長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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理解

 □■“トーナメント”数日前

 

 貸し工房という施設がある。

 生産で必要になる基本的な設備一式が揃った建物の総称で、主に自分の作業場を持たない生産職が利用する。

 店舗を構える先達に師事していない駆け出しのティアンや、片手間に生産を体験したい<マスター>……そして職業ギルドの作業場が満員時には本職の生産者等、一定の需要により時間貸しの商売が成立している。

 

 ギデオンにある貸し工房のひとつで、サラと<Wiki編纂部>の面々が集まっていた。

 

「できたー!」

 

 サラが掲げたのは火属性の初級魔法《ファイアーボール》が込められた【ジェム】だ。

 サラのお手製であり、数回の失敗を経て完成した初めての成功作だ。

 

 賞賛の拍手を送るメンバーは全員が魔法職で、【氷王】アットの姿もある。

 

「おめでとう。要領を掴んでしまえばやり方は同じだ。簡単だろう?」

「ありがとうございます! 【レシピ】も覚えたから、たくさん作れます!」

 

 サラが“トーナメント”に備えて取得した下級職は二つ。

 一つは【魔術師】。MPと魔法への興味から選択した。

 そしてもう一つは【魔石職人】だった。

 魔法を鉱石に込めたマジックアイテム【ジェム】を生産することができるジョブである。

 

「ジェイドたちと一緒に戦う手段がほしかったんです!」

「なるほど。買うと高いからな」

 

 基本的に【ジェム】はどのジョブでもMPを消費せずに魔法を使用できるアイテムであり、そして使い捨てだ。

 上級職の奥義は単価で数十万リルに及ぶ。

 下級職の魔法なら店売りでも安価だが、やはり自作する方が材料費を含めても安上がりである。

 

「“トーナメント”までに百個は用意しなきゃ!」

「何?」

 

 気合を入れるサラに、アットは気まずい顔をする。

 

「水を差すようだが……下級職の魔法は決闘では対して役に立たないぞ」

「はい! だからお店のと合わせて使おうかなって!」

「王国の決闘だと他人が作成した【ジェム】は使えない。恐らく“トーナメント”も同様の方式だろう」

「えー!?」

 

 サラは初耳の情報に悲鳴をあげる。

 少しでも決闘を聞き齧った者には常識であるため、これまで誰もサラの勘違いに気づかなかったのだ。

 

「しかし、そうか……てっきり狩り用だとばかり思っていたが。そういうことなら話は変わってくるな」

 

 戦闘の有効打になるのは最低でも上級職の魔法。市場の【ジェム】は品揃えが豊富だが他人の手によるものだ。

 魔法系の上級職なら自力で量産ができたかもしれない。決闘でわざわざ【ジェム】を使う利点は薄いが。

 もし生産を極めるなら魔石職人系統の上級職と、魔術師系統の汎用上級職【賢者】に就くのがセオリー。

 サラはどちらでもない。上級職の空き枠は【高位従魔師】を除いて一つだけ。下級職のレベルで戦術に組み込むには少々火力不足が否めない。

 

 そもサラが想定する戦い方はかつて【ジェム】生成貯蔵連打理論と呼ばれたビルドに近い。

 ノータイムで魔法を発動できる【ジェム】を投げ続けるというものだが、亜音速を超えるAGI型の台頭で『投げ続ける前に殺される』ため産廃と化したスタイルだ。

 

 レベルを上げてしまってから言うのも酷だが、ジョブを取り直すべきではないか。そう言外に告げるアット。

 

 しかし、サラは首を横に振る。

 

「今はこれでだいじょうぶです! 決闘で使えなくても、こうやってアイテムを作るの楽しいですし……一番の目的はわたしが戦うためじゃないですから」

「目的?」

 

 サラは作業用の手袋の上から右手を撫でる。

 

「わたしの従魔に魔法を使う子がいるんです。ルビーっていうんですけど、パワーアップするといろんな属性の魔法が使えて。でもそれにはルビーと気持ちをひとつにするのが大事なんです」

 

 失敗作を含めた【ジェム】を指ではさむと、サラは格好つけたポーズを取ってはにかむ。

 

「こうやっていろんな魔法を使ったら、ちょっとはルビーの気持ちがわかるかなって!」

 

 それを聞いたアットは微笑み、口を閉じたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<ネクス平原> 【高位従魔師】サラ

 

 わたしはカフカさんと戦う準備をする。

 右目は刺されてしまってぜんぜん見えない。視界がせまいのと暗いのには注意しないと。

 わたしが刺されたのは別にいいの。

 自分から飛び込んだ結果だ。怒ってないよ。

 だけどね。

 

「わたしの従魔を殺さないで」

 

 それは、相手が知り合いでも許さない。

 

「ふうん。じゃあ、代わりに君が死んでくれる?」

 

 カフカさんは素っ裸で剣を構えた。

 ジェイドたちが攻撃をするところを見ていたけど……ぜんぜんダメージを受けていないみたい。

 鎧を脱いだのは着なくても問題ないから。

 きっと<エンブリオ>だよね。どういう仕組みかはわからない。ただ、強そうなのはわかる。

 だから今わたしが出せる全力で止めないと。

 

「えいっ」

 

 わたしは【ジェム】を投げる。

 ヒョロヒョロでゆっくり、誰でも避けられるだろう。

 カフカさんは鼻で笑った。避けようともしていない。だってカフカさんのところまで届いていないから。

 

「ジェイド、届けて!」

Rrrrr(いくよ)

 

 だけど、ジェイドの起こした風が【ジェム】を運ぶ。

 上手に投げられなくても、亜音速の風に乗せて、すごい速さでぶつけてあげるんだから。

 発動する魔法はバラバラだ。直撃するのは火属性とか威力が高いもの、足元に転がして使うのは土属性や氷属性の足止めができそうなもの。

 

「初級魔法ばかりだね? 一、二個強いの混じってるけどお金がなかったのかな」

 

 その通りだ。わたしも奥義クラスの魔法を買い占めるお金はなかったから、攻撃用はちょっとだけ。それ以外のほとんどは自作した【ジェム】だ。

 もちろんハッタリじゃないよ。

 

「お願いルビー!」

Kyuu(ええ)

 

 真っ白の毛並みに七色の光を放つカーバンクル。

 これが《始まりは遥か遠く》が成功したルビーの姿。

 火、水、氷、風、土、光、闇……七つの属性魔法を同時に唱えるルビーは、わたしが投げた【ジェム】とおんなじ軌道で狙いを定める。

 

 これは意識を重ね合わせる方法だ。

 ルビーの理想はかわいくてキラキラなこと。

 それを実感するには、わたしがルビーのかわいいを知って、魔法のイメージを理解する必要があった。

 

 かわいくてキラキラでゴージャス。

 色とりどりの魔法と宝石(【ジェム】)が舞う光景はぴったりといえるだろう。

 そして複数の魔法を同時に制御するには、感覚を共有するわたしがおんなじ属性の魔法を使って、狙いをサポートするのが一番だと思ったんだよね。

 

「これがパワーアップしたルビーの力だよ!」

Kyukyuuuuuuu(仲間を見捨てるのはかわいくないものね)!』

 

 クロムを守る。そのために戦う。

 今、わたしたちの心はひとつになった。

 だから強化は成功するに決まってる!

 

「魔法のガトリング砲かー。幼稚でくだらない。だから面白い! それでも効かないよ僕にはさ!」

 

 ルビーの魔法とジェイドの風に最初は押されていたカフカさんだけど、すぐに一歩を踏み出す。

 

「のけぞりで場外狙い? 土葬や氷漬けで封印? たしかに生存型はそういうの(・・・・・)弱いけど……生憎、このレベルの魔法じゃ動きは鈍らない」

 

 言葉の通り、カフカさんは足を止めない。

 魔法がぶつかっても平気な顔で近づいてくる。

 どうやらカフカさんは無敵みたい。

 スピードがゆっくりなのは遊んでいるのか、もともとAGIが低いジョブなのか。

 これでダメなら……どうやって止まってもらおう。今のわたしがカフカさんを倒すのはたぶん難しい。

 

 従魔を【ジュエル】に格納して逃げる?

 みんなを戻す時間があるだろうか。

 ギリギリまで足止めして、動けないクロムから順番にしまっていって……その前に攻撃されちゃいそう。

 

『……Aaa(おい)

 

 必死に考えていると、掠れた声が聞こえた。

 

Aaaaaaa(なんで俺を庇う)

 

 後ろで膝をついたクロムはわたしをにらんでいる。

 

Aaaaaa(弱いくせに)Aaaaaaaa(守ろうとする)

「仲間で、お友だちだからだよ」

Aaaaaa(俺はそう思ってねえ)

「知ってるよ。ジェイドの弟分でしょ。それでもあなたはわたしの従魔だから。死んでほしくない」

Aaaaaaaaa(そうじゃねえだろうが)!』

 

 クロムは震えながらもこめかみを指で叩く。

 思考を共有しろという合図。わたしは《始まり》と並行して《言詞の壁を越えて》を使う。

 

 とたんにクロムの気持ちが伝わってくる。

 呪いに侵された恐怖をスキルで取り除くと、真っ直ぐな思いがわたしの中にぶつけられる。

 

(いいかチビ。俺はお前より強い)

(こんなときにそんな顔でなに言ってるのもう!)

(うるせえ事実だ! ……だけど、お前も弱くはねえ)

 

 伝わるのは素直じゃない感謝。

 二回も助けられたと。そして、誰かのために命を投げ出す根性と覚悟は紛れもない強さだと。

 

(従魔だろ。仲間なんだろ? だったら、俺が守られてばっかなのはおかしいだろうが。お前は兄貴の主人なんだからよ、後ろでどっしりと構えてりゃいいんだ)

 

 立ち上がったクロムはもう一度岩で全身を包む。

 やる気いっぱいに拳同士をぶつけると、わたしたちを守るように前に出て首をゴキリと鳴らした。

 

『好キニ使エ、大将(アネゴ)

 

 慣れない人間語で一言。

 わたしの反応を待たずに飛び出して、クロムは近づいてくるカフカさんに接近戦をしかける。

 

Aaaaaaaaaaa(ぶちかましてやらあああ)!』

「何だ、君が出てくるなら話は早い!」

 

 さっきみたいに暴れているように見えて、クロムはわたしを守るように戦っている。

 ジェイドとルビーの攻撃に意識を向けながら、こっちに相手を寄せつけないように。

 

『提言、戦術』

「……! うん、わかった。それでいこう!」

 

 ターコイズの作戦を聞いたわたしは従魔全員と意識を共有する。考えたことがすぐ伝わるように。

 あんまり長い時間は続かないだろう。《始まり》と《言詞》を一緒に使うと頭がパンクしそう。

 でもでも、これで連携はバッチリになる!

 

 まずは一度クロムに下がってもらう。

 カフカさんはそれを追って、わたしのほうに突撃。

 

「いきなりどうしたのさ? 今さらビビったの? いっそ主従まとめて倒しちゃおうか!」

 

 カフカさんは剣を投げつける。

 すごい速さで飛んできたそれはジェイドの風で勢いを弱めて、ルビーの魔法で撃ち落とされる。

 地面に落ちたあと、なにもなかったみたいにふわりと浮かんで、また襲いかかってきた。

 

「防御しても無駄だって。《爆破(リベレイション)》」

 

 怨念の力で動く剣は自動的にわたしを狙う。

 呪われた武器を爆発させるスキルにわたしたちは巻き込まれてしまい。

 

『《Astro Guard》』

 

 防御力を上げたクロムが壁になって、わたしとジェイドたちを爆発から守ってくれた。

 わたしのHPは減っていない。完璧には守れないと知ったクロムが《ライフリンク》でダメージを肩代わりすると言ってくれたから。

 

 武器を離したカフカさんは隙だらけだ。

 ここからは反撃のターンだよ!

 

 カフカさんを足元から丸呑みする半透明の青。

 触ったものをドロドロに溶かしてしまうスライムだ。

 

「……っ」

 

 ターコイズに包まれて息ができないはずだけど、ぜんぜん平気そう。それでも動きが止まった。

 新しい武器を装備して脱出しようとしているけど、物理攻撃は無効だし武器も溶けちゃう。

 ただ、呪いがあるから油断はできない。

 

 わたしは火属性魔法の【ジェム】を投げて、ジェイドに風で飛ばしてもらう。

 液体酸素のターコイズに着火。そして大爆発。

 

「ゲホ、ゲホ……ちょっと! 気管にスライム入って気持ち悪いんだけど!?」

Gaaaaaaaaa(そりゃよかったなあ)!』

 

 炎の中を突っ切ったクロムのアッパーカットが、むせるカフカさんの顎に直撃した。

 宙に浮いたカフカさんを掴むと、クロムは最後の力を振り絞って、自分もろとも岩の外皮で閉じ込める。

 

「もう瀕死じゃん。無理するなって、死んじゃえよ。君を殺して岩から出ればいいだけなんだしさ!」

 

 呪いの武器が振り回されて岩が崩れる。

 上半身の自由を取り戻したカフカさんが見たものは、ぽっかりと空いた鬼一人分の空間。

 

「……いない?」

 

 全力で戦い、わたしをかばって大きなダメージを受けていたクロムはとっくに限界を迎えていた。

 だから設定したラインよりHPが下回った時点でわたしの【ジュエル】に戻っている。

 最後のパンチと岩の拘束はクロムの意地で、どうしてもやりたいという仕返しだ。

 

 カフカさんはまだ下半身が岩のなか。

 この隙に、岩をガチガチに固めて抜け出せないようにするのが魔法を使えるルビーのお仕事。

 もうちょっとした攻撃じゃ壊れないくらいに、土属性魔法で強度を上げている。

 

Kyukyukyu(覚悟しなさいよ)

 

 残った外皮を利用して完成するのはカプセルだ。

 動けないカフカさんに覆いかぶさるように、硬い岩のドームが自由な上半身ごと包み込む。

 もちろんカプセルは武器で攻撃しても傷つかないくらい。固めた岩を何層も重ねてパイ生地みたいにした。

 

 感覚共有中のルビーは魔法のスペシャリスト。

 火属性以外の魔法を、同時に使うことができる。

 いろんな属性を一気に展開するのはとてもきれいだけど、戦いかたはそれだけじゃない。

 

 一種類の魔法を同時に使って、ルビーは合体魔法を発動できる。本当なら何人もの魔法使いが力を合わせて魔法の効果を高める技術だ。強い相手にも通用するはず。

 名づけて《セブン・キャスト》。七重の魔法がカフカさんを封印した岩をオブジェの形に整える。

 

「だからさあ……効かないって言ってるだろ」

 

 反響する声はイライラが混じっている。

 武器を取り出して攻撃する音。そしてさっきのように呪いの武器を爆発させる音が聞こえてきた。

 自分はダメージを受けないから、せまい空間でもお構いなしに高火力のスキルをぶつけているんだろう。

 それでもカプセルを破壊するのは時間がかかるはずだ。今のうちに逃げることはできる。

 

 でも、これで終わりにしたらモヤモヤするから。

 

「カフカさん。仲直りしましょう!」

「……はあ?」

 

 おたがいに悪いところがあったなら。

 ちゃんと謝ってごめんなさいと言おう。

 せっかく知り合いなんだ。できるなら、なかよくするほうがいいに決まっている。

 

「僕、君ら殺そうとしてるんだけど」

「それはいやでした。だけどみんな無事で、生きてます! それに攻撃したのはおたがいさまだから……カフカさんはお話したらわかってくれると思うので!」

「残念無念。僕は“論理破綻”なんだよ」

だから(・・・)、こうやって話したら答えてくれます! 今日はあべこべなロールプレイの日なんですよね?」

「ふうん。屁理屈を」

 

 話が通じないように見えるけど、そんなことはない。

 時と場合で考えていることが変わるのは人間だったら当たり前だろう。カフカさんは、それがちょっと激しい感じの演技をして遊んでいるというだけ。

 わたしとおんなじように感情があって、根っこの部分は普通の人間だ。だったら友だちとまではいかなくても、わかりあうことはできるはずだから。

 

「偽善だね。夢物語だ。甘すぎる。面白いけど、だから僕は話さないよ。そもそも! 何を解決した風に話しかけてるのかな? 僕はまだ戦うつもりだよ!」

 

 心なしか岩から聞こえる攻撃音が大きくなって、わたしが話しかけても返事をしてくれなくなる。

 

 少し迷って、わたしは【萌芽の横笛】を吹いた。

 春の訪れを告げるメロディが響いて、戦いで疲れたみんなの傷が回復していく。

 

「耳がぁ!?」

 

 カフカさんには逆効果だった。

 はじめての有効な攻撃だ。

 ひょっとして、ダメージと回復をあべこべにしてる?

 

「やってくれるじゃないか……だけど、耳栓をすれば聞こえない。なんたって高級耳栓だからね!」

「《聲よ響け高らかに》!」

「ああああああああ!?」

 

 わざと不協和音を鳴らしてみる。

 ドタバタする音と悲鳴。

 岩の壁をドンドン叩いて助けを求めるカフカさん。

 

「ねえ何これ!? 耳塞いでも音が聞こえるんだけど! 怖い怖い気持ち悪い! あはは! くそ、これどうやって反転すればいいの!? 今すぐ止めて!」

「わたしが攻撃しないでって頼んだとき、カフカさんなんて言いましたっけ」

「……めちゃキレてる?」

 

 あたりまえだよ。

 今のでちょっと胸がスカッとしたけどね。

 

「ぜんぶ許そうとは言わないです。それができたらいいけど、わたしだって怒ってますから」

 

 わたしの話を聞かずにクロムを殺そうとした。

 謝られたからといって、すんなり許せるかというと……難しい。どうしてもいやな気持ちが少しは残ってしまう。

 従魔の命は一個しかない。そして許す許さないはわたし一人で決めることじゃない。

 

 でも、わたしたちにも悪いところはある。

 カフカさんの立場で考えたら、いきなり襲われた相手に反撃したってわけで。ここまでは正当防衛だ。

 

「カフカさんは暇つぶしで戦いを続けましたよね」

 

 理由なんてないとカフカさんは言った。

 襲われたことは怒ってないと。

 

「本当になんの理由もなくて、なにかをすることってないと思うんです。言葉にできないけどなんだかむしゃくしゃするとか、ちょうど疲れてたり、逆にうれしいことがあったり……なんとなくでも感じたことがあるから行動するのかなって」

 

 伝わってくる気持ちは不満だった。

 退屈でつまらなくて、自分がいやになっている。

 だから嘘をつく。正反対のことを言う。

 誰よりも嫌いな自分を否定するために。

 

「つまらないなら、楽しいことをしませんか?」

 

 今のままじゃあ楽しくないもん。

 わたしもカフカさんも。

 

「こうやって戦うより、仲直りしたほうが楽しいことに目を向けられると思います!」

「ふうん、君は子供だね。悪を知らない善は純粋だ」

 

 カプセルの内側からため息が聞こえた。

 続いてギャリギャリという音がすると、回転するドリルが岩を貫いて腕が通る大きさの穴が開く。

 

「僕には到底受け入れられないなあ。『みんなで仲良く』なんて神経をすり減らしそうだ。……だからいいよ。ぶっちゃけ飽きたし、仲直りしよう」

 

 ひょっこりと器用に手だけ出すカフカさん。

 仲直りのサインに握手をしたいっぽい。

 わたしはカフカさんの手を握る。

 

「――なんちゃって」

「ほへ!?」

 

 すると、強い力で岩のなかに引っ張られる。

 もちろん穴に通るのは腕だけだ。

 ただ、しっかりと掴まれているから引き抜けない!

 

「いけないなあ、甘すぎるよサラ。プリンアラモードに蜂蜜とチョコと練乳をかけたくらいに甘い。敵と向かい合う時は優しさを捨てるべきだ。悪党は最後まで害意たっぷりだからね。まるでチョコ菓子みたいにさあ!」

 

 嘘を反転したカフカさんが勝ち誇る。

 そして四角い箱が押しつけられる感触がした。

 

「《箱詰めの悪戯》っと。まあ安心しなよ。僕は変人だけど本物の悪党には程遠い。まるで理解ができない、だからこそ! 今日は君の言葉に従って楽しいこと(・・・・・)をしてみたよ! それじゃあ次の機会にね、アデュー!」

 

 パッと手を離したカフカさんの気配が消える。

 メニューからログアウトしたらしい。

 とことん予想ができない人だったね……。

 結局、謝罪も仲直りもしないでいっちゃった。

 でも戦いをやめて引いてくれたんだもの。ちょっとくらい気持ちが伝わっていたらいいな。

 

Rrrr(さ、サラ)……?』

 

 ジェイドがびっくりした顔でこっちを見る。

 なにかのスキルを受けたみたいだけど。どうして、わけがわからないって表情をしているの?

 体におかしいところはない。HPと状態異常も刺されたときのまま。出血でダメージを受けているくらい。

 新しい変化はない、はず。

 

Kyukyu(平気なの)?』

「なんのこと?」

 

 ルビーは魔法で鏡を作ってくれた。

 そっとわたしから目を逸らしながら。

 

 いやな予感を覚えつつ、わたしは鏡を覗いた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「はあー疲れた。何が楽しくて戦ったのか、自分でもよく分からないや。あの時間なんだったのさ」

 

「そもそもギデオンに来た意味。“トーナメント”出ないなら無駄足だったよね? 本当に僕ってやつは生産性のある行動ができないときてる」

 

「……あ、そうだった。依頼を二件頼まれてたや」

 

「そうだよ、そのためにサラを探してたのに。すっかり忘れて何してるんだ僕は」

 

「でも仕方ないよね。あの鬼のせいってことで。それに、依頼内容が矛盾してる」

 

「あのオペラおばさんには伝言と手助けを頼まれてて」

 

「もう一つは……何だっけ。ボイチョーだかシブドーだかの変なやつから……そうだ。従魔を奪うか殺すかしろって言われてたな。こっちは実行したようなものだけどー」

 

「まあいっか! 依頼の塩漬けはいつものことだ。報酬ショボいクエストだし、きっと大丈夫でしょ。寝よっと」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 鏡に映っていたのは、片目が傷ついたわたし。

 

 ――に、そっくりの男の子(・・・)

 

「……!?」

 

 びっくりした顔、ほっぺを触る手。

 鏡の男の子はわたしとおんなじ動きをした。

 

 とっさに胸を触る。

 

「……ない」

 

 ものすっごい迷ってから、下を見る。

 

「っ、ふぎゃああああああああああああ!?」

 

 間違いない。

 

 わたし……男の子になっちゃった。

 

 To be continued




余談というか今回の蛇足。

(U・ω・U)<二話に分けるか悩んでまとめました

(U・ω・U)<三章はもう少しつづく

【ジェム】
(U・ω・U)<サラは攻撃というより補助的に使用する

(U・ω・U)<戦闘時の便利アイテム


カフカ
(U・ω・U)<生粋の遊戯派

(U・ω・U)<彼が今回行動したせいで、大勢の予定が狂いました

(U・ω・U)<吉とでるか凶とでるか
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