長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□【高位従魔師】サラ
ネック閣下から逃げ出して元の場所に戻ってきた。
汗だくのわたしにハンカチが差し出される。
あだしのさん、心配してくれたんだね。
「ちょっと大丈夫? 幽霊でも見たような顔だわ」
「幽霊は見てきました……」
というか今もいる。後ろに列を作ってる。
「少し休んだほうがよさそうね」
「いえ! だいじょうぶです! 心配してくれてありがとうございます、あだしのさん!」
「フギャ……んんっ。と、当然よ。貴方は私の共犯者なんだから。倒れられたら困るってわけ」
わたしは作画班から預かった原稿を渡す。
今度は慎重に、しんちょーうに消しゴムをかけたら終わりだ。ひとまとめにして作画班にお返しする。
「漫画の作業はこれだけよ。実際はまだ手順があるんだけど、話の続きが上がってないから……次は他の仕事を手伝ってもらうわ」
「わかりました!」
気を取り直してがんばろう!
「人手が足りていないのはどこかしら」
「衣装の方じゃないすか。トラブってましたよ」
「それよ。行きましょう、サラ。衣装班に」
衣装かぁ。お洋服とか作るのかな?
どんなところか楽しみだね。ゴーゴー!
◇
「誰だメイド服ミニスカにしたクソボケはぁ!?」
「ちょっと背中の翼部分って可動域どうなってんの? 教えて工口い人!」
「あゝ……そうじゃねえ、そうじゃねえだろ……眼鏡は、バフアイテムだろうが……ッ!」
「好きな属性発表某はー、生身よりー、普通にー、機械義肢が好きー!」
「「「ならドライフに行け!」」」
すごい熱気と勢いだ。まるで入れそうにないよ。
あだしのさんは慣れているみたい。普通にすんなりと衣装班の中央まで進み出た。
パンパンと手を叩いて、大声で注目を集める。
「はい注目。謹聴、謹聴!」
「すっこんでろタコ助!」
「素人は黙っとれ――」
「お家に帰ってママのミルクしゃぶってな!」
「え、やだ私の扱い酷すぎ!?」
こてんぱんにされて泣いて戻ってきちゃった。
よくないね、よくないよこれは。
衣装班の人に悪意がないことはわかる。今のはノリとおふざけの様式美というやつなんだろう。
あだしのさんちょっと笑っていたし。
だからって、悪口を言うのはダメ。
親しい仲にも礼儀ありだよ。
「あの!」
わたしが声を上げると、みんながピタリと止まった。
「誰だ?」「新顔」「エクストリーム」「ショタだ」
「美少年」「エクストリーム」「かわいい」
「原石」「逸材では」「エクストリーム」
一斉に視線が集まってズシズシ刺さる。
なんだかとってもいやな感じ?
「「「確保!」」」
「ふぎゃぁぁぁぁ!?」
目をギラギラ輝かせて、衣装班の<マスター>がいきなり襲いかかってきた。
捕まったらすごい大変なことになる予感がする。なんとしてでも逃げないとだ。
あだしのさんは……ダメだ。ショックで気絶してる。
「お願いジェイド」
『
ごめんなさい。無理やりもよくないと思うの。
わたしの<エンブリオ>、バベルのスキルを発動。
あとは《
貫くより弾いて飛ばすイメージでね!
「手加減して《トルネード・ラム》!」
結果は大成功。衣装班は思いっきり吹き飛んで、それぞれガラクタや衣装の山に頭から衝突した。
あれ? 今ので衣装が壊れちゃったり……ど、どどどうしよう!? ここまでやるつもりじゃなかったのに!
「……はっ! え、今のサラがやったの?」
「あだしのさん! どうしましょう!?」
完成していた衣装と小道具、遠くから見ただけですごい丁寧で綺麗だった。
きっと時間と労力をかけて作ったものに違いない。
ジェイドの責任は従魔師であるわたしの責任だ。みんなにどうやって謝ればいいだろう。
「エクストリィィィィム! エクストリームだね君!」
「ごめんなさい! エクストリームで……え?」
真っ先に復活した人が変なことを叫んだ。
考えていた言葉はそれで頭から抜けてしまう。
「なんてエクストリームなスキル! そして従魔と従魔師の力だろうか! あだしの、君の客人かい?」
「当然の結果よ。私の共犯者だもの」
「ほう。それは興味深いね。我々のように雇い雇われの関係ではないということか……時間があれば、ぜひ一度エクストリームしたいところだ。構わないかな?」
「
あだしのさんの混乱が声から伝わってくる。
とりあえず、エクストリームな男の人を手伝って、衣装班の人を助け起こして回復する。
あとは壊れたものをチェック。確認したところ、どれも手直しすれば問題ないみたいで一安心だ。だからといってわたしが謝らないといけないことは変わらない。
まずはエクストリームの人に謝ろう。
ちゃんと目を見てと思ったら、頭の部分がアルファベットのXで、顔がどこかはっきりしない。アバターの設定のようだけど。へー、首から下は普通の人間なんだ。
「気にしないで。創造の前には破壊が付きものだ。これでみんなはよりエクストリームな作品を作れる」
「代表面してるけど、衣装班じゃないよなお前」
「まあまあ。僕はエクストリームに手伝うとも」
「あ、私も手を貸すわよ。暇だし」
「あだしのは休んでて。な?」
「君はノット・エクストリームだ」
「私に何の恨みがあるのかしら!?」
『
困ったな。ちょっとおもしろくなってきた。
◇
わたしは衣装班のお手伝いに加わった。
と言っても、実際に衣装をデザインして形にする工程は専門のジョブに任せることになる。
なので必要な材料を持ってきたり、できた衣装を並べていくのが主なお仕事だ。
今作っているのは、この世界の伝説や昔話を元にした英雄をイメージしているんだって。
有名なのは【勇者】や【聖剣王】の王道風。
レイさんが好きそうな【憤怒魔王】。
【覇王】【猫神】【龍帝】なんて組み合わせも。
このあたりはわたし聞いたことがある。
「顔の無い天使と【歌劇王】、好き好き大好き」
「決闘王者の【剣王】も渾身の出来だぞ」
「わかってないな。地竜王と戦った六人しか勝たん」
「お前は煌玉人推しなだけだろ」
「だって! だってぇ! ヘイゼルさんプリコットで最近見かけないんだもんっ!」
みんな生き生きとしていて楽しそう。
好きなものを作ることが本当に好きなんだね。
わたし、こういうワイワイした空気はわりと好きだ。
「彼らの話が気になるかい。よければ解説するよ」
エクストリームの人が話しかけてくれた。
そうだね、せっかくだから聞いてみようかな。
ただその前に。
「何の作業をしてるんですか?」
「僕は厳密には衣装班ではなくてね。物語の記述を読み取って、衣装のデザインを彫像にしている。これを元に衣装班はアレンジを加えているようだ」
文献の中には挿絵がないものだってある。
内容と時代背景を考えて、できるだけ実際の意匠に近いデザインを復元する、というお仕事らしい。
「一から解読したから内容は覚えているよ。たとえば、【地竜王】事件。かつて、巨大国家の王が不老不死を求め、<厳冬山脈>に侵攻し、国諸共滅亡した物語」
それって、ひよ蒟蒻さんに聞いたお話だ。
クラリッサさんと先代【征伐王】の。
「軍勢には超級職が六人いたそうだ。そして皆が【竜王】の前に敗れた。……しかし文献の記述を解読しても分からないことがある」
「わからないこと?」
「従軍する超級職は七人と書かれている。人数が合わない。これではエクストリームではない。僕は解読できない箇所に手がかりがあると考えている」
「それ見せてもらっていいですか?」
「構わないが、君には読めないよ。僕がエクストリーム法で解読できたのはつい最近で」
小さな日記帳を受け取って表紙をめくる。
この世界の、とても古い言葉で書かれた文章だ。
ティアンでも読める人はなかなかいないだろう。
ところどころ暗号のような単語が混ざっている。
魔法で鍵をかけた、隠したいという気持ちの塊。
書いた本人だけわかるようにした内緒の秘密。
ぜんぶ、わたしはわかってしまう。
わたしのバベルは文字も対象だ。
文章を書いた人の意思と感情に反応する。
じっといつまでも見つめられる分、普段のおしゃべりより精度が高いかもしれない。
「まさか読めるのか?」
「得意なんです。こういうの」
おんなじようなアルバイトをしたことがある。
グリオマンPさんから資料を解読してほしいって。
先々期文明の設計図なんだと言ってたっけ。
「超級職は七人であってます。最後の一人は参加しなかったって……理由は、ここに書かれてないみたい」
「ありがとうサラ。エクストリーム助かった。何か困ったことがあれば言ってくれ。力になろう」
「どういたしまして!」
それにしても昔の英雄って超級職が多いんだね。
歴史に名前を残すティアンは戦いが強い人、才能がある人、つまり一握りの頂点に到達するのは自然だ。
わたしたちのように復活できる体と<エンブリオ>を持っていない=やり直しができないってこと。
おとぎ話の英雄は素敵でかっこいいし憧れる。
その物語の影で、亡くなっていった人がいる。
失敗した人は生き残れない。ティアンの厳しい現実で、それを忘れないようにしたいと思う。
なーんて、少し暗い気持ちになっちゃった。
『
「だいじょうぶ! 元気だよ!」
なんたってジェイドたちがいるからね。
たまに気持ちが引っ張られちゃうことがあっても、今のわたしは一人ではないのです。
だからきっとだいじょうぶなんだよ!
「おーい! サラ、それとジェイドくん! ちょっとこれ着てみてくれるー」
衣装班に呼ばれた。どうしたんだろう?
◇
お仕事かなと思ったら、衣装班から趣味で作ったという衣装をどっさり渡された。
「オデ、コレ、アゲル」
「こんなにいいんですか!?」
「イイド。着テ」
わたしとジェイドを見てインスピレーションを受けたお礼と言われてしまった。
なんだか恥ずかしいけど役に立てたのはうれしい。
現実にあるタイプとファンタジー系が揃っている。
装備補正のない完全なおしゃれ用アイテムだね。
男の子用の服と女の子用の服が両方あるのは謎だ。
そしてそして! ジェイドのお洋服が最高なの!
スクショを撮る手が止まらないよ!
「かわいい! かっこいい! こっち見て!」
『
自分の魅力をわかっていないねジェイド。
衣装のコンセプトは王子様。
深い青緑の勲章と純白の肩マント(ペリースというらしい)、王冠の宝石は首が痛くならないようガラス細工のレプリカをはめてある。
最初の凛々しい表情はもちろん、だんだんと恥ずかしがってくる顔まで写真に収めた。今日のわたしに抜かりはない。どの写真も最高の一枚だという自信があるよ。
「いい出来だね。だけどサラ。こうすると極上のエクストリームになると思わないか」
ジェイドに粘土を塗るエクストリームの人。
いきなりなにするの! 汚れちゃう!
『……a、れ。ぼく、は」
ジェイドを包んだ粘土は形を変えて……わたしとおんなじ年ごろの、人間の男の子に変身した。
「フゥ! エックストリィィィィィィィム!」
「擬人化とは恐れ入るぜ!」
「やりやがったなてめえ戦争じゃあ!」
始まったケンカはとりあえず後回し。
わたしはジェイドに近づいた。お洋服は着ていた衣装をそのまま人間用に仕立て直した感じ。
髪は鱗とおんなじ翡翠色、毛先にかけて薄い白が混ざったグラデーションになっている。
身長はわたしより少し高いくらいだろう。
「ジェイドだよね」
「そうだよ、さら。ぼくだ」
「だいじょうぶ? 変なところはない?」
「うん。でも、はなすの、むつかしい」
モンスターの中には人間の姿になれる子がいると、従魔師の先輩から聞いたことがある。
たしか《人化の術》というスキルだったはず。
ジェイドはまだ使えないから、原因はさっきの粘土だ。モンスターを人にする<エンブリオ>かな。
「これ、いいね。すきだ」
「
「そうかな。あとね」
ジェイドはわたしを抱きしめた。
くすぐったくて暖かい、風の匂いがした。
「さらより、おおきい。それがうれしいな」
「そっか。これからもっと大きくなれるよ」
だってジェイドはドラゴンだもん。
最後にはわたしが乗れるくらい成長すると思う。
小さい姿を見れなくなるのはさびしいから、今のうちにたくさん堪能しておかないとだね。
よーし写真をもっと撮ろう!
◇◆◇
「な、な、なんてこと……」
同志の報告で急行したあだしのは、現場の惨劇を目の当たりにして天を仰いだ。
数刻前と様変わりした一角。
不運にも本棚の移動で周囲からは死角になる位置。
幽霊のほか、凶行を目撃していた者はいないだろう。
存在は知っていた。
しかし取るに足らない噂話と捨て置いた。
故に今、無視できない実害が生じている。
あだしのは決断せねばならなかった。
「出たわね――モンスター」
To be continued
余談というか今回の蛇足。
魔女の日記
(U・ω・U)<乙女の秘密
(U・ω・U)<古い共通語と魔法のフレーズで書かれている
(U・ω・U)<後者は魔女がスキルや付与の際に使用するスクリプト
《統一言語》
(U・ω・U)<紙に書かれた文章はもちろん
(U・ω・U)<暗号やプログラミング言語も意図を読み解ける
(U・ω・U)<ただし意味がわかっても、内容が暗号じみてるとサラは理解できない
クロスバイ
メインジョブ:【巨像職人】
レジェンダリア所属。エクストリームの人。
【泥命真化 エンキドゥ】
TYPE:アドバンス・カリキュレーター
到達形態:Ⅵ
能力特性:擬人化
(U・ω・U)<クロスバイの<エンブリオ>
(U・ω・U)<粘土を塗って整形すると生物・無生物問わず人間に近いガワを纏う
(U・ω・U)<元から弱体化して知能と寿命の概念が付与される
(U・ω・U)<ジェネリック人化の珠
(Є・◇・)<また厄介な……
サラの従魔(エクストリームver)
ジェイド→あなただけのリトルプリンス
ルビー→ツインテールお嬢ちゃま
ターコイズ→オペレーター・クールビューティ
クロム→イキリーゼント不良
(U・ω・U)<みんな人化してもらった
(Є・◇・)<これ《人化の術》使う時と同じ姿なのか?
(U・ω・U)<そうだね
(U・ω・U)<初期設定で違和感ないように決まる
(U・ω・U)<スキル習得の練習になるらしい