長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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“トーナメント”・■日目

 □決闘都市ギデオン 【高位従魔師】サラ

 

 ついにこの日がやってきた!

 わたしが参加する“トーナメント”の日が!

 今日までがんばったからね、それはもうテンションが上がろうというものだよ!

 

 もう一度、細かい部分をおさらいしておこう。

 一回の“トーナメント”の参加者は最大で二五六人。

 これを一日でやるのは大変だ。そこで、四回戦までは結界内の時間加速を使ってどんどん試合を進める。

 つまりここまでは予選。ベスト16が決まる五回戦からが本選ということになる。

 

 今回の“トーナメント”は予選の四回戦までは組み合わせがわからないのが特徴だ。

 やっぱり先に誰と戦うかわかってたら、その人向けの対策ができちゃうものね。戦う前からバトルが始まっていると言うように情報は立派な手札になる。

 組み合わせ表が発表されるのはベスト16が決まった段階だ。ここでようやく、誰が誰を倒したのか、これから誰と当たるのかがはっきりする。

 ちなみに、“トーナメント”では誰が勝つかのギャンブルが行われているとか。組み合わせを公開するのは、誰に賭けるのかを判断できるようにするためでもありそう。

 

 わたしは案内された控室で順番を待つ。

 おんなじ控室にいる人は、ベスト16になるまで絶対に当たらない組み合わせらしい。

 どの人も鋭い目で周りを観察している。

 

「みんな強そう……」

 

 ちょっと緊張してきた。

 わたしの順番はいつだろう?

 さっきから、かなり早い間隔で選手が呼ばれている。どんどんと人が入れ替わって、控室に戻ってくる人がいれば、そのまま帰ってこない人もいる。

 

 うう、こんなことなら手の内を隠すためにみんなを【ジュエル】に入れておくんじゃなかった!

 今すぐジェイドを抱きしめたい!

 

「おや? そこにいるのはサラじゃないか」

 

 聞き覚えのある声がして、振り返る。

 そこには、いかにも魔法使いという格好をした男の人がわたしに手を振っていた。

 

「アットさん!」

「先日振りだな。参加するとは聞いていたが、まさか出場日が同じとは思わなかったよ」

 

 アット・ウィキさんはクラン<Wiki編纂部・アルター王国支部>のオーナーで、【氷王】という魔法系超級職に就いているすごい人だ。とっても物知りなんだよ!

 

「いろいろと教えてくれてありがとうございました! おかげで準備ばっちりです!」

「お礼を言われるようなことじゃない。君に教えたのは攻略Wikiに載せた情報ばかりだ。俺がいなくとも、他のやり方で調べていただろう?」

「でも丁寧に説明してもらったので! すごいわかりやすかったですよ! 魔法の使いかた!」

「それは良かった。だが、大声で言っていいのか?」

「あ」

 

 やっちゃった。控室の視線がわたしに集まっている。

 いちおうライバルなんだから、手札は隠しておいたほうがいいに決まってるのに。

 

「冗談だ。君が<Wiki編纂部>に通って魔法の練習をしていたことは、この場のほとんどが知っているからな」

「うっ……たしかに全員お友達です」

「顔が広いというのも考えものだな」

 

 元からギデオンが拠点の人。そして“トーナメント”のためによそからやってきた人。

 控室の選手はさまざまだけど、だいたいは試合より前にギデオンにいた。

 わたしは街や狩場で人とお話することが多いからフレンドがたくさん増えたんだよね。

 

「じゃあ、わたしが従魔師ってことも」

「知っている。皆もそうじゃないのか?」

 

 アットさんの質問に、選手の人たちはみんな、微笑ましいものを見るようににっこり笑ってうなずいた。

 先輩の従魔師、魔法の練習に付き合ってくれた魔法使いさん、バイト先のお得意さんに、前クエストで一緒になった強化鎧を装備する拳士さん、全員がだ。

 

 わたしが手札を隠そうとしているのを、ぜんぶわかってて見てたってこと……?

 どうしよう。なんだか顔が熱くなってきちゃった。

 

「恥ずかしい……」

「気にすることはないさ。無論“トーナメント”で当たれば全力で戦うが、わざわざ触れ回るやつはいない。それに、【魔術師】はサブに回すと言っていたじゃないか」

「そうだった! もー! わたしのバカー!」

 

 やってられない気持ちになったので、わたしはジェイドを呼び出して抱きしめる。

 ふう、やっぱり落ち着くね。

 

Rrrr(いいの)?』

「いいの! 隠しても意味ないもん!」

 

 メインジョブも、ビルドも丸裸だ。

 こうなったら正々堂々といくもんね!

 

 わたしが“トーナメント”までにできた準備は、就いているジョブをレベル最大に上げて、プラスで下級職に就職するところまでだった。

 本当は二つ目の上級職に就けたらと考えていた。ただ【高位従魔師】を除いた従魔師系統の派生は特殊な条件が必要で、詩人系統は転職条件を満たしていない。

 新しい下級職から上級職まで取るにはさすがに時間が足りなかった。

 

 魔法を使いたいと思っていたから、【魔術師】は気になっていたんだよね。従魔師メインだとほとんど魔法は使えないからメリットはステータスくらいなんだけど。バベルのスキルをより長く使えるように、MPを増やしておくのはわたしにとって大事なことだ。

 

 そこで【魔術師】のレベル上げと魔法の練習を兼ねて、アットさんに魔法職のあれこれを教えてもらったの。

 おすすめの属性、戦闘での立ち位置、どうやって《詠唱》とかの拡張スキルを使いこなすか。

 あとは魔法職の内職だったり。こっちは“トーナメント”じゃ使えないとわかってボツになった。いいアイデアだと思ったのに……。

 

「装備も新調したようだな。キャパシティ増加のオーダーメイドか?」

「はい! <ルルリリのアトリエ>特製です!」

 

 決闘用として、リリアンさんが手がけた渾身の衣装【バトルドレス・クローバー丁式】シリーズ。

 汎用性は捨てて、最低限の防御力で、従属キャパシティ増加を盛り盛りにした装備だ。

 勝ち上がれば宣伝になるからと、特別価格で作ってくれたリリアンさんには感謝だね。

 若草色のシャツとハーフパンツは動きやすさ重視。インナーはピッタリとしていて露出した肌を守る。

 ここにいつもの帽子をかぶる。これもキャパシティを増やす装備スキルを付与してもらった。

 腰に【萌芽の横笛】とナイフを下げて、【血塗木乃伊の聖骸布】とアクセサリーを着けたら装備枠は埋まる。

 

「サラ選手。次の試合になります」

 

 あ、呼ばれた。

 お話をしていたらあっという間だったね。

 

「ありがとうございます、アットさん! なんだか緊張がほぐれました!」

「こちらこそ。お互い勝ち残れることを祈っている」

 

 わたしは椅子から立って、ぐーっと伸びをする。

 よーし! いくぞ!

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■中央大闘技場

 

 闘技場には多くの観客が詰め寄せていた。

 本来“トーナメント”が観戦できるのは本選から。

 予選は午前中を丸々費やすことが想定されるため、彼らはまだ客席に入れない。

 しかし闘技場の外には出店の類が並んでおり、本選までの暇つぶしをする者が少なからずいた。

 

「んー退屈。人がゴミのようだ」

 

 鼻歌混じりに周囲を物色する男。

 彼もまた、“トーナメント”に引き寄せられた一人。

 

「どうしようかな? 適当な日で、当日抽選の枠を狙うのはありだけど。その点今日は狙い目だ。いっちゃう? もう始まってるみたいだから無理かな。無理だね!」

 

 へらへらと。ふらふらと。

 確固たる芯に欠けた思考を二転三転とさせながら、男は人混みに紛れて放浪する。

 男自身もどこを目指しているか分からない。

 ただ気の向くまま、気が向かないと感じた瞬間に方向転換して彷徨い続ける。

 

「この屋台は美味しそう。おじちゃん、ひとつ」

「あいよ」

 

 店主が粉物を包装して渡すが、男は受け取りを拒んだ。

 

「やっぱりいいや。そんなにお腹空いてないし」

「何? ……はあ。じゃあお代は返すぞ」

「あ、でもちょうだい。せっかくだから」

「どっちなんだい兄ちゃん!? はっきりしてくれ!」

 

 鉄板に視線を固定しながら、並行して接客をこなしていた店主だったが……態度をころころと変える男に辟易して顔を上げる。冷やかしの不届き者ならば怒鳴り散らかしてくれようと口を開いて。

 

「あれ……? 兄ちゃんじゃなくて、姉ちゃん(・・・・)だった……のか? いやでも確かに男の声……」

 

 手を突き出す女を前に目を瞬かせる。

 彼女は男性物の装備を身につけたまま、店主の手を軽く握って上目遣いをする。

 

「怒らないでよ。僕の可愛さに免じて許して。ね?」

「し、仕方ないな。今回だけだぞ!」

「いえーい。やったね!」

 

 言質を取った瞬間に手を離した女。

 店主は代金を仕舞うために一瞬、彼女から目を離して。

 

「よく考えたらコレ嫌いだった。いーらない」

 

 同じ装備を着た男に商品を突き返される。

 

「……!? ……!?!?」

「あはははは! 変な顔ー!」

 

 困惑する店主の様子がツボに入ったのか、男はけらけらと腹を抱えて笑い出す。

 ひとしきり笑って涙を拭ったあと。

 

「……はーあ。退屈だ。いっそ大きな騒ぎでも起こしてやろうか。<超級(・・)の二(・・)三人(・・)でもPKしちゃう?」

 

 戦争を目前にした王国の最大戦力。

 ギデオンに控える超越者を倒して世間に衝撃を与えてみせようか、という大言壮語を吐いた。

 自分なら可能と信じて疑わない口調でだ。

 男は出店の前で思案して、

 

「失礼。買わないのなら、私がいただいてもよろしいですか」

 

 後ろに並ぶ客に声をかけられた。

 眼鏡をかけた女性には見覚えがあると、男は記憶の片隅から名前を探り当てる。

 

「あれ? もしかして<凶城>のバルバロイ? “トーナメント”の二日目で優勝してた? 有名人じゃん! 何で今日もいるの? そうだ、サインくださーい。ペン、ペンはどこかー」

 

 男はポケットをまさぐり、

 

「――《天よ重石となれ(ヘブンズ・ウェイト)》」

 

 重力結界に囚われて膝をつく。

 

「な……んで?」

「……この姿の私と、その名前を結びつける人はそう多くはいません。今の私は<デス・ピリオド>に所属しています。そして今日はクランメンバーが出場するので観戦するつもりでした」

 

 バルバロイ……ビースリーは鋭い眼光で地に伏せる男を睨めつけた。

 

「それにしても、この時分に物騒な発言ですね。先程から見ていましたが何やら不審な動きをしている。最近の王国の情勢にも疎い。皇国の回し者にしては目立ちすぎていますが、疑われても仕方ないのでは。……さて、そちらの質問には答えました。お名前を伺っても?」

 

 この時点でビースリーは男の正体を掴みかねていた。

 人目を憚らない言動。余所者であることを隠しもしない振る舞い。スパイだとしたら落第点だ。

 スパイは作戦を遂行する時まで群衆に紛れて存在を気づかれないようにするもの。男のように目立つ真似は控えるべきであるからして。

 

(皇国の実力者に、該当する人物はいない。しかし手練れであることは見て取れます)

 

 先の<超級>を倒すという台詞。

 加えてビースリーが重力結界を展開する瞬間、男は無意識に身構えていた。戦闘、それも対人戦を繰り返して身についた反射的な動作である。

 『性別の切り替え』という、<エンブリオ>抜きでは考えられない現象を含めて得体の知れない相手だ。

 どう見ても不審者なので先制して拘束したが、敵対勢力か否かすら定かではない……しかし。

 

「酷いなー。いきなりこんなことしないでよ」

 

 重力に苛まれながらも男は平然としていた。

 高いステータスでものともしていないのか。

 ビースリーのように重力軽減の能力があるのか。

 どちらにせよ、男の脅威度を一段階引き上げる光景だ。

 

「ふーん、ひっくり返すとこんな感じか。ありがとう。もう十分だから解除していいよ?」

 

 男はビースリーに感謝して立ち上がる。

 五百倍の重力を感じていない、否、男の肉体はわずかな動作でふわりと浮き上がる。

 まるで……重力が五百分の一になったかのように。

 ビースリーは既視感を覚える。それは彼女の後輩が用いる状態異常反転のスキルと酷似していたから。

 

(いえ、レイ君の《逆転》でもここまでは……!?)

 

 刹那、彼女の脳裏に呼び起こされるのは三ヶ月前の王都封鎖テロ。犯人グループの一つ、Barbaroi(バルバロイ)Bad(バッド)Burn(バーン)とPKクラン<凶城>は、たった一人の<超級>によって壊滅させられた。その苦い敗北の経験と同じ現象が目の前で起きている。

 

「あのー? 頼むよー。お願いだから解除して?」

 

 ビースリーの重力結界と拘束を抜け出す力。

 特化型ではなく、片手間に無効化する。

 それが意味するところとは、即ち。

 

「ねえ! 聞いてるバルバロイ? 早く解除してくれないと……僕、飛んでいっちゃうんだけどなー!?」

「……はい?」

 

 必死な訴えにビースリーは思考を中断する。

 気がつけば、男はふわりと空中に浮き上がって空に飛ばされかけていた。まるで風船のように。

 出店の屋根を掴み、どうにか風に対抗している。

 

「重力を軽減した結果、風に巻き上げられた……と」

 

 重力結界の範囲内にいるため、男は反転スキル(仮)を解除せずにいる。

 

「あははは! 最悪だ! ちょっと楽しくなってきた! これはいい暇つぶしになるね!」

 

(……さては馬鹿ですか?)

 

 ビースリーは内心で男の脅威度を一段階引き下げた。

 

「お名前と目的を教えていただければ、こちらで無害と判断してから解放しますよ」

「はいはいはーい! 僕はカフカ! “トーナメント”があるからやって来た観光客です! 他人に危害を加えるつもりは一切ありませーん!」

「……先程の発言は?」

「嘘だよ嘘、冗談。だって僕は嘘吐きだからね……いや、このロールプレイはもうやめたんだっけ……あれ? 嘘吐きが嘘吐きだって自己申告した場合ってどうなるの? それも嘘?」

「なるほど。ただの馬鹿ですね」

 

 一連の発言が《真偽判定》に反応しなかったので、ビースリーはカフカを解放する。

 突如、解放されたカフカは通常通りの重力をその身に受けて地面に引き寄せられた。

 

「痛ーっ!?」

 

 落下したカフカは盛大に尻餅をついたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □【高位従魔師】サラ

 

 スタッフさんの案内で黒い結界に包まれた舞台に入る。

 外側は黒塗りだけど、内側から見ると結界は透明で、中には光が差し込んでいた。この辺はレンタルの闘技場とおんなじシステムだね。

 

「対戦相手はまだみたい」

 

 わたしは先に呼ばれたようだ。わざと案内するタイミングをズラしているのかもしれない。

 よし、今のうちに準備をしておこう。

 

「ジョブよし。装備よし。アイテムは使えないからしまって」

 

 しっかり確認したから、これでだいじょうぶ。

 

「《喚起(コール)》、ルビー! クロム!」

 

 わたしは二体を呼び出しておく。

 今回の目的は修行だから、まず一回戦はこの子たちにがんばってもらうと決めた。

 あとは体調と対戦相手を見て、試合ごとにメンバーを入れ替えるか考える予定だ。

 

「がんばろうね!」

Kyuuuu(まかせなさい)!』

『……Aaaa(フン)

 

 少ない言葉で、やる気は十分に伝わってくる。

 誰が相手でも負けないもんね!

 

 気合いを入れたところで、結界の向こうにある通路から対戦相手が歩いてくる姿が見えた。

 

「あれ……え? あの人って」

 

 たまたまというか、やっぱりというか。

 わたしはその人を知っていた。

 何度かお話して、一緒に戦ったことがある。

 

 だから、彼がとても強いことを知っている。

 だってあのフランクリンの事件で大活躍したルーキーの一人なんだから。

 

 彼は結界をくぐって舞台に上がる。

 思わず見惚れてしまうイケメン美少年は、隣に悪魔のガーディアンを連れていた。

 

「おや、初戦はアナタですか」

「ひさしぶりだねー」

 

 わたしに気づいて、彼はにこりと微笑んだ。

 悪魔の女の子はひらひらと手を振っている。

 彼はわたしの従魔を見て、【ジュエル】から六本角の地竜を呼び出すと、戦いの準備を整えた。

 

『決闘開始まであと十秒』

 

 “トーナメント”・三日目。

 

 一回戦。

 

「改めて挨拶をしておきますね。僕は王国クランランキング第二位<デス・ピリオド>のサブオーナー」

 

 わたしの対戦相手は――

 

「――ルーク・ホームズです。よろしくお願いします」

 

 To be continued




(U・ω・U)<次回「サラ死す」

(U・ω・U)<デュエルスタンバイ!
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