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目が覚めた。
ここはどこなんだ……
今現在の状況は全く身に覚えがない。
なんなら……自分が誰なのかすらもわからない。
疑問ばかりの今、もう少し考え込みたいのだが、周りの状況がそうはさせてくれないらしい。
今は車の後部座席に座っている。それはいいのだが、問題はここがものすごく暑い事だ。
前を見ると、運転席の男と助手席の女は意識がないのか、ぴくりとも動かない。
フロントガラスは割れて原型はほとんど残っていない。
その車の先端の更に先では火が上がって、壁に車体の先端がめり込んでいるのがわかった。
砕けたガラスの破片が散乱している車内。
一通り辺りを見回したところで、シートベルトを外した。
これは、いったいどういう状況なのか……
ひとまず、事故を起こした車の中であるということは把握した。
ちりちりと車のシートの焼ける音を聞きながら、急に嫌な予感に襲われた俺は、咄嗟に車のドアを蹴り破り外に出た。
瞬間、車は爆発した──
爆風に押し出されつつも車外に飛び出てアスファルトを転がる。
横たわりながらもふと顔を上げて見る。
何やら遠くに人影が見えたので、目を凝らしてみる。それは人間のように二足歩行ではあるが、頭部にすらも赤い体毛を生やした、まるで狼のような人型のナニカが立っているのが見えた。
遠くからではあるが、あきらかに自分の知る人ではないナニカを見上げていると、ふと横から声がした。
「───大丈夫?」
心配そうな、幼い声。
ツンツン髪の少年と、少年の背中にしがみついて隠れながらこちらを見ているダークブラウンの髪色をした少女が目に入った。
良かった。こっちはよく知った人間の見た目をしている。
よく知った?どうやらどこかに記憶というものはあるらしい。
「うん、俺は大丈夫。おまえらは?」
よく見ると2人の服も爆風のためかひどく汚れていた。
「車が爆発したんだぞ!ほんとに大丈夫なの!?あっおれはリト。結城リト。こっちは妹の美柑。俺らは大丈夫だけど、あんたは大丈夫なのかよ!?」
会話をするうちに、だんだんと意識も覚醒してきた。
記憶はいまだに曖昧だが、一般的な教養はあるみたいだ。
どうやらリトと妹は獣人には気付いていないようで、単純に俺の心配をしてくれている。
ひとまずこの子たちはこのわけのわからん獣人がいる事故現場には似合わない。
「だから大丈夫だって。リトは早く妹と一緒に離れたほうがいい」
俺はリトと会話をしながらも、遠くに見える獣人がこちらを見ていることに気付いた。さっさとこの二人をここから離れさせないとな。
「わ、わかった!でも、あんたは?動けるのか!?」
今だに転がった後で膝をついている体勢だったためか、なおもこちらを心配してくるリト。
こいつは良いやつなんだろうな。
そう思いながら、言い聞かせるように、そしてさっさと逃げないリトに少しイラついたように言う。
「だーかーら、大丈夫だっつの。俺は適当に逃げるから。早く行けよ」
リトはようやく頷いて、妹の手を引いて走っていった。
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獣人は戸惑っていた。
地球という惑星の住民はひどく脆く、弱い。
もともとはそう聞いていたし、実際に自分たちがこの惑星についてすぐに出会ったものは、目の前の車の中で意識を失い、そのまま燃えている。
自分にぶつかっただけの衝撃でいとも簡単に車はあのような状況になっている。
たまたまそばを歩いていたのであろうガキ2匹も爆発でこけただけでしばらく動けなくなっていた。
だが、横たわりながらも自分を見上げている"子供"からは妙な感じがする。
みすみす二匹のガキを逃がしてしまったが、こいつが気になって動けない自分がいる。
きっとイライラしているであろう自らの兄貴分に視線をやる。
さっさと殺れとでも言うのであろう。
もちろんそのつもりだ。
嫌な予感を感じながらも子供へと向かって歩く。
だが、自分では感じていないのか、気付いていないフリをしているのか、それとも獣らしく野生の勘が働いた事を無視しているのか、
自分では気付かないが、額からは嫌な汗が出ていた。
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「おい!さっさとそいつを殺って行くぞ!逃げたのはほっとけ」
見上げる赤毛の獣人とは別方向より声がした。
なんだ、ほかのもいたのか。
そう思いながらも自分の近くにいる赤毛の獣人からは意識は離さない。
「わかってるよ」
そういいながら赤毛の獣人は近寄ってくる。
俺はそれを見ながら立ち上がり、服に着いた汚れを払う。
汚れを払い終え顔を上げると、自分の目前にまで赤毛の獣人は迫っており、今は右腕を振り上げていた。
あぁ、こいつは俺を殺す気だ。
狼っぽい見た目をしてるし、あんな俺の顔よりもでかい手の爪で頭を抉られたら即死だろうな。
などと考えつつも、
俺は無意識に行動していた。
振り下ろされるべき腕の空間を見つめ"結界"を生み出す。
自分の頭と、自分を殺すべく振り上げられた相手の右腕の間に薄青色の半透明な立方体が突如として現れた。
自分の命を奪うであろう右腕は振り下ろされることなく、薄青色の結界に阻まれ宙に止まる。
自分はもともとこれができて、これを活かした職業にでもついていたのだろうか?
そんなどうでもいいことを考えながら、右手の人差し指と中指を立て左に右手を振るう。
突如として獣人の顔面右側に現れた薄青色の立方体は、すぐさま直方体へと変わっていく。
伸びていく道中にあった獣人の顎先を結界が打ち抜いた時、目の前のソレから小さく声が聞こえた。
「えっ?」
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「わかってるよ」
なんだってこんなガキが出てきたぐらいでイラつかれなくてならないのか、たしかに2匹逃がしたが、こんな未発展の惑星の、しかもガキを2匹逃がしただけだ。そんなことを脳内で考えながら答えた。
自分の怒りっぽい兄貴分である青毛の獣人を一瞬見ながらもそう答える。
俺がガキのそばに行く頃には、ガキは立ち上がっていた。
余裕を持っているのか、もしくは何も考えられないのか、転がり出てきたときについた服の汚れを払っている。
さっさと殺るか。
そう思い右腕を上げ、爪をだす。
獣特有の皮を切り、肉を裂く爪を立て、目の前の子供の頭目掛けて振り下ろそうとした。
だが、なぜだかわからないが、振り下ろす右腕が進まない。
そこに壁でもあるように。
ガキが小さく右手を振るったあと、俺は意識を手放した。
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「おい、何やってんだ?」
赤毛の獣人を片付けたので、ようやく目線と意識を青毛の獣人へと送る。
どうやら青毛の獣人はなにがおこっているかわかっていないらしい。
倒れ動かない赤毛の獣人を見ながら声を荒げている。
「おい!!クソガキ!!なにしやがった!!」
俺は少し考えるそぶりをして素直に答えた。
「───さぁ?」
仕方ない。だって俺自身もまだよくわかっていないのだ。
答えて欲しいのならまず落ち着いた時間をくれ。
「クソがっ!!」
青毛の獣人は吠えながら両腕に抱えていたボストンバックのようなものを道路へと投げ、こちらへと走りだす。
どうやら時間はくれないらしい。
次は不意打ちは厳しいだろうか?そう思いながら身構えていると後ろから声がした。
「──バカどもが」
突然の声に驚き、咄嗟に前のめりになった。
「いってぇ!」
直後、背中に焼けるような痛みが走る。
歯を食いしばってそれに耐えつつ、声の聞こえた位置に振り向き様に回し蹴りを放つが、後ろにいた茶毛の獣人は後ろに飛び俺の蹴りを躱した。
もう一匹いたのかよ…
内心で毒付きながらも行動に移る。
躱された蹴りの追撃に茶毛の獣人の前に人の胴くらいはある結界の壁をはり、それを急速に伸ばして獣人の体ごと弾き飛ばした。
「──ちっ!」
「あ、兄貴!!?」
俺の結界によって茶毛の獣人を吹き飛ばし、青毛の獣人は茶毛の獣人を追って駆けていった。
空へと向かってかなり強めに力を込めたのでわりと遠くまで吹き飛んだはずだ。
背中が痛い。
背中側の服が3本の線状に切れている。
ひっかきやがったかな。あの犬め……
そう思いながらも俺は、青毛の獣人の投げたボストンバックが気になっていた。
わざわざあんなでかいもの持ってたんだ、大事なもののはず。
かついだバックはなんとも重心が安定せず持ちづらい。
なんなら少し動いている気がする。
なんだか怖い気もしてきたが俺はバックを開けた。
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その日は天気の悪い日だった。
デビルーク星を離れ、星間旅行に行っていた私たち双子とお姉様。
そこで私は、獣人型の星人に誘拐された。
双子の姉であるナナは無事だったのかはわからないが、お姉様の声はした。きっとお姉様も捕まったのだ。
何かに詰められ何も見えないが、声は聞こえる。
──ドズッ!
「うぅ!」
何かを打ち付けるような音とともに、お姉様の悲鳴のような声がした。
「おい、もしかしてこっちが第一王女か?」
「さ、さぁ?でも暴れたんで殴るのってのは当然の事だとは思わないか?」
「どっちでもいい。逃げられても、うっかり死んでても予備があるのはいいことだろう?」
どうやら最低でもこいつらは三人はいるらしい。
なんとも最低な事を話している。
気付いたら私は泣いていた。
怖い……これからどうなるのだろう?何をされるのだろう?…
お姉様……お父様……お母様……ナナ………
───誰か……助けて……
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俺は困惑していた。
開けたバックにはピンク色の髪をした美少女が入っていた。
猿轡をされ、気を失っているが間違いなく美少女。
ただ、髪色が……ピンク?
こっちもヒトじゃないのか?
「────おい。」
横から蹴りが飛んでくるが、目線だけで自らの顔面横に結界をはり防ぐ。
「変わってるな。これがおまえの能力か?」
なにやら大物ぶった茶毛の獣人の喋り方がいらつく。
もう戻ってきたのか。
「……もっかい消えてろ」
俺はこの場から距離を取るように結界をはった。
先程とは違い、弾き飛ばす事に長けた結界を生み出す。
ついでに少し後ろにいる青毛の獣人もまとめて吹き飛ばす。
「くっ、またか!──」
何か言いながら吹き飛んでいく2匹を見届けた俺は、もう一つのバックも開けた。
目が合った。
先程の子と同じピンク色の髪。
こちらの子の方が髪は短く少し幼い。
おそらく2人は姉妹か何かだろうか。
こちらの子は意識があるらしい。
怯えた目をしてこちらを見ている。
目尻には涙の跡が見える。
俺を誘拐犯と思ってたりしないかな?
そんな事を不安に思いながら猿轡と、手足の拘束を解いてやる。
「───ぁ……ありがとうございます…」
捕まってどれほど経っていたのかはわからないが、小さくかすれた声のため、消耗が伺えた。
「お礼は…助かった後で」
俺はそう言いながら、いまだ意識のない子の拘束も解きながら二匹の獣人が吹き飛んだ方向を見る。
車の事故から5分くらいは経っただろうか?
そろそろ警察やらがきてもいい頃だとは思うが、生憎ここは獣人やらピンク色の髪の子やらがいる、"俺の知っている世界"と同じだとは考えない方が良い。
もう一人の子の拘束も解けたところで二匹の姿が見えてきた。
「おまえ、地球人ではないのか?」
「てめぇ、ぶっ殺す!」
2匹がこちらに向かってきている。
地球人というワードに引っ掛かったが意識のある、幼い方のピンク髪の子は震えていた。
「あ……ぁぅ……」
あきらかに怯えている。
事情はわからないがこんな子供に……俺は子供好きなのだ。
獣人どもになんだか殺意が芽生えてきた。
だが、ひとまずこの子を落ち着かせてからだな。
「──大丈夫だ。今日は無理でも、そのうちまた笑える日が来るから」
笑顔でそう伝え、俺は二匹を"殺す"べく歩き出した。
記憶はだいぶはっきりとしてきた。
車の後部座席で目が覚める前の記憶が、この世界に来る前の記憶が──
ただ今はそんな事はどうでもいい。
こいつらをどうやって殺すか
ただそれだけに意識を集中する。
「ダンマリか!?じゃあ死ね!!」
雑魚のような台詞を吐きながら前傾姿勢で走ってくる青毛の獣人を見ながら、視界の隅に茶毛の獣人も入れておく。
どうやら茶毛の獣人は動く気がないらしい。
こちらを探っているのか、いずれにしても好機。
動かないのなら、まっすぐに向かってくる馬鹿をハメるだけ。
ノーガードな俺に突っ込んでくる青毛の獣人の顔の少し前に、拳大の結界の玉を生み出す。
「うごっ!」
突っ込んで来ていた青毛の獣人は突如現れた障害物を避けられるはずもなく、鼻先を打ちつけ仰反る。
「疾ッ!!」
俺はすかさず距離を詰め、腹に右足を乗せるとそのまま地面に打ち付ける。
「ごぶ」
口から涎なのか血液なのか、薄赤色の液を垂らしているが気にしない。
右足はそのままに、左足で顎を踏み砕く。
───バギャ!!
骨と歯が折れる音がするが、それも気にしない。
次は目を右足のかかとで何度か踏みつける。
両目が完全に陥没し、呻き声も静かになってきたあたりでようやく茶毛の獣人が話しかけてきた。
「おまえは何なんだ?」
「──さぁ?」
先程と同じ返答。
ただ、今回は顔や体は倒れている獣人の体液で汚れ、自分でもわかるくらいに口元は歪んでいた。
それを不快に思ったのか、茶毛の獣人は舌打ちをしながら構えをとる。
「ちっ、答える気はないか……まぁいい。そいつらと俺を同じと思うなよ?」
答える気がないのでは無く、"この世界"の自分を知らないので答えようがないだけなのだが、仕方ない、俺も左半身を前に出し膝は少し曲げる。
左手も少し曲げ前に出し、後ろ側に回した右半身に右手を隠すよう垂らし構える。
右腕は結界や防御のため相手の視界から隠し、左肩で顎をカバー。
前に突き出した左手は攻撃にも使えるし、相手の攻撃を迎撃することにも使える。
「はぁぁぁぁ!」
茶毛の獣人は咆哮とともに上下左右に高速で移動しながら近づいてくる。
何度も結界で吹き飛ばしたため慣れたのか、的を絞らせない。
幾度かのすれ違いを経た後に肉薄。
打ち出すつもりであろう引いた右手はフェイント。
本命は───
「こっちだろ?」
俺はそう答えつつ、結界で作った棍を右手に作成しており、根で右側の背後から迫る爪を防いだ。
「さっきから、なんなんだそれは?」
「さぁ?」
今回はすぐに答えたが相変わらずの俺の返答に流石にイラついてきたのか、そのまま近接戦にもつれ込んだ。
獣型なだけあって、かなり早く、力も強い。
直撃はしていないが爪が何箇所もかすり、俺の服はいたる所が小さく避け、血が滲んでいる。
早い……けど、そろそろ合うかな───
そう考えながらも何度目かに茶毛の獣人が繰り出してきた左手。
ここだ!相手の拳に沿うように、レールのよう斜めに生み出した結界で腕をそらし、体勢を崩した隙に左脇腹を斜め下から棍で打つ。
左手を振った勢いと俺に打たれた勢いを乗せ、左足でこちらの顔面に蹴りが来るが、棍を回し蹴りに合わせてスネを打つ。
更に根をもう半回転させ足の甲を砕く。
「ぐっ!」
流石に効いたか、茶毛の獣人は左足を抑えて呻く。
「たしかに前の2匹よりは、強かったよ──」
俺はそう言って足を抑えているために下がっている顔目掛けて棍を振り上げようとした瞬間、目の前の景色がぶれた。
ドズッ
「──君らの一味って、金額の割にたいしたことなかったんだねー」
俺と茶毛の獣人の間に、黒白の柄物のパーカーを着てフードを被った男がいた。
横顔しか見えないが、目つきは悪く黒髪が目にかかっている。
パッと見は完全に悪役顔だが普通に人間だ。
ただ異質なのはそいつの持っているナイフが俺の右胸を貫いていること、嫌な音が体の内側から聞こえた。
「たかが誘拐もまともにできないなんてさー」
そいつは俺の方を見ることもなく、そのまま俺の胸に刺さったナイフを肩まで振り上げた。
「あああああぁぁぁ!!!」
痛い。めちゃくちゃ痛い。
なんだこれ、右腕がもがれたのか?
痛みを通り越して、自分の体に起きている事態を正確に把握できないでいる。
「このガキが想定外だっただけだ!まだ依頼をしくじった訳じゃない!!」
茶毛の獣人が焦ったように何か叫んでるが、俺はそれどころじゃない。
こいつはヤバイ。
俺を舐めてる内に殺さなきゃ殺される。
俺は結界を刀に変え、男の死角から突き刺すべく操作するが、
「いやいや、もう失敗だよー。デビルーク王直々にこっちに向かってるみたいだし。もうすぐ来るんじゃない?」
そいつはなんて事もないように、茶毛の獣人と会話をしながら俺の作った刀を掴み、もう一方の手に持った、俺の右肩を裂いたナイフで俺の腹を刺した。
「イヅゥゥ!」
痛い、熱い。
逃げるように転がりナイフは抜けた。
腹に空いた穴からは血が溢れてきた。
「──ふーん。まっ、想定外は認めるけど、別に面白い"能力"持ってるってだけでたいした事ない"子供"じゃん?デビルーク王も力を失ったままみたいでまだ楽しめなさそうだし。もういいよ」
「勝手なことを!!報酬はどうなる!?」
「どうせ死ぬのに必要ないでしょ。───ばいばい」
黒髪の男は笑顔で茶毛の獣人に向かって手を振ると、茶毛の獣人は体はそのままに頭部だけが地面に滑り落ちていた。
──どうやった?
──こいつはヤバすぎる。
──"また"死ぬのか?こんなすぐに……
動けない体でそんなことを俺は考えていたが、あまりの痛みのせいか、血を流しすぎたためか、俺の意識はだんだんと薄れていった。
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「大丈夫だよ。今日は無理でも、そのうちまた笑える日が来るから」
そう言ってあの人は私たちを誘拐した獣人の方へと歩き出した。
その背中は爪で裂かれたのか服は裂け血が滲んで垂れていた。
そんな背を見送ると私はいまだ目覚めないお姉様の頭を抱いて壁に持たれる。
本来怪力なデビルーク人だが、打たれた薬のせいだろうか、うまく力が出ない。
あの人が獣人共に向かっていってどのくらい経っただろう?
あの人は無事なのだろうか?
私たちは助かるのだろうか?
不安でどうにかなりそうになったその時に声がした。
「ララーーー!!モモーーー!!無事かーーーー!?!?」
お父様の声。
お母さまも横におり、親衛隊の姿も見えた。
──良かった。
助けに来てくれた。
私は心から安心し、お姉様もちょうど気がついた。
「モ、モ……?…良かった。無事だったんだね…」
「お姉様……はい。お父様もお母様も助けに来てくれましたよ」
その後、私とお姉様は、お父様とお母様、親衛隊に救出され、私たちを誘拐した獣人三人は横たわっていた。
全身に布を被されておりよく見えない。
あきらかに元々の身長よりも低い気がしたが、きっと気のせいだろう。
助かったのだとまた実感していると、そのそばで親衛隊が取り囲んでいる人が目についた。
あぁ、あの人だ。
私とお姉様を助けてくれたこの惑星のあの方だ。
私は気を失っていたため知らないであろうお姉様にもあの方が私たちを助けてくれた人だと話し、そばに駆け寄ったが、目の前に来て一瞬息が止まった。
体中血塗れ。
右胸から右肩まではキレイに裂けている。
腹にも穴が空いていて、もう出る血がないのか、黒く変色し固まっている。
──見ためでは完全に、死んでいた。
「この方が、2人を助けてくれたのですか?」
お母様の声。
私は泣きながら頷いた。
お姉さまも、横で泣いている。
「そうですか、あなたたちの命の恩人はなんとしても助けます」
だから安心して。
と言ってお母様は私の頭を撫でてくれた。
その人は私達に何かあった場合のために用意していた最新の医療カプセルへ運ばれ治療している。
が、私はよく聞こえておらず気を失ったため、後からそう聞いたのだ。
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「もう心配はありませんよ」
あれから私たちはデビルーク星に帰り、私もお姉様もすっかり元通りの生活に馴染むくらいに回復していた。
──あの人の言っていた通り、最近は私も笑えるようになった。
「良かった……お母様、私お礼を言いに行きたいのですが」
「ダメです。あんなことがあったばかりですし、今あなた達をここから出すわけにはいきません。それにあの惑星は未発展の星。私たちのように別の惑星の住民に慣れていないのですよ」
「でも──」
その先は言わせてもらえなかった。
「ダメです。もうこの話は終わりですよ」
「わかりました……」
言葉では納得したが、気持ちでは納得できていない。
夜、寝ている双子の姉を横に想う。
──あの人に会いたい。
ただ、私はあの人に会いたい。
さっそうと現れてピンチから救ってくれた。
まるで物語に出てくる王子様のようなあの人に会いたい。
名前はなんというのだろうか?
家族は何人いるのだろうか?
恋人はいるのだろうか?
いろんな想像が浮かんでは消えていく。
あの整った綺麗な顔も、長い白とも言えるくらいに明るい金色の髪も、もう一度見たい。会ってお話がしたい。
あの日あの時から、私は名も知らぬあの人に恋をしたのだ。