エリカのおもてなし(捕食)   作:〇坊主

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(4ワ4)

 

 

「タツミさん。この度は誠に申し訳ありませんでした」

 

 タマムシジムのジムリーダー エリカがタツミに土下座で謝罪する。

 それは今回の一件で巻き込んで迷惑をかけただけでなく、タマムシシティの運営に対することへの謝罪も含まれていた。

 

 タマムシジムはあの一件で一時的に運用不可能になったことで、タマムシシティで公的に運営される会場を仮のジムとして運営されることになった。

 その会場の一室。

 他のジムやリーグ関係者を全員退室させた状態で、雅な着物が汚れることなど厭わずにエリカは頭を下げた。

 

「エリカさん…頭を上げてください。ただの一トレーナーに対して土下座なんてする必要はありません」

「いいえ。これは(わたくし)に全責任があります。タツミさんもお聞きになられたはず…。私がロケット団と繋がりを持っていた事を」

「……それは」

「この町に来られてタツミさんも疑問に思っていたはずです。なぜ全国的にも反社会勢力であるロケット団が、タマムシシティで堂々と活動を行っていたのかを…。それは私がジムリーダーの権限を用いて警察の方々へ働きかけていたことに他なりません。

 本来であればこのような事にならないように本部へ、さらには四天王へ連絡を入れることも可能だったのを故意的に見逃したのです」

 

 誠に申し訳ありませんでした。

 

 最後にその言葉を発した後もエリカは頑なにその姿勢を変えようとしなかった。

 その姿を見てタツミの心境は複雑だった。

 彼女が何故ロケット団との繋がりを持っていたのか?

 まず真実として、エリカは完全にロケット団に所属しているわけではなかった。

 

 エリカがこの世に生を受け、両親に寵愛されて育ってきた。

 だが野生のポケモンによって発生した不慮の事故で両親を失い、彼女は孤児院へ預けられていた。

 二度と親と会うことが出来ない彼女は幼いながらもその現実を受け入れて笑顔を浮かべる強い子だったらしい。

 くさポケモンをこよなく愛するようになったのも孤児院の近くで生息していたナゾノクサに元気を貰っていたからと関係者の談だ。

 

 その後引き受け先が見つかって引き取られたのだが、そこがロケット団関係者の学者だったというわけだ。

 学者はエリカをロケット団のために命を捨てれる駒として育てていくつもりだったらしい。

 事実エリカがジムリーダーとして活躍できているのも幼いころに叩き込まれた歪んだ英才教育によるものだということを告げた。

 ポケモンは戦う道具であるという洗脳に近い戦闘訓練。スポンジの如く技術を吸収していったエリカは最後までポケモンを道具として見ることが出来ずに家族として接し続けていく。

 そんなエリカの姿を見て、学者は初めは憤慨していたらしい。何故都合の良い駒に成り切れないのかと。

 

 エリカが知る由もない裏工作によってポケモンを人工的に暴走させて周囲を破壊させたり、エリカに襲撃を行わせたりと様々なことを続けたのだが、それでもポケモンと共に歩むエリカを見続けた学者の方が逆に影響を受け始めて傀儡にすることを諦めたのだとか。

 研究を続けながら子育てを続けてきた学者にも親心がその当時芽生えていたのかもしれない。

 男の団員が多いロケット団が立ち入りが難しい学園へ入学させ、主席で卒業したあたりから教育と称した洗脳も無くなりポケモンリーグの道を進ませるようにしたとか。

 リーグ関係者になれば下手に手を出されないと考えていたのだろう。

 

 しかし結果的に学者が育てたリーグ関係者であることがロケット団に気づかれてしまい、そこを利用されて脅され続けて今日(こんにち)まで過ごしていたのだ。

 タツミがジムへ足を踏み入れた時に見つけたおとなのおねえさんがエリカの監視役としてジムへ潜入していたことを後々知って戦々恐々としたものである。

 尚すでに逮捕されているのでこの件に関しては安心。

 

 育て親である噂の学者は攻め入ったアジトの奥深くに監禁じみた個室で働かされ続けていた。

 最終的にはエリカをロケット団に入れようとする団員に反対したことで〆られてそれ以降エリカと会うことも出来なかった様子。数年ぶりの邂逅に涙を流して謝罪をしていたことから、彼自身思うところがあったのだろう。

 過去が過去なので処罰は受けるだろうが、他団員と比べたら少ないもの。

 数年経てば出所できるだろうと警察の方から聞いた。

 

 話が少し長くなったが彼女が率先して裏で手を引いていたわけでもなく、脅迫されていただけなのだ。

 非を責めるようなことは場違いだろう。

 

「何度でも申します。本当に、申し訳ありませんでした…!」

 

 エリカもタツミだけにここまでしているのではない。

 赤帽子をかぶった少年――レッド――に対しても同様の謝罪を行ったが当の本人は「……気にしない」と一言呟いただけで退室してしまったことで自分にしかこの謝罪が出来ないのだ。

 本来ロケット団と無縁のトレーナーを巻き込んでしまったことによる謝罪を。

 

「謝罪は受けましょうエリカさん。ただし、」

 

 ここで彼女の謝罪を受け取らないことはしない。

 告げた本人が何より自分を許せないのだ。

 ここで受け取らなかったらどんなことをしでかすかわからない。

 彼女がこれまで目を背けてきた罪の重さに潰れてしまうかもしれない。

 

「謝罪を受け取る代わりに、俺と戦ってください」

 

 なので条件としてバトルを提示する。

 そんなことを言われるとは思ってもいなかったエリカは顔を上げて、きょとんとした表情を見せた。

 

「勿論わざと負けろなんて事は言いません。寧ろそんなことをしたら俺は貴女の謝罪を絶対に受け入れない。ジムリーダーだとかロケット団を見逃してきたとか、そんな事はこの時は一切忘れてください。今後を考えず、全身全霊の全力で俺と戦う。それが条件です」

 

 土下座をやめないエリカを抱きしめて立ち上がり、エリカを強引にその場で立たせる。

 あと数センチ近付けば肌と肌が触れ合うほどの距離感。

 決してほかのところに意識は裂かず、タツミは彼女の眼を見つめて答えを待った。

 

「…わかりました。それでタツミさんが納得されるのでしたら、全力で挑ませていただきます」

「ありがとうございます。あっ…それにもう一つ、条件を追加します」

「なんでしょうか。(わたくし)に出来ることでしたらお受けいたしますわ」

「でしたら一つ…

 

 我慢せず、自分に正直になってください」

 

 

「……あっ」

 

 言葉を伝えるために少し声音を大きく、そしてはっきりと告げた。

 目尻に水が溜まりそうになったところで、彼女の表情が分からなくなるように優しく胸元に抱き寄せた。

 

「…ずるいのですね、貴方は」

 

 優しく、心から安心できるようにと頭を撫でる。

 ここには自分とその手持ち以外だれもいない。

 邪魔するものはこの場には存在しなかった。

 

「安心して気持ちをはきだしてください。俺は、貴女の傍にいますから」

 

 それから彼女が感情を吐露しながら涙を流すのに時間はかからなかった。

 無くした両親やポケモン、街の住民やリーグの方々への謝罪だけでなく、これまでの不平不満もまとめて清算するように吐き出し続けた彼女は泣き疲れたのかそのまま気を失うように眠りについた。

 18歳が経験するべきものじゃないことも多く経験しているであろう彼女が見せた寝顔はとても綺麗だった。

 そのあと仮眠室へ運んだ後、寝ている彼女に下心が出て身体に触った瞬間サーナイト(セシリア)によって脳天にメガトンパンチを喰らったのだが完全な自業自得である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせてしまったかな?」

 

 そんなことがあった会場から足を一歩踏み出したセクハラ野郎は外で待っていた人物に声をかける。

 

「…………待っていない」

 

 彼が外へ出て行って1時間は経っているのだが、その間この場所で待機していたのだろうか?

 流石にそれを聞いたたとしても頑なにしゃべることはないだろう。

 

 赤帽子のつばに手をかける少年レッドがこちらをじっと見つめてくる。

 肩に乗っているピカチュウも意気揚々といった表情だ。

 幹部とのバトルに横やりを入れてしまったことでバトルの約束することになったのだが、ここまで早くなくてもいいと思ったりもする。

 だがそれ以上に楽しみにもしている。

 

 わかる人はわかるだろうが、目の前に居るのはあの(・・)レッドだ。

 まだ手持ちのポケモン達も成長途中といえど、それでロケット団幹部を平然と追い詰めているところから隠しきれない実力を有しているのも確か。

 今の彼がサーナイト(セシリア)相手にどこまで戦えるのか。それがとても興味を引いた。

 

「………どこにいった?」

「え?なにが…?」

「…エーフィ」

「あぁ、ロケット団の残党がいないとは限らないから、エリカさんの護衛を任せたよ」

 

 レッドの指摘に応えると不満げな表情をするレッド。

 だがこればかりは仕方がない。警察の介入もあって多くのロケット団を確保できたとは言っても、勢力から考えれば氷山の一角だろう。まだタマムシシティに潜んでいる可能性だって当然ある。

 今この時にも寝首を掻いてやろうと必死に動き回っているかもしれない中で、裏切者扱いをされているエリカが狙われない理由はない。

 そのため壁張りが得意なエーフィ(イゾルデ)に白羽の矢が立ったのである。

 

 もっともイゾルデ自身もいつもと違って乗り気であり、すごく意味ありげな表情をしていたのが少し気になるのだが、エーフィ自身もタツミに悪意を持った行動があれば許さない性格なので大した問題にはならないだろう。

 

「………」

「ははっ。イゾルデがいないことがそんなに不満なのかい?」

「…………だったら何?」

「安心しな」

 

 (レッド)自身、己の腕に自信があるのだろう。

 ここまでのジムチャレンジは大した苦戦を強いられたことがないらしい。それに加えてポケモンマフィア相手にも互角以上に戦えていた彼のポケモンも強い。

 だけどまだまだレベルが足りていない。

 

「その程度のハンデ、セシリアにとって何の苦でもない」

 

 挑発だ。そして事実だ。

 自分の相棒(サーナイト)は、お前の相棒達に負けないという事を暗に伝える。

 エーフィまで相手にするには、まだまだ実力不足だというかのように。

 

「……!」

 

 そして彼はそれに乗ってきた。

 赤帽子から覗かせる瞳には先ほどよりも昂った闘志を秘めている。

 ピカチュウもその闘志に同調するように頬で火花が散った。

 

「フィールドの使用許可は取ってる。審判も頼んでおいた。そこで()ろうか」

「……」

 

 元々バトルの約束をしていたため、リーグの方に使用許可を取っていた。流石にここまで早く使うことになるとは思っても見なかったが、ロケット団のアジトを潰した功績者ということもあるのか快く快諾してくれた。

 

 歩いて5分といったところ。

 互いに無言ではあったが、居心地は悪くなかった。

 

 会場に到着し、中へと入る。

 観客は誰もいない。当然だ。昨日の今日でシティ内も混乱がまだ収まり切れていない。こんな中でこの会場を使用するトレーナーはいないだろう。

 

「お待ちしておりました。タツミ様とレッド様ですね。この度のバトル、私が審判を任されました」

「急な願いを承諾してくれてありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 審判に礼を告げて互いにバトルフィールドに立つ。

 こうした施設で一対一で戦うのは初めてであり、画面の前でしか見れなかった光景を想えば心にくるものがある。

 だが浮かれてはいられない。

 あれだけの啖呵を切った以上、無様な試合にする訳にはいかない。

 

「セシリア、準備はいいか?」

『サナ!(いつでも!)』

 

「………」

「ピッカ!!」

 

「タツミ選手の使用ポケモンは一匹、レッド選手の使用は六匹。ルールはレギュレーション通りとします!双方準備はいいですね?それでは…バトル開始!」

 

 

「「“10まんボルト”!」」

 

 

 試合開始と同時に同じ技名が両者の口から出てくる。

 鳴り散る雷と火花が会場を一層明るく照らす。

 

 互いに拮抗した電撃合戦。

 一発と言わず、互いに攻撃を放ち、躱し、ぶつけ合う。

 

「“メガトンパンチ”!」

「“アイアンテール”」

 

 指示も互いに最小限。

 小手調べの電撃合戦が終わったと見計らったサーナイトが一瞬でピカチュウの横へとテレポートする。

 それに目を見開きながらも指示の遅れを発生させないレッドの指示でピカチュウも被害を受けずに済んだ。

 

 サーナイトとピカチュウの物理技がぶつかり、相殺された反動で互いの距離が再び開く。

 だがそれをよしとしないレッドはすぐさま距離を詰める指示を行う。

 明らかに先ほどのテレポートからの奇襲を警戒している。

 

「“はたきおとす”」

「“ほっぺすりすり”」

 

 そこまで技を見せたわけではなかったのだが、レッドは特殊技をそれ以上に警戒しているのだ。

 物理技と違い、特殊技は発動までにコンマであるがラグが存在する。

 故にでんこうせっかを移動に使用しながら間合いを詰め、テレポートで離脱しようにも出現場所をいち早く把握するレッドの指示によって埋められる。

 ここまで無茶な指示を正確にこなす彼等には相当な絆と信頼関係が築きあがっている何よりの証拠だった。

 

 ピカチュウを掴み、地面にはたき落とそうとするサーナイトに強引に頬袋をぶつけたピカチュウはそのまま地面に叩きつけられてダメージを負った。

 だがその対価は十分だ。

 一発の威力は蚊に刺された程度ではあるものの、その技の特徴は確定で麻痺にする効果。

 サーナイトの右手がしびれるのか、少し痙攣している様子を見てタツミはすぐさまピカチュウを落とす指示を出した。

 

「“かげぶんしん”」

「“マジカルシャイン”」

 

 

「ピカチュウ!戦闘不能!」

 

 地面に叩きつけられた後の追撃を躱したピカチュウは己の分身を作り、隙を生みだそうとするものの瞬時に本体を見破ったサーナイトの追撃でダウン。

 審判判断の元この勝負はサーナイト(セシリア)に軍配が上がった。

 だが麻痺状態である以上、安心はできない。

 最低限の仕事をされただけにしてやられた気分だった。

 

「…いけ、リザード」

 

 そして次に出てきたのはリザード。

 すぐさま煙幕を使用したことで会場の視認性が極端に悪くなった。

 

「“ほのおのうず”」

「“サイコキネシス”!」

 

 単発では厳しいと判断し、継続ダメージを与える技にすぐさま切り替えた。

 鞭のように飛んでくるほのおのうずをサイコキネシスで霧散させ、そのままサーナイトは攻撃を敢行していく。

 

「はは、楽しいかセシリア」

『サナサナ!(正直なところ、楽しいです!)』

 

 戦闘中だというのに、勝つことよりも勝負を楽しむことに意識が向いてしまう。

 今の状態でもここまで戦える彼等を分析しながら、成熟したら一体どれほどの強さになるのかを考えると世界でもトップランカーになるのは約束されたものだろう。

 彼女がカウンターの要領で被弾するなど野生のポケモン相手にもなかったことだ。

 

 麻痺したとはいっても被弾は少ない。体力も大して減ってはいないだろう。

 サーナイトのやる気も最初より増加した様子。

 

「やるぞセシリア!ここからはこっちも全開だ!」 

「サナ!!」

 

 ねんりきで煙に潜んでいたリザードは後ろに大きく吹き飛ばされ、ついでと言わんばかりに煙幕も霧散さした。

 目を一層細めるレッドに聞こえるように宣言する。

 これからが本番だと。

 

 それはこれから生まれる未来のチャンピオンに、いずれ越えるべき壁が生まれた瞬間であった。

 

 




 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
・ロケット団の学者(43)
 エリカを引き取った元悪。
 育てていくにつれて尊さで悪性物質が浄化され、我が子のように育てることを決意した男。独身の研究一筋。
 ロケット団での位はそこそこ高かったらしいが、エリカをロケット団に強制所属させることに反対したことで権威を剥奪された。
 合理的な戦闘を好み、天候を利用した戦術を用いる。
 手持ちはキュウコン。

・エリカ(18)
 花言葉は「孤独」「博愛」
 この作品ではロケット団関係者という設定に。
 タマムシシティでロケット団が良いように活動してたのに、対策してないなんておかしいよねって話。
 ほんとは身売りなどの黒々しい設定持ってたけどそんなの描写してたらキリがないってことでボツ。
 両親を失った「孤独」に、ただでさえシティに敵が多いのにジム内にもスパイが居て助けも呼べない「孤独」。
 それを背負いながらこの日までポケモンと人間を愛しながら生きてきた女神。


・レッド(15)
 後の金銀では最強ピカチュウ(ピカニキ)[81]を有するリビングレジェンド(進化中)
 赤い帽子がトレードマークで、寡黙。とにかく言葉数が少ない。
 描写はしてないが
 ピカチュウ[45](でんきだま常時所持)
 イーブイ[30]
 リザード[35]
 フシギバナ[45]
 カメール[32]
 カビゴン[40]
 を所持している。
 ジム戦でのエリカの手持ちが30レベル前後と過程すれば破格の強さである。
 というよりも初見で瞬間移動攻撃を把握して攻撃を往なした時点で意味不明な強さ。これで成長途中なのは恐ろしや。

 

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