「今の聞いた秋月君?!」
「はい!すぐ準備をして向かいましょう!」
「そうね。上弦の力は未知数だからしっかり準備しないとね」
カナエさんの部屋にて作戦会議をする。この辺りの地形やお互いに何ができるか確認する。上弦は柱二人でも相手するのが厳しいとされていて、何人もの柱を引退や死へと導いてきた。重たい空気が部屋を包む。そんな中カナエさんが口を開く。
「ねぇ秋月君。もし私が死んだらしのぶ達のこと頼んだわよ」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ」
「…そうね。でも相手は上弦。何が起こるのか分からないから」
「弱気になったら気持ちも重たくなります。それに柱が二人いるんですから大丈夫ですよ」
「ありがとう。気持ちが少し楽になったわ」
「どういたしまして。それじゃあ僕は少し精神統一してきますね」
席を立ち部屋を出て行く。カナエさんの前では強気に出ていたが内心は弱気だ。柱としては新参者で特に強いわけでもない。そんな俺が役に立てるのだろうか。不安で潰されそうだ。精神統一してもほとんど意味がない。気を紛らわそうと調理場に向かおうとすると葵ちゃんに声をかけられる。
「難しい顔してどうしたんですか?」
「あれ?そんな顔してたかな?」
「はい。いつもは何も考えてないような明るい表情ですが、今は真剣な顔してたので」
「さらっと酷いこと言うね。否定はしないけど」
「で、実際どうなんですか?カナヲに無視されたから悩んでるんですか?」
「違う。違うこともないけど今はそうじゃない。仕事だよ仕事。今さっき伝令が来てな。今夜にでもここを出る」
「仕事で悩むなんて珍しいですね。でも秋月さんなら大丈夫ですよ」
さっき自分がカナエさんに言ったことを言われてずっと気持ちが楽になる。人に大丈夫って言われるのがこんなにも暖かい気持ちになるなんて思ってもみなかった。なんとなく照れるのが恥ずかしいので葵の頭をわしゃわしゃと撫でて夜に備えることにした。葵は後ろで声にならない声を上げていた。
日もくれ月が真上に向いた頃カナエさんと蝶屋敷の前で最終確認をする。確認といっても俺とカナエさんが西と東に分れて探す。その他にも烏丸やカナエさんのカラスを使い空からも探す。あくまで上弦ノニの調査だが、出会ったら二人で討伐する。それが今回の目的だ。
カナエさんと別れてからしばらく経つがなんの音沙汰もない。月も真上を通り越して西に沈みかけている。流石に一日目では出会わないかと思っていると背筋がゾッとする感じがして慌てて日輪刀に手をかけ振り向く。
「俺の気配に気づくなんて凄いね。ひょっとして柱?」
「そう聞いてくるってことはお前が上弦ニだな。こんなところになんのようだ」
「そう怒らないでよ。ただ気になっている可愛い女の子を見に来ただけだよ。胡蝶しのぶって名前なんだけど何か知らない?」
「…知らない」
「ああそうか。なら死んでもらうよ」
暗くてよく見えないが扇子を振ると同時に氷の蔓が飛んできた。距離があったから避けれたが、威力と速さ共に桁違いだ。
「さすが柱。よく避けれるね。ならこれならどうかな」
再び扇子を振ると振った先から小さくなった氷の上弦ノニが生み出された。今度は距離もあるし月明かりでちゃんと見える。
『暦ノ呼吸夏ノ型 閃光花火』
氷の分身に向かって突進し壊していく。相手も少し焦ったのか後ろに下がるが勢いを殺さずに首めがけて斬りかかるが止められる。
「君強いね。名前は?あ、俺は童磨。まぁ教えても君は死ぬんだけどね」
「そんなことないぞ。お前の首を取るのは鳴海秋月だ。覚えておけ!」
『暦ノ呼吸冬ノ型 雪崩』
童磨の扇子を無理やり切り上げ雪崩の如く力強く斬り下げるが紙一重で避けられる。体勢が崩れたところを狙われて蹴り飛ばされるが、受け身をとりすぐに呼吸を整えようとするが異変を感じた。
呼吸がしづらい!
そう感じた時にはもう童磨が扇子をあげ俺の首めがけて振り下ろしている。死を目の前にすると体が動かない。俺はこのまま死ぬのか。
『花ノ呼吸陸ノ型 渦桃』
俺の頭上を飛び越えて空中で一回転しながら扇子を弾き攻撃を仕掛けるカナエさん。童磨はいきなりで力が入っていなかったのか扇子は片方飛ばされ耳を斬り落とされていた。
「遅くなってごめんね!思ったより遠くて時間かかっちゃったわ!」
「いえ、助かりました!」
「これまた可愛らしい子が来たね。よかったら僕のとこにこない?身も心も楽になれるよ」
「誰もあなたのとこにはいかないわよ」
「それは残念。まぁ柱の女の子置いておくわけにもいかないしね。あの方に怒られるし。あ、首を持っていけば怒られないしずっと一緒に入れるからそれがいいね」
「首をもらうのはこっちの方よ」
『花ノ呼吸伍ノ型 徒の芍薬』
刀を弧を描くように振り回して九連撃で斬りつけて行くが全て避けられるか扇子で弾かれていた。普段のカナエさんならあり得ない話だ。童磨が血鬼術を使っていると思い目を凝らしてみると童磨の付近には赤い氷の粒のようなものが浮いてある。きっとそれが原因で肺に傷を負ってしまった。壊死する前に肺に意識を集中させ少しでも傷の進行を遅らせる。
「カナエさん!そいつの近くに目に見えない氷が浮いてある!それを吸うと肺に傷が着いて技を使えないかもしれません!」
「正解。君たちは呼吸しないと技を使えないもんね。僕と相性は最悪だと思うよ。ほら次々いくよ!」
『血鬼術 寒烈の白姫』
氷から作り出された二体の巫女から凍える位冷たい風が襲って来る。俺とカナエさんはすぐに離れるが体に霜がつきさらに身体能力が下がる。
「このままじゃ持たないわね」
「ええ。まずあの厄介な氷を消さないといけませんね」
「二人とも油断はダメだよ。ほら、もっと俺に色々見せてよ」
二人で打開策を考える間を与えず攻撃して来る童磨。俺たちは攻撃を防ぐことで精一杯だ。遠くから麻痺毒を塗った手裏剣や藤の花の香を含んだ火薬を投げているが全く当たらない。さっきは一瞬で破壊できた氷の分身も身体機能が下がったせいでうまく相手にできない。
「秋月くんまだ動ける?!」
「はい!」
「なら私の合図で首目掛けて攻撃するわよ!」
「わかりました!」
「何か策があるのかわからないけどそうはさせないよ!」
『血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩』
目の前に氷の仏像が現れる。それとほぼ同時にカナエさんが合図をかける。俺は合図に反応し仏像を抜け一気に童磨の首目掛けて技を仕掛ける。
『暦ノ呼吸秋ノ型 紅ノ月』
『花ノ呼吸肆ノ型 紅花衣』
「っ!?」
大技を出したことで慢心していた童磨の首を二つの刃で挟み込む。が、首が他の鬼とならないくらいに固く刃が全然進まない。体に霜がついて万全の状態じゃなかったからなのか、上弦だからかは分からない。カナエさんも力を入れ押し込んでいるが進む気配がない。このまま押し切ろうと思い力を込めるがいきなり視界が暗転する。
『血鬼術 蔓蓮華』
童磨の攻撃により俺は左目を斬られ、カナエさんは両足を貫かれる。瀕死の状態で出したであろう技は威力こそは無いが目の周りが凍結するのがわかる。これ以上酷くなってはまずいと思いクナイで自分の目を刺し凍結が広がらないようにした。どうせ失明してたので今更の話だ。
「君たちもう許さないよ。今までは有益な情報だと思って手加減してたけど本気で殺しに行くからね」
童磨は首に刺さった日輪刀を抜きカナエさんの前に立っていた。カナエさんは片足を布で縛り止血していたがもう片方の足は完全に壊死していた。このままでは殺される。そう思った時には体が動いていた。日輪刀を拾いそのまま童磨の身体中心を狙って投げる。投げた日輪刀は童磨に刺さりそのまま木に押さえつける。
「そんなことしても無駄だよ」
「ああ、だがもうすぐ夜明けだ。それまで固定させて貰うぞ」
「ならその前に君を殺す」
「その言葉そっくりそのまま返すわ!」
「なっ?!」
『花ノ呼吸陸ノ型 渦桃』
俺を助けてくれた時みたいに俺の頭上で体を水平にし体を横に大きく一回転させながら首を斬った。さっきの攻撃の時の傷が癒えてなかったのか、油断していた童磨の首は宙を舞い地に落ちた。身体はまだ動いているがそろそろ日が顔を出すので木に縛りつけておいた。
「何で…俺がこんなことに…」
「はぁ…はぁ…。お前はたくさんの人を騙し死に導いた。地獄でその罪を永遠に洗っていろ」
「くそ…こんなことには…」
そこまで言う体がボロボロと消えていき首と身体は消滅した。そこまで見ると力が抜けて木にも垂れ込む。
「何とか勝てましたね…」
「えぇ、あそこで秋月くんが私を助けたからよ…」
「そんなこと、ないですよ。最後に来てくれなかったら、俺が死んでましたよ。ありがとうございます」
「私も何とか最後に技が出せてよかったわ…。最後の仕事にしては十分でしょ?」
カナエさんは辛そうにしながらも笑いかけてくる。最後の仕事言うことは柱を止めるのだろう。それはそうだ。足が壊死してもう立って生活することができなくなったんだから。そのことを理解して俺は泣きながら謝り続けた。
「ごめんなさい…。俺がもっと強ければ、もっと鍛錬して強くなっていれば…!」
「いいのよ。一度失敗したくらいで落ち込まないで。この失敗は次に生かせばいいのだから」
あまりにも優しい言葉に俺は医療班に運ばれるまでずっと泣いていた。カナエさんも全身怪我だらけで痛いはずなのにずっと俺を慰めてくれていた。この人には返しても返しきれない恩ができた。
このとき誓った。
もう誰にも負けない。負けないくらい強くなって誰も悲しませないと言うことを。
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