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「悪いな。待ったか?」
「ハルナお待たせーー!」
「いえ、私もさっき来たところですから」
「そうか?ならよかった。それじゃ行こっか」
今日、私はララさんと七瀬先輩と買い物に行くことになっている。
どうしてこんな事になったのかは覚えてないけど、明日のクリスマスパーティーのプレゼントを選ぶのを七瀬先輩にララさんと私が手伝ってもらう事になったからだ。
外はまだお昼過ぎだと言うのに肌寒く、七瀬先輩は寒いのが苦手だそうで、ロングコートにマフラー姿。ポケットに封印されているかのように手が突っ込まれており、ララさんが腕をひくも決して出そうとはしない。
「にしても、正直プレゼントなんて俺に聞かれてもわかんないぞ」
「えー、お兄ちゃんに聞いたら間違い無いってリサミオが言ってたよー」
「いや、そもそもリサミオを俺は知らねーよ」
「リサミオは友達だよー!」
ララさんと七瀬先輩は仲良さそうに話している。
私、いない方がいいんじゃ……と思うと。
「プレゼントねぇ……西蓮寺は何かイメージしてるものとかはあるのか?」
私に話を振ってくる。本当に全体を見てると言うか、置いていかれそうになると引っ張られる。
「あ、私は一応考えてるのがーーーーー」
その後、街中をいろいろと回っていると、後ろを歩いていたはずのララさんがいない。
「わーキレイなものがいっぱい!」
「おーい勝手に行くな。はぐれるぞ。落ち着けよ」
止める七瀬先輩の声も届いておらず、アクセサリーショップへと入っていく。
「わぁーかわいい」
そういうララさんはガラスのケースに入ったアクセサリーを見ていた。
七瀬先輩と私も続いてお店に入り、七瀬先輩はララさんと話している。私もせっかくなのて店内を見ていると、白い、雪が舞っているような髪留めが目に入った。
キレイだなぁ。
あ、でもちょっと高いなぁ。
「ハルナ、次はあっちも見てみようよ!」
と、見ていたのだが、急に声をかけられてララさんに手を引かれた。
「西蓮寺。少しトイレ行ってくるから、悪いけど入った店後で教えてくれないか?」
「わかりました、ちょっとララさん、ちょっと待って……」
私はララさんに連れられてその後もいろいろとお店を回り、七瀬先輩ともすぐに合流して無事にプレゼントも買う事ができた。
「あー楽しかった!でも、良いもの買えたね!良かったねハルナ!」
「うん。七瀬先輩も、ありがとうございました」
「いや、ほぼララのお守りしかしてないよ。てか、西蓮寺も疲れてないか?少し喫茶店でも入って休もうか」
良かった。正直ちょっと疲れていたので嬉しい申し出だった。
ララさんはいつでも元気なので違和感はないが、七瀬先輩も疲れたと口では言ってるけど平気な顔してる。わたしに気を使ってくれたのかな?私もテニス部で体力ある方だと思ってたんだけどな……
結果、私は手袋を買って、七瀬先輩は結城くんでも入るように見てやるよってサイズを見てもらった。ーー結城くん用なんて言ってないんだけどな。
ララさんはなんだか不思議な置物を選んでおり、七瀬先輩はいつ買ったのか紙袋を持っている。何を買ったのかは見ていなかったのでわからないけど。
そう言えばと思い私は頼んだミルクティーを口にした後で聞いてみた。
「明日のパーティーには七瀬先輩は来ないんですか?」
「ん、行かないけど?」
「ハルナもそう思うよねー?お兄ちゃんは呼ばれてないから行かないんだって。サキはそんな事気にしないと思うって言ったんだけど」
「普通呼ばれてないのに行かないだろ。それに、そもそも明日は予定アリだ」
七瀬先輩、来ないんだ。
なんとなく来るものだと思っていたので、正直意外だった。
喫茶店での会話も落ち着き、今は三人で家に帰る最中だ。
この最後の交差点で、私は別方向になるのだが、七瀬先輩が横に並ぶ。
どうしたんだろう?
「……今日は振り回して悪かったな。一日早いけど、クリスマスだし、今日のお礼がメインだからさ」
そう言って紙袋を渡された。
「え?…ちょっと七瀬せんぱ…」
「じゃあなー明日楽しんでこいよ!メリークリスマス!」
「ハルナまた明日ね!」
一方的に渡して去っていく。
この強引なところは、ララさんにも似てるような……
家に帰って、もらったプレゼントを開けると、私が見ていた、白い髪留めが入っていた。
あの時私が立ち止まって見ていた事に気付いてたのか。
本当に、周りを見てる人だなぁ。今日で何回思ったかわからないけど。
ひとまずプレゼントも買えたし、言われた通り、明日は楽しもう!
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「じゃあ、いってきまーーーす!」
「リト、ひとんちの別荘壊さないようちゃんと見とけよ」
「……流石に、それは大丈夫だと思うけど」
「なんの話してるのー?」
「ララの話だよ」
「えーなになに?」
今日はクリスマス。
リトとララさんは天条院さんの開くパーティーに呼ばれており、今から向かうところだ。
ユウリさんが念のためか、ララさんの行動が度を超えないように!とリトに釘を打っているが、肝心のララさんはやっぱりなにもわかっていないみたい。
「なんでもないよララさん。いってらっしゃい」
長くなると時間に遅れるかもしれないので、私はそう言って話を終わらせ、二人の出発を見送った。
「ーーーじゃあ、俺らも用意するか」
「そうですね。用意できたら声かけますね」
リトはパーティーなのに私たちはいつも通りもなんなので、と言ってユウリさんが食事に誘ってくれていたのだ。
クリスマスディナー、楽しみだな。
支度が終わり、まだ夕方とはいえ既に薄暗くなったころ、私たちも
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「あ!ヤミさーん!」
「ミカン、ユウリ、すみません。待たせましたか?」
「うんん、私たちもさっき着いたの」
「……変じゃ…ないですか?」
「うんん、すごく似合ってるよヤミさん」
「…ありがとうございます…ミカンも、似合っていますよ」
ヤミさんはいつもの黒い服、ではなく黒を基調としたドレスを着ており、ドレスの上にも黒いコートを羽織っている。
かくいう私も薄い青色のドレスを着ている。ドレスの丈は長く、シンプルな物。ドレスの上にはヤミさんとは対照な白いコートを着ており、髪は今日は結ばずにおろしている。
ユウリさんも完全にフォーマルな格好で、濃いグレーのスーツに茶色のコートを羽織っていた。
ヤミさんは、この前ララさんの婚約者候補?との一件での話を聞いてから、ユウリさんの絵本を借りに良く家に来るようになった。
それから話をするようになり、すぐに友達になれた。
クリスマスディナーの話が出た時、「ヤミも誘うか」ってユウリさんが言ったときは素直に嬉しい気持ちだった。
ほんの少しだけ、二人きりに期待してた私がいるのは内緒だけど。
「二人とも似合ってるって。じゃあ行こうか」
ユウリさんが笑顔で褒めてくれた私たちの着ているドレスだが、ヤミさんをディナーに誘った後、探偵事務所の人に用意してもらったらしい。いったいどういう人達なんだろう?レンタルかと思ったが、ユウリさんも「なんか、くれるんだってさ」と苦笑いしながら言っていたのを思い出す。
そうして慣れないドレス姿に少し恥ずかしい気持ちで歩いていると、お店に着いたらしい。
その頃には、あたりはもうすっかり暗くなっていた。
ドレスコードがあるくらいのお店だと想像はしていたけど、本当に良いお店だった。
「すごいですねぇ。でも、少し場違いじゃ、ナイですか……?」
「……ユウリ、本当にここですか?私たちのような人は他に見当たりませんが……」
そこは川沿いに建つ大きなビルの最上階にあるレストランだった。
下に停まっていたのは高級車ばかり。最上階まで行くと周りはスーツ、ドレス姿のおじさまやおばさま、明らかに上流階級のような人達がウロウロとしている。
そんな中に、ユウリさんと私とヤミさんが入るのは少し抵抗があったが。
「全然場違いじゃないよ。入っちゃえば大丈夫大丈夫!ほら、行くぞー」
そう言って私たちの背中を押してぐいぐい入っていくユウリさん。
ほら、受付の人が、なんか小馬鹿にした様子でユウリさんを見てる。
「
あきらかに予約してないと思ってるな…
受付のおじさんは少し強めにユウリさんに言うが、
「はい、松戸で三人、アルコールは無しで予約してるもんすけど?」
「松戸 様のご紹介の方でしたか。それは、大変失礼を致しました。すぐにご案内を致しますね」
「ありがとうございます」
松戸って、探偵事務所の所長さんの名前だよね?予約までしてもらってたんだ。
確認が取れるとすんなりと、丁寧に私たち三人のコートを受け取ってくれた。
そこから席まで案内されたのだが、
「わぁーすごい!」
「キレイですね…」
私とヤミさんは思わず声を出す。
そこは川沿いからの夜景を一望できる広めの個室だった。
「来て良かっただろ?」
ユウリさんはニコニコと笑ってそう言った。
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「ほらなーどうせ個室なんだから、気にするだけ損なんだよ」
「ヤミさん、それはね、こうやって…」
「ヤミ、それにはこれつけて食べるんだよ。ほら…その方が美味いだろ?」
「ヤミさん、美味しいね」
席につき、注文を終えると、
頼んだ料理が続々と出てきて、二人が次々と私に話しかけてくる。
嫌な気持ちは、無い。
じゃあこの気持ちはなんなのだろう?
わからない、けど心地よい。
その後も地球の話を聞いたりして、最後にケーキを食べた。
クリスマスにはケーキを食べるのがお決まりらしい。
今は食事も終えて、ユウリはコーヒーを、私とミカンは紅茶を飲んでいる。
そうしてそろそろ店を出るのかと思ったところで、
クリスマスプレゼント、と言ってユウリが片手で持てるほどの包みをくれた。
「ヤミさん、開けてみなよ」
ミカンに促され、包みを開けると、
中身は、絵本だった。
「…ありがとうございます。ミカン、ユウリ…」
プレゼント、私のための。
これがきっと、嬉しいという事なのだろう。
そこで気付く、
「…私は、何も用意してません…」
「いいんだよ。それ、サンタからだし、俺たちからってわけじゃ無いし」
ユウリもミカンも微笑んでいる。
きっと、私も笑えているんだろうと思った。
ーーーーーー
「ヤミさん、嬉しそうでしたね」
「そうだな。ーーーミカンは、ヤミの事好きか?」
ヤミさんと別れ、今は二人で夜道を歩いて帰っている最中だ。
年齢のせいでそうは見えないかもしれないが、いまは二人ともドレスコードもバッチリな大人な格好。
もしもこれが十年後なら、ユウリさんは28歳で私は21歳。きっと若い夫婦にも見えるだろうな。
その時の私は、身長ももう少し伸びていて、胸も…きっと大きくなっているハズ……
ユウリさんはもっと大人っぽくなっているんだろうな。
最近は白い部分はもう毛先ぐらいしかなくて、ほぼ黒髪になりつつあるユウリさん。
何気なく家で聞いた時に言っていたが、もともと白に近い程の金髪だったのが、事故の後遺症で黒い部分ができて来始めて、その後どんどん黒になってきているらしいのだ。
じゃあ、二人の子供は私とユウリさんに似て落ち着いた色の髪になるのかな?それとも、元のユウリさんのような髪になったりしてーーー
「あれ、ミカン?」
おっといけない、考えが飛躍しすぎていた。自分の服装と、クリスマスという特別な日のせいかな。
「はい、好きですよ。家に来る時もお話ししますし、私は友達だと思ってます」
「そうか、たぶん、ララとは別の方向だけど、まだ人付き合いの勝手がわからないんだと思う。仲良くしてやってくれよな」
「ユウリさんに言われなくても、ですよ」
ユウリさんはいつものようにそっかと言ったあとで、風が吹いてきた。
「少し、冷えてきたな」
ユウリさんがそう言うので、私はユウリさんと腕を組む。
ユウリさんが寒がりだって言うのは知ってるし、この方が、あったかいよね?
「これだと、どうですか?」
「ん、あったかいゾ」
照れてるのかな?声が少し上擦った気がする。
「あれ、ユウリさん、なんだか顔が赤くなってませんか?」
ちょっといじわるに言いながら、私はユウリさんの顔を覗き込んでいると、
ーーーードンッ!!
「お兄ちゃーん!」
後ろから、ララさんの声が聞こえた気がする。
そして、ユウリさんの顔がどんどん私に近づいて来て、私の唇に、何かが触れたーーー。
それが何かを理解した時に
世界が、止まったように感じた。
脳内では、何度も行っていたはずの行為なのに、
実際は、こんなに、こんなにも素敵な事だったなんて。
暖かく、柔らかな感触。
頭の芯が痺れる。こんな感覚は知らない。
体の力も入らなくなる。
唇と唇が触れ合う。
たったそれだけのはずなのに、押し寄せる幸福感に包まれた。
「…ん……」
思わず漏れ出た声。
もう、私の声なのか、ユウリさんの声なのかもわからない。
目の前に、ユウリさんの、灰色の瞳が輝いてる。その瞳の中には私がいる。
きっと、私の瞳の中にもユウリさんが写ってる。
今だけは、この世界に二人きりしか存在しないみたい。
意識はかろうじて戻ってきた。
でも、離れられない。離れたくない。
そんな幸せな時間は、不意に終わりを告げた。
「…ぷはっ……」
きっと一瞬だったはずだけど、数十秒にも、数時間にも感じられた幸せな時。
「…ミカン…だ、大丈夫…か?」
少し顔が離れた事により、今はユウリさんの顔が見える。
ーーー赤い顔。それはきっと私も。
「えっ、お兄ちゃん?ミカン?あれ……?」
呆けている私に、きっとユウリさんの背中を押したララさんが心配しているのか声をかけてくる。
ようやく、私は動けるようになっていた。
「……だいじょうぶ、ですよ」
私を抱きしめる格好だったユウリさんは、未だ力が入っていない私を抱きとめていてくれる。
この幸せな時間は、延長できたみたい。
「ララ!雪も積もってきてるんだし、走ると危ないぞ!」
リトは今きたのかララさんを注意しており。
そんなララさんは、
「じぃ〜〜。いいな〜〜ミカン」
「は?何言ってるんだよ?」
「リト!ララ!寒いし早く帰るぞ!
ミカン、本当に、その、大丈夫か…?」
ララさんには、見られちゃってたのかな。
初めてだったのに、相手以外にも見られてるなんて……急に恥ずかしくなる。
でも、羨ましがってるのは、リトとしたいって事だよね…?
………まさかとは思うけど、違うよね?
ララさんはリトが好きだと明言してはいるが、一抹の不安が頭をよぎり、
私は嘘をついた。
ーーーーーー
「ミカン、その、なんというか…」
いまだに顔の近いミカンに小声で話しかける。
どうやら
足をくじくような状況ではなかった気もするが、先程の事が頭から離れない俺は頭が回っていないし、罪の気持ちでいっぱいになっていた。
そんな俺の気持ちを察したかのようにミカンは言う。
「ユウリさん、私は、その……大丈夫ですよ?」
「え…?」
今はリトとララは部屋を暖めておけと言って無理矢理先に帰らせており、二人だけで、ゆっくりと帰っている。
「本当は、すごく嬉しかったんですけど、これはクリスマスだけの限定だと思う事にしました」
俺は、なにも言えない。どういう事かわかっていないから。
「んー、もしかしてわかってないですね……?」
自分よりも一回りも二回りも小さいこの子は顔を歪ませて、ちょっと拗ねたようにそう言う。
そして、顔を見られたくないのか、俺の胸に顔を押し当てて、呟くように話す。
「返事はいいです。これは私のヒトリゴトだと思ってください」
「ん?」
「……今度はこんな事故じゃなくて、その、ユウリさんから、して欲しいな」
そう言った腕の中の顔は見えないが耳の赤い小さな女の子が、今まで出会った人の中で誰よりも可愛く見えた。
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