YOKOSUKA Rider`s Guild 作:灯火011
あくる日の朝。日が昇る前の横須賀。
響は白いラインが入ったヘルメットを片手に持ち、ジーンズパンツ、パンチングレザージャケット、ファイブのグローブ、そしてアヴィレックスの編み上げのロングブーツと言った出で立ちで、駆逐艦宿舎から自らのバイクが置いてある駐輪場へと向かう。
「あれ、響じゃーん?これからお出かけー?」
そこで出会ったのは、艦娘の鈴谷だ。ちょうど遠征帰りなのか、潮の香りを漂わせている。
「うん。鈴谷は遠征帰りかい?」
「そ。定期便のお届けよー!って感じー。伊豆の大島ですら私たちの護衛が必要ってのも考えようだと思うんだけどねー」
やれやれと手を肩をすくめた鈴谷だが、その装甲や艤装に一切傷やほつれがない。
「その様子だと大成功かい?」
響がそう聞いてみれば、鈴屋はピースサインを作り、笑顔で口を開いた。
「もっちろん!駆逐2杯に強襲されたけど、しっかり砲弾に熨斗をつけて返してあげた」
ニシシ、と笑う鈴谷。思わず響も笑顔になる。
「流石だね」
「それほどでも~。っていうか響も昨日戦艦2杯堕としてるじゃなーい。謙遜はよくないぞー」
わしゃわしゃと響の頭をなでる鈴谷。響も特に手を跳ねのけるわけでもなく、身を任せている。
「じゃ、ひとっぷろ浴びてゆっくり休むから。またね~」
「うん、ごゆっくり」
ひらひらと手をふりながら去る鈴谷の背中を見送る。そして、改めて自分のバイクへと歩みを進めた。
2台のバイクが駐輪場に並ぶ。そのうちの黒い方のCBへ近づくと、バイザーの閉じたヘルメットをミラーにかけて、外見を一周ぐるっと確認する。
2本のリアショック、2本のフロントフォーク、2本の排気管を揃え、丸目のヘッドライトと、ライトの下にマウントされた2個のクラクションが特徴的な、夢が詰まった、タイヤが2本の乗り物。4本のシリンダーを備えた心臓のバイク。そして、響はスタンドを出したまま跨り、ヘルメットとグローブを装着する。
キーを差し、右に回す。2眼のメーターに火が入り、タコメーターの針が上がり、下がる。燃料噴射装置の動作音が小さく、高く聞こえる。そして、響はハンドルの右側にあるスターターを押した。
モーターの少し低い音が聞こえると共に、4本のシリンダー火が入る。低い、しかし静かな音でアイドリングが始まる。
「よし、調子いいね」
オートチョークで回転数が上がり、暖機運転を勝手にしているバイクを横目に、ヘルメットとグローブを再度確認し、遊びを調整する。その間に暖機運転が終わったのか、回転数が1000回展前後で安定する。響はサイドスタンドを払うと、左手のクラッチを握り、ギアを1速へと入れる。カタンと小気味の良い音が響き、2眼メーターの間にある液晶に『1』と表示が現れる。そして響はヘルメットのバイザーを開け、右手のアクセルをゆっくりと開けていった。
「さてさて、今日は何処にいこうか」
そういいながら響は、ウインカーを右に出す。だが、その実行先は決めていない。着の身着のまま、道のまま。一人のライダーはのんびりと世界へ走り出すのだ。