PERSONA5 The BlackJack   作:柴猫侍

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XIII.Wake Up,Get Up,Get Out There

 

 

『それでは続きまして、ダンス部の発表となります!』

 

 溌剌とした進行と喝采の中、壇上に数人の少女が現れる。

 登場と同時に流れ始めたビートは、これから始まる熱狂を期待する鼓動のように体育館に響いていた。

 

「楽しみだな、レン!」

「ああ」

 

 観客に溶け込んでいた少年は、体を上下に揺らす一人の少女へ目を向ける。

 未だ背中を見せるダンス部だが、彼女の後姿だけは遠めから見てもくっきりと浮かび上がっていた。

 

 誰よりも彼女が待ち望んでいた。

 そして、絆と乗り越えた過去を象徴するリストバンドを着けた腕が掲げられた瞬間(とき)

 

『ユニット名は“GROOVY”! 曲は───』

 

 何の変哲もない、純粋な笑顔が目に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

「いやぁー、迫力あったな!」

「ホントそれ! 動きキレッキレだったし!」

 

 学内の一角で盛り上がる集団。

 一見まとまりのない集まりにも見える彼らの内、金髪の少年と少女は先ほどまで眺めていた文化祭の出し物の興奮冷めやらぬといった様子であった。

 

「あまり舞踊は嗜んでいないが、確かにあれは凄かったな。いいインスピレーションを受けた。他校の文化祭に来るのもやぶさかじゃあないな」

「そうね。前は色々と大変だった時期だし……でも、違う学校で楽しむっていうのもいいものね」

 

 一年前を思い出しながらたこ焼きを頬張る少年に、知的な少女は懐かしんだ様子を見せる。

 と、そこへ横から手が伸び、熱々のたこ焼きが一つ器から消え、『なッ!』と落ち着いた少年に驚愕の声を上げる。

 

「俺のたこ焼きが……!」

「はふッ! はふッ!」

「大丈夫、双葉ちゃん!?」

 

 案の定熱い思いを味わう一回り小さい少女に、上品な気風漂う少女が飲み物を差し出す。

 

 当たり障りのない会話に、当たり障りのない光景。

 文化祭という非日常の一幕を切り取った中では、何の変哲もないやり取りではあるが、それを眺めていた一組の少年少女は実に穏やかな表情を浮かべた後、同時に見つめ合っては破顔した。

 

「みんな仲が良いんだね」

「ああ」

「……ちょっと妬いちゃうかも」

 

 端的な返事であるが、その一声にはどれだけの思いが込められていたのだろうか。

 しみじみとした蓮の様子に、瑛は怪盗団の面々を順に観察しながら考えを巡らせた。

 

 先日、邪神は打倒された───悪神を討ち取った時とも、偽神を討ち取った時とも違う結末の果てに。

 劇的な逆転劇とは言い切れないが、それでも戦った四人には清新な感覚は、未だ心に残っている。

 

『我は汝、汝は我……』

 

 

『影とは常に汝の傍に纏うもの』

 

 

『我の旅路は、汝らと共に……』

 

 

『なればこそ……祈ろう』

 

 

『汝の旅路に、幸多からんことを……』

 

 

 邪神は、最期にそう言い残して消えた。

 否、消えたと言うと少し違うかもしれない。正確には世界と一つに───元の場所へ帰っていった。

 

 取り戻した日常は、取り沙汰するような出来事も起こらない平穏な日々。

 報道番組に目を向ければ、良いニュースと悪いニュースは半々で、以前の怪盗団ほど世間を賑わせているスクープなんてものは流れてこない。

 

 が、それでも。

 仮面を脱ぎ去り、暗澹たる闇の世界から帰還して望んだ世界は、今までよりも明るく見えた気がした。

 

 それは自身の見え方が変わった所為か、それとも邪神を通じて認知世界に異変が起こった所為か。

 はっきりとした答えは出てこない。

 だがしかし、“それでもいい”と前向きになった心が笑って背中を押してくれているような気がした。

 

「夢じゃないんだよね? 私たちが戦った記憶」

『もちろんだぞ』

 

 不意に談笑へ加わる声に振り向けば、紛れもない怪盗団の一員が共犯者と現れた。

 

「ソフィア! 一ノ瀬さんも!」

「やあやあ、全員楽しんでいるようだね!」

 

 片方にソフィアを映したタブレット端末、もう片方に屋台で買ったであろうフランクフルトを携えた一ノ瀬が全員の視線を集める。

 

「だけれど、今回の新入り兼立役者が蚊帳の外で寂しがってるがいいのかな?」

「えぇッ!? いやぁ、寂しがってなんて……」

『そうだぞ。竜司、もてなしてあげろ』

 

 唐突なソフィアの無茶振りに『俺かよ!?』と頭を抱える竜司。

 ドッと笑いが沸き起こり、瞬く間に話の中心は一人の新顔が据えられた。

 ここから音頭を取り始めたのは杏だ。全員がジュースを片手に持ったのを確認し、明るい口調で歓迎を始めた。

 

「それではぁ~! 我々の新たな一員である瑛ちゃんの歓迎とお疲れの意味を込めてぇ~……かんぱぁ~い!」

『乾杯!』

 

 カァン! と缶ジュースがぶつかる甲高い音が鳴り響けば、密かに世界を救った怪盗団の祝勝会が幕を開けた。

 

「この前は全然話せなかったけど改めてよろしくね、瑛ちゃん!」

「わぁ! もしかしてって思ったけど、やっぱり読モやってる……!?」

「あ、もしかして知ってる感じ? 嬉しぃ~!」

「本物の杏さんだぁ~! 実はあのファッション誌読んでます!」

「ホント? ありがと! ってか、そんな“さん”つけとかしなくていいし! 呼び捨てで呼んじゃって! タメでしょ?」

「あわわッ、有名人と話してるみたいで緊張するっていうか……!」

 

 真っ先に声をかけた杏と瑛は打ち解け合う。

 クォーターとハーフという身の上だからか、この中では最も距離感が近しいという理由もあるだろう。

 そんな杏に続いて、他の女性陣もこぞって話しかけていく。

 

「さっきのダンス、とてもカッコよかったわ。ああいう出し物は文化祭ならではよね」

「はい! 真さん……でしたよね?」

「ええ。そんな堅苦しくなくていいわ。わざわざ文化祭に誘ってくれてありがとうね、楽しいわ」

「楽しんでくれて嬉しいです! あっ、そうだ! 私たちのクラス、出し物でお化け屋敷やってるのでぜひ来てみてください!」

「えっ、お化け……!?」

「きっと楽しいですよ!」

 

 落ち着いた雰囲気が一変、真はみるみるうちに青ざめていく。

 そのあからさまな狼狽えようには、実質初対面な瑛も疑問を覚えるほど。

 まさかと考えを巡らせる内、子細を把握している仲間はやれやれとかぶりを振って助け舟を出す

 

「うふふ、それじゃあ後で立ち寄ってみるわね。瑛ちゃん」

「ありがとうございます! えっと……奥村先輩、ですっけ?」

「覚えてくれてたんだ! 改めまして、奥村春です」

 

 優美な所作で自己紹介する春は、にこやかに微笑みながら握手を交わす。

 と、そこへ、

 

「またの名を美少女怪盗!」

「へ? 美少女……怪盗……?」

「ちょっ……双葉ちゃん!?」

 

 頭一つ分小さい少女が、かけている眼鏡を光らせながら声高々に叫んだ。

 瑛は『確かに美少女……』と意図を察さぬまま納得するが、青ざめる真とは対照的に、春は赤面する。

 というのも、黒歴史とまではいかないまでも恥ずかしい過去を掘り返されれば、誰でもこうはなるだろう。

 

「あ、あんまりそれは人前で言わないで……!」

「ん、ダメだったか? いつもここぞとばかりに言ってたもんだから、つい」

「素面だと恥ずかしいの……って、そういう問題じゃなくて!」

 

 自称でも他称でも美少女呼ばわりは恥ずかしい。

 

 そうして散々年上を弄んだ少女───双葉はと言えば、悪戯が成功した子供のような笑い顔を浮かべていたが、

 

「双葉も自己紹介はしないのか?」

「え、わわわ、私がかっ!!?」

「当然だろう」

「ちょ~っと待ってくれ! こういうのは心の準備が必要なもんで……!」

 

「いや、動揺し過ぎじゃね?」

 

 蓮からの振りに挙動不審になる双葉へ、竜司の冷静なツッコミが入る。

 

 代わる代わる豊かな表情を見せる面々。

 そうした気の置けないやり取りを見れば見るほど、年の差など関係ない仲の良さが垣間見えるようだった。

 

 本当に───本当に深い絆で繋がっているのだろう。

 あの常識外れな景色を見たからこそ感じ取れる。彼らは単純な“友達”ではなく、それこそ“仲間”や“戦友”といった深い関係を築き上げているのだと。

 

 この形容し難い関係を何と呼ぼうか?

 顎に手を当てる瑛は、しばし眼前の光景を反芻したところであたりをつけ、

 

()()()

「え?」

「だな? 俺たちは」

「……うん!」

 

 見透かしたように言い放った蓮に、瑛は清々しい笑顔で答えてみせた。

 

 そう、共犯者だ。

 おいそれと他人に話せぬ秘密を共有するからこそ、紡がれる絆の形。

 

「でも、それだけじゃないもんね」

「ああ」

 

 しかし、それもあくまで彼らの関係性を言い表した一面に過ぎない。

 

“友達”であり。

“仲間”であり。

“戦友”であり。

“共犯者”であり。

 

 折り重なる関係こそ、共に見せ合う表情の厚みをもたらしている。

 瑛にはそう感じ取れた。

 

「私もああいう風になれるかな?」

 

 純粋な羨望から言葉が漏れた。

 そんな何気ない問いに、

 

「なれるさ」

「雨宮くん……」

「変えたい気持ちがあるなら、何にでも」

「……ふふっ、そうだね」

 

 自身の世界を変えてくれた怪盗が迷いなく答えた。

 瑛を見据える瞳は逸れることなく、じっと二人が見つめ合う時間が流れる。

 

 すると、先に耐え切れなくなった瑛がぷっと噴き出した。

 ポケットに入れたタブレットが振動したのは、その時だ。

 

「あれ、誰からだろう……あっ!?」

「どうかしたのか?」

「お化け屋敷! そろそろ交代の時間だよ!」

「……しまった」

「そんな悠長にメガネを上げてないで!」

 

 交代制で要員を回しているクラスの出し物だが、そろそろ二人の時間がやって来たようだ。

 

「すまない、みんな。また後で来る」

「気にしないで。二人共、気をつけてね」

 

 真をはじめとした面々に、瑛と蓮(とバッグの中で振り回されるモルガナ)は送り出されながら駆け出す。

 

「ほら、急いで急いで!」

「待て。そんなに急いだら……」

「きゃっ!?」

 

 転ぶぞ、と言わんとした矢先で瑛が前のめりに倒れかけた。

 地面に埋まる石に躓き、綺麗に体が伸びきった状態。そこから体勢を立て直すには瞬時に足を前に出すしかないが、

 

「……言わんこっちゃない」

「め、面目ない……」

「気をつけてな」

「うん! ……うん?」

 

 すんでのところで蓮が手を取って引き上げたおかげで転倒は免れた。

 それも引っ張った先で絶妙な力加減で抱き留めたのだから、傍目からすれば演劇の一場面に見え、無駄に周囲の視線を集めてしまったようだ。

 

「い、急ごっか!」

「? だからそんなに急ぐと……」

「今度は転ばないから!」

 

 駆け出すやハッと気づいた瑛は、平然と並走する蓮とは裏腹に茹蛸のように顔を染めて速度を上げて消えた。

 

「とてつもなく早いムーブ……私じゃなきゃ見逃しちゃうね。これじゃあ蓮の毒牙にかかるのも時間の問題、と」

「双葉、人聞きの悪いことは言わないの」

「でも、さっきのあれはちょっと憧れるかも……」

「春、マジ……?」

 

 メガネを光らせる双葉に苦笑いする真。隣では乙女になる春を信じられないものを見るような眼を杏が浮かべていた。

 

 片や男性陣はと言えば、

 

「蓮の野郎、なんてナチュラルに……!」

『祐介。竜司は何を羨ましがってるんだ?』

「それはだな、ソフィア。人間には高嶺の花のような自分の手に届かないものを欲しがる性質があってだな……」

「いや、他人に手が届かないって言われるの残酷過ぎね?」

 

 歯に衣着せぬ祐介の説明に竜司が肩を落としていた。

 その様子に一ノ瀬は呵々とばかりに笑い、落ちた肩に手を乗せる。

 

「人生これからさ、そうめげる必要はないさ!」

「いや、なんで俺失恋したみたいな扱いされてんスか?」

 

 そう言い返したところで笑いの渦が巻き起こる。実に無情だ。

 

 怪盗団の輪に交じっている共犯者の一ノ瀬もまた、取り戻した平穏を前に偽りのない微笑みを零す。

 しかし、徐に伏せる表情。

 その奥には今回の一件への憂慮が覆い隠されていた。一人の大人として見逃せぬ、それでいて少なからず自身が関与しているであろう問題へ───。

 

(今回はあくまでも自然発生した認知世界だったが、また人為的に生み出されるケースは十分にあり得る。政府関係者……いや、認知訶学に携わった何者かが悪用する可能性はこれからも捨てきれないだろう)

 

 人間の欲望に限りはない。

 彼の邪神が証明したように、時に欲望は人智を遥かに超える超常現象を引き起こすことだってあり得る。

 

 その時、被害を受ける大部分は認知世界を知らぬ者ばかり。

 どす黒い悪意に人生を好き勝手される世の中などあってはならないが、生憎と社会の闇は暗く深いものだ。光と影ともつかぬ深淵は、いずれその淵を広げては無辜の民を犠牲にしていくだろう。

 

(私も研究を続けなければな……償いとして)

 

 密やかな決心を立てる一ノ瀬。

 するとそこへ、

 

『また難しい顔をしているな』

 

 ソフィアの心配そうな声が響いた。

 

「あれ? そんな顔をしていたかい?」

『私の目は誤魔化せないぞ。なんてったって、私は一ノ瀬の友人だからな』

「……ふふっ、こりゃ敵わないね」

『相談があるのなら私に言ってくれ。力になるぞ』

「ありがとう、ソフィア。頼りにしているよ」

 

 一人で抱え込もうとした憂慮でさえも暴かれる。

 そう、彼女は怪盗団の一員。心の中に隠された秘密や嘘など、華麗に頂戴するのだろう。

 

(……また君達が必要とされる世の中は来てしまうのかな)

 

 年端もいかない少年少女を頼りにするのは大人として情けなく思う反面、最後に残された望みと捉えれば、得も言われぬ心強さを覚える。

 

 虐げられる弱者の味方であり、現代に現れた義賊“心の怪盗団”。

 彼らが居る限り、人の心と願いを踏みつけにする欲望は、掲げられた正義の下に改心されるだろう。

 例え怪盗団が居なくなったとしても、第二、第三の模倣犯が現れる可能性も否めない。

 

 いつの時代も、叛逆の意志を抱く者は存在するのだから───。

 

(大衆の認知に強く焼き付いた印象はそう易々とは消えない。もしも、その時が来たとすれば……)

 

───案外、認知世界の方が君たちを呼び寄せるのかもしれないな。

 

 光と影が表裏一体であるように、認知犯罪と怪盗団もまた切っては切り離せぬ関係。

 認知を悪用して横暴を働く者が現れたとするのならば、叛逆の旗を掲げる者もまた現れる。

 

 

 

 一枚の予告状と共に。

 

 

 

 

 

 

「───ねえ、雨宮くん」

「どうした、瑛?」

「……ううん、やっぱりなんでもない。こういうのって奪ったもの勝ちだから!」

「? そうか」

「ふふっ♪」

 

 

「……オマエって奴はつくづく罪な男だぜ、レン」

 

 

「?」

「あっ! 下駄箱に予告状仕込んでおくのも逆にオシャレかも……

 

 

 

───TAKE YOUR HEART(貴方の心を頂戴する)───

 

 

 

 人々の心を奪う怪盗は、貴方の傍に居るのかもしれない。

 




こんにちは、柴猫侍です。

これにてPERSONA5 The BlackJack完☆結でございます!
始まりは他の作者様も参加した杯の為に用意した作品でございますが、無事に終わりまでこぎつけることができました……。
ペルソナの中でも一際オシャレな演出が特徴“5”、その雰囲気を味わっていただくために色々と目で楽しんでもらえるように試行錯誤を凝らしたりしましたが……まあ、それは裏話なので程々に。

この作品を経てペルソナ、延いては女神転生といった関連作品にご興味を持っていただければ嬉しい限りです。
何より読んでいただいた皆様に、一時でも娯楽になれば筆をしたためた甲斐があるというもの!

重ね重ねになりますが、最後まで読んでいただき大変ありがとうございました!
画像一覧の方に、この作品のためにしたためたイラストや表紙などもご覧になれるので、ご興味があればそちらもどうぞ!

また別の作品でお会いしましょう!
それでは、柴猫侍でした~。
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