Troubる   作:eeeeeeeei

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十四話 授業×休息

ーーーーーー

 

 

 

「二人とも、合格点ですね」

 

「じゃあ、いよいよ【発】をするのかい?」

 

「そうです。【発】というのは、この先【念】を使い、オーラを操る上での集大成。後で説明しますが、オーラという物は六つの系統に分類されるので、自分の系統にあった能力を見つけ、造り、発現するのが【発】だと思ってください。なんでまずは自分のオーラの系統を知る必要があるので、二人とも試してみましょっか」

 

 あれから2週間が経過していた。

 結論から言うと、加賀見さんにも【念】を使うことができた。

 しかし、加賀見さんは生物として不安定だからなのか、潜在オーラの量がかなり少ない。

 増やすことも可能だが、こればっかりは純粋な(・・・)地球人ではない加賀見さんはやってみなければわからない。

 しかし、この二人の上達スピードは異常だな……

 

「じゃあ、系統の説明からしますね。六性図(ろくしょうず)と言うものを見てもらってーーーー」

 

 と、基本のおさらいをした後に水見式をそれぞれ試すことにする。

 

「ーーーー僕のは、葉っぱが揺れているね?」

 

「松戸さんは操作系ですね。加賀見さんのは?」

 

「………私のものは、何も変わりがありませんが、オーラ量が少ないからなのでしょうか?」

 

 松戸さんのコップの葉はたしかにゆらゆらと揺れているのだが、加賀見さんの方は何一つ変化がない。

 何も変化がないと言うことは、俺は加賀見さんのコップの水に指をつけ舐める。

 

「少しですが、苦味がありますね。加賀見さんは変化系です」

 

 操作系と変化系。

 具現化系、放出系、特質系を経験した俺とはまた違う系統か。

 

「先生と私は、その六性図で見ると対局の位置にいますね」

 

「そうっすね。不得意を補い合えるんでバランスは良いですよ。じゃあ自分の系統がわかったところで、次はそれを意識し、強く発現する修行ですね。こっからは松戸さんは葉っぱが自分の思い通りに動きドリフトするくらい、加賀見さんは深煎り焙煎したコーヒーくらい苦くなれば合格です」

 

「クッ。この歳になって人に教わり、授業を受ける事になるとはね」

 

「いいじゃないですか。老体に鞭打つのもいいもんでしょう?」

 

 いかにも悪役な笑みを浮かべた松戸さんに軽口を叩きつつ、その日の授業は終わった。

 

 

 

 

 

 その二週間後に呼び出しを受けたので来たのだが、驚いた。

 

「すごいっすね、こんな短期間で」

 

 松戸さんの葉っぱはほんとにドリフトしているように回り続け、

 加賀見さんの水は深煎り焙煎しすぎてもはや炭化したのかってくらいに苦かった。

 

「これでようやくスタートラインですね」

 

「あぁ、ここに来てようやく七瀬くんの力の発端が微かに見えて来た気がするよ」

 

「そうですね。纏を覚えたくらいでそう思われるのも癪だったもので。あの時はすんませんね」

 

 意外と、あの時の地下室での一件を根に持っていたのかな……

 

 ここからは、四大行以外の凝・堅・周・硬を行いオーラの総量を増やしつつオーラの流れを素早く、滑らかにする修行を並行して行ってもらう事にした。最後に、発の修行。

 

「肝心の発ですけど、こればっかりは自分で考えるしか無いっす」

 

 軽く言う俺にじとーという目を向ける松戸さんと加賀見さん。

 いや、本当にこればっかりは自分に合ったものでしかないのだ。

 

「ーーー自分の、自分だけの能力、か」

 

「……七瀬さんは、なぜその能力に?」

 

「俺っすか?俺は具現化系なんで、まずは物をイメージするところからだったんですけど、具現化系ってわかった時に、真っ先に頭に浮かんだのがなぜか箱だったんですよ」

 

「箱、ですか?」

 

 そう、箱。

 なぜか、は嘘だ。自分ではわかっていた。

 

 俺が捨てられた際に入れられていた箱。

 子供がまるまって横に入るくらいの薄く青い箱。

 物心ついた時から、そこが俺の家であり寝床だった。

 そんな小さな箱こそが、誰にも侵されることの無い俺だけの空間であり、俺だけの世界だった。

 故に、結界。

 

 そしてそれは、驚くほどすんなりと具現化できた。

 

 

「そう、箱です。でもそのフィーリングが大事なんですよ。俺の場合は箱のイメージがだんだんと鮮明になっていって、気付いたら箱が目の前に出現してたって感じです。要はイメージとフィーリングです。別に今すぐ決めるようなもんでも無いですね」

 

「そうですか……」

 

「焦ってやるような事ではないですよ。それに、反復練習の四つですけど、中でも凝に至ってはこのくらいの速度と精度を目指してください」

 

 右拳を突き出し、インパクトの瞬間にオーラを拳に集中させる。

 

「このオーラの移動を【流】とも言います。俺が動かしたのは大体七割のオーラを右拳に集中したって感じですね。割合の集中はまだ先で、今は流を意識しただけの凝で良いんで。

 

 まーとはいえ実感湧かないっすよね」

 

 俺はもはや庭と言っても過言ではない山中の崖の前に立つ。

 

 右拳に硬でオーラを集中し、ノロノロと音がしてもおかしくないほどにゆっくりと崖の岩肌に拳を当てた。

 

ーーービシィィイッ!!!!ーーー

 

「「!!!」」

 

「これが硬のみの力です。これに本来のスピードとパワーが乗れば、このくらいの崖なら壊せます」

 

 岩肌へヒビが入り、拳の当たった部分は完全に粉々と化している。

 

「このくらいの事ができるようになるにはお二人でも一年はかかるでしょうが、念を使いこなすことができればオーラだけで十分過ぎるほどに闘えます。だから、発は補助として使ってもいいし、必殺技として使ってもいいし、俺みたいに足場に使ったりとかの汎用性の高い物にしてもいいし。ぴったりな物じゃないと威力は発揮できないんで、パッと浮かばなければゆっくり考えた方がいいですよ」

 

「いざできた能力が、ぴったりじゃなかったら、どうなるんだい?」

 

「うーん、おそらくイメージ通りの事はできないでしょうね。あとは、使って行くうちにどんどん自分自身で違和感が生まれて、使えない能力になってしまうと思いますよ」

 

「そうか、それは困るな」

 

「他には、しない方がいいとかはあるのでしょうか?」

 

 めっちゃ聞いてくるな。最初は揶揄してるのかと思ったが、これじゃ本当に授業だな。

 

「注意としてですが、あまり系統を絡めない方がいいです。複雑になればなるほど扱いが難しいし、加賀見さんは変化形なので、例えば体から離れたところへオーラを飛ばして動かす。とかは放出、操作系が絡む事なのでそれだけでかなり威力も精度も落ちます。得意な系統かつ、シンプルで最強。と思えるものが理想系ではありますね」

 

 俺は二人にじゃあ今日はこの辺で、と言うと松戸さんに呼び止められた。

 

「あぁ七瀬くん、ちょっと待ってくれ。ーーーこれは、卒業祝いだよ。君の家族も連れて行くといい」

 

「へ?」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

カポーーーーン

 

 夕陽に照らされた水面はオレンジ色に輝いている。その明るい色とは対照に風は冷たく顔を撫でるが、火照った顔にはちょうど良い風だ。

 

「あー露天はきもちいいなー」

 

「ユウ兄の就職先の人って、金持ちなの?」

 

「さぁなー謎が多い人だから。あと、今回は仕事の話は無しだ。癒しの旅行なんだから」

 

 俺とリトは今、温泉に浸かってだらしなく手足をのばしている。

 彩南高校を卒業する俺へのお祝いだとかで、温泉旅館に招待してくれたのだ。

 

「うっ、ごめんごめん。でも、そういえばユウ兄と風呂なんて、はじめてかも」

 

「お前が女の子とばっか入ってるからだろ」

 

「なっ!ちがうよ!あれはララがっ!」

 

「ほらほら、リラックスリラックス。わかってるから、ムキになるなよ」

 

 リトが謝った後、俺の傷跡をまじまじと見てるのがわかった。

 見せるのは久々だったが、なぜかあいつは傷跡を見るたびに罪悪感を抱くのか微妙な顔をするので話をそらしたのだが、ムキになってしまったので、話したかった事を切り出すことにした。

 

「……西蓮寺とは、何か進展あったか?」

 

「な、なんで春菜ちゃんが、俺と、」

 

「隠すなよ。見てたらわかる。なんか悩んでんなら聞くぞ?」

 

 なんでバレてないと思ってるのか、非常に分かりやすいのだが、こういうのは当人にはわかんないもんなのかな。

 ただ、すぐに観念して話してくれた。

 

「悩んでは、ないよ。ただ、何度か告白しようとはしてるんだけど、いつもうまくいかなくてさ……」

 

「そっか。ーーー普通に呼び出して、告白はできないのか?なんか凝ったことでもしようとしてんの?」

 

「いや、凝った事したいなんてところにすらいかないよ。その普通ができなくて困ってるんだから。なんでかいっつも嘘だろってくらいの邪魔が入ってさぁー」

 

 これは、重症だな。リト目線の話を聞く限りなので良くはわからんが、かなりの高確率でララ。次点でレンとルンって子?三位はリト自身の不運だな。本当にどういう星の下に生まれたらこんな事になるのか。

 

「でもさリト、もしも告白が成功したら……ララにはなんて言うんだ?」

 

「………それも、わからないんだ。俺はずっと春菜ちゃんが好きだったんだけど……」

 

「ララも嫌いじゃない……むしろ好きかも、か?」

 

「好きかは、わからない。……最低だよね。春菜ちゃんの事が好きなのに、ララの事も浮かんできたりして、俺は……」

 

「最低ではないだろ。なんならごく普通だと思うぞ」

 

「…俺の、この気持ちって、普通なの?」

 

「好きな物は全部自分の物にしたいって思うのは普通だろ?」

 

「え?」

 

「嫌いな人は何人いてもいいのに、本当に好きな人は一人しかダメ!って、普通好きなもん多い方がいいだろ!って思わないか?常識だの法律だのってのが邪魔してくるだけでさ」

 

「…ぷっ。あははは!ユウ兄、それは仕方ないよ。法律と常識に文句言うなんて、めちゃくちゃ子供じゃん。ーーーでも、ユウ兄もそんな事思うんだなー」

 

「俺だってララもミカンもかわいいと思ったりするさ。なんたって気持ちはまだ4歳児だぞ?」

 

「………。」

 

「おい、笑うところだぞ」

 

「記憶喪失の自虐ネタは笑うに笑えないよ!……でも、なんだか少しだけど楽になった気がするよ。ユウ兄、ありがとう。

 ーーーやっぱり俺は春菜ちゃんが好きだ。告白したいと今でも思ってる。でも、ララが浮かんでくるのも否定は出来ないし、この気持ちも俺の物だから。もう少し、考えてみることにするよ」

 

「良いと思うぞ………お前がどっちを選んでも、どっちも選んでも、俺はお前の味方でいてやるから」

 

「いや、どっちもって……」

 

「デビルーク星の常識は知らないからわからないけど、ない話じゃないだろ?」

 

「それは………」

 

 言葉に詰まり、その先を言えないリト。

 少し、急ぎすぎたな。

 

「……リト、顔赤いぞ。のぼせたんじゃないか?」

 

「え、そういえば、そうかも…。」

 

「先に上がってていいぞ。慌てるのはいいけど、焦ったってろくなことにならないからな。じっくりでいいんだ。また話聞かせてくれよ」

 

 真面目なリトには、全て罪悪感になるのかな?思いつめすぎというか、とは言え俺も正直恋愛経験などないので人の事は言えない。思った事を伝えることしかできないけど、ちょっとくらいは助けになれてやれたら。

 

 温泉から出る頃には、夕陽はもう沈んでおり、水面は暗くなっていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

 ごくごくごくごく。

 

「あーうま」

 

 やっぱり風呂上りはコーヒー牛乳一択派だな、俺は。

 異論も反論も認めるが。

 

「あ、お兄ちゃん」

 

「おーララ。いい湯だったなー」

 

「うん、すっごい気持ちよかった。私温泉大好き」

 

 浴衣姿のララは嬉しそうに笑う。

 湯上りの肌は艶っぽく顔もほんのりと赤い。髪も後ろで一つにまとめ上げておりのぞくうなじには色気が漂い思わず見惚れてしまった。

 

「そっか。それは良かった。ララは浴衣も似合うんだな」

 

「え、ほんとに?嬉しいな」

 

「あぁ、ホントだよ。思わず見惚れるくらいかわいいしな。

 ッ!ーーーララもコーヒー牛乳飲むか!?」

 

 何も考えず、思った言葉が口から出た。しかもめちゃくちゃ恥ずかしいセリフ。

 咄嗟にコーヒー牛乳を勧めてごまかした。温泉につかりすぎてのぼせているのか、頭がちゃんと回ってない。

 

「あ、アリガトォ…」

 

「お、おう」

 

 そのお礼は、容姿を褒められたことに対してか、コーヒー牛乳に対してか、俺にはわからなかったが、

 少し冷めたはずなのに、相変わらずララの顔は先程の湯上りで火照った、艶っぽく赤い顔をしていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「あ、ユウ兄。あれからも割と入ってたんだね。大丈夫?」

 

「あぁ、大丈夫だよ。ララと一緒になってな、コーヒー牛乳飲んでたんだよ」

 

「リトー、どうかな?」

 

「は?なにが?」

 

 私はリトの前で一回転したのだが、リトはなにも言ってくれない。

 むぅー。お兄ちゃんは褒めてくれたのにな……リトのケチ。

 

「な、なんだよ?」

 

「なんでもなーい」

 

「ユウリさん、私たちにはコーヒー牛乳無いんですか?」

 

「おーあるけど、牛乳もあるよ。どっちがいい?」

 

「私もコーヒー牛乳にします」

 

「…私は、牛乳をください」

 

「じゃあミカンとヤミはコレな」

 

「「ありがとうございます」」

 

 お兄ちゃんとミカンはいいなー。いっつも仲良さそう。最近はヤミちゃんもお兄ちゃんの家に行って一緒に本読んでるらしいし。

 

「リトー今飲むか?飲まねーなら冷蔵庫いれとくけど」

 

「あ、じゃあ後でもらうよ」

 

 優しいし、怒らないし、怒鳴ったりもしない。最近一人暮らしを始めたお兄ちゃんとこんなにも一緒にいるのが久しぶりだからか、意図せず目で追ってしまっている自分がいる。

 

 それと、クリスマスパーティーの帰り道、ミカンとの事を思い出すと………

 

 きっと、寂しくなっただけだよね。このモヤモヤする気持ちは。

 

 

ーーーーーー

 

 

「ユウリ、これが鍋ですか?」

 

「そうだけど、まだ待ちだから蓋は開けるなよ。ミカン鍋奉行様の指示を待て」

 

 今は部屋に夕食も運ばれ、ミカンがぐつぐつと音を立てて煮える鍋を見守っているためか、ミカンを飛び越え俺に聞いてくるヤミ。

 ミカンとヤミが隣同士で、ヤミの正面にリト、その隣にララが座り机を囲っており、俺だけミカンとララ側に誕生日席のような位置に座っている。

 

 

「もう良さそうですね」

 

 そう言ってミカンが鍋の蓋を取ってよそってくれた。

 

「はい、ユウリさん」

 

「あぁ、ありがとうミカン」

 

 浴衣姿で、ララと同じく長い髪を後ろでまとめ上げたミカンが俺に小皿を渡してくれた。いつもと違う服装と髪型ってだけなのに、新鮮で艶っぽく見える。女の子はすごいな。

 

「はい、ヤミさんも」

 

「ありがとうございます。ミカンのは、私がとってもいいですか?」

 

「もちろんだよ。ありがとうヤミさん」

 

 微笑ましい光景。まるで姉妹のようだ。

 ヤミも随分と地球になれたもんだ。少し前から一人で住んでいるマンションに帰ると本棚しか置いていない部屋のソファーに腰掛けて本を読んでいる事も多い。買いあさってるから種類も数も豊富だからな。最近はそこにミカンもおり、ミカンはなぜか寝室でベッドに寝転がっている時もあるのだが……

 

「じゃあリトのは私がよそうよー」

 

「ラ、ララ?ちょっと盛りすぎじゃないか!?」

 

 ララの手にある小皿にはかき氷のようにこんもりと具が山となっている。おーい、具材たちの第一陣はみんな出払ってしまったぞ……

 ララが具材を全滅に追い込む前にすかさず残りをかっさらい、キープをしておいた。

 

「はい、リト!いっぱい食べてね!」

 

「いや、多すぎだろ!?」

 

 よくつげたなというくらいの量。

 リト、頑張れ。

 

「あ、なくなっちゃった」

 

 ようやく自分の取り分がないことに気づいたようだ。

 ミカンはせっせと野菜とお肉を鍋に足して第二陣の準備を進めている。

 頼れる義妹とは対照的に世話の焼ける義妹だな。

 

「ほら、ララ」

 

「あ、ありがとうお兄ちゃん!」

 

「次からは、あんだけつぐなら自分の分くらいは確保しとけよ」

 

 笑顔で受け取り食べはじめるララ。

 みんな美味しそうに食べてるな。リトだけ、少し微妙な顔してるが。

 

「おいしいね!」

 

 そうだな。

 ミカンとヤミが楽しそうに話してる。

 むせるリトと、その背中をさすってるララ。

 

 久しぶりの、楽しい時間だ。

 

 

ーーーーーー

 

 

 夜も更け、私たちの部屋には月明かりひとつ入らない。ふすまひとつ隔てた先ではユウリと結城リトが眠っている、はずなのだが、どうにも一人分しか気配がない。不思議に思ったが、どうやら窓際の小部屋にも気配を感じたので、おそらく一人はまだ起きているのだろう。

 すやすやと、隣で穏やかに寝息を立てているはじめての友達とプリンセスを起こさないように、ゆっくりと私は部屋を出る。

 眠っている結城リトだけがいる部屋。先程までこの部屋で鍋を食べ、談笑していた部屋。障子越しにわずかに部屋へと差し込む月明かりは、椅子に座っているであろう人の形に欠けていた。

 

「ーーー眠れないのか?」

 

「…そういうわけではないです」

 

 ゆっくりと障子を開けて小部屋へと入る。そこは月明かりしかないはずなのに、随分と明るく感じた。

 

「お前みたいだよな」

 

「ーー?」

 

「金色の闇。夜の闇の中の月明かりと似てる」

 

「……違います」

 

 突然なにを言い出すのか。

 ユウリは不思議な男だ。

 ………そういえば、私をヤミと言い出したのもこの男だった。

 

『さっきから、【こんじきのやみさん】ってめんどくさいからヤミでもいいんじゃね?ダメ?』

 

 あれから、ミカンも、プリンセスも、結城リトも、みんなが私をヤミと呼ぶようになり、私が『金色の闇』と呼ばれる事はほとんどなくなった。

 

「月の明かりは太陽とは違って優しい光。ヤミみたいだと思うんだけどな」

 

「……私が、優しい?」

 

 訳がわからない。

 

「リトを殺す気は、もうないんだろ?」

 

「……そんな事は、ありません」

 

 嘘だ。本当はもう……

 

「ミカンといて、楽しくないか?」

 

「……ミカンは、友達ですから」

 

「じゃあ大丈夫だ。優しいヤミは、ミカンの兄ちゃんは殺さないはずだよ」

 

「友達の家族だからといって、わかりませんよ」

 

「いいんだよ、俺がそう思えてさえいれば」

 

 きっと、私は結城リトを殺す事はないだろう。

 ユウリとミカンと出会い、結城リトと出会った。三人とも家族として毎日を楽しそうに生きていた。

 家族とは、なんなのだろうか?

 本を読んでも親友と家族の違いはよくわからなかった。

 

 だから、少し聞きたくなった。

 

「……家族と友達は、どう違うのでしょうか?」

 

 ユウリは少しだけ、ほんの少しだけ考えるそぶりをして答えた。

 

「どうだろうな。俺にも"本当の"家族はいないからな。ヤミにも家族ができた時にわかるんじゃないか?」

 

「……家族ができたら、」

 

 そういえば、ユウリは両親を失った日に記憶も失っていたのだった。でも、本当の家族…私にも、できるのだろうか?

 

「ヤミにも、いつかできるよ」

 

「……そう、ですか」

 

 心を読まれたようで少しドキリとしたが、私にも家族ができる、ユウリがいうのなら、できるのだろうと思った。

 

 窓から見える月は、たしかに冷たくも感じるが、優しく明るく、金色に私を照らしているような気がした。

 

 

 

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