YOKOSUKA Rider`s Guild   作:灯火011

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HIBiki-0

 相も変わらず、高浦の執務室で高浦と響は書類を片付け、戦術を検討し、派遣する艦娘を選ぶ。所詮通常業務を淡々とこなしていた。ただ、少し違うのは、響がちょっとだけ上機嫌だったことだ。

 

「『ワザワザ、ヤバイ坂道を、どうして選ぶのさ』」

 

 書類を手にかけつつ、楽しそうにそう歌う。

 

「『『どうにも計算が合わぬ』あんたにゃ不思議だろ…っ』て、怒髪天のロクでナシか。いきなり歌い始めたから驚いたぞ。どうしたんだ、響」

 

 高浦も怒髪天は聞く。それ故に、軽く歌を合わせていた。普段はこんなことが無い響に驚き、思わず執務の手をとめてそう聞いていた。響は軽く肩をすくめ、視線を高浦に合わせる。

 

「ん、暁からバイクを反対されてね。まぁ、気にしてないけど」

 

 にべもなくそう告げる響に、高浦は少し焦りつつ言葉を投げる。

 

「おいおいおい、六駆の不仲はやめてくれよ。貴重な護衛戦力なんだからさ」

「大丈夫、私たちはこのぐらいじゃ空中分解はしないよ。ただ、そうだな」

 

 響は天を仰ぐ、そして、意を決したように提督に顔を向けた。

 

「暁自身が凝り固まってたというかね。それをちょっと解きほぐしてあげたから。多分大丈夫」

 

 それを聞いた高浦は、少し安心したのか書類に目を落とし、そして改めて響の、少し笑みが作られている顔を見る。

 

「凝り固まっていた?」

「うん。艦娘だからやりたいことは心の中に押し込めて、滅私奉公せにゃいかん。そんな感じで」

「…ああ、なるほど。昔ながらの海軍の考え方ってわけか」

 

 高浦はそういうと背もたれにもたれかかった。確かに他の艦娘からもそのケは感じることがよくある。例えば、まだ高浦がこの司令部を任されたころに昼食時に講堂にいってみれば、全員が立ち上がって敬礼され、更に食事まで用意されていたものだ。上官こそ絶対。そういわんばかりに。

 

「そういうこと。幸い私は提督と長い事付き合っていてそういう事とは折り合いをつけれてたけれど…」

「確かに暁はまだ建造されて日が短いからなぁ」

 

 響も高浦に倣って背もたれにもたれかかる。

 

「そ。ま、でも今回の事で、多少なりとも精神的なギャップを埋められたと思うよ。なんせ他の艦娘にも趣味をもつなー!とか言いそうな雰囲気だったし」

「そこまでか。気づかなかった」

「提督の前じゃ出してなかったからね。姉妹である私だからこそ気づけたことだよ。ま、だから、もしかしたら、暁から何か提督に要望があるかもね」

 

 響は笑顔でそう高浦に言った。であれば、高浦はこう答えるのみだ。

 

「あー。ま、何かやりたいことあるならサポートするさ」

 

 肩をすくめる高浦に、響は笑みをもって答えるのであった。

 

「そういえば提督、次の非番はいつだい?そろそろバイクを取りにいきたいんだけど、さ」

「あぁ、そういえば。来週の火曜日、開いてあるだろう?そこで問題なければ行くぞ」

「それでお願い」

「任された」

 

 

 暁の事を高浦に話す少し前の事。

 

「バイクって響、何をやっているのよ。私たちは艦娘よ?」

 

 そうヒステリックに叫んでいるのは、艦娘の暁だ。建造されてまだ数か月。若い艦娘故に、その思考は過去の海軍のままであるから、どうも趣味を持つ響に反発をしていた。

 

「艦娘だからこそ趣味の一つぐらいは持たないとね」

 

 響はどこ吹く風。自身の布団にもぐり込み、暁の言葉を聞き流していた。

 

「何を言ってるのよ。まったく、他の艦娘もゆるゆるになりすぎよ!盆栽だ、写真だ、イラストだ!私たちはそういうのを我慢して国のために尽くすんじゃないの!?」

「何をいってるのさ、暁。じゃあ、いい歌の歌詞を一つ教えてあげる」

 

 響は、いつも聞いている音楽から、一筋の言葉を暁に届け始めた。

 

「―胸を焦がすような 熱い想い全部 捨てて暮らすのが まともな人生か」

 

 暁はその言葉に、ドキりとした。熱い想い。確かにあった、けれど、そんなものは、そんなものは船、そう、艦娘になってからは滅私奉公、捨ててきた。だからこそ、響のバイクには反対だった。そして、戸惑いの中で言葉を続ける響を見る。

 

「『rock 'n' roll』な生き様 間違ってなんかねぇぞ」

 

 私は、間違っていない。そう響から言われたような気がする。

 

「俺達ぁ、知ってんだ」

 

 俺たち。そう、響や提督たちのような、バイク乗り彼らは、何を知っているというのだろう。バイクは、一体なにが良いのだろう。

 

「『rockじゃない奴ァ、ロクデナシ」ってね。私はロックに、想いのままに生きるよ。暁はどうするんだい?」

「…私は」

 

 暁は迷っているようだった。だが、先ほどまでのように、響のやりたいことを否定する言葉は、ついぞ出てこなかった。

 

「ま、私たちに時間はあるからね。好きにしたらいいと思う。でも、私はちょっとだけ先に行ってるから。じゃ、お休み、姉さん」

 

 そういった響の布団からは、すぐに寝息が聞こえてきていた。

 

「…確かに、人間の体になったんだもんね。そりゃ、船の時からやりたいぐらいことあったわよ。…提督に少しお願いしようかなぁ…?うん、そのね、ありがとう、ひびき。おやすみ」


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