長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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(U・ω・U)<リハビリなので短め


備えあっても憂いあり

 □【高位従魔師】サラ

 

「待たせて悪い。早速行こうか」

 

 ひよ蒟蒻さんの用事は終わったみたい。

 わたしが準備ばっちりなことを確認すると、全身フル装備でお店を出る。

 まるで今からボスモンスターとの戦いに向かうような、ものものしく、覚悟を決めた雰囲気だ。

 ため息混じりに、銀色に光る剣で影をつついているのはおまじないだろうか。まあいいや。

 

 さあ、呪いの専門家に会いに行こう!

 レッツゴー!

 

「あ、ストップ。そっちじゃない」

「ほえ?」

 

 街の外に出ようとしたら呼び止められた。

 ここからフィールドに出るなら、わたしが進もうとした方向が一番の近道だ。他の門は遠回りになる。

 わたしが知らない秘密の抜け道があったりしたら話は別だけど。

 

 ひよ蒟蒻さんはお店の前から動かない。

 別の道を通るとかではないようだ。

 どうしたのかな。アイテムボックスに手を入れて。

 

「徒歩で向かうには遠いんだ。かといって、サラは馬車や騎獣の類を持ってないだろう」

 

 そう言って、取り出したのは翼が生えたロボット馬。

 

「おお〜! ヒポグリフ!」

「そういえば前に見せた事があったな。目的地までは【薊】……この【薊之隠者】で飛んでいこう」

 

 ひよ蒟蒻さんはヒポグリフにひらりと跨る。

 手を借りて、わたしも馬上に引き上げてもらった。

 わたしが手前の位置に座って、後ろからひよ蒟蒻さんが手綱を握る形だ。

 もう少し背が高かったら一人で乗れたかも。

 

 足をぷらぷらしていたら、ふわりと浮かぶ感じ。

 ヒポグリフが一歩進むたびに地面が遠くなって、二階の窓より上に昇ると、そのまま空を走り出す。

 

Rrrrr(そらのたびだ)!』

「気持ちいいね! ひよ蒟蒻さんのおかげだよ!」

「それは良かった。このまま南下して王国領を抜ける。国境を越えたら、人目を避けて目的地まで直行だ」

「町には寄らないんですか?」

「二次被害が起こるからな」

 

 ちょっぴり残念だ。

 時間があったら(あとこんな体じゃなければ)観光したかった。幻想的で楽しそうだよね。

 どうしてか、みんなには止められるけど。

 治安があんまりよくないとかなんとか。

 

「そんな事より、これを渡しておく」

 

 ひよ蒟蒻さんから包みを受け取る。

 アトリエで買ったものだろう。

 

 中身はアクセサリーだった。たしか【健常のカメオ】という状態異常を無効化するアイテムだったはず。

 どんな状態異常だって防げる優れものだ。

 代わりに発動条件がゆるくて、すぐに壊れてしまうから使いどころが難しい。傷から血が出たらアウトだもん。

 おんなじ数百万リルのお値段を払うなら【ブローチ】を買う人のほうが多い。

 

 ほかには【快癒万能霊薬】や【高位聖水】とか。

 絶対に状態異常を対策してやるぞって気持ちが伝わるアイテムのセットだ。これだけでひと財産だよ。

 ここまで準備に力を入れるのは理由がありそう。

 

「あのクラリッサが相手だとこれでも足りないくらいだ。準備するに越した事はない」

「クラリッサさん? って、どんな人なんですか?」

「……」

「言葉にならない!?」

 

 想像だけで冷や汗が止まらない様子だった。

 これじゃあなにも聞けないや。

 無理やり聞き出すのはダメかなあ……。案内してもらう前に、ひよ蒟蒻さんがショックで倒れちゃう。

 

「いや大丈夫。ちゃんと説明する。これから会うクラリッサは【大魔女(アーチ・ウィッチ)】、魔法と呪術を扱う生産系の超級職だ。凄腕で、俺は何度か道具作りを依頼した事がある」

 

 ひよ蒟蒻さんは腰に吊るしてある手錠を触った。

 

「例えばこれ、犯罪者に使う捕縛道具。スキル封印と弱体化の呪いが付与してある。こういうアイテム以外に、呪いに対抗するためのあれこれも製作していたはずだ」

 

 毒を拵える時は解毒剤を用意するものだからな、と遠い目で乾いた笑いを浮かべている。

 怖いというより、後ろめたい気持ちが伝わるね。

 想像だけで疲れてしまうくらいに憂鬱っぽい。

 話を聞いた限りだと、理由はわからないけど。

 

「クラリッサの道具は厄介な代物ばかりだ。そして彼女自身、少し変わった性格をしている」

「でも悪い人じゃないんですよね」

「……基本はアイテム頼りで攻めてくる。怪しい道具には触れない・見ない・使わせないが原則だ。ベストはおかしな動きを見せた瞬間に先手必勝で取り押さえる事。難しいようならアイテムボックスだけでも奪いたい」

「おだやかじゃない!?」

 

 バトル前提の攻略法になってるよ!

 答えになってないし!

 

「いやまあ、流石に多少誇張したけど。向こうに着いたら注意してくれ」

 

 ひよ蒟蒻さんは気をつけろと何度も言う。

 それだけのわけがあるのは伝わった。

 ただ、まだ話していないことがありそう。

 

「じー」

「見つめられても困るんだが」

「もうちょっとお話聞きたいです!」

「これ以上は見た方が早いというかだな」

 

 わたしの視線に、バイザーの奥で目が泳いだ。

 頭をかこうとして兜に触れる。やり場をなくした手を上げて、ひよ蒟蒻さんは降参のポーズを取った。

 

「仕方ない。じゃあ、俺が初めてクラリッサに会った時の話をしよう。彼女と顔を合わせるなり、呪いで体の自由を奪われて拉致監禁された。そして何度も繰り返し呼ばれるんだ。ユリウス、ユリウス……と」

 

 それは変だね。

 もし名前を間違えたとしても、ひよ蒟蒻さんとユリウスじゃぜんぜん違うのに。

 

「当然こっちは別人だ。話を聞いてみたら、どうも俺と知り合いの区別がついていない。人違いだと訴えても意味がなかった。俺の所持品がそのユリウス所縁のアイテムだったせいで、クラリッサの勘違いに余計な信憑性が増したんだよ。結局デスペナするまで呪い漬けだ」

「だからいやそうな顔を」

「それ自体は大した事じゃない。俺には彼女を独りにした責任もあるから」

「責任?」

 

 ひよ蒟蒻さんは後ろを振り返る。

 視界に広がるのは青い空と深い森。

 王国のかなり南、だいぶ国境に近づいている。

 

 来た道に特別なものはない。

 どうやらひよ蒟蒻さんは北を見つめているようだけど、口を閉じて静かにしているから、なにを考えているかまでは読み取れなかった。

 

「クラリッサは、師匠の古い知り合いなんだ」

 

 ぽつりとこぼした一言。

 罪悪感の塊だった。

 

「……師匠は先代の【征伐王】だった。色々あって、俺が後を継いだ形になる」

 

 超級職は一人だけが就けるジョブだ。

 この世界で生きるティアンにとって、ジョブはとても重要なもの。とくに戦闘職はレベルと強さが命に関わる。

 だから、超級職はよっぽど大切な相手じゃなければ譲ってくれないだろう。

 きっとお師匠さんはひよ蒟蒻さんのことを大事に思っていたんだね。もちろん逆もそう。

 

 言葉からは後悔と懐かしさが伝わって、わたしまでなんだか悲しい気持ちになった。

 

「師匠はエルフの血を引く長命種族でさ。年齢に触れたらどやされるし、自分の事はあまり話さない人だったけど、過去には仕官してた事があったそうだ。当時の仲間について愚痴を溢していたよ。既に一人を除いて全員亡くなられているけどな。なにせ千年以上前の事だから」

 

 気が遠くなるくらい昔の話だ。

 百年でも想像がつかないのに、その十倍。

 もしかしてお師匠さん、すごい人だったり。かっこいいお婆ちゃんエルフをイメージしてみる。

 

「ということはクラリッサさんって」

「最後の、そして唯一の生き残りだ」

 

 長い時間を生きて、もう仲間が誰もいない。

 どれだけつらいだろうと想像してみる。

 

 学校の友だちがいなくて、アリアリアちゃんやジェイドたちがいなくて、お母さんとお父さんに会えなくて。

 寝坊したら起こしてくれる人がいない。

 一緒にご飯を食べる人がいない。

 楽しいお話をするのも、悲しいことを分け合うのも、そばにいてくれる人がいないとできない。

 それは、泣きたいくらいにさみしいこと。

 

「だから、たまには会いに行こうと思うんだよ。人違いでも、夢でも、誰も傷つけないのはもう無理だけどさ。あの人の弟子として……せめてこれくらいはやらないと」

 

 ひよ蒟蒻さんの決意は固い。

 自分が呪われることは気にしないで、できることをやろうとがんばっているわけだ。

 ここまで聞いたら力を貸してあげたいと思っちゃう。わたしが協力できそうなことはないかな。

 

「そうだ! わたし、クラリッサさんとお友だちになります! ジェイドとみんなも一緒に!」

Rrrr(いいね)

「待て、よすんだ落ち着け。何を血迷ったのかは知らないけど後戻りできなくなるぞ。目的を見失うんじゃない」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 途中、空を縄張りにするモンスターに襲われるようなことはなく、わたしたちはスムーズに移動できた。

 ヒポグリフの速度についてこれる天竜は、距離が離れている段階から、ひよ蒟蒻さんが追い払ってくれる。

 おかげで夕陽が沈む前に目的地に着けたよ。

 

「ここが……」

 

 わたしは夕焼けに照らされた森を見下ろす。

 一目でわかった。だって周りと違うから。

 よそだと見ないピンクと紫の葉っぱ。

 風は吹いていないのに、ざわざわと揺れる枝。まるで外に向かって手を伸ばしているみたい。

 ころころ色合いが変化して、鮮やかだけど、暗い印象が離れない場所がくっきりと浮かび上がる。

 

「クラリッサの領域、<魔女の森>だ。彼女はあそこに住んでいる。何百年もの間ずっと」

 

 降りるぞ、とひよ蒟蒻さんは声をかけて、ヒポグリフの手綱を引いた。

 

 To be continued

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