エンディング後のアニメ世界に来たけど、ヒロインが怖い   作:ツム太郎

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同時刻、王城にて

 

 こうしてララベルとコウは出会った。

 二人は森の近くにある小さな村の宿に身を潜め、数日過ごすこととなる。

 異世界転移をしてすぐの修羅場を抜け、コウはしばしの休息を得ることが出来たのだ。

 

 しかし、それを他の者は許すだろうか?

 否、決して許しはしない。

 ララベルの復活。その異変は、直ちに王城へと知れ渡ったのだ。

 

 

 

 王城、並びに王都ハルメイア。

 女神の信託を受けてララベルを連行し、彼女の力によって繁栄した国。

 かの国の上層部は、緊急事態の発生による会議が急遽行われていた。

 

「ララベルが……勇者が逃亡しただと!?」

 

 声を上げたのは大臣の一人。黒い髭を蓄えた彫りの深い顔をした男である。

 大臣は額から大量の汗を流し、今にも卒倒しそうな勢いだ。

 周りの者たちも同じように顔を青くさせ、ザワザワと小声で話し合っている。

 まるで何か、ララベルに対して後ろめたい事があるかのように。

 

 ララベルの復活が知らされたのは、ほんの少し前のこと。

 彼女の封印を見張る兵士からの、定期的な連絡が途絶えたことが始まりであった。

 

 封印の森。そこには魔物だけでなく、王城から派遣された兵隊がいた。

 その数約50名。全員がそれなりの力を持つ実力者である。

 加えて、この隊には上層部に忠実な者達ばかりが選出されており、森への侵入を一切許さない。興味本位で侵入した者も、無自覚に迷ってしまった者も、問答無用で魔物のエサか彼らの剣の錆になる。

 彼らは定期的に魔物除けの札を装備し、ララベルの封印が万全であるかの確認を行っていた。朝に一回、昼に一回、そして夜に一回。

 一切の抜かりなく、兵隊はその任務をこなしていたのである。

 

 そんな兵隊からの連絡が、いきなり途絶えてしまった。

 ただ事ではない。異変を察知した上層部は、急いで兵を派遣して様子を探ろうとした。

 その時に彼らを支配していたのは、じわじわと押し寄せてくる焦り。もはや50名の精鋭の安否など頭になく、ただ封印のみを懸念していた。

 何も問題なくあってくれ。上層部は皆、女神にそう祈り続けていた。

 

 しかし、彼らの願いは叶わず。封印の森や洞窟にあったのはおびただしい量の血と、無数の死体であった。いや、死体と言って良いモノなのかすら怪しい。

 ソレを明確に示すのならば、肉。

 食いちぎられたような、踏みつぶされたような。おおよそ人間を相手にして生じるモノではない傷跡があった。

 

 かろうじて残っていた原型から、その正体が魔物、そして兵士たちだということが分かったという。

 報告を受けた全員に、今まで感じたことのない恐怖が走る。不滅なる異形、ララベルが復活してしまったのだ。

 

 もし、ララベルが復讐しに来たら?

 魔王を倒したその力に、我らは対応できるだろうか。答えは否。抵抗する暇なく、自分たちは報告にあった肉の塊となるだろう。

 ならば自分たちはどうすべきか。

 

「服従したフリをして、今一度洞窟に封印しよう!」

「そんな子供騙し、もう奴には効かん……降伏するべきだ」

「軍は以前とは違う。強固な力でねじ伏せればいい!」

「お前の傲慢に従うつもりはない!」

「貴様こそ、敗北主義者は消えていなくなれ!」

 

 様々な考えが怒号と共に交差する。もはや会議ではなく、単なる感情のぶつけ合いになってしまっていた。

 

 さて、そんな切迫した中。

 椅子に座ったまま沈黙する者が二人いた。

 

 一人は少女。

 修道服に、金色の装飾。小さな十字架のネックレスに、宝石を散りばめた杖。

 豪奢であり質素。そんな矛盾を孕んだ格好をしている。

 

 もう一人は青年。

 純白の鎧を着込み、これまた真っ白な剣を帯剣している。

 彼を見た人間10人のうち、10人が騎士と言うであろう格好をしていた。

 

「……節穴ですね。誰もかれも、見るべき点を見失っている」

 

 口を開いたのは青年だった。

 彼はニコリと笑いながら、隣に座る少女に話しかける。

 

「仕方のない事です。私も含め、彼女に恨まれない者はこの場にいないでしょう」

 

 対して、少女の顔は暗い。

 この場にいる全員を見ながら、悲しげな表情を浮かべている。

 二人は言い争いを見ながら、ゆっくりと会話を続けた。

 

「貴方の言う通り、見るべき点はララベルの逃亡ではありません。勿論、彼女のことも追々対応するとして……問題なのは、彼女を解放した何者かの事です」

「偶然封印の札が剥がれてしまった可能性は? あるいは、現地の魔物が千切ってしまった可能性も」

「ありえません。あの札は封印の解除を望む意思がなければ、剥がすことも破ることも出来ないのです。魔物が触れようとビクともしません。加えて言えば、偽物の札と本物の札を見分ける知識が無ければ、今頃大爆発が起きています」

 

 青年の問いに、少女は間髪入れず答えた。

 青年は顎に手を当て、目を閉じて思考する。

 

 少女の言う通りならば、ララベルが偶然をもって逃げ出すことは不可能だ。

 自分で封印を解こうにも、意識は深い闇の中。

 

 つまり、ララベルの封印を解いた何者かが存在する。その解にたどり着いたのは至極当然であった。

 

「しかし、それこそあり得ません。あの森には、私の部下も派遣されていました。その実力も、貴方ならお分かりでしょう?」

「えぇ、承知しています。そのうえで何者かが森へ侵入し、ララベルの目覚めに成功したのです。それ以外に考えられません」

「……転移魔法を駆使し、ララベルの前に直接向かった場合も考えられます」

「それならば、私が直後に気づいて対応しています……もう問答はやめましょう。貴方の部下の目をかいくぐり、魔物の猛攻も押しのけ、ララベルの封印を躊躇なく解ける。そんな得体の知れない異物が現れたのです」

 

 ゴクリ、と唾を飲む音が聞こえる。青年の喉からだ。

 世界は広い。魔物の森の包囲網を突破することができる実力者は、少ないにしても存在しないことはないだろう。

 だが、ララベルの復活を望む者は存在するだろうか?

 世界中から忌み嫌われ、永遠の排除を望まれた彼女を。魔王にもなり得る邪悪な魔力を持つ、化け物と化した彼女を。

 それこそ、筋金入りの破滅願望者以外考えられない。

 

「まさか、死んだ魔王の配下では?」

「十分に考えられますが、断定するには情報が少なすぎます。現地から彼女の魔力を辿り、その動向を探っていきましょう」

「危険すぎます。ただの魔術師にそのようなことをさせたら、逆に魔力を押し込まれて利用される」

「……ただの魔術師なら、でしょう」

 

 そう言うと、少女は立ち上がる。

 未だ言い争いを続ける大臣たちを尻目に、扉の方へ向かった。

 

「行かれるのですか?」

「えぇ。彼女が絡んでいるのならば、私が行かなくてはならないでしょう」

「……今一度、彼女を封印できますか? 大神官アステア」

 

 大神官と呼ばれた少女は振り返ると、ニコリと笑う。

 その笑顔はどこまでも優しく、温かく、美しく。

 

「異物もろとも、再び闇へと落としてやる」

 

 そして、獰猛であった。

 




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