エンディング後のアニメ世界に来たけど、ヒロインが怖い   作:ツム太郎

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好きなキャラの様子がおかしい

 季節は春。

 麗らかな心地よい気候が身を温め、ほどよい眠気を誘ってくる。

 さながら小鳥のさえずりは子守唄だろう。今瞳を閉じれば、数秒もしないうちに眠りの底へと行けるだろう。

 薄めの布団なんかあったら最高だ。

 

 顔を上げ、空を見上げてみる。

 何の形もとらず、着の身着のままに空を歩く雲たち。

 目を閉じればそのまま夢の中へ。春眠暁を覚えずとはこの事だ。

 

 こんな日はカフェの野外席でゆっくりするのが一番。

 そう思った俺は、早朝から街で一番小さな喫茶店に赴いていた。

 ワケあって人の多い場所にはいられない自分にとって、この店はとても都合がいい。

 お客も少ないし、店主も寡黙だ。俺がいても通報はしないでくれている。

 

 そんなことを思いながら、頬に当たる風を感じる。

 ふわりと身を包んでくれる風。最高だ。

 このまま眠ってしまっても良いが、それでは店主に迷惑がかかってしまうだろう。

 俺はふわふわとする心地に足を着けるべく、注文したコーヒーに手を取った。

 

「……ふぅ」

 

 多めにコーヒーを口に含み、香りを楽しみながらゴクリと飲み干した。

 ふと、自分の今の状況を考えてみる。

 

 異世界転移。転生ではなく、転移。

 この世界に純度100%の不純物な俺が混じっている。

 何が原因でどうやってこの世界に入ってきたのかは分からない。いつものように自室で寝て、いつものように自室で起きる筈が全く別の場所にいたのだから。

 しかし幸いなことに、俺はこの世界自体は良く知っていた。

 

 サァベイション・イン・ザ・ケイブ

 

 直訳して「救いは洞穴に在り」。

 タイトルからして暗い悪臭がプンプンしてくる完全オリジナルアニメ。

 そしてタイトル通り、その内容も果てしなく暗かった。

 

 ただの村娘であった天真爛漫な主人公ララベルがある日、女神からの神託を受けて勇者となり魔王を倒す。

 大まかな内容はこんな感じなのだ。これだけなら何兆回も見たような、よくあるアニメ設定だろう。悪臭どころか晒されすぎて臭いすらしない設定だ。

 

 だがこのアニメの内容は、栄えある冒険譚のように明るいモノでは無い。

 強制的に城へ連行されたララベルは今まで持ったことも無い剣を握らされ、城の騎士達相手に異常なほど苛烈な鍛錬をさせられる。

 女神様に選ばれたのだから、これくらい当然だ。そう言わんばかりの容赦ない仕打ちに、明るかったララベルの顔はアニメ開始から最初のCMまでの間に真っ暗になってしまっていた。

 その表現も生々しかったんだよなぁ。木刀でおもっくそ叩きつけるわ、魔法の火の玉を何発も直撃させるわ。

 

 頼れる人間が全くいない事も酷い。女神に選ばれるくらいだから重宝されるのかと思ったがそういうワケでもない。

 むしろ皆彼女を人とすら見ないで、ただの道具みたいに扱っていた。

 止めて助けてと言っても誰一人ララベルを助ける事は無く、むしろザマァミロって感じで笑っていた。

 何故城の人間が彼女をそこまで虐げるのかアニメでは一切理由が無かったせいで、ただただ胸糞の悪い理不尽なイジメそのものに見えた。

 

 ララベルがどれだけ傷付いても回復魔法ですぐ治り、すぐさま鍛錬という名のリンチを継続。

 まさに無限地獄のソレだ。

 

 そして一気に数年経った後、ララベルは薄い皮の防具と使い古された木刀のみ渡されて城を追い出される。

 RPGじゃ勇者へ送られるのは木の棒と100ゴールドが相場だが、ララベルへ送られるのは打撃と火の玉だけだ。ブラックどころでない。駒を通り越して塵扱いである。

 ララベルも城を出た時には、もう涙も枯れ果てて死人のような顔をしていた。

 ちなみにこの時点でアニメはまだ第一話。既に多くの視聴者は精神をガリガリと削られただろう。

 

 で、数年の苦痛の果てにララベルはようやく魔王討伐の旅に出た。

 その中でも彼女は様々な裏切り、苦痛を味わうのだが……そこは割愛しよう。

 旅の果て、最終面で彼女は人間や女神に対する禁忌を犯してしまう。

 あらゆる苦境に対応するため、その身に多くの魔物の力を取り込んだのだ。

 そのせいで金色の長髪は真っ白になり、眼は人間ではありえない真紅に染まった。

 額からは隠せない程の角が生え、おおよそ人間ではない見た目になってしまったのだ。

 

 結果、ララベルは魔王を討伐できた。だがそんな彼女を人間たちが受け入れる事は無く。

 ララベルは最後、人間たちに封印されてエンディングとなった。

 その時のララベルが絶望し、画面いっぱいに引き攣った笑いを浮かべるシーンは本作ラストにして最大のトラウマシーンだ。

 比較的新し目なアニメだが、動画サイトでよくある「アニメのトラウマシーン総集編」なんかには必ず載ってくる。

 

 当然視聴者からの批判も多かった。

「どうしてこんなアニメを作った!?」

「ララベルがあまりにも可哀想すぎる」

「コレを見た小学生の子供に悪影響が及ぶ」

 そんな批判が相次いだ。

 しかしまぁ、そんなアニメの中毒性も半端ではなく。

 多くの信者を生み出し、様々な同人等も制作された。その内容も大体が良い内容では無かったが……。

 

 とまぁ、これがサァベイション・イン・ザ・ケイブのおおまかな説明である。

 かくいう俺もこのアニメは大好きだった。

 初見の時はあまりに酷い展開に呆然自失になったが、気付いたらもう10周はこのアニメを見ている。

 否定しきれない謎の魅力があるのだ。当然資料集も買った。

 

 おかげで細かい設定まで分かったし、城の人間がララベルを虐めていた理由も分かった。

 だからといってララベルへの仕打ちは許さんけどな!

 

 

 

 さて、アニメの説明はここまででいいだろう。

 次は現状。

 長々と説明したが、俺は現在そのダークアニメであるサァベイション・イン・ザ・ケイブの世界にいる。

 

 何故分かったか?

 そりゃ親の顔程見たララベルのご尊顔前に転移されたんだから、分からない筈がないだろ。

 しかもエンディングの封印されている状態だ。これで間違えたら二度とファンを名乗れませんよ。

 

 鎖に縛られ、暗い洞穴に放置されたまま眠っているララベル。いや正確には眠らされているのか。

 彼女を縛っていた鎖には妙なデザインの札が何百枚も貼られており、資料集によると 意識を深い闇に落とす呪いが掛けられているらしい。本来なら超危険な魔物を封印するための呪術らしいが、ララベルにも容赦なく使われている。

 しかも本物の札は一枚のみで、それ以外は剥がすと辺り一帯を巻き込む大爆発を起こすトラップだ。彼女が誤って起きてしまった場合の保険のつもりなのだろう。

 ていうか、そうでもしなきゃララベルは鎖くらい簡単に引き千切れる。人間をやめた彼女を舐めてはいけない。

 その気になれば第二の魔王にだってなれる。

 

 まぁ逆を言えば、札さえなんとかすればララベルは解放されるのだ。

 故に、俺は迷わず本物の札を引き千切った。

 この封印の札は本物だけデザインがちょっと違うから、すぐに見つける事ができる。

 それによって何が起きてどんな事になってしまうのか。そんなことはどうでもいい。

 俺がなんでララベルの目の前に転移したのかは分からない。

 ていうかどうせなら、城に連行される頃にチート持って行きたかった。そして彼女とイチャラブしたかった(怨)。

 

 だがそれが叶わないなら、せめて彼女を救いたい。

 バッドエンドがなんだ。女の子に似合うのはハッピーエンドなんだよぉ!

 というワケで、その後の行動にシフトするまで秒とかからなかった。

 俺は微塵の迷いなく、一切の躊躇なくその札を引き千切ったのである。

 

 瞬時、明らかに分かる異変が起こった。

 軋んでいた鎖の砕ける音。バラバラに飛び散り光を乱反射させていく。

 幻想的と言ってもいいくらいに輝く鎖たちは、湿った地面にボトリボトリと落ちていった。

 

 そんな光景をポカンとした表情で見ていた時、視線を感じて前を見る。

 そして直後、目覚めたララベルと目が合って――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を見ているんだい、コウ?」

「いやぁ、お空を少々」

 

 紆余曲折あって、現在に至る。

 ララベルは解放され、封印されていた洞穴からも無事脱出。

 現在は人間の街に溶け込み、古い空き家に住んでいる。

 ていうか、住ませてもらってる。

 彼女を解放してしまったせいで、多勢力から色んな理由で狙われているために。

 

 そして今俺の目の前で椅子に座り、こちらを微笑みながら見ている彼女こそララベルだ。

 身震いするほど美しい顔に、悍ましいほど歪んだ魔力を持つ。

 人間を超越し、魔物を淘汰した化け物。

 生き物を生かし、殺すことも容易く行う人知を超えた力をいくつも内包している。

 あらゆる姿に体を変化させ、あらゆる術を発動可能だ。

 

 これだけでも十分に恐ろしいが、一番恐ろしいのはその目だ。

 感情が籠っているようで、何も映していない。

 優しげに微笑みながら、100にも及ぶ兵士をただの血肉に変貌させる。

 もう彼女にとっては、人も魔物もただの動く肉だというのか。

 

 不滅なる異形。ソレが今現在のララベル。

 いかに冒険者らしい軽装に身を包んでも、歪んだ角をフードで隠しても、その異常さは決して隠しきれない。

 

 そんな彼女が、微笑みながらこちらを見ている。

 異形になろうと綺麗だし可愛いけど、圧が半端でない。

 ていうか貴方、なんでここが分かったの?

 確か貴方が寝ている間にコッソリ家を出た筈なんですけど……?

 

「何を言うんだ。君が何処にいても私にはすぐに分かるよ。当然だろう、他ならない君なんだから」

 

 おぉう、優しい顔で怖い事を言ってくれる。

 誓って言うけど口に出してない。さらっと心を読むのは以降止めてほしい。

 

「ふふ、許しておくれ。君の事となると、ついつい覗いて見たくなってしまうんだ」

 

 そう言ってララベルは目を細めると、身を乗り出して俺の方へ右手を伸ばしてくる。

 ゆっくりと、まるで飼っている猫を撫でる時のように。

 以前なら天変地異が起きても構わないような超嬉しい場面だが、如何せん狩って食われるんじゃないかという気分なワケで。

 彼女の優しげな目も、俺を安心させてどっか真っ暗なところに引きずり込もうとしているような……そんな不安に駆られる。

 

「どうしたんだい、不安そうな顔をして。婦女子に言い寄られるのは男の本望……たしか君はそう言っていたね?」

「ははは、いやまぁ相違ないんスけどね……」

「なら、君は私に身を委ねるべきだろう。私に全て任せれば幸せになれるのに。それをいつまでも、いじらしく……あまり感心出来る事ではないよ」

 

 結構喋っているが、この間でララベルの表情は一切変化していない。

 怒りとか悲しみといった大まかな感じではなく、瞼の開き具合とかそこら辺のレベルで。

 いやホント、好きなアニメの好きなキャラだけど流石に恐怖が半端でねぇ。

 アニメ序盤では明るく活発な女の子だったララベルが、こんな未知との遭遇チックなキャラになるとは思わなかった。

 頼む、頼むからこの状況を誰か打破してくれ。

 

「……ララベル」

「おや、すまない。意地悪が過ぎてしまったようだね」

 

 俺が声を掛けると、ララベルは大人しく席に戻ってくれた。

 クスクスと笑いながら、変わらず底の見えない真っ暗な目でこちらを見てくる。

 蛇に睨まれた蛙とはこの事か。あの目を見るだけで全身が動けなくなってしまう。

 

「では、これだけ言っておこう。とはいっても、もう何回も言ったことだが」

「な……んだよ」

「君だけは私のものだ。私の明かりだ。誰にも渡さないし、誰にも譲らない。決して離しはしないよ……ふふ」

「――!!」

 

 全身に剣が突き刺さる感覚。

 地面に固定され、一切の自由を奪われたかのような。

 きっと殺気ではないのだろう。

 一切の不純が無く、研ぎ澄まされ、刃のように鋭い。彼女なりの「好意」なのだろう。

 そう思っても、やっぱり恐ろしい。

 この世界に来てもうしばらく経つが、未だに慣れず震えてしまう。

 

 好きなアニメの好きなキャラが非常に怖い。

 額から流れる汗のせいで、先程まで心地よかった風が気持ち悪く感じた。

 




書き殴っていたネタの一つを赤裸々投稿。
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