YOKOSUKA Rider`s Guild   作:灯火011

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Hibiki-0

 

 件の件から暫くたった頃。響の免許は少々の騒動があったものの、無事に申請が通り、無事に大型自動二輪免許を取得していた。元々海の上で自由に動ける体幹と、重量級の装備を持てる腕力を持っている彼女にとっては、教習なんていうものは朝飯前だったようで、補講なく最後まで一発合格で卒検を迎えた。腕前はバイク乗りの高浦を以てして、昔から何かバイクに乗っていたと思わせる安定感とのことだ。

 

「おめでとう。響。軍令部から届いた免許証だ」

 

 執務室では響が高浦と机を挟んで相対していた。高浦の手には、響の免許証が握られている。響はそれを高浦から微笑みを以って受け取ると、愛おしそうに両手で包む。そして、改めて高浦の目を見て、言葉をつぶやいた。

 

「提督の御蔭だよ。ありがとう」

「どう致しまして。何よりお前の努力の賜物だ」

 

 ふっと力の抜けた笑みを響と高浦は浮かべた。

 

「それで、いつ買いに行く予定だ?次の非番か?」

「店と話はもうつけてる。実車は一度見て契約済みだよ」

 

 世間一般で言うドヤ顔、口角を上げ自信たっぷりに響は鼻を鳴らしていた。

 

「いつの間に…」

 

 そんな響の姿に高浦は半分ほほえましさを感じながら、半分は呆れていた。それこそ磯子に行く時間と言えば月に一回の休息日だけであろうに。その貴重な一日をバイクの契約に使ったということなのか?しかし、呆れつつも高浦もバイク乗りである。部下がバイク乗りになるならばうれしいのが道理。

 

「あとは休息日に取りに行けるよう調整中」

 

 そう響の言葉を聞いてしまえば、高浦が言う言葉は決まりきっている。

 

「そうか。じゃあ、休みを合わせて俺の後ろに乗っていくか?」

 

 タンデムのお誘いである。実はこれは高浦の配慮だ。初心者の響についていき、最低限の知識をサポートしながら走る。もしタンデムをしなかった場合はここから磯子までの足は響一人であれば電車で向かい、帰りはバイクであろう。いくら艦娘とはいえ初心者をいきなり行動に一人でほっぽり出すということはしない。その意味を正確に理解した響は笑顔を高浦に向けていた。

 

「それはありがたいね」

「じゃあ決まりだ。あとは…」

 

 ヘルメットとグローブ、と高浦が言葉にしようとした瞬間、かぶせる様に響が口を開いていた。 

 

「抜かりないよ。もう、ヘルメットは買ってあるし、フィッティングも終わってるし、グローブもファイブのものを手に入れてあるよ」

「やるなお前。じゃあ、あとはそうだな…」

「非番を合わせないとね。来週は?」

「俺が空いてない。自衛隊と会議だ。となると…」

「この日はどうだい?」

「ああ、確かに、悪くないな」

 高浦と響はそう言いながら予定を立てる。遠征の合間を縫いつつ、大規模戦闘がない時期に合わせ、納車できるように。

 

 新たなバイク乗りがこの世界に誕生するまで、あと少し。

 

 そして、バイクも響を待っている。2本のリアショック、2本のフロントフォーク、2本の排気管を揃え、丸目のヘッドライトと、ライトの下にマウントされた2個のクラクションが特徴的な、夢が詰まった、タイヤが2本の乗り物。4本のシリンダーを備えた心臓に火が入る日を、今か今かと、静かに待っている。


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