長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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“トーナメント”・三日目 第一試合

 □決闘都市ギデオン 【高位従魔師】サラ

 

 【亡八】ルーク・ホームズさん。

 そして<エンブリオ>の【堕落天魔 バビロン】。

 

 わたしが知っている二人の得意技は【魅了】。

 精神系状態異常のひとつで、相手をメロメロにして敵味方の判断をひっくり返してしまう恐ろしいデバフだ。

 これは従魔師の天敵になる。従魔を連れていると、自分が襲われてあっさりやられちゃうから。

 

『五、四、三、二、一、――ゼロ』

 

 カウントダウンは試合開始の合図だ。

 よし! まずは、

 

「――『先に攻撃して【魅了】を使わせない』。ええ、正解です。それができるならですが」

 

 ――わたしの考えがドンピシャで言い当てられた。

 

 ルークさんとバビロンはこっちに手を伸ばす。

 まずい。もうスキルを準備してる?

 今から攻撃しても間に合うかわからない。

 ……なら、これでどうだ!

 

「《雄性の誘惑(メール・テンプテーション)》」

「《小淫魔の誘惑(リリム・テンプテーション)》」

 

「《言詞の壁を越えて(ギャザー・イン・ザ・ランド)》!」

 

 少し遅れてわたしもスキルを発動する。

 女の子と男の子の両方を惑わす二種類の魅了。

 ルビーとクロムはレジストできずにやられちゃう。

 距離があるぶん、わたしは時間差がある。

 その一瞬でなんとか間に合わせる!

 

 ルビーとクロムがわたしに襲いかかる。

 わたしは自分の意思で身体が動かせなくなった。

 そのまま攻撃し合う……直前に、動きが止まる。

 

「なるほど」

 

 ルークさんが納得したようにうなずいた。

 その手は自分の首を締めようとしていて、だけどギリギリのところで止まっている。

 ルークさんは魅了されていた(・・・・・・・)

 

 バビロンと従魔の【ヘキサホーン・グランド・ドラゴン】ことマリリン、そしてルークさんのコートに擬態している【オリハルコン・アーモリー・スライム】 のリズも、まとめて【魅了】にかかっている。

 

 わたしたちも含めて、みんな自分を攻撃しようとして動きが止まっている状態だ。

 精神保護で<マスター>は意識が残っているけど、おたがいの従魔はそうはいかない。

 かなり混乱している気持ちが伝わってくる。

 

「意識の共有ですか」

 

 ルークさんの言う通り。ここにいるみんなの意識を、わたしはバベルで共有した。

 【魅了】は対象の価値観を一時的にすり替える。今のルビーやクロムは、わたしが敵に見えているんだろう。

 

 じゃあ【魅了】されたテイムモンスターと意識を共有したらどうなるのか……という話だ。

 混乱している状態の意識が、健康な意識と合わさってごちゃ混ぜになる。健康なほうが意識を強く保てば、混乱した意識を落ち着かせることができるだろう。

 

「今回は逆。精神に働きかけて状態異常を解除するのではなく、全体に拡散させたということですね」

「えへへー! 大成功! ぶい!」

 

 実は、上手くできるかはわりと賭けだった。

 今回はじめて使うからしょうがないよね。

 

 まず精神系の状態異常が共有できるのか。

 成功する確率は半分半分だと思っていた。

 バベルの意識共有は<マスター>だと精神保護があるけど、モンスターやティアンが対象だと制限がない。

 怖い気持ち。素敵だと思う気持ち。ぜんぶがみんなに伝わるようになっている。

 あとは<エンブリオ>のスキルがどこまで融通を効かせてくれるかにかかっていた。

 前に【催眠】で苦戦したから、その対策として考えていたスキルの使い道だ。

 

 あとは【魅了】の仕組みが不安だったかな。

 共有でルークさんたちが魅了されたとき、わたしでもどんなふうになるのかわからなかった。

 

「それについては、サラさんが魅了をかけた判定になるようです。僕は自分を傷つけようとしましたから」

 

 ルークさんはこんな時でも考えることを止めない。

 ものすごい勢いの思考が流れてくるものだから、わたしは頭がパンクしかけている。

 

「こうなった原因は意識の混線でしょう」

「えーっと?」

「【魅了】は敵味方の判断を狂わせる。サラさんと従魔の認識と、僕とバビたちの認識。共有した双方の認識が中和された。結果、身動きが取れない状況に陥った」

 

 敵をかばって味方を攻撃する。この仕組みがごちゃ混ぜになったということだろうか。

 わたしはルビーやクロムを狙う。そしてルークさんたちを仲間と思い協力する。

 逆にルークさんはバビロンやマリリンを狙う。わたしたちを仲間と思って協力する。

 この敵味方の認識とターゲット選択を共有したから、誰を攻撃すればいいか判断できなくなった?

 

「僕も初めて知りました。【魅了】の重複なんて、そうそう起こるものではないので」

 

 そりゃあ【魅了】を使う相手はめずらしいもんね。

 レアモンスターか、ルークさんとバビロンのような魅了スキルを持っていないと。

 

「いったん仕切り直しましょう!」

「そうですね。では同時に解除を」

 

 わたしの提案にルークさんは答えた。

 この状況はどちらもできることがない。

 MP切れまで待って、味方同士で戦うのはイヤだ。わたしはルビーとクロムと一緒に戦いたい。

 ルークさんも、魅了が解けないまま動けるようになっての一か八かよりはいいと考えているはずだ。

 今のわたしたちは以心伝心。わたしが“トーナメント”に参加した理由はルークさんに伝わっている。

 ……いや、いつもだっけ。ルークさんは心を読んでるのかと思うくらい察しがいい。

 

「流石に心は読めません。簡単な推理ですよ」

「ほらやっぱり読んでるー!」

「今は思考が伝わっているでしょう?」

 

 どうだろう。ちょうど魅了とスキルを解除したタイミングじゃなかった?

 今回の魅了返しは成功したけど、わたしの作戦はぜんぶお見通しなんだろうな。

 でも、ルークさんの得意技は封じた。

 ちゃんと勝負になっている。この調子でいくよ!

 

Aaaaaaaa(ぶっ飛ばす)!』

VAMOOO(主を狙うとは愚劣の極み)!』

 

 怒ったクロムが真っ先に飛び出す。魅了されたことにイライラしてるようだ。

 ルークさんを狙うけど、割って入ったマリリンが地竜の頑丈さでパンチを受け止める。

 どちらもパワーとタフネスが長所の子だから、純粋な力のぶつかり合いになる。

 

「次は従魔対決ですね。お付き合いします」

「よろしくお願いします!」

 

 クロムが相手の前衛を抑えている状況だ。

 本人はただ暴れているだけだろうけど、それならわたしたちが合わせてあげたらいい。

 クロムならだいじょうぶ。そう簡単にはやられない。

 この隙を逃がさず、一気にたたみかける!

 

「ルビー!」

Kyuu(いけるわ)!』

 

 やる気は十分。この子と気持ちをひとつに。

 

「《始まりは遥か遠く(ビヨンド・ザ・スカイ)》!」

 

 ルビーの全身から七色の光が放たれる。

 感覚は重なり合ったけど、毛並みは赤と白のまだら模様だ。微妙に失敗した感じ。

 それでも強化はされている。共有した感覚は魔法の精度をさらに高めているんだから!

 

「お願い!」

Kyukyu(まかせて)!』

 

 ルビーはお得意の《リトルフレア》を唱える。

 ルークさんのコートはスライムのリズが変形したもの。物理攻撃だとダメージが通らないから、魔法で倒す。

 火の球を浮かべて、さあ飛ばそうという段階で……ルークさんは指を鳴らした。

 

 その動作だけで、火の球が消えてなくなる。

 

「あっ……魔法キャンセルの特典武具」

 

 しまった、魅了が特徴的すぎて忘れていた。

 たしか名前は【断詠手套 ヴァルトブール】。

 発動前の魔法を打ち消してしまう手袋だ。

 

Kyuuu(なによこれ)!?』

 

 ルビーは何度も魔法を発動しようとするけど、その度に指パッチンでキャンセルされてしまう。

 発動を隠してみてもダメ。ちょっとした動きで、ルークさんは予兆に気づいて魔法を封じる。

 これがある限りルークさんに魔法は通用しない。

 攻撃手段が魔法のルビーとは相性が最悪。

 

「すみません。従魔対決とは言いましたが、僕が手を出さないとは言っていません。それにこちらとしても負けるつもりはありませんので」

 

 ルークさんは本気で勝ちにきている。

 笑顔なのに目が笑っていないし、言葉に冷たい気迫が込められているのがわかった。

 気圧されたわたしは思わず息を呑む。

 

Kyuuuuuu(こうなったら)!』

 

 ルビーは特大の火の球を作り出す。

 たくさんMPを込めたら簡単にはキャンセルされないと考えたのだろうか。

 わたしがなにか言うより早く、魔法を準備して。

 

 ルークさんは指を鳴らすのではなく、広げた手のひらを握りしめて。

 

 ――ルビーの体が内側から吹き飛んだ。

 

「…………ッ!?」

 

 ルビーと感覚を共有していたわたしも、おんなじだけの衝撃を受けてしまった。

 言葉が出ない。フィードバックのダメージがひどくて、上手く頭が回らない。

 

 本当にふらふらだったから、背中に攻撃を受けたと気づくのも遅れてしまう。

 最初に体が痺れて動かせなくなった。バタリと倒れたわたしは簡易ステータスを見る。そこには【麻痺】と、ほかにもいくつかの状態異常が表示されていた。

 

「ごめんねー」

 

 透明化を解除したバビロンが後ろに飛んでいた。

 姿を消してこっそり近づいてから、わたしに状態異常をかけたのだろう。

 

 そのままバビロンはクロムに魅了をかける。

 マリリンとの戦いに夢中だったクロムは、あっさりとメロメロになってしまった。

 これでわたしたちはみんな戦闘不能だ。

 

王手(チェックメイト)です」

 

 ルークさんは勝利を宣言する。

 

「従魔の強さを比較するなら、僕とアナタにほとんど差はない。もしかしたらアナタが上かもしれません」

 

 動けないわたし、やられちゃったルビー、そして魅了されたクロムを順番に見てから、今の戦いを評価する。

 いつでも倒せるのにルークさんがしゃべる理由は……つまり、そういうことだろう。

 

「ですが、今のままでは野生の獣と変わらない」

 

 ちょっとした指導。

 わたしが抱える問題についてヒントをくれる。

 

「お互いが何を考えているのか。もう一度話し合うことをおすすめします。アナタの得意分野でしょうから」

 

 わたしは声が出せないから目でありがとうを伝える。

 ルークさんは微笑んだ。感謝は届いたみたい。

 

「やっちゃえー♪」

『Gaaaaaaaaaaaaaa!』

 

 バビロンの命令で魅了されたクロムが動いた。

 倒れたわたしを見下ろして、拳を振り上げる。

 あっという間に、わたしのHPはゼロになった。

 

 

 ◇

 

 

 “トーナメント”・三日目。

 

 わたしの成績は、一回戦負けだった。

 

 To be continued




余談というか今回の蛇足。

(U・ω・U)<VS原作キャラ

(U・ω・U)<対戦表が悪かった

(U・ω・U)<お互いに手札を一つ封じたけど

(U・ω・U)<強者ほど手札の枚数が多い

(Є・◇・)<物理無効・魔法封印に各種状態異常とかどうしろと

(U・ω・U)<善戦した方だと思います


《言詞の壁を越えて》
(U・ω・U)<意識(思考)の共有に加えて

(U・ω・U)<精神系状態異常に干渉できるように

(U・ω・U)<呼びかけて意識を覚醒させる

(U・ω・U)<拡散は仕様の穴を突いた裏技


【魅了】
(U・ω・U)<100%捏造設定

(U・ω・U)<こうしないと開幕即死だった


《始まりは遥か遠く》
(U・ω・U)<実はダメージを一部反映する

(U・ω・U)<感覚共有に伴うデメリット

(U・ω・U)<片方が致命傷を負うと、もう片方の肉体にまで影響を及ぼす


【断詠手套】
(U・ω・U)<原作既読の方はご存知

(U・ω・U)<めちゃ強な魔術師殺し

(U・ω・U)<ルビーが受けた技は『魔法に込めたMP分の固定ダメージを与える』スキルです
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