長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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公平なイカサマはイカサマじゃない ⑤

 ■平凡な男について

 

 何かを持っている人間が嫌いだった。

 

 だから願った。

 

 不平等なんて消えてなくなれ、と。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □【大賭博師】ランス・スロット

 

 三戦全敗。

 それが<ドラゴンズネスト>支配人ワースレスとギャンブルした俺の戦績だった。

 

 悔しいがルーレットだと勝負にならない。

 一点賭けは舐めプが過ぎたので、二回目以降はこちらも本気で勝ちにいったわけだが。

 イカサマでもしてるんじゃないかと思うほど(実際してるのだろう)、俺の読みがとことん外される。

 

 おかげで1000枚あった交換用のチップが、連敗のせいでなんと半分を切ってしまった。

 あれれー? おっかしーぞー?

 俺は待ち時間に喧嘩を買っただけなのに。

 授業料にしてはぼったくりなお値段だな。

 

「噂ほどではありませんね。有名な賭場荒らしといえど、所詮この程度ですか」

「言ってくれるじゃねーの」

 

 おおっと手がスベッター。

 

 そう俺は泣く子も黙るギャンブラー。

 当然賭け事の秩序は守るが、それはそれとしてギャンブルにイカサマと場外乱闘はつきものだよなあ!?

 くらいやがれワースレス、そのすました面をラッキーパンチで陥没させてやるからよ!

 

 LUC依存で攻撃力が不規則に変化する賭博師のジョブスキル、女神様が拗ねてると一桁台のカスダメしか出せないが、ツイてる時は一万越えだって夢じゃない。

 俺としてはどちらでも構わない。

 弱攻撃は冗談で済ませられる、強攻撃のクリーンヒットなら溜飲が下がって今日の飯が美味い。

 

 繰り出した拳は難なく受け止められた。

 

 予想通りではある。

 

「負けたからと暴れられては困ります。お客様」

「カリカリすんなよ徳用キャットフードじゃあるまいし。ちょっとしたパフォーマンスだろ」

 

 ルーレット卓を挟んで睨み合う。

 こいつがいる以上、暴力に訴えるのは無理。

 超高級のカジノでも、いや高額レートの賭博を仕切るからこそ、客の腹いせ刃傷沙汰は対策済みってわけだ。

 

 でもまあ、はなから殴り合いで解決する気はない。

 今ので大方ネタは割れた。

 あとはどうやって、一方的に有利な状況を維持するワースレスを勝負の土俵に引き摺り出すかだ。

 

 そうだな……少し探ってみるか。

 

「なあお前どこ中?」

「は?」

 

 おいおい何を呆けてやがる。

 子供が会話のとっかかりを掴む常套句だぜ。

 俺もよく尋ねられたものだ。同じ出身校のやつでも知り合い未満だとあまり話が弾まないよね。

 やめろ黒歴史を思い出させるな。

 

「アル中・ヤニ中・ぴかチュウと色々に申せども。俺の見立てじゃお前は自己中ってところか。てめえさえ良ければそれでいいって魂胆が透けて見えるぞ」

「今は中学校(ジュニアハイスクール)の話をしていたのでは……? いえ、それはともかく心外ですね」

「よく言うぜ。ずっとおれのターンして、人をやり込めて楽しいか? 自分が絶対的な優位に立って、何もできないやつらが足掻く様を眺めるのは痛快か?」

 

 ポーカーフェイスで聞き流すのは流石だ。

 おう、支配人さんよ。それでも眉毛を動かしちまうほどに俺の戯言は気に入らなかったみたいだな。

 ここから先は命綱なしの綱渡り。一寸先は闇の中、手探りでやつの急所を暴き出す必要がある。

 ポイントはどの部分だ。今の会話と、起きている現象から想定されるやつの性格……となると。

 

「今、『お前が言うな』って思ったな」

「……!」

 

 どうやら当たりみたいだなあ!

 

「つまりあれか。自分がやられて嫌なことを、他人にやるタイプの人間なのかお前。一方的にやられるのは“不公平”だとか抜かしてよ。きょうび小学生でも持ち合わせてるモラルが欠けてるぞ」

「ご忠言痛み入ります。かくも道徳を説教するお客様は、さぞ高尚な人種に違いありません」

 

 こんな賭博場にいる時点でろくな人間じゃないのは予想できるが、やっぱりいい根性してやがる。

 いえーい同類同類なかーま。

 畜生がブーメランを投げ合うのに遠慮はいらん。

 そらそらそりゃそら、脳が回るわ舌が回るわ。

 

「俺のことをよく知ってるみたいだな。ファンには見えないからアンチか? 俺も有名になったもんだぜ」

「いえ。同業者の恨み言を耳にする程度ですよ」

「ほーん。にしては随分と俺に当たりが強いな。俺個人じゃなくてギャンブラー嫌いかよ。それとも……目立つ人間への僻みか」

 

 おっとまた顔に出た。

 ワースレスよ、ちょいと素直すぎるぞ。

 ライン越えのマナー違反? そうだねごめんね。

 悪いが付け入る隙を見せたお前が悪い。

 

「分かる、分かるぜ。周りと自分を比べると嫌になる。どうしてみんなすごい人ばかりなのに、ぼくだけが無能なんだよう助けて神えも〜ん!」

「お客様。少しお静かに」

「腹立つか? そりゃ耳障りだよな。分析されたら自慢のカラクリまで露見しかねないもんなあ!?」

「……口を閉じなさいと言っている」

 

 俺の煽りは強制的に止められた。

 あー、喋れないというより舌が動かないんだなこれ。

 別に千切れてもいないのに感覚が麻痺している。

 仕方がないからお互い筆談に移ろうか。

 

『そこまでやるか普通?』

 

 ワースレスは自分の舌を噛み切っていた(・・・・・・・・・・・・)

 

 だから(・・・)俺の舌も動かない(・・・・・・・・)

 

『ここまで貫いてるといっそ清々しいくらいに“公平”なスキルだなオイ』

『他のお客様のご迷惑となりますので』

『絶対違うっしょ。激おこカムチャッカマンじゃん』

 

 でもさあ、こいつも悪くない?

 わざわざ名前をワースレス(役立たず)って設定してるんだぞ。

 自虐ネタにしたって体を張り過ぎている。

 擦ってくれと言っているようなものじゃないか。

 名は体を表すとはまさにこのこと。

 

『結果の平等。それがお前の<エンブリオ>だろ』

 

 支配人というくらいだから、最初はドラゴン量産系の能力かと考えたがどうにも違う。

 おそらくはテリトリー系列。

 自分を含めた周囲の空間に影響を及ぼすタイプと見た。

 

『だからお前が喋れないと俺も喋れない。お前が使えないスキルは、俺も使えない』

 

 賭博師系統のイカサマスキルが通じなかったのはそのせいだろう。そもそも効果が発揮されていなかった。

 攻撃用のスキルも同様。体感だと、ステータスまで向こうの数値に合わせて下がっている。

 他人を自分と同レベルにまで引き摺り下ろす……最底辺に合わせて整列しろって感じだ。

 

『《看破》使えねーけど、たぶん【生贄】オンリーで成立させてるだろ。コストのMPを確保しつつ、戦闘行動不能と全ステータス低下のデメリットを周囲にも押しつける。となるとイカサマは……自前の技術しかないわな。スキルに頼ったら相手もイカサマできるし』

 

 なんだそりゃ、という話だが。

 リアルスキルなら俺だってできる。

 ただしこれに関しては、俺のミスと相手の作戦勝ちが七:三の割合だ。

 

 ルーレット、客がイカサマする余地ないのよ。

 ボール投げ入れた後に追加ベットしてもズラされたことを考えると、卓の盤とボールに仕掛けがあるのか。

 ボールの投げ方との組み合わせだろうな。

 そら何度やっても勝てんわ。

 

『異論反論訂正があれば受け付けるぜ』

『それではひとつだけ。私を基準にしているのではありません。半径二メートルの効果範囲に存在する全員が取れる行動だけは、このスキルで縛ることができない』

『意外と素直に教えてくれたな』

『知ったところでどうなります』

 

 たしかにー。現状は何も変わらんやつー。

 

『それじゃあギャンブルを続けようぜ』

『まだやる気がおありで?』

 

 驚くことじゃないだろう。

 そっちから持ちかけた勝負なんだ、俺はまだまだ健在でチップも全額吹き飛んじゃいない。

 勝負はこれからだ。結果は神のみぞ知るってな。

 

『理解できませんね。本当に、あなたのような連中の考えることは。破天荒で、意味不明で、常識外れで、目立ちたがりで……持つ者というのはいつもそうだ』

『いや知らんわ。なんか怖いし。とりまスった分を取り返したいだけよ俺』

 

 自分語りなら家でやってくれ。

 野郎の愚痴なんざ聞きたくないよ気が滅入る。

 

『お前も大概意味不明だけどな。一方的に無能をボコボコにするとか……不公平だろ。そんなスキル使うくせに』

『先程も聞きましたよそれは』

『あえて繰り返してんだぞ。分かれ』

 

 皮肉が通じないのかよ。

 心の贅肉こそぎ落としてんのかい。

 

『ワンサイドゲームは本当にいいものか? 結果の見えている勝負は面白いか? そんな<エンブリオ>が発現するお前の心は、この状況を楽しめているのか?』

『…………』

 

 まあここまでの台詞、ほとんどが即興なんだが。

 とりあえず頭に思い浮かんだことを言っておけばなんとかなる。ええ、俺の好きな言葉です。

 

『あ、もちろんゲーム内容は変えさせてもらうぞ。ルーレットだと勝ち目がないからな』

『勝手に話を進めないでいただけますか』

『初見殺しに特化した能力を言いふらされたかないだろう? 口封じするにはギャンブルを受けて勝つしかないぜワースレスさんよ』

 

 俺は【契約書】を見せびらかす。

 違反時のペナルティは重めにしておこうか。

 そうだな、長期間のログイン制限とかどうよ。わりと俺には効くぞ。ギャンブル狂いだからね。

 

『……いいでしょう。それで何をするのです?』

『そうだなあ』

 

 俺は考えるポーズをする。

 即答しちゃうとね、罠だと疑われるからね。

 まあ内心では既にこれと決めている。

 

『ハイ&ローでどうよ』

 

 勝ち目は両者フィフティ・フィフティ。

 超々“公平”な運試しといこうぜ。

 

 

 ◇◆

 

 

 ハイ&ローは簡単なゲームだ。

 数の大小を当てる、基本のルールはこれだけ。

 普通はトランプでやることが多いかな。

 

 手順はこうだ。

 まず、明かされた数字をひとつ用意する。

 例①、親が選り分けた手札から一枚公開する。

 例②、山札をめくって場に出す。

 まあ方法はなんでもいい。

 

 次に、隠された数字をひとつ用意する。

 例①のパターンなら子の手札を裏にして場に出す。

 例②なら山札の次の一枚を伏せる。

 これもやり方はあまり重要じゃない。

 

 最後、数字の大小を予想する。

 隠された数字が、明かされた場の数字より大きいか小さいかを宣言してベットするんだ。

 宣言終了後、隠された数字を確かめる。

 予想が当たったら勝ち。簡単だろ?

 

 細かいルールや数字の順番とか、まあ色々あるが。

 俺たちは気にする必要がない。

 

「今回はトランプじゃなく、こいつを使う」

 

 舌を治療したワースレスを連れて移動した卓に叩きつけるアイテムが今日の目玉。

 

「賽子ですか」

「イエス! 六面ダイスくんでぇーす!」

 

 なんだなんだテンション低いぞワースレス。

 せっかく楽しいお遊戯の時間だ、脳汁噴き出すまでバイブスぶち上げていこうぜ!?

 へいそこのオーディエンスもご一緒に!

 エビバディ! セイ! イェアーー!

 

「ルール説明をお願いします」

「あ、はい」

 

 冷めるわー。

 

「っても予想はつくだろ。片方が先にサイコロを振る。もう片方は振る前にハイかローの予想とベットを行う。出た目が予想通りなら成功。役割を変えて繰り返す。どっちかの予想がはずれたらその時点でワンゲーム終了。数字が同じでもはずれ扱いね。溜まった賭け金は勝者の総取り」

 

 プレイヤーが二人だし、あまり複雑なルールを加えてもややこしいだけだからな。

 予想される数字は1〜6と本家のトランプバージョンより単純化しているところがポイントだ。

 

「賽子は自分で振るのですか?」

「そのつもりだ」

「なるほど。では二人分の賽子を用意させましょう」

「お構いなく。お互いに自前のやつを使ってオッケーにするからよ」

 

 ワースレスは未開封のサイコロを手に固まった。

 

「お客様が細工をしないという保証は?」

「そんなのお互い様だろ」

 

 出目が偏るサイコロを使ってもいい。

 持ち前の技術で出目を操作してもいい。

 そういうルールにしてある。

 

「何でもありだ。条件はイーブンなはずだぜ」

 

 イカサマ上等ってな。

 

「千日手になりますよ」

「安心しろ。それはない」

 

 ルール的に、お互いがイカサマをすると一生勝負が終わらないのは当たり前だ。

 狙った数字を出せるなら予想もクソもない。

 どうあれ結果は見えている。

 

 この俺がそんなゲーム仕掛けると思う?

 

「先手は譲るぜ」

「……」

 

 ワースレスはサイコロを振った。

 出目は『3』。

 もちろん狙って出してやがる。

 中央値に寄せたのは判断を迷わせるためか?

 

 ジョブスキルが使えないとはいえ、俺だってギャンブル狂いの端くれだ、狙った数字を出すことはできる。

 流石に百発百中とはいかないけどな。

 ここ一番でミスをする危険は拭えない。長丁場になると疲れで手元が狂う可能性が高まるだろう。

 しかし運任せになったところで五分五分だ。

 

「ハイにチップ百枚」

 

 さて期待と緊張の第一投……投げ、

 

「お待ちを」

 

 ません、っと。

 

「なんだよ揺さぶりかよ」

「その手に持っているものは何です」

「ああ、これね。どうかしたか?」

 

 俺は自前のサイコロを掲げてみせる。

 

「ただの特典武具だけど」

 

 つい最近ゲットしたてのほやほやだ。

 実戦で使うのは初めてなんだが。

 

「私の結界内で特典武具? 無駄ですよ。そんなユニーク要素の塊、絶対に使えるわけがない」

「え、なんで」

「なんで……?」

 

 おうおう、必死に考えを巡らせてる。

 何を考えているかはだいたい分かるぞ。

 俺のハッタリを疑ってるな。特典武具を持っているだけ、実際に使えはしないだろうとか。

 あとはこのゲームを選んだ理由……あえてサイコロを使うルールにしたのは特典武具で無双するため、だとしてもあり得ないー、とかなんとか推理してるに違いない。

 

 半分あってるけどな。

 でも半分はずれなんだわ。

 このゲーム完全解答以外は負けです残念。

 

 お前は始まる前から出遅れてるんだよワースレス。

 そんなんじゃ女神様の寵愛は受けられない。

 

「特典武具は所有者にしか使えない。<UBM>を討伐した者だけが持つ、唯一無二で規格外な装備のはず」

「いいから黙って見てろ」

 

 すぐに分かるさ。

 さあさあ皆様目ん玉かっぽじって御覧じろ。

 回ってきたぜ俺のターン! 振るぜ転がせ運命を!

 

「《賽厄(ダイスロール)》」

 

 狙い通りに出目は『6』。

 そして【賽遊終勝 ダイスターブ】の効果発動。

 サイコロを振った俺に対して、ランダムでバフかデバフをひとつ付与する!

 

 一瞬で燃え上がった炎が両足を舐める。

 今回引き当てたのは【火傷】か?

 継続ダメージに加えて満足に歩けなくなったが、両手と口が動かせるなら問題ない。

 必要なのは器用と知力と幸運だ。あとは女神様の熱いエールでいくらでも踏ん張れるって寸法よ。

 

「さて交代だ。続けて振るぜ? 何が出るかな!」

 

 予想される側は小細工の必要がない。

 俺は流れに身を任せて『2』を叩き出す。

 ついでに発動したバフは思考速度の加速。

 あれこれ考えるゲームじゃないが余裕はあるだけでおありがたい、脳内妄想が捗る。

 

「お前の番だぞワースレス。そんなにこれが羨ましいなら使ってみるか?」

「つまりそれは、誰もが使用可能なスキルを持つ特典武具というわけですか」

「イグザクトリィー!」

 

 《賽厄》はサイコロを振った本人を対象とするが、所有者しか振れないという制限は存在しない。

 何もできないワースレスだって使えるのだから、<エンブリオ>で縛られる道理がない。単純な話さ。

 

 プレイヤーには等しく運命を掴み取る権利がある。

 仲間はずれはよくないだろ。

 ゲームはみんなで楽しく遊ばないとな?

 

「さあどうする。俺の自滅を待ってもいいが、諸共巻き込まれない保証はないぞ。元の<UBM>戦じゃ落雷で死にかけたし。マジで何でもありだから」

「無茶苦茶な……」

 

 いいから素直に使っておけよ。

 多少の不運には耐えられるかもしれないぜ。

 

「予想はハイ。チップ百枚のベットを宣言します」

 

 やつは苦々しげに【ダイスターブ】を手に取る。

 あーはいはい、当然だが宣言はハイ……

 

『ヒュヒュヒュヒュヒュヒュ!』

 

「はいいいいいイイイィィィィ!?」

 

 待て待て待て、ちょいとタンマだ。

 目の前の光景と轟音とで頭が働かない。

 一体全体どうなってやがる。

 

 バカでかいドラゴンが床ぶち抜いて現れたんだが?

 

 To be continued




余談というか今回の蛇足。

(U・ω・U)<ざわ…ざわ…

ワースレス
(U・ω・U)<雇われ支配人

(U・ω・U)<彼の【勢々同々 オストラキスモス】は

(U・ω・U)<人間範疇生物だけに効果があります
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