エンディング後のアニメ世界に来たけど、ヒロインが怖い   作:ツム太郎

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解放されてすぐのこと

 一応言っておくと、最初からララベルがこんな感じだったワケではない。

 助けてすぐの頃、彼女はほとんど人形のような状態だった。

 

「……貴方は、誰だ?」

 

 おぼろげな目でコチラを見続けるララベル。

 ララベルはその場で膝を突くと、辺りをキョロキョロと見渡す。

 ゆっくりと、不安げな表情をして。

 

「ここは……そう。私は、王や神官たちにここで……」

 

 ララベルは心底諦めきったかのようなため息をこぼす。

 自分がどんな運命を辿ったのか、細かく思い出したのだろう。

 

 彼女は魔王討伐後、王城へ戻った後にここへ呼び出されていた。

 苦境の果て、ようやく元の日常に戻れると思っていたララベルは、この地で封印魔法を施されたのだ。

 鬱蒼と茂る魔物の森。その最奥にある洞窟の中に。

 

 まともな思考回路をしていれば、それが罠だということは分かっていただろう。

 いや、もしかしたら彼女自身分かっていたのかもしれない。

 分かっていた上で、自分の足で赴いたのかもしれない。

 その理由が人への信じる心からか、諦めからだったのか。それは分からない。

 ただ一つ、彼女が封じられる直前に爆発させた感情は本物だったということだ。

 その心情を土足で踏みにじり、荒らす権利は俺には無い。

 

「……ララベル」

 

 だが、いつまでもこのままではいけない。

 俺は彼女の名前を呼び、コッチに意識を向けてもらう。

 彼女はビクリと体を震わせた後、恐る恐るといった感じで俺を見た。

 

「……」

 

 思わず絶句してしまう。

 暗い。暗く、底の見えない目だ。

 怖いという感情よりも、痛ましいという気持ちがわいてくる。

 アニメで見るのとは比べ物にならない。

 本物の絶望を味わった女の子。そのポッカリと空いたような瞳が俺を見ていた。

 

「ッ……」

 

 視線を逸らしてしまいそうになるが、なんとか彼女を見続ける。

 俺が彼女を見ないでどうするのか。そう思ったが故だった。

 

「俺は雨田 幸次。コウでいい。君を助けるためにここに来た。とりあえずここから出よう」

 

 そう言って、ララベルの前に手を差し出す。

 しかし、彼女は俺の手を凝視するだけで何もしない。

 俺のことを疑っているのだろうか。無理もないが、今はとにかくここから脱出しないと。

 

 そう思ってもう一度ララベルに手を突き出すが、彼女は笑いながら下を向いてしまった。

 

「……貴方だけ、逃げるといい」

「何言ってるんだ。そら、さっさとここから出ないと」

「出て、どうする? 私には何も無い。全部奪われて、捨てられた。どうせ逃げても追われ続けるだけだよ」

 

 彼女は俺の手を払うと、力なくその場に座り込んでしまった。

 自分が縛られていた壁に背を付け、ゆっくりと首を傾ける。

 

「これが似合いなのさ。私の全て、その総算だ。せっかく穏やかになったんだ、貴方もこの世界を満喫するといい」

「そんな……そんなワケない」

「あるんだよ。所詮私はこの世界の、そして女神や人間の捨て駒だ。用が済んだら捨てられて当然。首を切られないだけマシというものだ……あぁ切っても死なないんだったな……ふふ。お笑いだ、もう自分が何を夢見て歩いていたのかも覚えていない」

 

 そう言って、彼女は眼を閉じる。

 もう何も言うことはない。そういうことなのだろう。

 彼女は受け入れていた。いや、受け入れてしまっていた。

 自分の運命、振り回され続けた結果。その全てを。

 だからこそ生きる人形として、ゴミ捨て場に捨てられることを良しとした。

 

「ッ! そんなワケないだろッ!」

 

 つい声を荒げてしまう。

 まるで何度も見たアニメを、もう一度見させられている気分だった。

 ララベルは永遠に封印され続け、それを良しとして繁栄する人々が生き続ける。

 そんな事実が許せないし、ソレを受け入れるララベルも許せなかった。

 ソレが俺自身のエゴだということも理解している。でも、彼女には別の生き方がある筈なんだ。

 

 少女らしく普通に生きて、普通に恋をして、素敵な日々を過ごして。そんな人並みの人生を送る権利が当然にある。

 あるいは英雄として人々に崇められ、どこかの国の王子と結婚して、綺麗なお姫様になることだってできただろう。

 ララベルにはその権利がある。それだけの偉業を果たしたんだ。

 そんな彼女が、こんなところで捨てられていい筈がない。

 

「掴まって」

「……何を、私の事など」

「良いから、掴まるんだ……ッ!?」

 

 彼女と共に洞窟を出ようと立ち上がった、その時だ。

 

――グルルル……

 

 獣の声。低いうなり声が聞こえた。

 辺りを見ると、狼に似た魔物が俺たちを睨んでいる。

 それも単体ではない。複数、それも2体や3体程度ではない。

 目で見えるだけでも10体に囲まれている。

 

「しまった……俺の大声で……!」

 

 後悔してもすでに遅く。

 多くの魔物が俺とララベルを囲ってジリジリと距離を詰めてきた。

 

「ララベル、すぐにここから逃げよう。早く行かないと手遅れになる!」

「……出たところで、アレは追ってくるさ。あぁいう生き物は、たとえ首だけになっても襲い掛かってくるものだ……だから早く逃げろと言ったのに」

「ぐっ……うるさい!」

 

 焦る俺に対し、ララベルは全く態度を変えない。

 今から魔物に殺され、ただの肉にされる実感がないというのか。

 いや、覚えがあるからこその不変なのだろうか。

 

 ララベルは封印時、持っていた武器の類を全て奪われている。

 それに武器を持っていたとしても、目覚めたばかりでロクに戦えるかもわからない。

 そもそも彼女には、魔物たちへ抵抗する意思がないように見える。

 つまりあの化け物たちとは、俺が相手をしなくてはならない。

 

 幸か不幸か、ここは洞窟だ。

 投げつけたり叩きつけるための石は無数に転がっている。

 なんとかこれで魔物の群れを追い払わなければならない。

 

「クソッ、やってやる。絶対にララベルを外に出す!」

 

 足元にあった石を持ち、魔物たちを睨みつけた。

 自分の体を奮い立たせるために大声を出す。

 

 直後、今まで感じたことのない明確な殺意が魔物たちから放たれ、まっすぐに俺を射抜いてくる。

 意気揚々と魔物を相手にしようとしたが、命のやりとりなんて初めてだ。

 相手が人間でないとしても、殺し合いなんて無縁の生活をしていた。

 

「ぐ……やらなきゃ……殺される!」

 

 足元が震え、まともに立つことができない。

 震えが腕にまで伝播し、握っていた石がポトリと地面に落ちてしまった。

 

 しまった。そう思い、石を拾おうとして魔物たちから視線を逸らす。

 その時だ。

 

「ガギャァァッ!!」

 

 一番近くにいた魔物が吠え、いきなり俺に飛びかかってきた。

 すぐに視線を戻すが、もう遅い。

 

 ダラダラと唾液を垂らす大きな口からは、ナイフと同じくらいに鋭利な牙が光って見えた。

 死ぬ直前は周りの光景がスローに見えると聞いたことがある。なるほど、確かにその牙はゆっくり俺に向かってきていた。

 まぁだからといって、何か対処ができるワケではないが。

 

 牙が俺の首に届き、勢いよく噛みちぎる。

 ブチリと千切れる音、痛み。

 霞んだ視界に噴き出す血。

 倒れる直前まで、すべてがゆっくりに感じた。

 

「……ぁ……ぃげ……る……」

 

 ベシャリと地面に倒れこむ。

 喉が千切れてしまったせいか、上手く言葉を出すことができない。

 霞んでいた視界も、端から徐々に黒く染まっていく。

 我ながら情けない。勢い勇んで立ち向かって、結果即落ち決め込む事になるとは。

 

 頭がボーっとしてきて、やがて視界が黒に染まりきるその瞬間。

 最後に見たのは、迫り来る無数の魔物。

 そして、ゆっくりと立ち上がったララベルの姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が戻る。

 暖かい布団。一瞬元の世界に戻ってきたのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 簡単な家具に木で作られた壁。

 ゲームでよく見る宿屋みたいな部屋だ。

 

 いったいなんでこんな場所に?

 そう思っていた時、ふと妙な違和感を感じた。

 

「……あ、れ?」

 

 ふと魔物に噛み千切られた喉が気になり、ソッと触れてみる。

 痛みはない。それどころか、治療されたようにも感じられなかった。

 声もしっかり出る。まるで初めから無傷だったかのように、なんの異常もない喉があった。

 

 確かに喉を食いちぎられたはず。それなのに、何故無傷なのか。

 そんなことを考えていると、扉が開いて見知った人が入ってきた。

 

「やぁ、目が覚めたようだね」

 

 ララベルだった。

 彼女は小さな鍋を片手で持ち、俺に微笑みながら近くまで歩いてきた。

 

「ララベル……ここは……?」

「あの洞窟の外。森から抜けてすぐ傍の村だよ。宿屋の使われていない部屋を拝借したんだ」

「出て……くれたのか? あの洞窟から」

 

 ララベルは俺の問いには答えず、近くのテーブルに鍋を置いて部屋の奥へ歩いていく。

 そのまま閉じていた窓を開けると、眩しい太陽の光が直接部屋の中に入ってきた。

 

「綺麗な陽の光だ」

「あ、あぁ。そうだな」

「いつか見た景色に似ている。そう、故郷から連れ去られたあの時も。城を追い出されたあの時も。こんな陽の光をしていた」

 

 太陽の眩しさなんてお構いなしと言わんばかりに、彼女は太陽を見続けていた。

 日光のせいで彼女がどんな表情をしているか分からない。

 何を思っているのかも、全くわからなかった。

 

「ララベル……」

「人並みの生活など、もう得られないと思っていた。誰にも相手にされず、孤独に消えるだけなのだと。だから、あのまま眠り続けるべきなのだ、と」

「……」

「でも、でも貴方が来た。名前も分からない、素性も知れない。何者なのか、その一切が分からない。でも、その貴方の言葉には負の感情がなかった。悪意が微塵も……無かったんだ。そう、あの陽の光のように」

 

 日光を背にして、ララベルがコチラに向かって歩いてくる。

 親と離れ、迷子になってしまった幼子のように。

 不安と焦り、そして悲嘆にまみれた悲しい表情でコチラを見ていた。

 そして俺の目の前で止まると、ベッドの上にいる俺に向かって手を伸ばす。

 

「だから……だからだ。その……私と一緒にいてくれないかな? こんな化け物でも、傍に置いてくれないか? 傍にいて、私を照らして欲しいんだ」

 

 本心からの願いだと思った。

 彼女は本当に孤独だったのだろう。

 実際、ララベルの旅の中で彼女に優しい者など一人としていなかった。最初は友好的だった者たちも、最後には必ず彼女を裏切ったのだ。

 

 そんな彼女が望むのは何なのか。考えなくたって分かる。

 ハッキリ言って分不相応だとは思う。

 こんなタダの人間に、彼女の隣が務まるとは思えない。

 

 でも俺にはこれ以外、彼女のためにできることはない。

 それに、俺自身そうなりたいと望んでいた。

 

「あぁ、大丈夫だララベル。一緒にいる、お前を一人になんてしない。それにララベルみたいな可愛い子と一緒にいられるんだから、俺としても非常に嬉しいかなぁ! なぁんて……」

 

 本心から出た言葉だった。

 後半部分は言いすぎたかもしれない。なんか恥ずかしくなってきた。

 

 だが、言うべきことはしっかり言えたと思う。

 彼女の手を取り、その目を見てハッキリとそう言ったのだ。

 

 気持ちはしっかり伝わってくれたと思う。

 ララベルは目を見開くと、顔を伏せて小さく震えだした。

 もしかして、泣いているのだろうか?

 俺の言葉で少しでも彼女が救われたのなら、これ以上に嬉しいことはな――

 

 

 

「ふ、ふふ……ふふふ……」

 

 

 

 ふと、彼女の声が漏れていることに気づいた。

 

「ら、ララベル?」

 

 顔を伏せて笑い続けるララベルを不審に思い、声をかけるが反応してくれない。

 何か失礼なことをしてしまったのか。

 そんなことを考えてみるが、特に思い当たることはない。

 

「く、ふふ……誓いは成された」

「ッ!?」

 

 瞬間、首元に違和感を感じた。

 まるで何者かに撫でまわされるような、酷く気持ち悪い感触。

 ゆっくりゾリゾリと一周撫でられ、身動きが一切取れなくなった。

 

「な、にを……?」

「あぁ、心配しなくていい。貴方は……いや君は、永遠に私と共にいれば何も心配しなくていいんだ。安心して、全て私に任せるんだ。だから……」

 

 ララベルが伏せていた顔を上げる。

 その顔を見て、思わず小さな悲鳴を漏らしてしまった。

 

 彼女の顔。

 そこには張り付けられたような優しい笑みがあった。

 だがその笑みは徐々に裂けていき、おおよそ人のソレではなくなっていき……。

 

「ずっと一緒にいておくれ。私の光。やっと得た、愛しい人……くふふ」

 

 そして三日月のように細く裂けた、底冷えする笑顔を向けていた。

 

 

 

 それからだ。ララベルが今の状態になったのは。

 本当に怖い。どこまでも不気味さを感じる。

 本物の不滅なる異形になってしまったかのような、底冷えする恐ろしさを感じさせる彼女に。

 

 ……もしかしたら、何か間違えてしまったかもしれない。

 




付け忘れていたタグがあったので、追加しておきました。
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