退院した夜、早速と言わんばかりに白い雑巾が訪ねてきた。
「こんばんわ、さやか。退院おめでとう。今日から魔女退治と行こうか」
その前に原作情報とのすり合わせがしたい。
もしかしたら全部解決してる原作後世界の可能性が無きにしも非ずだし。
「それはいいんだけど結局魔法少女ってなんなのさ」
「おっと、説明が足りていなかったかい?」
「こないだは契約してすぐに帰っちまっただろお前」
「それもそうだね。それじゃ改めて説明するよ。君は願いと引き換えにソウルジェムを手にした。その石を手にした者は魔女と戦う使命を課されるんだ」
魔獣じゃなく魔女ってことはこの世界線は原作かそれ以前の時間軸ってことか。
全部終わった後です、なんてそう甘いことないよねぇ。
「魔女ってなに?魔法少女とは違うのか?」
「願いから生まれるのが魔法少女とすれば、魔女は呪いから生まれた存在なんだ。魔法少女が希望を振りまくように、魔女は絶望をまき散らす。しかもその存在は普通の人間には見えないから性質が悪い」
どの口が言うんだこいつ。お前が作ったもんじゃろがい。
「不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみ。そういう禍の種を世界に齎しているんだ」
「ナルホドナー」
「真面目に聞いているかい?」
一応原作と同じ質問をしてみたが返答に変わりはない。
ここまで同じ説明されるといっそマニュアルでもあるのかと疑いたくなる。
「よしそれじゃ説明も終わったことだし出発しようか、さやか」
「あーその前に寄りたい場所があるんだがいいか?」
「きゅっぷい。わかったよ」
おいナチュラルに肩に乗るな。
◆◆◆
そうしてやって来たのは人気のない山の中。
「こんな所に何の用なんだい?さやか」
「準備運動!」
答えながらソウルジェムを指輪から宝石の状態に戻す。
初変身だ、気合い入れていくぜ!
「...変身ッ!」
ソウルジェムを握りしめた手の先から青い魔力の光が覆い、少しずつ纏う衣服が変換されていく。
右腕を細身の籠手が肘まで覆い、続いて片袖の巫女装束が身に纏う。
すり足で進んだ左足、力強く踏み込んだ右足にお洒落な下駄と青い脚絆が装備される。
腰から青藍色のスカートが伸び、首元には
そこから羽のように光が広がり身を翻すと光は黒いケープとなって肩を彩る。
最後に上段に振り上げた手の中に鈍く光を反射する瑠璃色の刀が生まれた。
それを振り下ろすと同時に纏った光が弾けるように吹き飛ぶ。
刀を中段に戻し、静かに残心。
変身が完了した。
初めてやったはずなのになんとなくやり方がわかるの微妙に気持ち悪いなコレ。
ていうか原作の衣装と全く違うんだが。
ガワが同じだけの別人だし当然かもしれないけど。
「どうだい?君の魔法少女としての姿は」
そう言われて刀の刀身を鏡代わりに全身を眺めてみる。
「かぁっけぇ...」
思わず声が漏れた。
露出が右肩くらいしかない、魔法少女というより陰陽師と言われたほうが納得できそうな和風ファンタジー衣装。
「いたく気に入りました!」
「それはよかったよ。それじゃ魔女を探しに行こうか」
「準備運動するって言ったよね?」
「きゅっぷい」
こいつそれやっとけば何でも許されると思ってないか?
気を取り直して体を動かしてみる。真剣なんか振ったことないし今までの感覚とだいぶ変わっているだろうから、慎重にやらないと。
ゆっくりと刀を上段に振り上げ――振り下ろす。
何度か繰り返して感覚の調整が済んだら、段々と素早く姿勢が崩れないように素振り。
面胴小手と順番に繰り返す。
うん、大丈夫そう。
次は足捌きの確認。
刀を中段に構え両足の間隔を適度に開き、左足のかかとを浮かせる。
そのまま足の配置と構えを維持しながら前後左右に素早く動く。
脚力が飛躍的に上がった影響ですんごい早く動ける。
しかも動体視力も上がっているのか目が追い付かなくなるといったことはない。
攻める動きもやってみるか。
『継ぎ足』と呼ばれる左足を右足の近くまで引き付け、その勢いを利用する足運びだ。
勢いをつけ、全力で踏み込む―――!
と地面が陥没し体が前へすっとんだ。
「え、ちょっまっ」
慌ててブレーキを掛けようとするが間に合わず、木の幹が目前に迫る。
とっさに右腕の籠手を盾にしてそのまま突っ込み――なんと木がブチ折れた。
「ひぇー...」
「大丈夫かい?さやか」
「あぁ、大丈夫だよべぇさん。それにしても防御力凄いなこの服」
結構な勢いで突っ込んだと思うんだが。
「当然だよ、魔女と戦う戦士だからね。その程度ではかすり傷一つつかないよ」
「ほーそりゃ頼もしい」
でも魔女や使い魔相手じゃ、そう易々と攻撃貰ってたらすぐ死んじまうだろうし今みたいな体たらくじゃ駄目だ。
もうちょっと走りこみとかしてみよう。
そうして障害物を避けながら山中を駆け巡り木から木へ跳び移り、刀を振るった。
数時間経った頃、ようやく魔法少女の体が隅々まで思い通りに動かせる満足の行く仕上がりになった。
「よっしオッケー!行こうか!」
「さやか...もう朝が近いよ?」
「え"っ」
見上げると東の空が既に明るくなり始めていた。そんなバカな。
どうやら熱中しすぎたらしい。
「しかたない、今日はもう帰ったほうがいいだろう。また明日の夜にくるよ」
「うっ...ごめんべぇさん」
「きにしなくていいよ。初陣で命を落とす魔法少女は多い。準備を怠らない君のその姿勢は賢明だと言えるね」
「...そうだよね」
キュゥべぇが言う通り、俺が行くのは命を懸けた戦いの場だ。
準備しすぎと言うことはないだろう。
その後は何事もなく家に帰ってきた。
「それじゃぁ、おやすみさやか」
「あぁおやすみ」
明日は初陣だ。戦いの気配に武者震いが走った。
◆◆◆
「さやかちゃんどうしたの!?目のクマがすごいよ...?」
「まぁ...ほんとですわ」
次の日、会うなりまどか達に心配されてしまった。
帰ってきた時間が朝方だったし興奮してほとんど眠れなかったのだ。小学生にこれはキツい。
「昨日夜更かししちゃってさー...」
「いけませんよさやかさんは病み上がりなのですから。それに夜更かしは乙女の天敵ですよ?」
「そうだよ、ちゃんと寝なきゃダメだよ?さやかちゃん」
「はひ...うぅ眠い...」
説教されてしまった。
いやほんとにマジで眠いの。授業中隠れて居眠りするしかないかなぁ。
知られたらまどかたちにまた怒られそうなことを密かに考えていると、少し顔を赤くしたまどかが目線を逸らしながらある提案をした。
「えっと...よ、良かったら授業始まるまで時間あるしその...膝枕とか...ど、どうかなって...てぃひひ...」
「えっいいのか助かる」
「うんっ...!!てぃひひひ...♪」
まどかの膝とかすげぇぐっすり眠れそう。お言葉に甘えて今日一日の英気を養わせて貰うかー。
「先生来たら起こしてなー」
「うんっえへへ、おやすみさやかちゃん」
「おー...おやすみーまどかー...」
あっやばいこれ。すんごい寝心地いい、すぐ寝ちゃ...う...。
30分ほど寝ただけでとてもスッキリした。まどかは治癒魔法が使えるのかもしれない。
俺が元気になったからかやたら嬉しそうにしてて可愛かった。
ほんとにいい子だ、俺が守らねばならぬ...。
席に戻る途中で仁美に視線を送ると机の上で鼻血の海に突っ伏していた。
血文字でダイイングメッセージのようにさやまどと書かれている。
いつものことだが、なにやってんだろこいつ。