エンディング後のアニメ世界に来たけど、ヒロインが怖い   作:ツム太郎

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境界

「……」

「ふふ、どうしたんだい? 呆けたような顔をして」

 

 ララベル、と言っていいのか。断言していいのか分からない。

 目の前の少女は俺のことが可笑しいのか、俺を見ながらクスクスと笑っている。

 

 俺が知る、ララベルの最初。

 天真爛漫な村人だった頃。その姿で、普段のララベルの雰囲気。

 ここがどんな場所なのかとか色々と気になることはあるのだが、とりあえず目の前の彼女から感じる違和感が凄かった。

 

「いや、なんていうか……ララベルなんだよな?」

「ララベル……そう、その通りだよ。私がララベル。だけどねコウ、君からはぜひ――」

 

 ララベルは何かを言おうとしていたが、すぐに口を閉ざしてしまう。

 なんというか、俺を置いてけぼりにして何かを考えている様子だ。

 

「……ふむ、ほぉう。コウ、少し目を見せておくれ」

「う、えっ?」

 

 反応する暇もなく、ララベルは一瞬で目の前に飛んでくると俺の目を凝視する。

 いやもうゼロ距離なんて麻痺レベルで慣れてるワケだけど、やっぱりドキッとしてしまう。

 

「な、なんだいきなり」

「……なるほど、そういうことにしているのか。確かに、それなら問題は無い」

「そういうこと? ていうか、アンタはララベルじゃないのか?」

「あぁ、君は気にしなくていいよ。大丈夫、安心しておくれ。私は、そうだね……君の首に埋め込まれた魔物の種。ララベルという存在から切り離された、小さい私みたいなモノだよ」

 

 魔物の種、その中に切り離されたララベルの一部。

 そう言われ、思わず首元を撫でる。ララベルが俺を助けるために埋め込んだ魔物の種。あの中に、今目の前で笑う彼女がいたというワケか。

 酷く恐ろしい話だとは思うが……まぁ彼女ならやりかねないだろうとは思う。

 

 つまり正確に言えば、この子は俺の知るララベルとは少し違うということか。

 まぁだからといって、他に気の利いた呼び方が浮かぶワケでもないが。

 

「……とりあえずララベルって呼ぶぞ。ララベル、単刀直入に聞くけどここは何処なんだ?」

「どこか、かい。難しく言えば魔物と人間の境界、その最奥。簡単に言えば君の内側だね」

「は、内側?」

「あぁ、別に内臓の中とかってワケではないよ。君の潜在意識。不可侵の城とでも言おうか」

 

 ララベルはそう言うと、もともと座っていた場所に戻る。

 そしてさっきからピクリともしないもう一方の何者かの隣に座った。肩を寄せ、その腰回りを優しく撫でている。

 

 アレってなんなんだ?

 人……にしては動かなさすぎる。真っ黒なローブを纏っているせいで、顔どころか男か女かもわからない。

 

「……」

「ふふ、よしよし。怖がらなくていいんだよ」

 

 ララベルにあやされても撫でられても、何をされようと動かないようだった。

 彼女の様子を見るに大分思い入れがあるようだが、生憎思い当たる存在はない。

 敢えて言えば、いつも俺がララベルに受けている扱いと似ていた。普段の俺の立ち位置に、そのままあの正体不明の何かが収まっている感じだ。

 なんというか、少しだけモヤっとする。

 

「……あの、ソイツは誰なんだ? ていうか、人なのか?」

「ん? あぁ、これは人形だよ。ただの人形。ここは殺風景で寂しくてね、気を紛らわすために私が持って来たんだ」

「持って、来た……?」

「ふふ、君は気にしなくていいよ。コレはただここにいるだけ。君を害することもない」

 

 いやそういう問題でもないんだが……。

 何気ない様子でララベルは答えながら、また人形とやらに頬ずりする。なんだろう、人形にしては思い入れが深すぎるように感じる。

 彼女を疑うわけじゃないが、とりあえずその人形にも話しかけてみた。

 

「な、なぁアンタ。アンタはなんでここにいるんだ?」

「……」

 

 ガン無視。いや本当に人形なら至極全うだが。

 確かに、人形らしくピクリとも動かないし喋りもしない。ララベルを見ても微笑むだけだし、これ以上の説明は無いようだ。

 考えても仕方ないだろう。

 

 とりあえず人形の事は置いといて、別の事を考える。ララベルが先ほど言った「城」という単語が引っ掛かった。

 辺りをもう一度見渡してみるが、他に人らしい姿は見当たらない。城というには寂しすぎる。

 人もそうだが、この場所そのものもそうだ。材質不明なブロックが無作為に積まれているだけで、他に装飾らしいモノは存在しない。目を凝らすと薄っすら壁や柱のようなものが見えるが、それだけだ。

 城と言うより、神殿の方がしっくりくるような気もする。

 

「神殿ではないよ、ここは君の場所だ。神だなんて無法者の名はふさわしくない」

「無法者って……ん? 俺、口に出してたか?」

「いいや、覗いただけさ」

「は?」

「覗いたのさ、君の心をね。目を見ていれば、ある程度は思考を読み取れるんだよ。外の私は出来ないのかい?」

 

 初耳だ。ていうかそんなことあるのか?

 そういえばここに来た時、ララベルは俺の目を凝視していた。あの時に心を読み取られていたということか。ある程度と言っていたし、読み取る量には限界があるようだがゾッとする。

 

 いやだが、少なくとも本物のララベルには出来ないだろう。

 だとしたらあの封印の洞窟で出会った瞬間俺の素性は知られていたはずだが、そんな様子もなかった。

 その後もそうだ。目なんて何回ゼロ距離で見つめられたと思ってる。

 

「ないだろ。ていうか、なんでお前は出来るんだよ」

「ふぅん、そうかい」

「……なんか含みのある言い方だな」

「おや、気を悪くしたかい? ごめんよ、性分なんだ。それより、君には知りたいことがあるんじゃないのかな?」

 

 彼女に言われて現状を思い出す。

 そうだ、混乱している場合じゃない。外は今どうなっている?

 

「安心しておくれ。外は止まっているよ。ここでどれだけ時間を掛けようと、外が変化することはないからね」

「……あぁ、そうかよ」

 

 疑問に思った瞬間、返答が返ってくる。いやホント、いよいよもって何でもアリだな。

 確かにララベルは無数の魔物の血を飲んだワケだし、そういう力があっても可笑しくはない。だがどうにも慣れない。

 これじゃ何か考えるのも気を付けないと――

 

「……ぁ」

 

 そこで思考を止める。しまった、今の事も覗かれているのか?

 そんなことを思っていると、ララベルの笑みが深くなる。隣にいる人形とやらの手を握り、自分の憂いを慰めているようだった。

 

「ご、ごめん。隠し事とかするつもりは……」

「ふふ、謝る必要なんて無いんだよ。勝手に私が見ているだけなのに、そんなことで罪悪感を抱くとは」

 

 そう言いつつも、ララベルは人形から離れようとはしない。それどころか、さらに身を寄せて体を完全に預けていた。

 

「……」

 

 なんとも情けない気持ちになってきたが、今は現状把握が先だ。

 

「……ララベル、俺は何でこんなところに来たんだ?」

「おや、てっきり自分の意思でここに来たと思っていたよ」

「そんなことできないって。俺はララベルが用意してくれた魔物の肉を取り戻すためにアステアのとこへ――」

「なに? アステア?」

 

 状況を説明しようとして、遮られる。普段では一切聞いたことが無いような、体が固まってしまうほど冷たい声で俺を凍り付かせた。

 なんだ。アステアなんて名前どころか実際に会ったくらいなのに、なぜ今になってここまでキレだす?

 ていうか怖い。いつものとはまた別の意味で、ただ単純にその威圧感が恐ろしい。

 

「う……どう、した?」

「なぜ奴が出てくる。外の私は一体何をしているんだい?」

「なぜって……お前がアイツに魔物の肉を奪われたから、取り戻すために聖教会へ行こうとしてたんだろ」

「それで君は、取り戻せたのかい?」

「いや、失敗して尋問を受けてた筈なんだけど」

「……へぇ、なるほど。よし、君がどんな状況なのか理解できたよ。ここからでは外がどんな状況なのか分からなくてね」

 

 そう言うと、彼女は怒りを潜めて左腕を軽く上げる。それだけで、周囲に変化は何も起きない。

 

「……何したんだ?」

「なに、住人を呼んだんだよ」

「住人? ここって俺の中なんだよな?」

「あぁ、その通り。だからこそ呼んだんだよ」

 

 意味が分からないが、何かを呼んだと言われて辺りを見渡す。

 一体どういうつもりなのか。そう考えていると、妙な気配を空間の奥から感じた。

 

「なっ、魔物!?」

 

 出てきたのは三体の魔物。

 ぶよぶよとした白く肥大したスライム。紫色を基調とした毒々しい模様の大蛇。そして金色の鉱物で覆われた魔物。

 

 アニメでも見たことがある。イディオット・スライム。ヴェルノ・サーペント。キング・ゴレムス。

 どれもララベルが最初に食べた魔物達であり、俺が食べた魔物達だった。

 奴らはいきなりブロックの影から現れると、のそのそとこちらの方に寄って来る。

 さすが最強の部類の魔物と言うべきか。アニメとは違って、実物だと威圧感が段違いだ。

 

「……」

「ふしゅるるる」

「ごぉー……」

 

 だがなんだ、敵意らしいモノはまるで感じない。

 物珍しさというべきか、おっかなびっくり探ろうとしているような感じだ。

 

「……まさか、俺に食われた奴らなのか?」

「その通り、彼らは君の中で住む家臣。魔に堕ちた君の呼びかけに応じ、君に力を託す。自由自在さ」

 

 そう言ってララベルは魔物達を一瞥した。魔物達は各々体を震わせたりして反応すると、近くにあったブロックに近寄る。

 そのままキング・ゴレムスは人間っぽくチョコンと座り、イディオット・スライムやヴェルノ・サーペントはブロックに乗っかった。

 

「さて、配置は完了した。あとは君が彼らを呼ぶだけだよ」

 

 呆気に取られていると、ララベルが再び話しかけてきた。

 

「呼ぶって、どうやって?」

「……外の私は何をやっているんだ。まぁ良い。なに簡単さ、頭の中で彼らを呼ぶと良い。そうだね、門の中から引っ張り出すような感覚だ」

 

 ララベルの説明を聞きながら、アニメで彼女がどうやって魔物の力を引き出していたかを思い出す。

 

――――――顕現ッ!

 

 魔法ではなく、魔物の力。

 その力を人間の身で行使するには、内に秘めた魔物の存在を常に意識する必要がある。

 脳内にそのスペースを作る合図として、ララベルは「顕現」と叫んでいた。

 覚えている。忘れる筈が無い。魔物の血を飲み、拒絶の痛みに耐え、体を歪めてララベルが得た力。

 

 雨の降る日、魔物に囲まれ。

 泣きながら、変わり果てた体を震わせて使っていた。

 その力が、今俺の中に在る。

 

「知っているだろう? 私が君の事を知っているように、君は私の事を知っているんだから」

「……あぁ、そうだな」

「なら、あと必要なのは決意だけだ。君はその力を使えば、もう本当に戻れない。世界の、そして女神の敵になる」

「……」

「それでも、君は私の隣にいてくれるかい?」

 

 ララベルの問いが耳に届くと同時に、視界が狭くなる。

 黒が迫り、この空間から追い出されるような感覚を覚えた。

 

「さぁ、コウ。見せておくれ。君の決意を、善意を。君だからこそ見せられる。その意思を」

 

 瞬間、視界が完全に黒くなる。ソレと同時に、小さく笑った。

 当然だ、至極当然。もう決意なんてとうの昔に出来ている。

 人に留まるか、境界を超えるか。もう既に、選択する必要すらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……顕現」

 




ご指摘、ご感想がありましたらよろしくお願いいたします。
色々あって凄く遅れてしまいました。申し訳ないです……。
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