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『金色の闇』との小競り合いのあと、事務所へと戻る。
いつものように加賀見さんが入れてくれたコーヒーを飲みながら松戸さんに、先程までの内容を報告したところで、不意に聞かれた。
「ーーーどうだった?宇宙一の殺し屋の実力は」
「いやー、全然本気じゃなかったっぽいですからね。ただ………本気でやりあってたら、たぶん負けてました」
今のは本当だ。勝ちにこだわるなら、加賀見さんの協力がいる。『ベス』さんに見てもらってから加賀見さんに黒渦のゲートを開いてもらい、そこに遠距離で念弾を打ち込むって感じの不意打ち戦法しかないか。
まーそのゲートは今日見せちゃったから、次はどうなるかはわからんが。
あとは、相手の隠し球もなにがあるかわからないけど、俺も絶界は使ってない。探り合いと見せかけて相討ち上等でどこかの核を削り取るしかないかなと思っている。
地球人と違って宇宙人だし、変化能力もあるならどこが核かもわからないし、そもそもあるのかもわからないのでかなり分が悪い勝負になりそうだが。
つまり、真面目にやったら負ける。
「まさか狙いが君の義弟だったとはね。ーーー同情はするよ」
「いや、どーですかね。意外と依頼やめると思いますけど」
「理由を聞いても?」
「勘です」
勘か、と呟く松戸さんだが、俺は半ば確信すらしていた。
あのタイプは殺しが好きなわけじゃない。
たぶんだけど、それしかする事が、それにしか存在意義がなかったんだろう。
俺と、同じで。
理由があるから殺るだけで、理由がなくなれば……
「でも、少女の姿とはね。噂はやはり当てにならないね」
もともと金色の無生物のような生命体だの、
髪が金色に変わるタイプの筋肉質な野菜系の星人だのと聞いていたので、
正直、目の前で見た時は普通に驚いた。
加賀見さんも先に見てたんだから教えてくれたらいいのに……
「まぁ、またしばらくは様子見だね。君の勘が当たることを僕も祈っておくよ」
「最悪、依頼主が誰かわかれば先にそいつを狩ったほうが早いですね。目的がなくなれば、やめると思います」
「そうだね。僕の方でも調べてみよう」
あまり当てにはしないでくれよと、付け加えられる。
それはそうだ、加賀見さんは元々宇宙人とは言え、地球に住みついて数十年は経っているらしい。今の宇宙事情にはそこまで詳しくないのだ。
俺はお礼を言いつつも昼間のララの様子が気になったので加賀見さんに聞いてみると、学友の家にいるとの事。
どうやら俺と別れた後に出会った西蓮寺の家にいるみたいだな。
リトも街を走り回っているらしいが、ララを探してるのか、まああの二人の問題だし、いい薬になるだろうと放っておくことにした。
その後いくつかの世間話をしながらもコーヒーを飲み干して事務所を出た。
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宇宙一。殺し屋という肩書のなかではあるが、あれが宇宙一。
この世界では念能力者であってはじめて宇宙人との戦闘が成り立つ。
念は念能力者以外には見る事もできないのはかなりのアドバンテージがあるが、それを持ってしても身体能力の高さで簡単に覆されてしまう。
念のおかげで、身体能力ではるかに劣る地球人となんら変わらない俺が宇宙人とやり合えるし、念は奥が深い。
身体が強い宇宙人でも、使いようによっては圧倒できるだろう。
逆にララのような、デビルーク星人のようなもともとの強さが異常な星人が念を覚えたら……恐ろしすぎて考えたくもない。
先程、念は念能力者しか見る事ができないとは言ったが、基本的に俺の結界は具現化しているので通常の人間でも見える。が、【隠】を使って見えないようにすることもできる。
元の世界でよく使っていた、どうしても強化系に劣る接近戦を補うために覚えた武器術。
今では棍、刀剣類、トンファーなどを好んで使っているがこれを使う時は元は結界なので全て青色だが、念を使えないものにも武器が見えてしまう。
もちろん見えなくすることもできるが、そのままにしてるのはもはや癖のようなものもあるが、目まぐるしく変わる接近戦での戦い、更に昔の俺の紙防御では接近戦にもつれ込んだ時点で【隠】にオーラを使うくらいなら結界強度に集中した方が遥かにマシだったからだ。
もう一つ、戦闘が長引いた時にしか使えないが武器は見えなくする事ができないと思わせるための布石の意味もある。
『金色の闇』、髪が自在に形を変え、腕から盾を生やしたりとしていた。
念は使っていないが、オーラではなく体の形状を変化させる事ができる、変化系能力者のような力。
というのが俺の見解だ。しかも、その変化量は体の体積には比例しない。
あきらかに髪の拳や刃はでかくなるし、盾は文字通り生えていた。その時に他の体の部位が縮んでいる様子もない。
つまり、どこまで大きくできるのかわからない。
限度が無い可能性すらある。
身体能力もかなり高く、俺が念を使って届く領域のまだ上にいる。
身体能力の高さというのは戦いにおいてシンプル且つ最強ともいえる力。俺にとっては強い宇宙人は、体のみではあるが、みんな強化系を極めた存在に等しいのだ。
一通り先程の戦いを分析して思う。
………強い……けど、届かないわけじゃない。
もっと、強くならないとな。
結果その後は朝まで修行した。
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「お兄ちゃん、おかえりなさい」
私が家に帰ったあと、しばらくしてお兄ちゃんが帰ってきた。
「おーただいま。ララ」
お兄ちゃんも、もしかして私を探してくれてたのかな?
ミカンが言うには仕事で泊まりになるって事だったけど……
でも、お兄ちゃんは私がハルナの家にいたって知ってそうだな。
本当、不思議な人。
「あのね…お兄ちゃんの言う通りだったよ」
「ん?なにが?」
「もー、昨日話してくれた好きなところと嫌いなところの話だよ」
私はあれからハルナの家に泊まって、
二人で話して、
うちに帰ってきて、
リトの事を聞いて、
リトを見て。
私はやっぱりリトが大好き。
嫌なところがあっても、好きなところをみよう。
慣れちゃわないように、大事な気持ちを大切にしよう。
私を心配して夜中探し回ってくれていた大好きなリト。
怒鳴ったり、怒ったりもするけど、それも私の大好きなリト。
そう思えば、嫌な事はきっとすぐにどこかへ行っちゃう。
「そっか」
お兄ちゃんは一言呟いて、私の頭を撫でてくれて、リトと同じく寝てしまった。
いつもありがとう。
お兄ちゃんの事も、大好きだよ。
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「ユウリさん、たい焼き買いませんか?」
「おっ。いいな。リトとララにも買って帰ろうか」
あれから数日経ち、俺はミカンと買い物に来ていた。
以前のショッピングモールに行き、今は帰り道の途中だ。
「うまいなー焼きたてかな?」
「そうですね。あったかくて、美味しいです」
たい焼きを六個買って、そのうちの二つを夕方の、広めの公園のベンチに二人で並んで座って食べていると、
ん、あれは、もしかして、
「ーーーーゲッ……!」
「…ユウリさん、どうかしたんですか?」
視線の先に、金色の長い髪を靡かせた少女が歩いている。
頭の左右に黒い髪留めが付いており、肩を出した黒色のドレス。
間違いなく、『金色の闇』
「キレイな子ですね………ユウリさん、もしかしてあの子に見とれてたんですか……?」
「いや、違うよ。なんだかララたちみたいな、地球人じゃない感じがしてさ」
ミカンの視線が痛い。
今言った事も嘘ではない、どう見ても一般人ではない、見るものが見ればわかる強者のみが纏う空気感。
まさかこんなところで合うとはな。
「そうですか?でもたしかにキレイな子ですもんね。ララさんもレンさんもすごくキレイな顔してますし」
レンって言うのはララと同じどこかの星の王子だそうで、彩南祭の準備中にララに追いかけ回されてるのを見ただけなのでよくは知らないが。
ミスったな。俺とミカンが見すぎたせいか、こっちに気づいたようだ。だんだんと近づいてくる。
「…………」
「あ、すみません、悪気があって見てたわけじゃないんです」
「…………あなた達は、『結城リト』について、なにか知っていますか?」
「え……?それは、私の兄ですけど。な、なにか迷惑をかけたんですか!?」
ミカンと金色の闇が話している。
あの夜話した通り、リトについて聞いてまわってるのか?
随分と律儀な殺し屋だな…
「……兄、ですか。迷惑はかかっていませんが、どういった人物なのかを聞いていまして」
キョトンとしてるミカン。
このままだと、話しが進まないな。
「とりあえず、たい焼きでも食う?」
「…たい焼き、ですか?」
ひとまず手渡す。
おそるおそる、といった感じだが一口かじり、
「……おいしい、です…」
その後はミカンがリトについて話しており、本当は何かしでかしたのでは?と謝罪も込めて丁寧に話している。
会話の内容は置いておいて、側から見たら年の近い友人同士の会話にしか見えない。
俺は変に感づかれるのも嫌なので極力会話には入らないようにするが、ちょくちょくリトのフォローを入れておくのは忘れない。
「……身内の話という事もありますが、やはり聞いている人物像とは一致しませんね……やはりあのハンターとかいう男の言ってる事の方が…」
「ハンター?」
「……黒ずくめのコート男です」
「…その人は、知らないですね。ヤミさんはその人も探してるんですか?」
急にハンターとか言うなよ。思わず反応しそうになるが、なんとか何食わぬ顔で二人の会話を眺めている。
ミカンも名前を聞いてはじめは『金色の闇さん』と呼んでいたのだが、面倒になった俺が、長くないかというと、色々あってヤミと呼ぶことをあっさりと受け入れた。
「いえ、そちらは探していませんよ。ミカン、ありがとうございました。私も、もう少し調べたら依頼人に確認することにしましょう」
「…ユウリも、たい焼き、おいしかったです」
「お、気に入ったのか?じゃあ残りも全部やるよ」
「……いいんですか?」
表情は変わらないが、もし尻尾があったなら振り回すほど嬉しそうに見えた。
「ここで嘘ついてどうすんだよ。いいよなミカン?」
「もちろんです。リトが悪いことしたのかもしれませんし、ヤミさん、ごめんなさい」
「……いえ、二人の言う結城リトであれば、私のターゲットではないです…もしまた情報が必要になれば、会いましょう」
そう言って『金色の闇』あらため『ヤミ』は去っていった。
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「殺し屋…って本当なんですかね?」
「んー、本当じゃないかな?宇宙は広そうだしな。いろんな人がいるだろ」
ヤミさんと話した後、ユウリさんと家に帰る道を歩きながらさっきの話を思い出していた。
「……リト、大丈夫ですよね?…ヤミさんは、良い人そうでしたし…リト、殺されたりなんて、しないですよね……?」
思わず繋いだ手を、ユウリさんの手を強く握る。
あまりに現実味がなかったのでなんともなかったのだが、急に不安が込み上げてきた。
きっと、最後の方は声も震えていたと思う。
リトがいなくなる。
考えた事もなかった。
怖い。嫌だ。
いつか見た夢を、夢でのユウリさんをリトに置き換えて想像してしまう。
ーーーギュ
強く握りしめいた私の手を、ユウリさんも力強く握り返してくれた。
「大丈夫」
優しい声。
あの時と同じ。
「大丈夫だから」
たったそれだけで、不安な気持ちが、怖い感情が薄れていく。
「俺は一応、リトの兄でもあるからな。リトとミカンは、俺が守ってやるよ」
ーーードキッ!
思わず、心臓が跳ねた。
笑顔でそういうユウリさん。
ーーー俺が守ってやるよ。ーーー
脳内でリピートされる。
もちろん、今はリトの方が優先だけど、きっと本当に守ってくれる。守り通してくれる。
頼りになる兄として。連れそうパートナーとして。
私が勝手に思っているだけだけど、
どちらとも受け取れてしまうその言葉。
安心していく心とは逆に、
なぜか早くなっていく私の心臓の鼓動。
矛盾する二つの心に上手く頭が働かなくなるが、
不安や恐怖はもうなくなっていた。
「……はい。…もう大丈夫です」
「おう。任せとけ」
そう言い切るユウリさん。
きっと聞こえないだろうと思うけど、私は思わず、小さく呟いた。
「ずっと、守ってくださいね」
きっと聞こえていないけど、私の手を握るユウリさんの手の力が、ほんの少し強くなった気がした。
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「まさか、武器化も出来るとは。彼は本当に器用だね。あの力、『真弓』は、どう思う?」
「……血液操作は関係ないでしょう。おそらくは身体エネルギーを使って結界を生成しており、その技の応用でしょうか?」
「血液でもないか。身体エネルギーとはまた難しいな。霊力だと言われた方がまだ調べやすい」
「先生……七瀬さん本人に聞いてみても、教えていただけると思うのですが?」
「いや、彼はまだ僕を完全に信用してないし、誤った知識をなすりつけられても困る。戦闘時ばかり見ていたからね。膨大な時間量だとは思うが、彼の修行時の映像を見たいんだが、『沙世子』と『ベス』にお願いできるかな?」
「……はい、先生」
「あの力、何としてもモノにしたい。この松戸平助一世一代のショーのために……」