『殲滅だ』
「了解! 変っ身」
ウルは見様見真似でポーズを取り、身を翻す。
金色の髪のメイデンは消え去り、少女のいた空間に顕現するは鋼鉄の外装を纏う十メテル余りの巨体。
ウルスラグナのレギオン体がひとつにして遠距離攻撃に特化した碧の雄鹿。
その名も《デクステリティ・スタッグ》である。
『Form Shift! 【Number Three】!』
少女の面影を残す機械音声が高らかに吼え猛る。雄鹿は双角を揺らし輝かせ、枝分かれした先端からレーザーを振り撒いた。網目状の光線が海竜種の肉を抉り、拡散した魔力光は豪雨の如き流星となって鱗を穿つ。
さらに背部の装甲がスライドして、内部から砲塔と発射管が迫り出した。閃光と白煙、そして爆音。砲弾・魚雷、無数の弾幕が海を焼き払う。
海原の生態系において上位に君臨する海竜種たちは、強者たる矜持を発揮して各々抵抗を試みる。しかしブレスを吐こうと顎門を開けば精密射撃が口内を跳ね回り、全力を発揮するために外殻を自ら剥離した個体は守りが手薄になったことで火力の前になす術なく撃沈する。
歌声に引き寄せられたモンスターは絶え間ない砲火に削られ、あらかたが海の藻屑となって消滅した。
「余所見をするのは無粋だわ」
『今そっちに向かうところだって』
討伐にかかり切りで無防備な背中を見せるレッドに、シャルロッテが迫る。
怪姫は旋律を口ずさみながら、不規則な軌道で距離を詰めて左腕の鉤爪を振り上げた。
『壁になれ』
『Form Shift! 【Number Two】!』
新たに顕現した黄の駱駝がそれを受け止める。表面に裂傷が走るも、それは八重九重に纏う多重装甲の一枚に過ぎず。頑強さを誇る機体の核には届いていない。
耐久力特化の《エンデュランス・キャメル》は堅牢な要塞のようにレッドの盾として鎮座する。
シャルロッテは接敵を妨げる壁を前にして立ち止まり、しかしすぐさま鉤爪を駱駝に突き立てた。高い身体能力を発揮して体を持ち上げ、僅かな凹凸を頼りに駱駝を乗り越えると跳躍。レッドの頭上から奇襲を仕掛ける。
「Laaaa――!」
『やらせねえよ、Form Shift! 【Number One】!』
ウルスラグナの自発的な行動で駱駝は紋章に格納、代わりに紅の雄牛が飛び出して迎撃する。
怪姫の鉤爪と雄牛の角が衝突して火花を散らす。
純竜級のステータスを持つファントムと融合している、なおかつレベル上昇によりステータスが跳ね上がっているシャルロッテ。対するは筋力に特化した《ストレングス・オックス》。両者は拮抗し、弾き合う。
「何度見てもカラフルね。舞台映えしそうだわ」
『この大きさでハコに収まると思う? それはそれとして、ウルスラグナは見せ物じゃないぜ』
雄牛と雄鹿を従えたレッドは嘆息する。
「それは残念。全色揃ったら壮観なのに。たしか……出さないのじゃなくて、出せないのよね」
『それを気にしてることも言ったよね? 煽りか? それとも天然か? そんなだと友達なくすぞ』
「レッドよりフレンドは多いわよ?」
『ちくしょう、悪意ゼロの言葉が私を傷つける……!』
レッドは涙を拭うが、半分は建前。内心を誇張しておどけるのは、シャルロッテが指摘したウルスラグナの制限を改めて追求されないようにするためだ。
TYPE:メイデンwithギア・レギオン、【破軍神姫 ウルスラグナ】は複数の形態を有する巨大兵器の<超級エンブリオ>だ。進化ごとに一形態を獲得し、今では七つ揃った機体は自律して稼働するレギオン。同時にレッドが内部に乗り込み操縦できる特殊装備品でもある。
各形態はそれぞれが特化したステータス、あるいは防御・攻撃に長けたスキルを保有している。《オックス》ならば特化したSTRが一万、他は平均して一〇〇〇、HPに関しては一〇万程度といった具合だ。
一部ステータスが伝説級モンスターに比肩するレギオン七機。このように表記すれば強大な戦力だ。しかしウルスラグナには制限が一つ、いやさ二つ存在する。
一つはコスト。ウルスラグナは莫大な燃料を必要とする。一度の戦闘で億単位の金が吹き飛ぶほどに。
ゆえにレッドは年中金欠であり、大食らいの戦闘形態を使わずにメイデン体のみで戦闘を行うこともある。
そして、最も重要な点は同時展開数の制限だ。
ウルスラグナのレギオン体を展開できる数はパーティメンバーの人数に応じて増減する。六人のフルパーティならば七機全てが出撃可能だが、ソロの場合は二機までしか出撃できない(メイデン体も展開中の一機としてカウントされてしまう)。
このパーティメンバーという条件が曲者だった。ウルスラグナを使うにはパーティを組まねばならないが、レッドは友達が少ない。デンドロ内で活動を共にできるフレンドが少ないのである。パーティを組めたとしても戦闘で周囲を巻き込んでしまい協力が困難。
一度はレッドも知恵を巡らして、従魔でパーティを埋める方法を試した……が、結果は失敗に終わった。システム上はパーティメンバーであっても展開数の制限が解除できなかったのだ。ちなみにこの是非にウルスラグナの意思は介在していない。
つまりだ。レッドがソロだと、ウルスラグナは全力を出せない。今この時のように。
『だからどうしたって話さ。こちとら縛りプレイは日常茶飯事なんだよ』
レッドは剣を携えて前に出る。
間合いを詰めて八相から振り下ろす袈裟斬り。シャルロッテは鉤爪で受け止めて鍔迫り合いに入るが、想定以上の剛力に押されてたたらを踏む。
「ッ」
『うわギリギリ。マジで戦闘職の立つ瀬がないな』
戦闘が専門の上級職と戦いに不慣れな超級職。二人は共にファントムの恩恵を受けている。とはいえ、レベル上昇による強化を加味してもレッドの力がシャルロッテを上回るはずもなく。明暗を分ける理屈は、
『――《
――ウルスラグナのスキルにある。
『
《鼓舞の追風》は味方全体を強化するバフ。
展開中のレギオン体一機を選択して、指定したステータス一箇所の数値を全てのパーティメンバーとレギオン体の同じステータスに加算するというもの。
今は《オックス》のSTRを対象としている。レッドのSTRは追加で一万の補正がかかるということ。戦闘系超級職に匹敵する剛力無双の戦士が爆誕する。
さながら英雄に授けられる風の加護。
ウルスラグナと肩を並べる者は、それだけで一騎当千の猛者と化す。
「ふふ……」
割に合わない、とシャルロッテは判断した。彼女は歌い続ければレベルが上がり、いずれ《追風》の補正を無視できる領域まで到達する。
事態を解決するため、迅速に決着をつけようとするレッドとは違い……シャルロッテとしてはいくら時間をかけてもいいのだ。彼女にとってこの戦いは歌劇と同義。刹那の力比べに意義は見出せない。
故に、レッドと雄牛の追撃をあしらって距離を取る。
雄鹿の光線を踊るように回避し、急所を狙う実弾は鉤爪から放つ衝撃波、ファントムが習得済みのスキル《ウィングド・リッパー》により迎撃。
自身は歌唱系スキルの中でも数少ない攻撃手段になる《ソニックボイス》で不可視の音波をぶつける。
「なら、これはどうかしら」
客船で最も空に近い場所、蒸気を吐き出す煙突に陣取ったシャルロッテは声を張り上げた。それは思わず耳を傾けてしまう歌であり、注視してしまう美貌。敵対するレッドですら動きを止めて彼女を見上げる。
シャルロッテのメインジョブ【歌劇姫】は歌手・役者系統複合超級職である。ならば複合ではない、正統派の超級職である【歌姫】や【千両役者】との違いは何か。
歌だけでは物足りない。演技だけの舞台は味気ない。だからこそ、【歌劇姫】は歌と舞台を
スキル《独唱》は自身の歌唱系スキルを数倍化する以外に、自身の注目度を上昇させる。自ずと視線で追い、歌に聞き惚れるよう、観客の精神に働きかける魅了。
響いた歌声は、遠く水平線まで響き。
一帯に潜む海洋生物のヘイトが彼女に集中する。
水面を割って姿を見せるモンスター、それらを率いるは近海の主、通常より二回り大きな体躯を誇る【メイル・ハイエンド・サーペント】だ。
『『またかよ!?』』
「芸が無いなんて思わないでね。私は歌いたいから歌うけど、観客はどれだけいても良いものでしょう?」
辟易としたレッドに怪姫は嘯いて、
「大立ち回りは貴方の見せ場よ」
歌が変調する。舞台の中心を担う美しくも荒々しい主旋律は鳴りを潜めて、照明の当たらない影から不安と恐怖を誘う副旋律が忍び寄る。
海竜は存在感を薄めたシャルロッテから注意を逸らし、蒸気船そのものに意識を向けた。《独唱》と対をなす《重唱》……本来は自身の注目度を下げて共演者の歌唱を支援するスキルだが、理性に欠けるモンスターが相手であれば暴虐の矛先を意のままに操れる。
「さあ踊りなさいレッド! 貴方が英雄であろうとするのなら! 私の舞台に彩りを添えて!」
『好き勝手言いやがって……加減しろ馬鹿! 少しはこっちの身にもなってほしいもんだよ!』
レッドは悪態を吐いて、船体に身を絡ませた海竜の一匹を切り捨てる。竜尾の切れ端を雄牛が海に押し出し、雄鹿は再び砲火で敵を焼き尽くさんとする。
『また殲滅するか?』
『いや、切りがないから』
『お、アレやるかアレ。久々にぶちかまそうぜ』
彼女らは半身にして相棒。戦闘時の意思疎通に多くを費やすまでもなし。
『Form Shift! 【Number Four】!』
雄鹿は群青の大鴉に転身した。
速度に特化した《アジリティ・レイヴン》は翼を広げると超音速機動で飛翔する。鋭利な嘴でシャルロッテを煙突から突き落とすと、急降下して追撃に移る。
しかしシャルロッテは空中で体勢を整えて難なく着地。鋼鉄の一爪と翼撃をも躱し切った。
「ふう、びっくりしたわ……」
慣れない浮遊感に怪姫は冷や汗をかき、
『これで終わりと』
『思うなよ』
真紅のヒーローに隙を晒した。
『Form Shift! 【Number One】×【Number Zero】!』
雄牛の前には、巨体と比較しても小さな……人間が騎乗可能なサイズの白馬が顕現していた。
ウルスラグナの第一形態にして防御能力に長ける《ガード・ホース》は脚を折り畳むと座面付きの心臓部、コックピットに。雄牛の装甲が開いてコックピットを格納すると、紅の雄牛は二足歩行の牛頭魔人に変形を遂げた。
操縦席にレッドが乗り込めば<マジンギア>の如き人型機動兵器が唸りを上げる。
『化身合体、ウルスラグナ・オックスってな!』
雄牛はシャルロッテの腕を掴むと、
『シャル・ウィー・ダンス?』
口を開けた海竜種へと投擲する。
そして、牛頭魔人はその後に続いた。
「貴方、何をッ!?」
『まあまあ。皆で輪になって踊ろうか』
驚愕するシャルロッテを掴み、膝蹴りを叩き込んで、客船への復帰を阻止する雄牛。彼女らはそのまま海竜種の只中に。仮に襲われず済んだとしても海中に落下するだけだ。この局面で相打ち狙いの身投げをしてどうするのかと、シャルロッテは友人の正気を疑う。
『私は音楽とかあまり聞かないけど、君の歌は良いものだと思う』
「……?」
『あのアイドルの歌も同じ。どうせなら、何の憂いもない状態で楽しみたい。てな訳で……』
レッドは左手の紋章を掲げた。
操縦席が射出されて雄牛と分離。自由落下の最中、レッドは白馬を格納する代わりに新たな獣を顕現させる。
それは黒い野猪。猛り狂う獣。憧憬の結晶。
十メテルの巨躯を、さらに肥大させる荒神。
あらゆる防御を無為に帰す破壊の化身。
『Form Shift ――【Number Six】』
ウルスラグナの第七形態《ブレイク・ボア》。
『悲劇の種は、私がまとめて“破壊”する』
最大で全長百メテルに至る野猪は、空中でシャルロッテと【メイル・ハイエンド・サーペント】を含めたモンスターを捉えて……僅かばかりの配慮に【ピークォド・タイタニック号】から離れた地点を着水場所に定めた。
青空を覆い隠す頭上の影に捕捉されたモンスターは当然ながら抵抗する。多くは逃走を図って潜水し、残った個体は身の守りを固めるか、一か八かの撃墜を目論む。
しかしシャルロッテはいずれの行動も取らない。無駄な足掻きだと知っているからだ。野猪が齎す被害から逃れるには雄牛の拘束が邪魔となり、攻撃を当てようにも海竜種の抵抗で野猪が堪えた様子はない。
『――《
野猪は――全パーティメンバーとレギオン体のステータスを加算する
野猪が敵を轢き潰す瞬間、その背中に立つレッドと視線を交わしたシャルロッテは。
「――――――っ」
『いっぺん頭冷やしてこい』
海に沈む最後まで、歌を止めなかった。
To be continued
余談というか今回の蛇足。
(U・ω・U)<二次創作書きあるある
(U・ω・U)<原作はもっと面白い病
(U・ω・U)<デンドロ読みましょう(布教)
シャルロッテ
(U・ω・U)<前話で説明し切れなかった
(U・ω・U)<歌でレベルブーストする【ファントム】と
(U・ω・U)<歌唱系スキル強化&ヘイトコントロールする【歌劇姫】の組み合わせ
(U・ω・U)<ブーストは一時的なもので歌が止まってしばらくすると戻る
(U・ω・U)<戦闘だと歌手は注目を浴びて狙われやすいけど
(U・ω・U)<自分のヘイトを下げたり、融合スキルで対処する
(U・ω・U)<困ったらMPK
ウルスラグナ
(U・ω・U)<多機能型の器用貧乏
(U・ω・U)<オー陛下と似ているけど、彼のナイアルラトホテップよりステが控えめ
(U・ω・U)<理由はお分かりでしょう
(U・ω・U)<バフのせいだよ
(U・ω・U)<陛下基準だと『パーティ全体に二〇万のバフ』とかになる
(Є・◇・)<頭おかしい数値だな
(U・ω・U)<でも六人パーティで《神風》を使うと似たようなことになる
(Є・◇・)<他は大きさと変形機能にリソースが割かれている感じだな
(U・ω・U)<それだけじゃありません
(Є・◇・)<え? ……ああ、うん
(U・ω・U)<彼女たち、まだ必殺スキル使ってないんですよ
Ψ(▽W▽)Ψ<~♪
(U・ω・U)<作者は「<超級>だから」と自分に言い聞かせて詰め込んだ
《ブレイク・ボア》
(U・ω・U)<特徴は巨大化と防御無視攻撃
(U・ω・U)<第七形態なのでリソース多め
(U・ω・U)<逆に第一形態の白馬はリソース少なめで小さい
(U・ω・U)<番号の割り振りはカッコよさを優先
レッド
(U・ω・U)<はがない