長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□【大賭博師】ランス・スロット
オネエに紹介された案内人と向かった先は、観光地なら珍しくもない、だがカジノとギャンブルの街からは浮いた空気を醸し出す土産物屋だった。
なんで竜の尻尾が巻き付いた剣のキーホルダーが売ってるんだ。修学旅行じゃないんだぞ。
まさか偽の案内人を掴まされたか?
いや……さすがにないな。
オネエはともかく、その上にいる依頼人のネームバリューを考えたら真っ当な手段で賭博場に入場できる。
表向きはとある大物の紹介で来てる俺を怪しむのはVIPへの非礼に繋がる。逆に俺がやらかすと大物の顔に泥を塗ることになるが、それはどうでもいい。
となると、冴えない土産物屋はカモフラージュ。
おハイソ賭博場の入り口が寂れた通りの傾いた店にあるとは誰も思うまい。
どうせ出入り口も複数あるんだろう。いざって時の逃走経路になるから。
天地式の畳が敷かれた店内には歯抜けの爺が胡座でこっくり船を漕いでいる。店番にしちゃ貧相だ。物干し竿を抱えてるのはどういうわけかね?
「こちらです」
案内人は掛け軸の裏にあるボタンを押した。
飾られていた仏壇が横にズレる。
畳をめくると地下の階段がご登場。
注意深く観察すると、階段の入り口は竜の顎門を模っているようだ。まさにドラゴンの腹の中。
「どうぞ心ゆくまでお楽しみくださいませ」
「え、何ここで案内終わり?」
「下で係の者が応対致します」
なるほど。案内人は入り口までらしい。
階段を降りて扉を開ける。
ドル箱ならぬ超高級カジノと夢のご対面だ。
拍子抜けというか、内装は暗色系をベースにシックな調度品で揃えられていた。
ポーカー、ルーレット、バカラにスロット……有名どころのゲームは揃っているようだ。
ホール中央に換金カウンター。給仕のバニーは肩以外の露出が控えめと今のところ想像を裏切らない。
実に普通・オブ・普通。
及第点は抑えているものの、追加評価をもらえる点がバニーのお愛想しかないとかギャンブル舐めてやがるな。
これの何が会員制じゃいと思っただろう。事前に話を聞いてなかったら。
「はじめてのお客様ですね? <ドラゴンズネスト>にようこそ! よろしければ私がご説明しますよ!」
「そうだな。正直まだ半信半疑なんだけど……ここじゃ、ドラゴンが景品なんだって?」
「ええ。それがうちの売りですから!」
元気いっぱいのバニーさんが胸の隙間からカタログを取りだした。ぺったんこなのによく入るね。
「ご覧ください、この充実したラインナップ! 地竜、天竜、海竜よりどりみどり! 観賞用にも従魔としてもおススメです! どれも混じりけのない純竜ですから!」
景品一覧には竜の挿絵が描かれている。
ランクは
高い額だと純竜級がうじゃうじゃといやがる。
純竜ってのは、そんなゲームみたいにポンポン入手できていい強さのモンスターじゃない。
俺が百人逆立ちしても得用煮干し感覚でむしゃむしゃされるレベルだ。もちろん一匹に対して。
よく見ると給仕や従業員全員が手に【ジュエル】を埋めており、それどころかカウンターや壁のショーウィンドウにもこれ見よがしに『中身入り』が飾られていた。
一個でもうん百万リルになるだろうに、最低限の盗難対策すら施していない。
会員制で盗みはすぐにバレるからか。
あるいは、別に盗まれたって痛くも痒くもないのか。
「“
色とりどりの宝石を孵化待ちの卵に錯覚する。
竜の寝床、あるいは揺籠。
どう考えても<エンブリオ>絡みだな。
野生のドラゴンをこの数乱獲してたら【竜王】が黙ってないのよ。種族単位で絶滅の危機だもん。そんで人間がレッドデータブックまっしぐらなんですね。
死ぬのはティアンだけで楽しくやってください。<マスター>不死身なんで。疫病神すぎんか。
養殖だかコピーバグだか知らないが。とにかくここのオーナーはドラゴンを大量生産できる能力持ちだ。
もしオネエにカジノぶっ潰せと言われていたら、俺は一人で竜の群れにパクパクですわ。
荒事必須の仕事内容ではないのが幸いだった。
オネエに仕事を依頼したお偉いさんこと、七大国家を放浪する<超級>の一人にして最近カルディナに帰ってきたという“プリマドンナ”様によると、ここには一体の竜がいるかもしれないらしい。
この数で『お目当てを探せ!』は理不尽。
しかも確定情報ではないんだからな。全部のドラゴンを当たっても収穫ゼロという可能性は十二分にある。
まずは渡されたメモを見てみるか。
・雌の天竜種
・こんな感じ(←ミミズがのたくったような絵)
「ダンケェシューッ!」
わ か る か。
紙を丸めて怒りの投擲。
後ろから飛んできたゴミを元気ぺったんこバニーさんはノールックで避けた。やりよる。マジでごめんね。
似顔絵が似顔絵じゃないのよ。
なんだあのぐるぐるした毛玉。
模写だとしても絵心皆無だぞ。記憶で書いたなら描き手の精神状態が不安になる。
ひとまずカタログでそれらしいものを探す。
ドラゴンがメインだが普通の景品も揃っていた。
装備に消耗品、素材アイテム、他国から流れてきたであろう非合法の特産品など。
モンスター騎乗用のアイテムや、数は少ないが先々期文明のオーパーツも記されている。
流石レア物は桁が違うな。このレートでこの枚数、少し大勝ちするくらいでは手が届かない。
本気で狙うなら全財産オールベットを十回以上成功させる必要があるだろうか。
真剣に考えたらギャンブルしたくなってきたな……一回だけ、一回勝つまで、一区切りつけるまで。
「ご歓談中に失礼致します。目録に新たな景品が追加されました。どうぞこぞって腕をお振るいくださいませ」
スクリーンに投影された映像でアイテムの山と、檻に入った数体のドラゴンが公開された。
手にしたカタログは魔法でリスト更新済みだ。入荷した新商品の概要と交換レートが反映されている。
客の様子を見る限りでは定期的なイベントらしい。
ギャンブルの最中に景品が増えるのは一長一短な気がしないでもないが、たしかにモチベは刺激される。
流し読みの視線が一点で留まる。
しわくちゃのメモと映像とカタログを見比べた。
あの景品、ぐるぐるふわっふわした毛玉じゃね。
「ビンゴーーーー!」
種族名【フラッフィー・ドラゴン】の雌。
交換枚数はチップ一〇〇〇枚ぽっきりだ。軽い大勝ちを重ねれば手が届かないことはない。
依頼主様はあいつをご所望だという。
他のやつに先を越されてしまうのを、指咥えて眺めているだけってのは指示待ちが過ぎるだろうよ。
これはある種の天啓だ。
女神様がギャンブルしろと俺に囁いている。
ついでに毛玉も確保してやるぜ。
「チップをくれバニーさん、これが俺の全財産だ」
「一枚になります!」
……少なくない?
◇◆
ギャンブルには必勝法がある。
古今東西の数学者や賭博師が必死こいて考えた数々のセオリーと攻略法はまさに人類の叡智の結晶だ。
どのゲームが勝ちやすいか、どんな賭け方が勝率を高めるか、ゲーム自体の戦略。
全ての事象が数字に収束する以上、極論を言えば、変数を把握した者が勝負を制する。
それができないから極論なわけだが、プレイヤーが有利なゲームと、賭博場側が有利なゲームは確かにある。
例えばルーレット。
ボールを投げ入れた後、ベットが締め切られるまでの数秒間でプレイヤーは賭け金を釣り上げることができる。
他のゲームは常にカードや出目を操作する余地が残る。それと比べると運勝負の要素が強い。
もちろんルーレット盤やボールに細工を施したり、狙ったマスに投げ入れる技能がないわけじゃないが……基本的にルーレットは胴元が有利な設定となっている。乱数調整をせずとも稼げるのだから、危険を冒してイカサマする必要がない。少なくとも普段は。
あとはチップの賭け方だ。
理論上は必ず勝てる方法を知ってるか。
負けたら次のベットを二倍にすればいい。
勝つまで続けりゃ最終的な収支はプラスになる。
ツキが回ってきてるタイミングなら、勝った時に次のベットを二倍にするのもありだな。
連勝すればチップを倍々に増やせるだろう。
無限増殖する栗饅頭みたいになる。
この二つを効果的に組み合わせれば、あっという間に億万長者……とでも思ったか。
自信満々にこの手の内容を語り出すのはバカもしくは詐欺師一歩手前のゴロツキだ。
ギャンブルに必勝法なんざあるわけないだろ。
それでもあえて言わせてもらうなら、誰でも簡単にできるたったひとつの必勝法を教えてやる。
勝ちたいやつはまだいいさ。だが負けたくないとか抜かす連中は生涯ギャンブルに手を出さない方がいい。
大事なものを失わずに済むって実質勝ちだし。
勝負の土俵に上がった瞬間から、プレイヤーの運命は女神様に委ねられている。
彼女の機嫌次第で死人が出る。
そこがギャンブルの最高なところだ。
勝つか負けるか、一喜一憂するのが面白いんだ。
だからまあ……今回は非常につまらん。
「ラッキー『7』に一点賭け」
俺はチップをオールイン。
結果は見るまでもなく大勝利。
配当は最高の三十六倍だ。
「うーん作業ゲー」
一枚のチップを一千倍にするにはどうするか。
ルーレットで一目賭けを二回連続で勝てばいい。
俺は山積みのチップを手元に回収した。
ルーレットは様子見できる点がいい。
女神様の顔色を窺い、いけると思ったタイミングでイカサマを考慮したベットを行う。
この卓のディーラー、当たり前のように出目を操作してきやがったので逆にそれを利用した。
賭博師系統はこれでも戦闘職の部類だが、ギャンブルに関係するジョブスキルも習得できるのだ。
カマし合いはこちらが上手だったらしい。別に告げ口はしないさ。こちとら荒稼ぎさせてもらった身だ。
「不正イカサマ無しなら、こっちも真っ当に遊ぼうと思ったんだけどな」
金をドブに捨てるにも作法があるだろ。
ギャンブルでスっちまうのはオーケー。
一方的に搾取されるのはノーサンキューだ。
俺は給仕のバニーを呼び止める。
どうでもいいが、さっきの元気ぺったんこバニーさんが見当たらない。休憩だろうか。
「このドラゴンちょうだい」
「すぐにご用意いたします。残りはどうなさいますか?」
あー、目当ての景品を交換してもチップが余るのか。
持っていても役に立たないし、売れそうなレアアイテムと交換するのが賢いやり方だろう。
どーれーにーしーよーうーかーなー。
「私どもの一押しはこちらですね。現存する数少ない先々期文明の遺産となっております」
「ふーん……うおたっか!? チップ一〇〇万とか欠片も届いてないじゃねーか!」
一番の目玉がドラゴンじゃなくて骨董品なのかよ。
「お客様の腕前でしたら夢ではないかと。もう一勝負されてみてはいかがでしょう」
賭博場の考えることはみんな同じだ。
客は金袋、快楽を味合わせて引き際を見失ったやつから搾り取るんでしょ。
賭け金の桁が跳ね上がると理性的な判断ができなくなるからな。美人バニーのヨイショ付きだとなおさら。
俺は身ぐるみ剥がされるのはごめんだね。
まあでも? ちょっとならいいかな?
都合よく卓のディーラーが交代した。
裏に引っ立てられていく様子から察するに、店側も不正野郎の行動は想定外だったのだろう。
ただの一般客にルーレットでイカサマは馬鹿だ。
さて、残りのチップは296枚。
ここからは普通に楽しむとしよう。
「てなわけで『13』に全賭けだ」
「先程から拝見しておりましたが……豪快な、それでいて気持ちの良い賭け方をなさるお客様ですね。しかも不吉な数字をお選びになるとは。何か根拠がおありで?」
「いんや勘。当たったら面白いだろ」
「左様ですか」
新しいディーラーは愉快そうに笑った。
やつは手袋越しにボールを摘み、指の調子を確かめるように数度ボールを弄ぶ。
随分と手慣れているな。さっきの不正野郎とは天と地ほどに技量の差がある。無論イカサマの。
だーから普通に遊ばせろっての。
まあ問題はない。ジョブスキルと
唸れ俺の動体視力! 思考加速レベルは運命速だ、
「赤の『12』」
ぜ……なあああにいいいいい!?
「残念でしたね。賭け金は回収させていただきます」
チップの山が溶けて消える。
その光景に、賭けに負けた以上の衝撃を受けた。
今! 俺はたしかに、出目を操作しようとした……!
だがしかし! 実際は操作できなかった!
なぜだ。何が起こった?
どう考えてもディーラーのイカサマだ。
あいつはボールがどこに落ちるのかを予測していた。否、どこに落とすかを決めていた。
やつの余裕綽々な表情が全てを物語っている。
「どうされました、賭場荒らしのランス・スロット。景品の支度にはもう暫くお時間をいただきますが」
「……チップはもう食っちまったんだわ」
「景品交換の保留は可能ですよ。お待ちになられる間に、遊ばれて増やせばよろしいのです。当カジノ支配人、このワースレスがお相手致しましょう」
そうかそうか。なるほどね。
……俺をカモとして見てやがるな?
おおかた稼ぎを全額吹き飛ばすつもりだろうが、こちとら売られた喧嘩はまとめ買いする主義なんだよ。
「賭けますか? それともお帰りになられますか?」
「上等だコラ飛ばしてやんよォ!」
オケラになっても泣くんじゃねーぞ!
To be continued
余談というか今回の蛇足。
竜の巣穴レート
(U・ω・U)<チップ一枚=約一万リルです
ランス・スロット
(U・ω・U)<カジノに悪名高い賭場荒らしが来たらどうするか
(U・ω・U)<まあ普通に考えて警戒するよね
(U・ω・U)<こいつは界隈でブラックリスト入りしてるので
(U・ω・U)<さっさとお帰りいただくのがベストだったりする
Ψ(▽W▽)Ψ<でも引き止めてるドラ?
(U・ω・U)<人間は感情で動く獣なので……