長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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忘れものはなんですか

 □【高位従魔師】サラ

 

 洞窟から立ち去る代わりに、【リグレット】から助けてほしいとお願いをされた。

 わたしはもちろんだいじょうぶ。みんなが納得できる方法があるならそれが一番だ。

 当事者のあだしのさんはというと。

 

「いいんじゃない?」

 

 しまらない顔でぽけーと口を開けていた。

 後ろに宇宙が広がって見えるのは気のせいかな。

 悪いようには思っていないみたいだから、ここはひとまず話を進めようと思う。

 

 手助けするなら、頼みごとを教えてもらわないとね。

 お話するのはわたしの得意分野だ。

 【リグレット】は普通のモンスター。だけど言葉は理解している。影やモヤみたいで実体を持たないから、きっと声で意思を伝えることができないんだろう。

 

 方法はいくつかある。

 さっきみたいに質問するとか。

 紙とペンで文字を書いてもらうとか。

 

 あとは、わたしだけのやり方だね。

 

「あなたのことを教えてほしいな」

 

 お墓に近づく。【リグレット】は動かない。

 敵意はないよと示してゆっくり手を伸ばした。

 ぼんやりとした影は、アリアリアちゃんのマーナガルムとはまた別で、肌に触れるとくすぐったい。

 

 片方の手は【リグレット】に。

 もう片方はあだしのさんと手を繋ぐ。

 肩の上で目配せするジェイドはもちろん対象だ。

 

「《言詞の壁を越えて(ギャザー・イン・ザ・ランド)》」

 

 みんなの意識をひとつにまとめたら、ぐるりと世界が色あせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――やあ。君が森の主人かな?』

 

『ごめん。邪魔をするつもりはない。すぐに立ち去るよ。ただ、そう、道を尋ねたいだけで』

 

『ここ、いったいどこなんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『すごいな君は。何でも作れるのか』

 

『え? ……参った。差し出せるものは何も』

 

『いいや。国に帰れば、まあそれなりに』

 

『うん、私と一緒に来るのはどうだろうか。いい考えだと思うのだけれど』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうだい。感想は? そうか。……そうかぁ」

 

『皆いいやつらだ。きっと仲良くできる』

 

『無理に、とは言わない。でもね』

 

『……いいや。何でもないさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見てくれ! このクソでかいう◯こを!』

 

『ヴォルフラムが十蔵と黒鶴とで探してきたらしい。きっと【竜王】クラスのやつだ』

 

『うわ、やめろなにをす――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また薬を盛ったね。君というやつは』

 

『あまり兵士をいじめないでやってくれ。機嫌を取るのはオットーの役目としても、私への風当たりが強い』

 

『軍は弱い方がいい? はは、道理だね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……全員で軍を率いるように仰せつかった』

 

『王命だ。今の陛下に言葉が届くとも思えない』

 

『そうだね。クラリッサ、長命種の君にとって、不老不死は魅力に映らないだろう』

 

『――――』

 

『それは、聞かなかったことにしておくよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が浮かび上がる。

 ぐっと引き戻されて、心が体の重みを思い出す。

 深い記憶の奥底を覗いた後はちょっと疲れる。

 

 今回は記憶の持ち主が誘導してくれたから、あっさりとお目当ての光景を見ることができた。

 あいまいな視点で聞こえたのは誰かの声。

 話しているその人の顔は塗りつぶされたようで、すり切れてかすれたようだった。

 

 はっきり伝わったのは強い気持ち。

 後悔、未練、いろんな言葉があるけど、この子の思いと助けてほしいことは明らかだ。

 

「貴方の未練解消を手伝えばいいのねっ」

 

 その通りだよあだしのさん。

 ズビズビだから涙をふいて鼻水をかんでね。

 

「で、具体的にどうすればいいのかしら」

「やり残したことがあるって感じですね。それが何なのかまではこの子もわからないみたい」

「手詰まりじゃないの」

「仲間に関係があるかも?」

 

 わたしの考えにコツリと肯定がある。

 【リグレット】もなんとなく感じるのかな。

 

「未練の大元は記憶の人物と考えるのが自然。今のは記憶の持ち主と魔女の会話よね。出てきた名前は選択肢から外して問題ないでしょう。六人の誰かだとしたら、消去法で二人まで絞れる……【征伐王】オリビアは長命種……記憶の持ち主と考えるのは違和感があるわ」

 

 あだしのさんは指折りで理由をつぶやく。

 この世界の昔話や歴史に詳しいね。ぱっと名前と特徴が頭に浮かぶなんて。創作活動のリーダーをするくらいだ。物語が大好きなんだろう。

 だけど、顔に一瞬の不安がよぎって、あだしのさんは気持ちを押さえつけるようにクールダウンする。

 

「【流浪騎士】ユリウス。そのモンスターの未練を晴らす鍵は彼のはずよ」

 

 クラリッサさんとユリウスさん、二人はきっとなかよしだったんだろう。クラリッサさんが今でもユリウスさんのことを覚えているように。

 ユリウスさんが死んじゃった後もクラリッサさんを気にかけている、ということかも。

 

「お墓、ユリウスさんの名前がかすれちゃってますよね。直してあげるのはどうかな」

「丁寧に埋葬されてないから化けて出たってこと……? なくはないかも知れないけど」

「決まりですね! ねえ、触ってもいい?」

『……』

 

 本人(?)の確認が取れたから、お墓の掃除とユリウスさんのお名前を刻む作業を進める。

 

 あだしのさんが道具で名前を掘る係。

 わたしはジェイドと一緒にお掃除だ。

 

 ホコリを風で一か所にまとめる。

 表面の汚れはこすって洗い落とす。

 水は初級魔法の【ジェム】で出した。べんりー。

 六つのお墓をきれいにするのは大変な重労働だけれど、そのまま放置されるのは悲しいもんね。

 

 お掃除が終わった後はお供えだ。

 ユリウスさんのお墓に置かれている、白い花を取って新しいものに変えた。他の人もおんなじように。

 

「あ」

「今ピキッて音が……」

「き、気のせいよ。気のせい」

 

 欠けた破片をくっつけてお仕事終了だ。

 心なしか【リグレット】はうれしそう。

 揺れ方でなんとなく機嫌がいいのが伝わる。

 

「まだ未練は晴れないようね」

「うーん。一緒に手がかりを探して、ピンとくるものがあったら教えてもらうのはどうですか?」

「思い出せればいいけど。ある程度の目星をつけないと終わらないわ。魔女の手記を何通か保管しているから、読み返してみましょう。……展開的に離別かしら……一人だけ戦死していないわけだし……」

 

 二人であーでもないこーでもないと相談する。

 ただ途中からあだしのさんは集中して一人考えに没頭してしまった。アイテムボックスから出して並べたメモに、お墓の七人の名前が書いてある。

 ひょっとすると前から調べていたのかも。

 

 暇になったわたしと離れた場所で、【リグレット】は漂う人魂を吸収していた。

 

「なにをしてるの? ご飯?」

『……』

 

 気になって質問したら人魂が差し出される。

 影の指先がちょんと青白い灯りをつついた。

 真似してみたらわかると言いたげな雰囲気。

 

 だいじょうぶそうだし失礼して。

 

 触れた途端、光に飲まれる。

 バベルの意識共有とおんなじような感覚。

 自分と別の視点が古いフィルムのように映る。

 

『――そんなに死にたいなら勝手にしろ!』

 

 クラリッサさんが誰かをののしる声。

 一秒の短い時間で、わたしは現実に引き戻された。

 

「今のは……」

『……』

 

 これは記憶だ。【リグレット】がなくしてしまった過去のかけら。

 どうして記憶がバラバラの人魂になっているのか、理由まではわからない。ただ、思い出を復元するために、この子は散らばった人魂を吸収している。

 

 そして今の記憶は大事な部分だった。

 クラリッサさんが本気の口ゲンカをした相手は、きっとユリウスさんに違いない。

 悲しみと怒り、なにより恐怖が伝わってくる。

 

 この記憶が戦争に向かう直前のものなら。

 二人はケンカしたまま別れたんじゃないだろうか。

 ずっと心残りを感じたまま、長い時間が経った。

 

「もう一度お話したい?」

 

 コツリ。影は深く頷いた。

 じゃあやることは決まりだね。

 

 さあ、始めよう。

 

 今から目指すのは過去の清算。

 

 文句なしのハッピーエンド。

 

 そのために、わたしは――

 

「よし、方針は固まった。あのねサラ」

「あだしのさん! 【リグレット】をクラリッサさんに合わせてあげましょう! 一緒に!」

「……え?」

 

 仲直りのお手伝いをするよ!

 

「――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」

 

 

 ◇

 

 

「事情はパーフェクトに理解したわ。その上で、私から送る言葉はひとつ……怖いもの知らずか?」

 

 正気を疑われた。

 

 なんでも洞窟の蔵書庫に入るまで襲われたことが何回かあるって。デスペナルティになった人がたくさん。

 

「会話する前に殺されるのがオチよ」

 

 その点は問題ないはず。

 落ち着いていたらお話できると思うよ。

 じゃあダメだね。さっき怒らせちゃったもん。

 ……あれー?

 

「安心してちょうだい、我が共犯者。弊<VOID>レジェンダリア支部は優秀な人材を揃えているの。魔女をどうにかできそうな<マスター>に心当たりがあるわ。彼に協力を仰ぎましょう。案内するから私に着いてきて」

「どんな人なんですか?」

「そうね……神より尊い御方ね」

 

 かみさま? まるで想像がつかないや。

 会ってみたらわかるかな。

 

 あだしのさんについて洞窟の通路を進む。

 ただ困ったのは、歩いていると幽霊が近寄ってきて、その度にわたしの足は止まる。そしてまた幽霊がどんどん集まるといったありさまだ。

 

『俺の身体を知らないか』

「向こうにあったよ」

 

『ねえ知ってる? この本には貴重な魔法が記されているのよ。読んでごらんなさい』

「嘘でしょ。だまされないからね」

『チッ! 道連れにしようと思ったのに!』

 

「あ、ネック閣下」

『吾輩に声をかけるとは何処の礼儀知らずか!?』

 

 会話できる幽霊はこんな感じ。

 ほかはわたしの言葉を聞いてくれず、一方的に話すだけだったり、黙ったり、クエストが発生したり。

 途中から列が増えて、聖徳太子ばりの同時対応をすることに。なかなか目的地に辿り着かない。

 

『……』

 

 興奮して暴れ出す一歩手前のみんなを落ち着かせてくれるのが【リグレット】だ。

 毎回ひとにらみで幽霊が縮み上がる。

 どうしてこの子には従っているんだろうか。

 ちょうど近くにいた幽霊に聞いてみる。

 

「この子、そんなに怖い?」

『怖いかですって? こりゃいけませんや! お嬢さん、あんたはご自分が何を連れていらっしゃるのかまるでお分かりでない!』

「モンスターだけどいい子のモンスターだよ」

『<UBM>の方が百はマシですとも。ここじゃ十を下らない数を見たことがございますがね』

 

 わたしはそっちの方が怖いんだけど!

 ここ、<UBM>が出るの!?

 

『よござんす。知らぬなら聞かせてしんぜましょ。あんたさんの隣にいる、恐ろしい怪物の正体を』

 

 聞くも涙、語るも涙の話です。

 そんな口上で幽霊は声をひそめる。

 

『あっしらは外のアンデッドとは違います。善良で、まだ人であることを忘れちゃいません。ならどうしてこんな幽霊(からだ)になってるかと言えば……あの恐ろしい魔女の呪いなんでございますよ』

 

 周りはそうだそうだと頷いた。

 どうやら幽霊はみんな、おんなじ理由で幽霊になっているらしい。その原因がクラリッサさん。

 予想していたからびっくりはしない。

 

『あれは人の心を待ち合わせていないんです。森に迷い込んだ人間が何人も捕まった。魔女討伐の兵士は次々と倒された。痛ぶって呪って最後にはパクリッ! 平らげてしまうんでさあ』

「……? 食べられちゃうの?」

 

 ちょっと言葉とニュアンスが違う気がする。

 内容がふわふわで、ごまかされているような*1

 

『あっしらは魔女の糧。肉と骨と血と内臓、全部あれに奪われました。残ったあっしはなんですか? もう自分が誰かもわかりゃしない! ……でもこの体になってはっきりしました。あれのやりたかったことが』

「やりたかったこと?」

『そうです! 魔女の使い魔です! お嬢さんの隣にいるのはあれの分け身! 魂を呪われたあっしらの、いわば唯一の成功作なんでございますよう!』

 

 幽霊が言葉を切ると、大歓声と拍手が響いた。

 演説した幽霊を他の幽霊が胴上げして、わっしょいわっしょいとどこかに運んでいく。

 幽霊が呪われたアイテムと一緒にすっ飛ぶ景色は、さすがにあだしのさんも見たことがなかったようで目を丸くしている。

 

「ぇ、ナニアレ」

「わたし幽霊とお話できるんです」

「貴方ってもしかしてちゅうにびょ……いいえ駄目よあだしの。相手はまだ子供。知らぬふりが武士の情けというものなんだから」

 

 なんだか誤解されているね。

 わたしの作り話じゃなくてスキルだよ。

 

「でも悪くないわ。今から会う相手に貴方の話をしたら、少なからず興味を持ってもらえるはずよ」

 

【誰が、何に興味を持つだと?】

 

「わっ!?」

 

 いきなり空中にメッセージが現れる。

 ゲームのウィンドウやアナウンスとは違って、羊皮紙にインクで走り書いた筆跡だ。

 あだしのさんはびっくりしていない。目の前のメッセージに、普通に言葉を返した。

 

「こんにちは先生。進捗はいかが?」

【ご所望のブロマンスは書いてないぞ。夢小説の方は昨晩仕上げたが没にした。駄作だったからな】

「なんでよぉ!? ……コホン。ノベルス? 客人の前よ。失礼がないように。それと頼み事があるの」

【だが断る】

「逆接の使い方おかしいでしょう! 貴方それでも物書きなのかしら!?」

 

 一通り叫んでからあだしのさんはメッセージについて紹介してくれる。

 

「彼はノベルス。小説家で、我々の活動では原作を一手に担う大先生よ」

【そちらの説明は不要だ。道中の言動はつぶさに観察させてもらった】

「ぜんぶ見てたなら、わたしが来た理由もわかってるってことですよね」

【モンスターと魔女の対話の手助け。加えて、あだしのは背景事情(ストーリー)を解読させようという魂胆だな】

 

 あだしのさんはそんなことを考えていたんだ。

 クラリッサさんとお話するチャンスを無駄にしないためには事前準備が大事になる。

 小説家は物語を作る専門家。わかっている情報で、【リグレット】の未練について正解を導き出すことができるのかもしれない。だとしたらすごいね。

 

【幽霊と話す程度で個性が出ると思ったら大間違いだぞ。まるで目新しさが感じられん。俺が興味を持つ訳がない。恥を知れあだしの】

「いきなり当てがはずれたのだけど」

【しかしだ。死者の知識は計り知れない価値を持つ。そちらであれば対価に釣り合うだろう。お前が本当に幽霊と対話できるなら、だが】

「本当ですよ! 嘘じゃないもん!」

 

 証明する方法は意識の共有くらいだから、やれと言われたらバベルのスキルを使うことになる。

 

【そう焦るな。今クロスバイと遊戯中でな。意識を飛ばされると心底迷惑だ】

「仕事してくれる?」

 

 クロスバイ……エクストリームの人だね。

 小説家って結構ひまなお仕事なのかな。

 

【ときに小僧。サラとか言ったな。お前、何か忘れていることはないか?】

「ほえ?」

 

 なんだろうと首を傾げるわたしに、

 

【件の魔女がご執心だ。ついでに<VOID>の連中も軒並み轢き殺されているな】

 

 とても冷たい無表情のクラリッサさん。

 呪いと悪魔の攻撃に倒れる<マスター>。

 ノベルスさんはメッセージに添えた挿絵で、洞窟内部に起こっている事態を告げるのだった。

 

【ハハハ! 加えて【征伐王(・・・)】まで敵に回るか!】

「はわわ……」

 

 あと、あだしのさんは泡を吹いて倒れた。

*1
年齢制限。ただし死んでいる事実は変わらない




余談というか今回の蛇足。

ユリウス
(U・ω・U)<まごうことなき英雄の器

(U・ω・U)<例に漏れずクソボケ


<UBM>
(Є・◇・)<【トゥレラ】と【ピカトリクス】と

(U・ω・U)<サービス開始前まで遡ればもっといる


ラスト
(U・ω・U)<襲来の魔女

(U・ω・U)<そしてまさかの当代【征伐王】

(U・ω・U)<詳しくは次回

(U・ω・U)<原作の影法師(F.O.E)ほど理不尽じゃないよ
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