YOKOSUKA Rider`s Guild 作:灯火011
磯子でバイクを受け取ってから暫くしたころ、丁度三浦半島の逆側の由比ガ浜まで足を進めていた。途中、赤信号でふらついたり、エンストしたりとそこそこパニックを経験した響であるが、流石の艦娘、由比ガ浜につく頃にはバイクの一通りの操作を違和感なくこなせる様になっていた。
そして、今2人は道端にバイクを止めて休憩中である。
「どうだった、響。最初の感触は」
「止まってると重いけれど、走り出すとものすごく軽い。かな。あとシートが柔らかくて良い感じだよ。もっと走りたいね」
興奮冷めやらぬ響は、キラキラとした目でバイクと高浦を交互に見ながら、いつもよりも早い口調でそう捲し立てた。
「そうかそうか。じゃあまぁ上々だな。とりあえず今日はここから三浦まで抜けて、横須賀に戻るようにするから、まぁ、落ち着いてついてこい」
「わかったよ」
そういって響と高浦は休憩もそこそこに、公道へとバイクを進めた。平日の昼間とだけあって、観光道路である国道134号線もそこそこに流れている。初心者がバイクを走らせるには最高とまではいわずともいい環境だ。右手を見れば海岸線が続き、更に視線を遠くにやれば伊豆半島が大きく見えた。左手をみれば鎌倉の人々の営みが見えた。
響はバイクのギアを2速、3速度とゆっくりと上げていく。リッター4気筒の心臓が、空冷エンジン独特のドロドロとした音と共に、無理のない余裕のある力をもって、バイクを前に、しかし穏やかに押し出していた。手に伝わる振動が、下半身に伝わる熱が、全身で感じる風が、響の気持ちを押し上げていく。それはまるで、朝日に映えるさざ波の輝きのよう。普段見慣れているものが、バイクというフィルターを通すと、まるで物語の中の素晴らしい風景のように感じる。道の段差ですらも、楽しい。
味わったこと無い感覚に、響は酔いしれていた。
そして、暫く海岸沿いを走ったころ、船頭の高浦のバイクは少し路地へとその舵を切った。響もゆっくりとまるで艦隊運動のように、その後ろをついていく。一応は相互通行にはなっている道だが、旧道然としたその道は細かい切り替えしを響に強要する道であった。だが、不思議と響とバイクは苦も無く道をクリアしていく。そして、暫く道を行くと、突き当りへと出た。
荒崎公園。
看板には、そう書いてある。駐車場は二輪が無料ということで、そのまま入り駐車場の端へとバイクを止める。カタンというスタンドを出す音が心地よい。キーをオフにすれば、4気筒の鼓動は鳴りを潜め、代わりに、チリ、チン、カンと小気味よい、金属が収縮する音が聞こえる。ヘルメットを脱いだ響と高浦は、公園の中にあるベンチに座り、ふぅ、と長い息を吐き出していた。
「と、いうわけで、とりあえず休憩だ。今は疲れを感じていないと思うんだが、それは興奮しているからに過ぎないからな。とりあえず甘いモノと水分を取ろう」
響はまだまだ疲れてはいない。ただ、言われてみれば確かに、興奮はしていた。ここはバイクの先輩である高浦に従うと響は決めたようだ。大人しく首を縦に振る。
「わかったよ」
「ということで、だ。饅頭とポカリスエット」
高浦はバックから饅頭とポカリスエットを響手渡した。大人しく受け取り、饅頭を頬張る響を見て、高浦は笑みを浮かべる。
「うん、バイクに乗ってきたからかな?すごく美味しいね」
「だろう。だろう。またこれもバイクの魅力さ」
現地でお湯を沸かしてカップラーメンやコーヒーを食べてもまた上手いんだ、と呟く響は、生き生きとした目で高浦を見ていた。
「カップラーメンか、やってみたいな」
「いいぜ。次の休み、やりにいこう」
即答である。高浦もやりたくてしょうがないのであろう。
「でも、道具はもっているのかい?」
「もちろんだ。自宅にキャンプ道具一式を揃えているさ」
ぱちくりと響は高浦の顔を凝視する。
「意外。趣味がアウトドアだったんだね。てっきりインドアかなって」
「ああ、まぁ、普段執務室から出ないしな。ただ、アウトドアっていうよりも、キャンプツーリング専門の趣味ってところだ」
高浦はそう言いながら、右手をまるで酒を呑むときのように口にもっていく。それを見た響は、納得と、胸の前で手を合わせた。
「キャンプツーリング?ああ、だから提督、時々連休を取るんだね」
そして、胸の前に手を合わせたまま、響は高浦の顔を覗き込む。
「そういうことだ。何も考えずに山の中にバイクを走らせて、焚火を見ながら酒やコーヒーを飲む。最高だぞ?」
高浦は覗き込んだ響と目線を合わせ、そう呟いた。
「ふぅん」
にんまり。口角を上げた響は、体制を正すとポカリスエットを一口飲む。そして、少しだけ視線を上げ、提督を見る。
「じゃあ、今度一緒にいこうかな」
「おう」
2人で笑い合う。そして、高浦は更に言葉を続けた。
「じゃあ俺と響の休みを合わせるように調整するわ」
「職権乱用じゃないのそれ」
「いいんだよ。こういう時に職権はつかうもんだ」
「ふふ。わかったよ。楽しみにしてるよ」
「おう。楽しみにしておけよ。響」
他愛もない話がとりとめもなく続く。高浦と響は、まるで昔からの幼馴染のように、お互いに柔らかな笑みを浮かべ、身振り手振り、当たりが夕闇に溶け込むその時まで、話を続けていた。