長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
“トーナメント”
□決闘都市ギデオン 【高位従魔師】サラ
「むむむ……」
わたしは悩んでいた。
それはもう頭がパンクするくらい真剣に。
『Gaaaaaaaaaaaa!』
悩みの種は大きく二つ。
ひとつは目の前で闘技場の結界を殴っている鬼。
わたしの四体目の従魔、クロムについてだ。
クロムは戦うことが大好きだ。とくに強い相手と力比べをするのが楽しいらしい。
逆に戦うのを我慢したり、ずっと【ジュエル】の中に入っているとストレスが溜まってしまう。
だから定期的に闘技場の結界をレンタルして、クロムのストレス発散をしている。
いつもはジェイドやターコイズが相手をする。決闘ランカーの人やお友達がいるときは、みんなに付き合ってもらうこともあるのだけど。
「負けるのも、続いたらストレスだよね」
決闘ランカーの人たちは強い。
わたしがジョブスキルで強化しても、クロムが勝てるのは調子がいいときで十回に一、二回ぐらい。
最近は負けが続いていた。しかもぱったりとランカーの人が現れなくなったから、勝ち逃げされたみたいで悔しさが倍増しているっぽい。結界を殴っているのはイライラが収まらないからだ。
わたしがクロムと全力で戦うには《始まりは遥か遠く》が必要だ。何回か使うとヘトヘトに疲れちゃう。
それだとクロムには物足りないみたい。あとはモンスターを倒したり、なんとか誤魔化している。
「だけど、わたしの言うことを聞いてくれないからフィールドだと心配なんだよ」
『
基本的に、クロムが素直に言うことを聞くのは自分より強い相手だけだ。
ここにわたしは含まれない。うちのメンバーだと、ジェイドの言葉にしか耳を貸してくれない(ターコイズは物理攻撃が無効でズルだからノーカウントらしい)。
フィールドだとなにがあるかわからないからね。
もし、危ない目に合ったときにクロムが退いてくれなかったら……ううん、いやな想像はやめよう。
もちろん普通のモンスター相手に遅れを取ることはそうそうないとは思うけど、万が一がある。
『
「お願い。あのままだといつまでも終わらないから。……ごめんねジェイド、わたしがやることなのに」
『
わたしの肩から降りて、ジェイドはとことことクロムのほうに歩いていった。
またクロムとお話するしかないのかな。何回目だろう。いつもそっぽを向いて無視されちゃうんだけど。
よし、今度は《聲よ響け高らかに》を使ってみようか。そうしたら無視はできないはずだよね!
さて。そしてもうひとつの悩みというのが。
『
頭を抱えて丸まるルビーのこと。
彼女の自慢の赤い毛並みは、ところどころに白い毛が混ざってまだら模様になっていた。
『
「今回も失敗かあ」
カットやブラッシングをミスした、とかではなく。
これはルビーを対象に《始まりは遥か遠く》を使う練習で起きた事故だった。
豪華客船の事件で、藤原さんと戦うときにはすんなりとスキルが成功した。
だから次もきっと上手くいくものだと思っていたら、どっこい、ぜんぜんそんなことはなかった。
なぜか《始まり》を使うと、ルビーの毛が一部だけ脱色してしまうのです。そして強化は失敗する。
『
「でも、ルビーはまたあの姿になりたいんだよね? とってもきれいだからって」
『
七色の光に包まれて、火属性以外の魔法も使うルビーはたしかにきれいだった。わたしとしても、ルビーがさらにかわいく、パワーアップするのは大歓迎だ。
だからもう一度成功できるように、いろいろと試して練習している最中だったりする。
『不可解。比較、先日、現時点、相違点、皆無。サラ、無問題。故、ルビー、問題有。追加補足、我、個人的感想、熊猫柄、滑稽』
『
「ケンカはダメー!」
わたしは【ジュエル】に噛みつこうとするルビーをなだめて、どうにか落ち着いてもらう。
もう! 女の子にパンダ模様でおかしいとか言ったらいけないでしょ! ターコイズだって
「ターコイズの言う通り、あのときと今で違いはないと思うの。だから失敗するはずがないのに」
『……訂正。推測、相違点、有。提言、解決策』
「そうなの?」
ターコイズは【P-DX】の画面に解決策を表示する。
それは近々ギデオンで開催予定の、あるイベントのお知らせだった。
「“トーナメント”……?」
『肯定。要点、決闘、勝抜。其、優勝景品――<UBM>確定挑戦権』
――強い人が集まる、まさにうってつけの。
◇
“トーナメント”は十日間に渡って行われるイベントだ。
目玉の景品は<UBM>と戦える権利。
一日で一体、合計で十体の<UBM>が珠(黄河からのプレゼントらしい)に封印されていて、勝ち上がりトーナメントの優勝者から順番に挑戦できる。
出会うことも難しい<UBM>の特典武具を狙って、決闘ランカーをはじめとする強い人たちが出場する。
まるでドラ○ンボールとポ○モンだね。
開催にはいろいろな事情があるらしい。王国が皇国との戦争に備えて、強い<マスター>を集めるためとか。
まあ、細かいことは置いておこう。わたしはあんまり難しいことはわからない。
「つまり“トーナメント”で強い人と戦えば、ぜんぶ解決するってこと?」
『肯定。相違点、即、
ルビーにスキルが成功しないのは、気持ちをひとつにできていないからだとターコイズは言っている。
強い人と戦うことで従魔とわたしの心をひとつにできたらいい……という作戦だ。闘技場の結界があるから命の心配もいらない。
『推測、戦闘、激化。鉄鬼、鬱憤、解消』
「たしかに! これなら決闘ランカーの人たちとか強い人が出るから、クロムも満足してくれるかも!」
『唯一、懸念、従属キャパシティ』
あ、そうか。ルールは決闘とおんなじ。
テイムモンスターを使うときは、自分の戦力としてみなされる従属キャパシティ内に収める必要がある。
いつもみたいにパーティ枠を使ってみんな一緒にという戦い方はできない。
わたしだと、全身の装備で従属キャパシティを増やして純竜級モンスター二体がギリギリ入るかどうか。
「一度に戦えるのは二体までだね。わたしは戦えないから、みんなにがんばってもらうことになりそう」
『
ジェイドが戻ってきて画面を覗き込む。
結界叩きをやめたクロムはわたしから離れた場所にいる。でも、やっぱり戦いに関することは気になるみたいでそわそわと落ち着かない様子。
「“トーナメント”で修行? しようかなって」
『
ジェイドはそんなに乗り気ではないみたい?
強くなったイケイケ感がひと段落して、今はどんどん戦おうという気分じゃないのかな。
『
落ち着いた雰囲気と静かな自信。
一皮むけたジェイドは、出番になったら、わたしの従魔として勝利をもぎとることを約束してくれた。
それがとても頼もしく思える。
それじゃあ、“トーナメント”のルールを確認しよう。
『その一、参加資格者は王国に所属する<マスター>のみとする』
これは問題ないね。わたしは王国所属のままだ。
『その二、参加者は“トーナメント”後の三年間は他国に移籍不能』
これもだいじょうぶ。今のところ移籍する予定はない。
『その三、参加者は王国内で懲役一年以上に類する犯罪行為を行った場合、全てのセーブポイントが使用不能となる』
つまり悪いことをしない人には関係なし!
『その四、参加者は順位に応じて<UBM>への挑戦権を得る。また、『三年以内に王国が関与した<戦争>への参加意向』の【契約書】にサインした場合、副賞として希少武具の選択獲得権も得る。選択順は“トーナメント”の順位に応じる』
これは……どうしようか。
戦争に参加するなら強い武具をあげるよってこと。
正直、わたしは武器や防具をもらっても使わないし、装備可能レベルに届かないと思う。
だったら戦争参加の約束はしないかな。
この“トーナメント”に出るだけでいいもんね。
「ルール確認よし! それじゃあ次だよ!」
『了承。情報、表示』
“トーナメント”の景品、<UBM>について。
優勝できるかはわからないけど、もし勝てたら特典武具をゲットするチャンスだ。
参加できるのは一日だけ。じっくり考えて、よさそうな相手を選ぶのはアリだね。
というわけでドン!
◇
・一日目
名称:伝説級【鬼面仏心 ササゲ】(推定:鬼)
能力特性:与ダメージ比例範囲回復(推定)
・二日目
名称:伝説級【破砦顎竜 ノーマーシー】(推定:ドラゴン)
能力特性:物体強度完全無視攻撃(推定)
・三日目
名称:不明(推定:アンデッド)
能力特性:ポルターガイスト、呪怨系状態異常
・四日目
名称:古代伝説級【魂刃騎 グラッドソウル】(推定:エレメンタル)
能力特性:怨念吸収&身体強化
・五日目
名称:逸話級【窮鼠回天 バルーベリー】(推定:魔獣)
能力特性:致死攻撃無効化&無効化からの一定時間身体強化(推定)
・六日目
名称:不明(推定:ドラゴン(龍))
能力特性:竜巻・雷光・爆炎の発生(珠の段階では制御不可)
・七日目
名称:不明(推定できず)
能力特性:短距離ワープ(推定)
・八日目
名称:逸話級【双生孤児 アルマ・カルマ】(推定:エレメンタル)
能力特性:分身形成(召喚?)
・九日目
名称:伝説級【探鉱百足 ゴールドラッシュ】(推定:魔蟲)
能力特性:鉱脈探査、地中走査
・十日目
名称:神話級【夜天大将 オオイミマル】
能力特性:不明(空間変質?)
◇
「どれも強そう!?」
思ったより本気のラインナップだった。
十日目の神話級とか、穏やかじゃない!
『提言。有用、五日目、七日目、八日目』
「そうだね。わたしは従魔師だから、戦う能力よりは生き延びる方向性の能力が合ってるかも」
とくに五日目の【バルーベリー】は二個目の【ブローチ】ってことだもんね。
あとは分身とワープ。どっちもわたし狙いの攻撃から身を守ることができそうだ。
「逆に、一日目とか二日目の能力は使いこなせないかな。回復がダメージ量で増えるんじゃなかったらなあ……便利そうなのに」
わたしが攻撃して出せるダメージは豆鉄砲レベルだ。
もし特典武具がテイムモンスターに合わせて出てくるなら、使い道があるかもしれないけど。
『忠告。相性、重要。討伐可能、或、不可能』
「むう」
たしかに自分が倒せるかは大事だね。
たとえば神話級とかは簡単にやられちゃうだろう。
MVPにならないと特典武具はゲットできない。
『補足。推測、参加者、偏向。有用性、集中』
「みんな、便利な能力の<UBM>を倒したいよね」
考えることはみんなおんなじだ。
わたしがほしいものは、他の人だってほしがる。
もちろん今回の目的は一番が修行だ。
だから、特典武具を狙わずに強い人が集まりそうな日に参加するのもひとつの考えかたになる。
「でもせっかくなら……うーん」
やっぱり特典武具を捨てるのはもったいない気がする!
「みんなはどれがいいとかある?」
わたしは従魔全員に質問する。
べ、別に決められないとかじゃないよ? みんなで戦うから意見を参考にしようと思っただけだもん。
まじまじとリストを見て、みんなは思い思いに答える。
『
ジェイドは六日目のドラゴンだ。
遠距離攻撃の手段が手に入るのはいいね。
『
「ルビーは九日目? なんで?」
『
おしゃれさんなルビーはジュエリー目的で鉱脈探査の能力がご希望だ。藤原さんならできそうだな、と思ったのは内緒にしておく。
『
「じゃあ、どれと戦いたい?」
『……』
クロムは黙って十日目を指差した。
神話級だね。それを倒す自信がある、強い人が集まる日でもある。
「ターコイズは?」
『推奨』
おすすめとして表示されたのは、ちょっぴり意外というか、わたしとしては予想外な選択肢だった。
「どうしてこの日にしたの?」
『推測。優勝、可能性、大。逆接、<UBM>、相性、微妙。唯……』
「ただ?」
『……解答。我、推測、非論理的、非知的。類語、啓示。結論、宣言、直感』
それはいつも冷静なターコイズにしてはめずらしい、『なんだかそんな気がする』という勘頼りの答えだ。
この時点でかなり気になるものがある。
「よし! この四つからどれにするか決めよう!」
わたしたちは相談に相談を重ねて……それでも決まらなかったので、最後はくじ引きで挑戦する日を決めた。
意味がないってツッコミは受けつけないよ!
よーく考えた上で、運に任せただけだからね!
それから、わたしは本番までに少しでも強くなろうといろいろ手を尽くして。
ついに、当日がやってきたのだった。
To be continued
余談というか今回の蛇足。
(U・ω・U)<この章は、二章からリアルでおよそ十日くらい経った頃のお話
(U・ω・U)<ひそかに成長してます
“トーナメント”
(U・ω・U)<サラを参加させるかは迷った
(Є・◇・)<勝つと原作改変しちゃうからな
(U・ω・U)<でも考えたらちょうどいいので
(U・ω・U)<バトルしようぜ!