PERSONA5 The BlackJack   作:柴猫侍

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Ⅳ.脱出

 ゆらゆら、ゆらゆらと。

 不安定な幽玄の光。けれども力強く灯るランプを掲げるペルソナ―――ナイチンゲールは、瑛の背後で不敵な微笑みを見せている。

 当の瑛はと言えば、認知の歪みから心を鎧う装束を身に纏っていた。

 白衣とロングコートを一体化させたような白い怪盗服。中に着込む赤いシャツが、より彼女の衣装の白さを際立たせている。

 

 清廉ながら、内に秘める情熱を感じさせる姿だった。

 

「―――これが私の心の力」

 

 胸に手を当てる瑛。

 心臓の鼓動とは別に、脈動し、全身に通う熱い力を感じ取る。

 

「そうだよ……どんなに押しつけがましくったって私には―――助けたい人が居る!! もう一人の私! 貴方が本当に私なら、貴方の力を貸して!!」

『喜んで』

「刻め、ナイチンゲール!!」

 

 嘘偽りのない言葉と共に燃え盛る情動。

 それを表すかのように収束する炎は、みるみるうちに巨大な火球となり、次々に湧き出るシャドウへと解き放たれた。

 その首領と思しき白い怪人だけは飛び退いたが、一歩出遅れたシャドウの群れは、広がる爆炎に呑み込まれて消滅する。

 

「うおおおお!? な、なんつー威力だ……!」

「それだけ彼女の想いが強いんだろう」

「へっ! よくもまあそんな歯が浮く台詞を言ってくれるぜ、ジョーカー!」

「フンッ。モナ、それよりもこんな好機を逃すか?」

「逃す訳ないだろ。瑛の攻撃で敵が動揺している……攻めに出るなら今しかねえ!」

 

 一陣の風が吹き、影が奔る。

 次の瞬間、瑛の隣には刃物を手にした二人が立ち並んでおり、彼らの軌跡の傍に立っていたシャドウは形を保てなくなり、地面へと染み込むように倒れていった。

 そうした早業を前に、瑛は『わっ!?』と驚きの声を上げながら二人を見る。

 

「あ、雨宮くん……だよね?」

「ああ」

「えっと、色々聞きたいこととかあるんだけど」

「こっちも説明したいことは山々ある。が、今はこの場を切り抜けることだけを考えてくれ」

「う、うん!」

 

 困惑しながらも蓮に言われた通り、前方で群がるシャドウに目を移す。

 そこでモルガナが掛け声を上げる。

 

「よし! フクダ、さっきの炎を撃ってくれ! 狙いは適当でもいい!」

「……やっぱり喋ってる」

「にゃー! 今はそこに触れなくていいんだよ!」

「そ、そうだったね! お願い、ナイチンゲール!!」

 

 掲げるランプから解き放たれる無数の火球。

 それらは着弾すると同時に天井を焼き焦がすほどの火柱と成る。強力無比な火炎の海が広がり、雑魚シャドウは瞬く間に一掃されていく。たとえ倒すまでに至らずとも、これでは火傷を負うのは必至だ。

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()

 

「よーし、ワガハイの出番だな!! スマートに決めるぜ!! とおりゃあああ!!」

 

 解き放たれる疾風―――マハガルダインが火の海で吹きすさぶ。

 するや、瞬く間に熱風が部屋を覆い尽くす。火は風に煽られ、より猛々しく燃え上がるという訳だ。

 これで先ほどのマハラギダインで辛うじて生き残っていたシャドウも駆逐された。

 しかし、たった一体だけは依然火の海の中を掻い潜り、三人の元へと迫って来ている。

 

『―――』

「ジョーカー! 来たぞ!」

「任せろ! ペルソナァ!!」

 

 最も危険視すべき敵の襲来を前に、蓮が仮面の下の素顔を晒す。

 その所作に伴って現れるペルソナ。

 だが、現れたのは逢魔の掠奪者たるアルセーヌではない。

 

「メタトロン!!」

 

 現れ出でたのは光沢が眩い金属で組み上げられた天使だ。

 アルセーヌとは似ても似つかない―――それこそ対極の位置にあるかのような姿形。かつて蓮と固い“正義”の絆を結んだからこそ誕生したペルソナは、その装甲から神秘な輝きを放ち、迫りくる切り裂き魔に対して眩い祝福の光を解き放つ。

 

「マハコウガオン!!」

『―――!!』

 

 広範囲に殺到する聖なる光。

 逃げ場など皆無に等しく、軽快な身のこなしをするこのシャドウですら避け切れずに被弾して怯む。

 膝を折り、地面に屈する。

 

 それこそが最大の好機。

 

「総攻撃だ! いいか、やるぞ!」

「えっ、そ、総攻撃!?」

「後に続け!」

「うっ、あぁー! こうなったら、ノリにノっちゃうんだから!」

 

 各々の武器を構え、膝をつくシャドウへと飛びかかる三人。

 瑛は懐に仕舞っていたフォールディングナイフを取り出し、流れるままに一斉攻撃に参戦する。

 軽やかな身のこなしから繰り出される、前後左右からの息をつかせぬ猛攻―――これこそが怪盗団の真骨頂の一つであり、

 

「これで……トドメだぁー!!」

 

 激しい死闘に相応しい幕引き(フィナーレ)だ。

 

「ッ……はぁ! はぁ……! これでッ、いいの……?」

「おう! 中々の動きだったぜ!」

 

 息を切らしながらも自分たちの動きに付いてこられた瑛の身体能力にはモルガナも感嘆した様子だ。

 

『―――ッ!!!』

「チッ、ワガハイたちの総攻撃も耐えるか。タフな奴だぜ」

「えぇ!? それじゃあもう一回……うっ?!」

「フクダ!」

 

 突如、立ち眩みでもしたかのようにフラつく瑛。その直後、彼女の背後に佇んでいたペルソナの姿も青い炎と共に霧散して消える。

 咄嗟に蓮が支えに入るものの、これでは攻勢を維持するのに拙い。

 

「やはり覚醒してすぐじゃ消耗が激しいか……」

「モナ、瑛を連れて退くぞ」

「分かってる! おい、疲れてるところ悪いが走れるか!?」

「な、なんとかイケそうかも……」

「よーし! なら、逃げるが勝ちだぜ!」

 

 引き際が肝心と言わんばかりにモルガナが撤退を促し、三人は部屋を後にしようとする。

 だが、瑛だけが後ろ髪を引かれるように振り返り、病床に臥す親友を見遣った。

 

「絵美……」

 

 黄金の双眸でこちらを見つめる少女を前に足が止まった。

 彼女が本物だとは思っていないが、万が一の“もしも”を想ってしまうだけでこうも決心が揺らいでしまっている。

それだけ彼女達の絆の深さを感じ取る蓮であるが、悠長にしていられる時間がないことも確かであり、やや強引ではあるが瑛を抱きかかえて走り出す。

 

「ちょっ、雨宮くん!? ま、待って……!」

「彼女の説明は後だ。少なくとも本物じゃない」

「そうなの? って、そっちじゃなくて……!」

 

 ペストマスクの下に隠れる顔を真っ赤に紅潮させる瑛。

 と言うのも、余りにも自然な流れでお姫様抱っこされようものなら、このように取り乱してしまうのも致し方のない話だろう。

 そうして最終的には押し黙ってしまう彼女を目にし、隣を並走するモルガナはやれやれと首を振るのだった。

 

『―――』

 

 その後ろ姿を切り裂き魔は見続ける。

 ジッと、彼女の影が見えなくなるまで。

 

 

 

 

 

 

『ナビゲートを終了します』

「はぁ……はぁ……戻ってこられたの?」

「そうみたいだ」

「やれやれ、つくづくお前は持ってるな。トラブルに事欠かないぜ」

 

 三人は学校の昇降口に居た。

 すでに校舎内の灯りは消え、不気味に照らす街灯だけが光源だ。

 そのように目を凝らさなければ他人の顔も満足に見られない中、瑛は目を細めて蓮の顔を凝視する。

 

「……ホントに雨宮くんだ」

「疑っていたのか?」

「だって変な仮面被ってたし」

「瑛も被っていたぞ」

「えっ、嘘!?」

 

 パンッ! と両頬に手を当てる瑛だが、当然ながらイセカイから脱出した今、仮面が顔にあるはずもない。

 結果としてはもっちりとしたたまご肌に指が食い込むだけであるが、頬を奔る衝撃で数秒黙り込んだ彼女は、ハッとした面持ちを浮かべる。

 

「きゃあああ!?」

「うぐむっ!?」

「あっ、ぎゃぴ!? お、お尻がぁ……!」

 

 唐突にお姫様抱っこされている状況を思い出して赤面した瑛が蓮を押し倒す。が、抱きかかえられている以上、蓮が倒れれば瑛も一緒に倒れる訳だ。まんまと運命を共にした彼女は廊下の硬い床にお尻を打ち付けて悶絶する。

 若い男女が二人、夜中の校舎で重なって倒れる。そんな光景を目の前にするモルガナは呆れたように溜息を吐いた。

 

「おいおい、静かにしろよ。一応夜中なんだからな。警備員なりなんなりが居るんじゃあ―――」

『おい、そこ! 誰か居るのか!』

「ほら、言わんこっちゃない! 逃げるぞ、お前ら!」

 

 すると騒ぎを聞きつけたのか、警備員と思しき人間の声が足音と共に廊下の先から近づいてくる。

 

「えぇ!? 今逃げてきたばっかなのに……」

「今度こそ前科者になるな。罪状は……不法侵入と言ったところだな」

「逃げよう! 今すぐ逃げよう!」

「ほら、走れ走れェー!」

 

 正真正銘の札付きとならないよう、二人と一匹は死に物狂いで走り出す。

 

 全力疾走すること数分、何とか撒けたと思えるコンビニ前まで辿り着いた彼らは、息を整えながら額を伝う汗を拭う。

 

「ひぃ……ひぃ……ダンスでもこんなに疲れないよ……やっぱ嘘。ものによる……」

「ダンスも随分動くんだな……」

「そりゃ、まあね……ふぅー」

 

 ようやく息が整ってきた頃、金糸のような髪を頬に張り付ける瑛は、ジッと蓮を見つめる。

 

「? どうした」

「いや……夢じゃなかったんだな、って」

「そうだな」

「ねえ、教えてよ。あそこがどんな場所なのか。聞きたいことさ、色々あるんだ」

 

 それは当然の疑問だった。

 ただの一般人だった者が突然イセカイを訪れようものなら、混乱して然るべきだ。それまでの人生の中で築き上げた価値観が一変する奇想天外な世界なのだから、彼女の聞きたいことも山ほどにあるのは想像に難くない。

 

「構わない。だが」

「だが?」

「飲み物でも飲んで帰りながらで構わないか?」

 

 すぐ傍のコンビニを指さす蓮が、くたびれた笑みを浮かべながら告げる。

 

「……うん、賛成!」

 

 

 

 

 

 

「―――つまり、あそこは人の認知が作り出したもう一つの世界みたいな場所で、そこにはもう一人の私たちも生きてる……みたいなこと?」

「おおむね合ってる」

「う~ん……頭がパンクしそう」

「誰だって最初はそうさ」

 

 頭を抱える瑛の傍で、一頻り説明を終えた蓮がコンビニで買ったホットコーヒーを口に含む。ここ最近コンビニのコーヒーも侮れない味へと進化してきているが、やはり惣治郎の淹れたコーヒーには及ばない―――と、ほんのり郷愁の念を憶えつつ。

 

「問題はどうしてワガハイたちがイセカイに侵入しちまったかだが……」

「……」

「ん? どうした、フクダ。そんなにワガハイを見つめやがって」

「イセカイの姿も猫がモチーフだったのかなぁ、って」

「おい、猫じゃねーよ!!」

「いや、猫だよ!! どこからどう見ても猫の見た目してるよ!?」

「確かに今の姿は猫だけどな!! あっちの姿は猫じゃねえって意味で……って、おい!! ワガハイを撫でるなぁー!!」

「もふもふ……この撫で心地、まるでぬいぐるみ!」

「ぬいぐるみじゃねーよ!!」

 

 と、瑛もすっかりモルガナの現実とイセカイでの姿の違いに慣れた様子だ。猫を撫でる手つきも慣れたものである。

しかし、いい加減話を進めたいモルガナは猫特有の液体の如く柔らかい体を活かし、瑛の手から脱出し、話を戻す。

 

「ともかく、情報を整理したい。ワガハイたちは霧に包まれたと思ったらイセカイに居たんだ。フクダはどうなんだ?」

「えっと……確か私も似たような感じだったと思う」

「なるほどな。その後で聞いたのがイセカイナビの声だ。レン、スマホには―――」

「探してみたが、影も形もないな」

「なんだとっ!?」

 

 軽やかに蓮の肩に飛び乗ったモルガナが、彼の携えるスマホの画面を見る

 だが、いくらホーム画面をスワイプしてみても、かつてのイセカイナビらしきアプリは見つからない。

 

「でも、確かにあの声は……!」

「問題は霧の方か」

「……ああ、ワガハイもそっちが原因だと踏むぜ。ありゃあ普通じゃない」

 

 昇降口を覆い尽くす濃霧。

 いくら霧深い土地だとしても、あれほど唐突に霧が雪崩れ込む現象などありえない話だ。

 とすれば、あの霧こそがイセカイへと繋がる“扉”、あるいは“鍵”のようなものなのだろう。全ては憶測の域を出ないが、今はそう考えた方が筋道も通る。

 

「あの……二人とも、少しいいかな?」

「ああ、いいぜ。こうなっちまった以上、無関係とは言い切れないからな」

「ありがとう、モナちゃん。単刀直入に訊くんだけど―――二人ってもしかして心の怪盗団なの?」

 

 その問いに、一瞬だけ蓮とモルガナの表情が固まり、互いの顔を見つめ合うようにアイコンタクトを取った。

 そして、

 

「ああ、そうだ」

 

 余りにも呆気なく認めた。

 これには瑛も面食らったのか、ぽかんと口を開けたまま硬直する。

 

「そう……なんだ。ホントのホントに居たんだ」

「驚いたか?」

「うん。なんていうか、突然有名人と会っちゃったみたいな感覚……かな?」

「間違いないな」

 

 フッ、と蓮は笑う。

 確かに心の怪盗団の知名度は高い。ハワイに修学旅行で赴いた時は、現地人にさえ名を知られていたほどだ。それだけワールドワイドならば有名人と呼んでも間違いはないだろう。

 しかし、知名度は高ければ高いほど良いものでもない。

 特に素顔を隠し、闇に潜む悪人を改心させる謎の手口で活躍する正体不明の集団ならば尚更だ。

 

「誰かに口外するか?」

「ううん。きっとこんなこと他の誰かに話しても信じてもらえないだろうし……それに、雨宮くんとモナちゃんは命の恩人だから、そんなことしないよ」

「ありがとう」

「それに―――私、怪盗団のファンなの!」

「なに?」

 

 今度は蓮が面食らう番だ。

 突然のファン宣言を受け反射的に振り向けば、キラキラとした眼差しを送ってくる瑛の表情が目に入る。

 

「ファンだったのか」

「うん! お恥ずかしながら、実は怪盗団の追っかけみたいなこともしてて……えへへ」

「(……アカネみたいな奴だな、レン)」

「(嬉しいことだ)」

「(まあ、確かにな)」

 

 夏休み中にも熱烈な怪盗団ファンと出会ったばかりでもあり、意外と身近に怪盗団を応援する人間がありふれている事実には、驚きと喜びを覚えるばかりだ。

 そんな本人すらも置きざりにする勢いで怪盗団への思いの丈を騙っていく瑛は、単なるミーハーでないことをひしひしと感じさせる。

 

「私ね、特に最初の改心事件……あっ、あの金メダリストの体育教師が体罰事件を自白した奴がお気に入りでね! ……って、こういう言い方じゃ不謹慎かな。お気に入りって言うか、凄く勇気を貰えたって言うか」

「お、おう……怪盗団を応援してくれるのはありがたいんだが、話を戻すぞ」

「あっ、ごめん! 長々と喋っちゃって」

 

 このまま語らせていたら深夜を回りそうな予感を覚えたところでモルガナが割って入り、本題へと入る。

 

「どうして霧がイセカイへの玄関口になってるかはさておき、あのジェイルの(キング)は絵美のシャドウだ」

「シャドウ……ってことは、もう一人の絵美って意味でいいんだよね?」

「ああ。シャドウは人間の抑圧された負の内面だ。あれも絵美自身と言って間違いじゃない」

「ッ……」

「そう暗い顔すんな。確かにシャドウは当人と表裏一体だが、悪いところだけ判断するニンゲンは居ないだろ?」

「……うん、そうだね」

「だが問題なのは彼女がイセカイの景観が変わるほどの認知の歪みを持っていることだ」

 

 認知―――つまり、心の歪み。

 理由はどうあれ、今現在絵美の心が歪んでいる事実を、あの監獄は体現している。

 

「歪み……? を持ってるとどうなるの?」

「ありきたりな表現をすれば人格が歪んでる。大抵は悪い方向にな」

「それじゃあ絵美は……」

「……話を聞く限りじゃあ、イジメが原因で人格に異常が来されていると見て間違いねえだろ」

「そんな!」

 

 『何とかならないの!?』と瑛が悲痛な声を上げる。

 確かに彼女は見てしまった。監獄と化した学校を。閉じ込められている同級生や教師の姿を。

 それらは全て、己をイジメ、それに加担し、あるいは見て見ぬフリする者たちを監獄に閉じ込めておくべき罪人と認知しているからこその景観だ。

 そして本人は病衣をまとい、ベッドに横たわる始末。

 認知の歪みが引き起こした光景とは言え、余りにも悲痛である。これまで戦ってきた王は例に漏れず自身の力に傲り、各々を支配者としてジェイルに君臨していた。

 

 にも拘わらず、あの痛々しい支配者の姿はなんだ?

 

「ワガハイたちは悪人の敵である以上に苦しんでる弱い者の味方だ。すぐにでもエミを助けてやりたいところだが……」

「アプリがない以上、自由にイセカイに侵入もできない」

「それじゃあ……!」

「まあ待て、結論を急ぐな。本来ならワガハイが心の怪盗団らしく華麗にオタカラを―――つまり、心が歪む原因となったブツを盗んでやるんだが、今回ばかりはそれが使えない。なら」

現実(こっち)で何とかするだけだ」

 

 コーヒーを飲みほした蓮がゴミ箱に空の容器を放り投げる。

 綺麗な放物線を描いた“弾丸”は、そのままゴミ箱へと狙い通りに投げ入れられた。

 

「雨宮くん……!」

「言っただろう? 取引だって」

「ッ……ありがとう!」

 

 目頭を熱くしながら礼を言う瑛に、蓮とモルガナが微笑み返す。

 そうだ、イセカイなど無くとも人の心を変えられることは彼ら自身よく知っている。戦いの場がイセカイから現実へと変わっただけだ。

 

 絵美の歪んでしまった心を救うことを二人は決意する。

 

「(だが、仔細については他の奴らにも連絡しといた方が良さそうだ)」

「(ああ)」

 

 事情が事情である為、他の怪盗団の面子を招集するか悩ましいところであるが、異変については情報共有すること間違いない。

 こうして一先ずの話し合いを終えた三人は、家族が心配するよりも前に帰路へつくのだった。

 

 

 

 更なる異変が訪れる明日が待ち受けているとも知らず。

 

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