魔法少女まどか☆マギカ。
タイトルから想像されるファンシーな内容からかけ離れたダークファンタジー物語。
前世においてその知名度は圧倒的でダーク魔法少女物ジャンルの立役者と言っても過言じゃない、平成を代表する有名作品だ。
マスコットを騙る宇宙人に唆されて魔女という化け物と戦う魔法少女になった、年頃の少女達が絶望の運命に立ち向かうそんな世界観。
美樹さやかは作品に登場するメインキャラクターの一人だ。
主人公である鹿目まどかの幼馴染であり、好きな男のために魔法少女になるものの失恋するわ魔法少女の真実に絶望し最後には死んでしまうわ...改めて羅列すると扱いがひっでぇ。
「くっそー...またまけたぁ」
そう言って後ろから追いついてきたやんちゃ坊主、こいつは原作で俺をフった上条恭介。一度おにごっこでボロカスに負かしてからなにかと勝負ごとをしたがる奴で、完全に俺のことを男扱いするので接しやすい。原作のようなことには絶対ならんだろうと確信している。
「フハハハまだまだだなきょーすけ!」
「なにおう!?」
「はぁ、はぁ...さ、さやかちゃんもかみじょうくんもはやいよぉ」
遅れてまどかが息を切らせて到着した。後ろを見ると仁美は大人しく大人組と歩いてくるみたいだ。この辺性格が出るよな。
「すまんすまんまどか~おゆるしを~」
「てぃひひ、くすぐったいよさやかちゃーん!」
置いてきてしまった謝罪に頭をくしゃくしゃ撫でると子犬を連想させる無邪気さで喜んでくれる。
はぁ...今日も我が親友が可愛い...
「...なにやってんの?」
心底呆れた目をしているどこぞのかけっこ少年は無視だ無視!
◆◆◆
入学式の様子を座りながらぼんやり眺める俺が考えてるのはさっきの続き。
実はこの世界、俺が中学二年の年に滅亡する可能性が高い。
まるでわけがわからんぞ!?と言う人のために説明するとその年に化け物の中でもとびっきりにヤバい『ワルプルギスの夜』という魔女がこの町を襲ってくる。最低でも町は壊滅するし我が親友は死ぬし、下手すると巻き添えで世界まで滅ぶって寸法よ。
今から7年と少し後の話だ。生まれ変わったと思ったら余命宣告受けてて草。
いや草生やしてる場合じゃねぇ!
その未来を知ってるのは俺だけだ。なんとかしないと。
何もしないで死の運命を受け入れるなどまっぴらごめんだ。
悟〇や承〇郎が運命だからと諦めるか?否だ。断じて否である!!
死期の決まってる友達を...見捨てて俺の、明日食うメシが美味ェかよ!!
「どしたの、さやかちゃん?」
密かに世界に反逆する意志を固めているうちに入学式は終わったらしい。
...そうだ俺がなんときゃしなきゃこの可愛い親友が死ぬのだ。そんなことは認められない。
「まどか、あんしんしろ。おまえをしなせはしない...!!」
「も、もぅ!またジャ〇プのはなし?」
「いやおれはほんきだ、まどか」
「う、ぅぅうう~~...」
そうと決まれば今日から行動を始めよう、出来ることから。
拳を握りしめ後ろを振り返ると仁美が鼻血を出しながらぶっ倒れていた。
なんで...?
◆◆◆
「面あり!」
ワァァ!と歓声が上がる。
私の幼馴染で親友のさやかちゃんは小学校入学を機に剣道を始めた。
今日は他校との練習試合の日で仁美ちゃんと一緒に応援に来てるの。
「さやかちゃん、お疲れ様!」
控室にスポーツドリンクを持って差し入れに行くのが私の楽しみ。
「おぉまどか~、いつもありがと!」
おいしそうに喉を鳴らして水分補給するさやかちゃん。首筋を流れる汗が艶っぽい。
最近の私は少し変だ。
さやかちゃんの汗の匂いになんだか、変な気分になっちゃう...。
何故か照れ臭くて顔を合わせられかったけど、視線を感じて前を向くとじっと見つめられてた。
「ど、どうしたの私の顔なんかじっと見て...?」
「もっと強くなるよ、まどかのためにも」
優しく微笑みながら私の目をまっすぐ見つめてそんなことを言う。
うぅ...さやかちゃんはいつもこうだ。
女の子同士なのにドキドキしちゃう。やっぱり私変かなぁ?
恥ずかしくてママにも相談できないしどうすればいいんだろう...?
顔を赤くしてそっぽを向くと壁に半身を隠しながら、イイ笑顔でサムズアップしてくる仁美ちゃんがいた。
あはは...いつも通りで安心するや。
◆◆◆
「はぁ...げほっ...さやか、ちょっと、30秒まって...」
「おそいぞー!きょーすけぇ!」
あれからおにごっこついでに町を駆けずり回ってキュウべぇやら魔女結界やら見つからないかと探し回ったが成果は0だった。恭介は息が切れてひっくり返ってたので置いてった。
俺が美樹さやかであることを鑑みれば魔法少女の才能はあるはずなんだけどなぁ。
見つからない物はしょうがないので次の手として戦闘勘を磨くために剣道を始めることにした。
ジャ〇プでも修行パートは大事。これは常識である。
突然そんなことを言いだした俺に両親はびっくりしてたが特に反対されるということもなかった。結構お金かかるのに...恵まれてんなー俺。頑張ろ。
文字通り命がかかってる俺は必死こいて練習に励んだ。
まどかや仁美も応援してくれたから頑張れた。
音楽に目覚めたらしい恭介に勝負を仕掛けられて大会結果で競ったりもした。
結果で言えば原作で明確に天才扱いされてる恭介には正直及ばなかったが、いい勝負はしてたんじゃないかと思う。
全部が始まった、あの日までは。
◆◆◆
僕には昔からどうしても勝てない奴がいた。名前は美樹さやか。
女の癖に男みたいな喋り方するしいっつもジャ〇プ読んでる変なやつ。
自信があったおにごっこで正面から負けて、それで絡むようになった。
でもアイツ頭はいいし足は速いし喧嘩も強いしで正直勝てる所がなくて、悔しい思いしたっけなぁ。
そんな僕がさやかに勝てるようになってきたのはヴァイオリンを始めてからだ。
両親に連れていって貰ったオーケストラのコンサート。
その演奏を聴いて音楽の虜になった僕は親にねだって楽器を買って貰った。
色々試したところどうやら僕にはヴァイオリンの才能があったみたいで、大会で賞までとれる様になった。
さやかは剣道を始めたらしい。アイツらしくメキメキ腕を上げてるんだとか。
負けないようにお互い切磋琢磨する日々。楽しかった。
初めて僕に負けた時のさやかはほんとに悔しそうな顔してて、悪いとは思ったけど笑ってしまった。
でもそんな日々は唐突に終わりを迎えた。
僕たちが五年生になってしばらくした頃。
事故に遭いそうになった僕を、たまたま一緒にいたさやかが庇って大怪我を負ってしまった。
あれだけ頑張っていた剣道も、もう二度と出来ないかもしれないという。
なんで、僕なんか庇って...
どんな顔して会いに行けって言うんだ。
◆◆◆
「知らない天井だ...」
よっしゃ誰もが一度は言ってみたいセリフを使えたぜ...!
どうもどうも、絶賛入院中のさやかちゃんだぞー。
なんで入院なんかしてんのかって?バッカお前...言わせんなよ。名誉の負傷ってやつだ。
なんでも出血多量で一時は危なかったらしく、皆には多大な心配をかけた。両親やまどかには泣かれたし、特に恭介なんてめちゃめちゃ暗い顔してたな。気にすんなって言っといたけど。
いや本当に気にする必要ないと思うのだ。
友達を庇って長いことやってきた剣道が出来なくなってしまった魔法少女の素質がある小学生女子。
こんな優良物件をあの
恭介の腕はもちろん、俺の怪我もわけなく完治でき、原作と変わらない固有魔法になるというわけだぁ!(ネットリボイス
さぁ早く来るがいいぞ、我が運命よ!
そして二週間後、奴は現れた。
「やぁ美樹さやか。その腕、治したくはないかい?」
正直安心した。
この二週間、周りがお通夜もかくやってレベルの暗さでほんっとにしんどかった。
差し入れの漫画本も片手しか使えないから読み難かったし。
それに恭介が責任とるだのなんだの言いだしてなだめるのが大変だった。
それを聞いたまどかも「さやかちゃんは私のだもん!!」とか言って錯乱するし。
全く愛いやつめ。
「僕と契約して魔法少女に、なってよ!」
「いいだろう結ぶぞ、その契約。私の怪我を治せッ!」
その瞬間、左腕の違和感が消失すると同時に胸から光輝く宝石が生み出される。これが...ン我が魂ィ...!!
「...よかったのかい?そんなにすぐ決めてしまって」
白いのがなんか言ってるが初めて魔法を見て興奮した俺の耳には入らなかった。
「おぉ...すげ...ほんとに治った」
さっきまでうんともすんとも言わなかった左腕が何事もなかったように動かせることに感動を覚える。
「君の魔法少女としての素質を考えれば、それくらいは容易いことさ」
「へぇ...そんなに才能あったのか?私は」
「君の境遇から考えると少しこの因果量は多いと思うね。不可解なほどと言うわけではないけれど」
転生した影響だろうか?前世の分の因果が上乗せされてる、と考えるのが一番しっくりくる。
特典なんてないと思ってたけど少しはあったみたいだ。
「さて、それじゃあボクはこれで失礼するよ。退院した頃にまた会おう」
そう言って返事も聞かずに窓から去って行く白ダヌキ。いや説明とかないんかーい。最初に碌に聞かなかったのは俺だけども。
その後突然の完治に医者は困惑しきりだったが無事退院と相成った。
「ざやがぢゃん...よがっだ...!!」
「おかえりなさい!さやかさん!」
「さやか...その、おかえり」
退院する時は皆がお祝いに来てくれた。
「わだじっ、ずびっほんどにっ...しんぱいでぇ...!!」
「うわぁ!ごめん!ごめんよまどかぁ!!」
顔が頂上戦争直後のル〇ィみたいになってんぞ!?
「鼻水まで垂らしてもう...!ほらチーンしなさいチーン!」
「う"ぅうう...はひ...」
おいコラぁ!笑ってんじゃねぇぞ恭介ェ!仁美ィ!
「ふふっ、ふふふ...!久しぶりのやり取りで、なんだか安心してしまいまして...」
「ははっ、うん本当にさやかが帰ってきたんだなぁって感じするよ」
む、むぅそんな顔されると言い返せんな。
俺が微妙な顔でいるとまどかが抱き着いてきた。
「えへへさやかちゃんだぁ...おかえりさやかちゃん...」
「...ただいま、まどか」
心配させてしまってごめん。
「うブふっ!!」
「うわっ!?大丈夫かい仁美!?」
その光景を見ていた仁美が突然鼻から出血した。
またかよ。
でもこんなバカ騒ぎをするのも久しぶりな気がして四人で笑ってしまった。
そうだ、俺はこんな温かい場所を失わないために。
運命との戦いを選んだ。