Troubる   作:eeeeeeeei

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十三話 新年×変化

ーーーーーー

 

 

「…さみぃ」

 

「仕方ないよ、冬だし」

 

「あそこで短いスカートではしゃいでる宇宙人は寒くねーのかな?」

 

 年も明け、学校へと向かう最中。

 肌を刺すような冷たい風に襲われて、指がかじかまないようにポケットに手を突っ込んだままのそのそと歩く。

 

 寒いのは苦手だ。

 前の世界では俺の活動範囲だけかもしれないが、ここまで寒くなることはなかった。そのためたいして厚着をしたこともなく一度目の人生を過ごしてきたので、この世界でいうともうすぐ4歳児な俺は未だにこの季節には慣れていない。

 

 リトは前を元気いっぱいに歩くララをちらりと一瞥したあと、言葉を返す事はせず苦笑いで返す。

 

「はぁーやだやだ、はやく春が来ないかな」

 

「……でも、春になったら、ユウ兄は出て行くんでしょ?」

 

「ん?そーだけど、なんだ今更?やっぱり寂しいのかー?」

 

「そんなこと…!」

 

「じゃあいーじゃんか。何度目だよ?俺もずっと結城家に世話になり続けるわけにもいかないし、就職先も近いんだから、別にこの街から出ていくわけでも、二度と会えないわけでもないんだぞ?」

 

「でも、やっぱりそれだったら尚更出て行く必要なんて…」

 

「この話は終わり。もう散々話したろ?ララに聞かれてまた泣かれるのも叩かれるのも勘弁だ」

 

「………うん、わかったよ」

 

 

 

 年末に才培さんと林檎さんが久しぶりに揃って家に帰ってきた。

 ララの存在で一悶着あったが……主にララの体を弄り倒していたのと、リトとの関係に突っ込んでいた。

 

 もろもろ落ち着いた後、そこで俺はみんなの前で就職先の話と、卒業も決まってる話をして、この結城家での居候生活に終わりを告げる話をした。

 

 ララとミカンと、まさかのリトも猛反対だったのだが、才培さんと林檎さんの後押しもあり、俺は結城家を出る事になっている。

 

 その日は大変で、

 

ララは泣きながら、

なんでなんで!?お兄ちゃんのバカバカバカバカー!!

と強烈な力でボカボカと叩くし、

 

ミカンは、

私は遊びだったんですか…?通い妻になればいいんですか……?

などと意味深な事を何度もいってくるし、

 

リトは、

迷惑なんて思った事ない。だから、まだ一緒に住もうよ!

と何度も説得を試みてくるのだ。

 

 それが毎日のように続いたのだが、毎度毎度根気よく話をし、つい先日、十日程かけてようやく鎮火する事ができたのに、また蒸し返してくる義弟。ちょっとしつこいぞ。

 

 

「大丈夫だって。世界はお前を軸にまわってんだよ」

 

「…ユウ兄、なに言ってんの?」

 

「お前が結城家の長男だって事だよ。俺も元偽長男としてフォローはするからさ」

 

 そう言ってリトの肩をはたいたのだが、

 

「ユウ兄…って、うわあぁ!」

 

 え、今のでなんでこけそうになるんだ?蚊がギリギリ殺せるくらいのつもりではたいただけなのに。

 

 よろけてるよろけてる。家でもたまに見るがあの動きは独特だ。大胆かつ滑らかに、滑るような移動方法。

 そして吸い寄せられるように黒髪ロングな女子へとダイブした。

 

「キャアァァ!!」

 

 しかも、女子の胸に顔を押し付けて、膝を倒れた女子の股に差し込むのを忘れない。

 本当、ウチの義弟は色々とオカシイ。

 

「うわぁ!ご、ごめん!わざとじゃないんだ!」

 

「ハ、ハレンチな!あ、あなた!A組の結城くんね!!」

 

 相手が悪かったようだ。

 それはもうめちゃくちゃに怒られてる。

 これは、仕方ない、俺のせいもあるしな……

 

「ごめんな。今のは俺が叩いて足を滑らせたみたいなんだ。本当ごめん。悪いことしたな」

 

 とりあえず横から割り込んで俺は素直に頭を下げる。

 

「そ、それなら今回は許してあげるけど、」

 

「本当か?助かるよ。ありがとう。俺からもリトには注意しておくから」

 

 そう言ってリトに手を貸して立ち上がらせると、

 リトがきっちりと頭を下げた。

 

「本当ごめん!気をつけるから」

 

 こう言うところがやっぱりリトの良いところだよな。

 

 そう思い二人で歩き出すと、何故か呼び止められる。

 

「あ、あの…」

 

「ん?どした?怒りが戻ってきたのか?」

 

「いえ、七瀬さんですよね?風紀委員の?」

 

「七瀬は合ってるけど、風紀委員って?」

 

 風紀委員って?俺は入ってないけど、髪色も文化祭の時とはだいぶ変わったし誰かと勘違いでもしてんのかな?

 

「あの、文化祭の時に、兄がお世話になりました!あの時はすみません」

 

 文化祭の時、と言うので思い出した。そういえば一日風紀委員をやらされていたな。

 

「あぁ確かに風紀委員やったな。一日限定だったけど。で、兄って?」

 

 一つ謎が解けたのでスッキリしたので、あとは歩きながら話を聞くと、

 彩南祭の日の見回り時に所謂不良がやたらと多くおり、委員長から「君がなんとかしろ!似たような頭してるだろ!」とかなり失礼な事を言われ腹もたったので、殺気を込めた念で少し脅して完全に排除したのだが、その連中はこの【古手川 唯】の兄にボコボコにされた恨みで来ていた、らしい。

 

「あれから兄もあまり絡まれる事もなくなったみたいで、ありがとうございました!」

 

「いや、その話だと俺は全然直接関わってないし、なんだかよくわからんが…」

 

「なにしてるのリト!遅刻しちゃうよ?」

 

 リトの背後からひょっこりと顔を出し覗き込むようにリトへと話しかけるララ。

 

「うわっ!びっくりするだろ!」

 

 リトが驚いて振り向くが、振り向きざまに回転した腕で、俺に頭を下げていた古手川の背中を押す。

 

「えっ?キャァ!」

 

 頭を下げていた古手川がそのまま前へとつんのめり俺の胸に収まりそうになる。

 さっきのさっきだぞリト…それは流石に気まず過ぎるだろ……

 

 仕方ないのでこちらに倒れかけている古手川の右肩を左手で押し上げ、同時に右足を古手川の股の下に入れ、重心のかかっていない方の足を前へと狩り出す。

 

「よっと」

「わっ!」

 

 と、ここまでやれば無理やり前に出さされた足に重心がしっかりと移り、こける事なく、セクハラ紛いのことをする事もなく切り抜けた。

 

 ただ、なぜか古手川が少したたらを踏むもんだから、今は顔が触れ合うくらいの超至近距離に立っている。

 外の寒さのためか、古手川の顔は赤く、白く見える息も俺の顔に触れる。

 

 しかし、肩を押し上げた左手も股下にいれ左足も今は触れていないし、今はどこにも触れていない。

 そっと一歩下がって声をかける。

 

「大丈夫か?」

 

「ハ…」

 

「ーーー?」

 

「ハレンチです!!」

 

 ハ、というので何が言いたいのかと首を傾げていると、叫びながら左頬にビンタされた。

 避けようとも思ったのだが、なぜか女性のビンタは避けてはいけないと、神に言われた気がして、甘んじて受けた。

 

「……今のは、ハレンチ、なのか?」

 

 極力触れずにこけないようにしたつもりなのだが。ハレンチとはいったい……

 

 顔を赤くしたまま、ズンズンと学校へと歩いて行く古手川を呆然と俺は見送る。

 顔を赤くした女の子にビンタされるってなんだか俺がフラれたような、痴漢でもしたかのような絵面にリトも呆然としていた。

 

 一体なんなんだあいつは?

 

「………謝るんじゃなかったな。おいリト。あいつには容赦なくダイブしていけよ。上からでも下からでもいいぞ。俺が許可する。ガンガンいけ!」

 

「いや、ユウ兄が許可って、それに俺だってわざとやってるんじゃないんだよ……」

 

「ねーねーお兄ちゃんはなんであの子にビンタされたの?」

 

 リトにヤツへのセクハラOKの許可を出したところで、ララは俺が一番知りたい事を聞いてくるので答えてやった。

 

「それは俺が聞きてーよ!!!」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 今年に入ってすぐに、俺の髪は完全に黒色になった。

 

 俺は結城家に来た後も、ちょくちょく悠梨とその両親が住んでいた家に行っている。基本的には、庭に建ててもらった悠梨の両親のお墓と言いつつ俺の中では悠梨もはいっている、立派なお墓。と家の中を掃除しに行っているだけなのだが、飾ってある写真を見ると、悠梨の母親は外国人だったようで、二人ともかなり明るい金髪。父親は黒髪だった。

 

 ミカンに聞かれたときは、事故のショックではないかと言っておいたが、きっと俺が悠梨に馴染んでいなかっただけ。

 今年に入り、完全に俺と悠梨は一つになった。

 

 そう確信できるほどに、オーラが馴染む。

 もしかしたら、あの技も形にできるかもしれないな。

 

 そうして修行していたのだが、

 

「ーーーなっ!!これは!?」

 

 突如として足元に現れる黒渦。

 間違いなく加賀見さんの能力。

 だがなぜ?連絡もなしに、こんな事は初めてだ。

 抜け出すこともできるが、今は乗ってみることにする。

 殺す気であれば、俺への不意打ちはもっとやりようはあるしな。

 

 結界を展開し、何が来てもいいように、自分の周りに薄く絶界を発動させて、黒へと沈んでいく。

 

 

ーーーなんか、嫌な予感がするな。

 

 

ーーーーーー

 

 

「七瀬さん、急ですみませんが急ぎ先生を見て頂きたくお連れしました」

 

 出てきた場所は、いつもの事務所、ではない。

 周りは薄暗く、壁につけられているいくつかの小さな明かりくらいしかない。

 

 目の前で加賀見さんが松戸さんを見て欲しいと言っているが、今は無視だ。俺はひとまず絶界を解き全力の【円】を使う。

 悠梨と完璧に馴染んだ今の俺なら半径50mはいける。

 

ーーーここは、地下か?

 部屋が二つ。ここは小さい方で、奥に大きい方がある、地上への出口は、エレベーターが一基あるだけの空間。

 【円】の範囲がギリギリ地上に届いたくらいなので約50m程の深さにいる。

 

 こちらの部屋ではない、大きな方の部屋で横になっている松戸さんの姿を確認したところで俺は驚愕する。

 

 加賀見さんを無視して、一気に奥の部屋まで駆け込んだ。

 

 そこには、全身の精孔(しょうこう)を開き、生命エネルギーを全身から吐き出している松戸さんがいた。

 

 

 

「…なんでだ?どうしてあんたが?」

 

「これは、みっともないところを見られたね」

 

「……答えろよ。どうやって精孔(しょうこう)を開いた?」

 

精孔(しょうこう)?というのはわからないが、これは研究の成果だよ……ただ、止め方がわからなくてね。困っていたんだ……」

 

「……どうして、欲しいんですか?」

 

「それは、まだ死にたくはないからね。助けて欲しいんだが………」

 

 明らかに消耗している。このまま放っておけば確実に死ぬだろう。

 それはそうだ、生命エネルギーが湯気のように噴き出してるんだ。止めなくては、そのまま命をも噴き出して死ぬだけ。

 

「私からもお願いします。先生を、助けてください」

 

 加賀見さん………この人達を、何がここまでさせる……?

 

「………始めて事務所に来た時の質問に答える事。もうひとつは俺の周りには何があっても手を出さない事、それとーーーーーー」

 

「……その三つが、条件かい?」

 

「いや、契約だ。ーーー誓え。誓うならあんたを助けよう。質問の答えによっては『念』を教えても良いと思ってる」

 

「七瀬くん、君の質問に答えるし、君の周りにも危害を加えるような事はしない、最後のひとつは……」

 

「先生が宜しいのなら、私はかまいませんよ」

 

「そうか、ならば誓うよ。この僕の『魂』にかけても……」

 

「ーーーーッ」

 

 加賀見さんがなぜか少し反応したが、松戸さんは言葉を続ける。

 

「君と契約を結ぼう」

 

 信じよう。

 この事務所に来てからの事を振り返り、そう決めた。

 

「契約成立」

 

 そう言って、松戸さんを結界で覆い俺のオーラを練り上げて込める。

 

「誓いを破れば報いを受ける。その時はーーーーー俺がサクッと殺してあげますよ」

 

 無表情のまま言い放った俺に対して松戸さんは憔悴した顔をニヤリと歪めて

 

「もちろんだ」

 

 頷いた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「ーーーそうです、それが【纏】。これができないとさっきみたいに生命エネルギー、まあオーラと呼んでますが、それを出し切って死んでましたね」

 

「なんだか、ぬるい粘液の中にいるみたいだな…」

 

「そのイメージを常に持ち続けてください。慣れてくれば寝ていようが纏を維持できるので」

 

「…これが【念】…だが君はオーラを出していないように見えるのだが…?」

 

「出してますよ?纏を最小で行なっているのと、見えづらくしているだけなので……見えるようにしましょう。これなら体を薄く覆うオーラが見えますか?」

 

 彼の体を1cmに満たないほどに薄いオーラがまとわりついてるのが見えた。僕のオーラは着ぐるみを着ているほどのサイズなのに対して。

 そうしてみようと試みるも、うまくオーラは動かない。

 これが【念】か。彼の力の発端に触れた気がしたのだが、

 

ーーークスッ。

 

 考えてる事を読まれたのか、七瀬くんが笑う。

 

「松戸さん、こんなのはまだスタートラインにすら立ってませんよ?」

 

 そう言って、彼は人差し指を立てて上に向ける。

 指先からオーラが立ち昇る。そのオーラは立ち登った先で、先端がどんどんと膨らんでいき、空中に髑髏を描いた。

 

「【念】は奥が深い」

 

 そう言って薄く笑うと、オーラの髑髏は爆発したかのように弾けて花になった。

 

 

 七瀬くん、どうやら君は羊の皮を被った狼…いや、狼などとは生温い…悪魔だったようだね。

 だがそうでないと、君を引き入れた意味がない。ヤツには届かない。

 

 この力、なんとしてでも使いこなす。僕の目的(・・・・)のためにーーーーーー

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「なのでまぁ、まずは纏を安定させるところからーーー」

 

 

ーーーピ………ン。

 

 なだらかで、力強いオーラ……そしてなにより静かだ。

 

「年の功、ですかね?纏はいい感じですよ」

 

「伊達に長く生きてはいないよ。それは、次のステップへ進めるという事かな?」

 

 恐ろしいジイさんだな。

 ただ、彼の目的のためには生半可じゃあ意味は無い。せいぜい強くなるだけなってもらおうじゃないか。

 

「じゃあ、基本の四大行からーーー」

 

 結論から言うと、このジイさんは侮れない。

 【念】に目覚めてまだ数時間だが、【纏】【絶】は初めからできていた。【練】はまだ練り上げたオーラを外へと放つも、増大どころか明らかに練り上げたオーラよりも少なかった。ーーーまぁ、さっきまで消耗していたのだし、【練】を使いこなすのも時間の問題だろうけど。

 

「だいぶいい感じですね。正直このペースは異常ですよ」

 

「じゃあ次は、【発】か?」

 

「発はまだ早いですね、あれは特別ですから。まだしばらくは意識せずに纏を行い、練の強さをあげる方が先です」

 

 それに、俺が来るまでの間どれほどのオーラを垂れ流しにしたのかは知らないが、そろそろ枯渇寸前だ。

 

「消耗したオーラが回復してから練を行った方が良いです。明日のこの時間ごろまでは休んだ方がいいかもしれませんね」

 

「そうか、君が言うのならそうだろうね」

 

「もしこの先も続ける気であれば、念は使わずに、心を一つに集中し、己を見つめ自己を高める、意志の修行をするのがいいですよ」

 

 時刻はちょうど朝の5時。

 ここで切り上げて俺は帰ることにした。

 

 加賀見さんが案内してくれるそうで、二人でエレベーターにて地上へと向かった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 地上へと上がるエレベーター内部にて。

 

「加賀見さん、」

 

「なんですか、七瀬さん?」

 

「加賀見さんも、松戸さんと同じ考えなんですか?」

 

「そうですね。同じだと思いますよ」

 

「そうですか。じゃあリイサ(・・・)さんは、それで幸せなんですか?」

 

「………きっと、これからそうなるんですよ。あなたのおかげで、可能性も見えて来ましたので」

 

「ーーーそっすか」

 

「……私にも、【念】は使えるものなんですか?」

 

「どうですかね?生命エネルギーは生きてさえいればあると思うんで、使えるとは思いますよ。ただ、今の(・・)加賀見さんの体に精孔(しょうこう)があるのかどうかはわかんないんで、有るなら起こし方もわかるんですけど、無い場合は自分で目覚めるしか無いですね」

 

「じゃあ、私にも、試していただけませんか?」

 

「…………」

 

「ダメなんですか?」

 

「いえ、そう言うわけじゃありませんが、どうなるかわかりませんよ?」

 

「かまいませんよ。最悪私の中の誰か(・・・・・・)を失っても仕方ないと思っていますし、それに見合った力もあると思っていますから」

 

「………まぁ、とりあえずはまた今夜って事で」

 

「わかりました。ではまた、お迎えにあがりますね」

 

 

 会話が終わり、ちょうどエレベーターは地上へと到着した。

 

 




今更ながら事務所の二人組の補足ですが、

・松戸平助
本家リスペクトもあり、このパラレル世界では平介ではなく平助としてます。

・加賀見リイサ
上記と同じ理由でもじりたかったのですが、籾岡里紗と被るのでリイサとしてます。
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