初作品です
タイトル通り、最優の騎士のありうべからざる今の、その少し後の話となります
具体的に言うと一期23話バッドエンド、所謂介錯エンドの続きです。
四章及び六章のネタバレを一部含みますのでご注意下さい

※pixivにも投稿しています

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自称騎士の友になりたかった最優の騎士の、少し後

あの白鯨落としと怠惰討伐戦から、実に半年が経った

多くの死傷者を出しながらも世界を脅かす神出鬼没の魔女教、その中でも最も多くの事件を起こし恐怖を色濃く刻んだ大罪司教『怠惰』を討伐したことは、ルグニカを越えて世界中に瞬く間に広まった。

 

それも当然と言えるだろう、何せ先もいった通り魔女教は神出鬼没で駆けつける頃には殆どの場合一人残らず殺され、幹部である大罪司教『強欲』に至っては一人一人が精強であり修羅とさえ言われるヴォラキア帝国の英雄『八腕のクルガン』の居た城塞都市ガークラを殆ど正面から、それも単騎で落としたこともある。

半年前に白鯨を落とした筆頭である剣鬼の全盛と戦ったルグニカとヴォラキアの領土争いを決した決闘として名高いかのピックタットの銀華乱舞でも知られる英雄を倒したというのだから奴等の理不尽さが分かろうというものだ。

単純な知名度で言えばその強欲よりも高い怠惰を撃退したという話は正に天地が引っくり返ったような話だっただろう、上層部に報告した時等喜びよりも先に困惑していた位だった、何せ白鯨落としが何故か魔女教討伐の話に続いていたのもあるのだろうが。

 

とは言えど、喜んでばかりもいられないのも又事実だった、王戦の最有力候補であり白鯨討伐を主導したクルシュカルステン公爵は強欲と暴食の襲撃によって深手を負って以降、大きく精彩を欠くようになったと言う。単純に精鋭も含めた兵や地竜を幾らか失ったこと以上に、それは大きかった。

公爵一強であった筈のこの王戦は、プリシラバーリエル、アナスタシア・ホーシン、そしてフェルトの三陣営の追い上げもあって混迷を極める予兆を既に見せ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、先程追い上げている陣営の中に数えられていなかった銀髪のハーフエルフ、氷結の魔女とも呼ばれたエミリア率いる陣営はというと、既に事実上の空中分解、自然消滅を既に迎えていた。

 

切っ掛けは怠惰討伐が成った後、ナツキスバルが死亡したことをエミリアに知らせた事だった、あの少年が王戦での大法螺を吹いて大きく周囲に顰蹙を買い結果として手酷く別れた彼女だったが、あれがあるまでは仲が良好で友人以上の情を向けていたことは傍目にも分かっていたし心の底から嫌ったという訳でも無かったのだろう、彼の死を耳にしたときの慌てようと困惑、彼の亡骸を目にした時の絶望は決して演技によって作られる物ではなかった。

 

彼女は何故自分にここまで尽くしたのか、突き飛ばされて尚も、死してまで自分にと最早届かぬ問いを彼に投げ掛けた。その答えは彼を見てきた者ならば誰が見ても明らかであったがそれも仕方ない事、突き飛ばしてまで別れた以上は問わずには居られなかったのだろう。

彼の献身の果ての死は剣鬼を初めとして多くの者の心に傷を残した、そして最たる者が他ならぬエミリアだった。彼が魔獣を強く引き寄せる体質だったこと、白鯨の情報を持っていたこと、魔女教大罪司教に過去に因縁を持っていたこと、全て彼女の知らないことだった。彼らしいといえばいいが、彼女に話していなかった為に彼が持っていたかもしれない魔女教の核心に迫る情報の全ては闇へと消えてしまった。

 

彼の葬儀は剣鬼ヴィルヘルム及び彼と共に戦った老剣士達が主導して執り行い、功績のあまりの大きさ故に賢人会、そして剣聖までもが参列し、更に死後に正式にルグニカの騎士として受勲されるという異例の事態となる。

エミリアへの周囲の偏見は怠惰討伐前と比べ大きく薄まっていた、自らが怠惰への戦いに挑んだこともあるがあの少年が英雄となって散ってまで尽くした相手を避けることは気が咎めたことも大きいだろう。

 

しかし問題は彼女自身のモチベーションが削がれてしまった事以上にロズワール辺境伯の変化が大きかった。元々変人として知られながらも実力者であり多くの称号を持ちエミリアの後見人を務める筆頭宮廷魔導士である彼は、ナツキスバルの死を切っ掛けに全てを放棄したかのように振る舞いだしたのだ。クルシュ・カルステン公爵のように記憶を奪われた訳でもなくである。

当然ながらその様な有り様では王戦の準備など出来るはずも無く、陣営として崩壊していった。数ヵ月もする頃には従者の働きもあってか仕事に復帰するようにはなったものの一度失われた信用は早々戻る訳もなく不振が続いた。

それ故にロズワールが後見人であるエミリア陣営は様々な処理を執り行った後、正式に王戦から撤退することを表明した。

 

 

 

———————————これは余談だが、怠惰討伐で実行部隊を殲滅したことが響いたのかが理由かは定かではないが、それまで魔女教が襲撃を行うことは、只の一度もなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……」

 

王戦候補者アナスタシア・ホーシンの元で与えられた個室でこれまでに起きた出来事を手記に纏め、一段落したところでペンを置いた。

今でもあの少年の事は出会いから別れのあの瞬間まで容易に思い出せた。

始めて会った時は外見以上の幼い言動故にエミリア様に着いてきた迷子か何かだと思っていた。メイザース家の正式な使用人であることにも驚いたが、それ以上に驚いたのはーーー

 

 

 

 

『俺の名前はナツキ・スバル! ロズワール邸の下男にして、こちらにおわす王候補――エミリア様の一の騎士!』

 

 

 

あの瞬間、王城の大広間にいた全員を敵に回した大法螺吹き。

言い切った当人さえも、どこか浮ついた感情と勢い任せの言行を隠し切れずにいた発言

 

「恐らく…ラインハルトもフェリスもアナスタシア様も、誰も信じたりはしないだろうな」

 

それに対し周囲の怒りを鎮め禊を行うためとは言え謹慎を受けてまで徹底的に彼を痛め付けた自分が感銘を受けた事など、冗談としか受け取らないだろう。

そしてそれよりも更に驚いたのは、謹慎中にアナスタシア様とリカードから白鯨討伐を主導したのが彼だという事を聞かされた事だった。正直何かの冗談だと思った、白鯨討伐自体はルグニカ騎士団の悲願であったし、元近衛を率いていた剣鬼ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアがトリアスに姓を戻してまで白鯨討伐に全面的に協力する為クルシュ・カルステン公爵の陣営に入ったことは近衛であれば誰もが知っていた。だがそれに彼が参加しあまつさえ情報を提供したしたことなど、仮に立ち直って何かを成すことがあったとしてもそれはずっと先の事であると思っていた。

何もかもが仰天に値するほどの衝撃的な情報だった。

 

そして遂には白鯨落としを達成した後の彼の顔を見て、王都の時とは違い憑き物が落ちたような顔になっていたことは分かった。

剣鬼ヴィルヘルム、公爵クルシュ、青の三人揃いを相手にしての同盟締結に、白鯨討伐にも協力。今、領地を脅かす外敵を倒すために援軍を連れて戻るーーー絵に描いた様な英雄譚を前に、私の心は踊っていた。

だがその結末はあまりにも大きすぎる損失を残した。確かに結果として魔女教の尖兵である怠惰はこの世から消し去った、一派の一掃にも成功した、主君を守りきることも成功したーーー彼という命を支払って

 

怠惰の大罪司教、ペテルギウス・ロマネコンティの正体は複数いるのではなく、百人で一つの大罪司教なのでもなく、契約を悪用して精霊使いの素質を持つ人から人へとその肉体を移動させる邪精霊だった。

それ故に自分が鍛えた末に編み出した全てを切り裂く虹の極光、アルクラリスタによって彼を斬る必要があったのだ。

彼の肉体が乗っ取られ、最早後戻りも叶わずフェリスが後押しをした以上それ以外の道は無かった。彼が怠惰となって破壊の限りを尽くすなど彼にとっても最悪の事態だ、だからこそあれは仕方の無い事だったと言えるだろう。

だがそもそもそれ以前の問題として、私は何をやっていた?

この加護があれば、彼が乗っ取られるよりも前に、体から体に渡り歩く邪精霊であることを見抜けたのではないか?この虹の剣で、奴が体を渡り歩かせるまでもなく抹殺出来たのではないのか?

 

何のために私は剣を鍛えた?

何のために私は魔法を研鑽した?

何のために私はこの加護を授かった?

 

全てはあの瞬間————あの邪悪から彼や仲間達を守る為ではなかったのか?

 

『ユリウス————いや、後でな!』

『わりぃ————伝えられそうにねえわ』

 

 

ナツキスバル————彼は私に何を伝えたかった?何を知って欲しかった?

……幾度その事を考えてもそれが分かることは永久に無いのだろう。

彼が今更私を恨むなどないと分かっているし、このような思いさえ今となっては最早意味の無い事である。

 

それは分かっている、分かってはいるのだ、しかしそれでも、それでも思わずにはいられなかった

 

「私は君を、友と呼びたかった」

 

最優の騎士と呼ばれた男が自ら意図せず紡がれた最早届かぬその願いは誰に聞き入られる訳でもなく、解けていった




あの後精神的支柱で色々根幹を成してたスバルが心に傷を刻むだけ刻んで謎も残して話し合いもせず消えていったらこうなるよね、というお話

さて、色々この話を最後まで読んでくださった皆様、誠にありがとうございます

読んで疑問に思った方へ、ここである程度解説を
ぶっちゃけ原作を読んだ方は知っていると思いますがスバルの功績はヤバイです、歴史のターニングポイントとかそういうレベルです。400年間世界を脅かした白鯨と怠惰への討伐。どちらもただ参戦したとかではなく予め出現地点と時刻を特定し、万全の準備と布陣を整えて戦いに挑むことが出来たのは歴史上どちらも初めてのことであり更に一歩間違えれば即死も有り得る中で身一つで自ら囮になって時間を稼いだ事はそれだけで特筆して功績に残るものです。
そしてスバルが魔女教の情報を抱え落ちしたような描写となっていますが、実のところそのようなものはありません。賢人候補であることや死に戻りがあの魔女によるものであることはある意味世界が引っくり返ってもおかしくない要素ですが対魔女教についての情報は怠惰一派が消えた以上最早出し尽くしたも同然
しかし戦闘終了後に話し合いは行われずそれが伝わることはなく、白鯨と魔女教の繋がりを暴いた彼の抱えた情報や出自や過去は完全に謎のままとなってしまいました。多分後世では「もし彼が生きていたら王戦の結末は分からなかった」とか言われてるんじゃないでしょうか。大法螺に関しては魔女教に対して不甲斐ないルグニカへの怒り説や記憶喪失説や魔女教への恐怖で心を壊していた説とかでたまに論争起きてそう、知らんけど。

そして見事ロズワールが腑抜けましたがこれについては四章とオボレルルートを参照、まあ大体あることが失敗した上でラムがロズワールの元で生存していた場合のルートを想定したものとなります。ラムが死んでたらもう胴体着陸では済まなかったと思います、本編中では空中分解と表現しましたが。

ユリウスの話に写りますとアニメだと分かりませんが実は原作だと虹剣でスパーンする描写があります、でも22話からのスタートだとユリウスはスバルからのヒント無しではペテの正体が他者を乗っ取る邪精霊だと気付けても時既に遅し、どう転んでも間に合いません。
しかしお誂え向けの加護と、アルクラリスタという明確にあの事態を防ぐことが出来る手段を持ち合わせていながらそれを行使できずその代償を友と呼びたかった相手の命で支払った自分を永遠に責め続けました。
見抜けたかもしれない力があった、手段があった、それで助けられたかもしれなかった…という事を一度思い当たってしまうと真面目に考えすぎてネカティブにならずにはいられないというお話。結果的にとは言え立場的に一番美味しい所を食えたのも負い目として強く感じてるんじゃないでしょうか。

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