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「そ、名前です」
午前中の修行で腹が減ったので、加賀見さんと事務所に帰ってきて、お昼ご飯に唐揚げ弁当を食べていた。オカルトな依頼も受ける事務所なだけあって、周りにはやたら気味が悪い置物などがあるので雰囲気は最悪だが。
「能力名、か。確かにイメージが大事な【念】にとっては必要な事かも知れないね」
加賀見さんと午前中の授業の時の話を松戸さんとしていたら、加賀見さんと同じく名前に食いついてきた。
答えるべく口に含んでいたお米を胃に流し込む。
「そうですよ。あとは精神面に大きく左右されます。喜怒哀楽はもちろん、恐れや自信だったり、感情によっても色々変わりますね。だから、常に安定した威力を出す為に技名をつけて言葉として発する事をルーティーンとして使えますからね」
「恐れがあったり、自信を失っていたら技の精度が落ちる、というのをルーティーンを作る事で少しでもその落ち幅を少なくするって事か」
「その通りです。後は死にかけの時とか激痛の時もそうです。イメージできないような精神状況でも立て直すための一つの方法ですよ」
話が早いからほんと助かるな。中二病患者だと思われなくてよかった。
それよりも松戸さんのオーラ、かなり力強くなってるな。
そこで修行の成果を聞いてみる事にした。
「ちなみに、今の【堅】の持続時間はどんなもんですか?」
「僕は一時間程度だけど、」
「私は10分持たないですね」
「加賀見さんとやり合った事ないんでわかんないですけど、防御が自前で行けるなら、オーラは能力に絞った方が良さそうですね」
「加賀見くんの事は、もう十分わかっているだろう?」
「いや、聞くのと見るの、更には戦うのは全然違いますよ」
そんな話をしていると、誰か事務所に入ってきたようだ。
「お客様、ですね」
依頼人かな?滅多に来ないけど。基本はメールで依頼が来て現地合流だしな。実際、午前中は松戸さんはそっちの依頼で除霊グッズを売ってきたらしいし。
「七瀬さんのお知り合いだと思うので……」
加賀見さんが話し合える前に小さな人影が飛び出してきた。
「おい!七瀬悠梨!なんでお前学校行かないんだよ!!」
「は?」
突然怒鳴り込んできたのは、随分と可愛らしいお客様だった。
ララを小さくしたような感じで、ララよりも目が少し釣り上がっており、ピンク色の髪はツインテールにしている。怒鳴った際にはチラリと八重歯が見えた。
「だーかーら!なんで学校行かないんだよ!」
「…お前は俺のママなのか?」
「何言ってんだよ!いいから、学校行けって!机を見ろ!私がモモに怒られるじゃないか!」
学校っつっても、もう自由登校みたいなもんだし面倒だな……
「七瀬くん。今日はもう仕事はいいよ」
ギャーギャーと騒ぐ子供にうんざりしたのか、松戸さんはやれやれと言った顔をしているし、加賀見さんは最初から無視を決めこんでいる。
助け舟は無し。それはそうか、逆にこの静かな仕事場で始まって以来の声量で話してるもんな。迷惑かける前に出るか。
「ほら、言ってくれてるぞ!」
「あーわかったから。松戸さん、加賀見さん、すみません。お先に失礼します」
そう言うと右手を掴まれ、引きずられるように事務所を後にした。
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「で、誰?」
姉上が兄上と呼ぶこの七瀬悠梨だが、私がせっかく招待状を学校の机に入れてやったって言うのに学校に来ないとはどうなってるんだ。
私だって王族の勉強だったり、礼儀作法の勉強頑張ったのに……
なんて不真面目な奴なんだ。
「デビルーク第二王女ナナ・アスタ・デビルークだ」
「そうか。なんでララの妹が俺を学校に行かせたいんだ?」
「それは、行けばわかる!」
いいから早く手紙を見ればそれでいいのに。
「ナナ・アスタ・デビルークも発明だったりアイテム作るのか?」
「ナナでいい。あたしは姉上のような発明は出来ないけど、生まれつき動物の心がわかるんだよ。テレパシーみたいに。宇宙中に色んな動物の友達がいるんだぜ」
あ、思わず言っちゃったけど、地球人がそんなの信じるわけないよな……
「へぇー。すっげーなそれ!」
さっきまでのやる気のなさが消え、灰色の瞳には熱が篭ったように見える。な、なんなんだこいつは…
「動物って、どういう分類なんだ?鳥とか虫とかもいけんのか?」
なんだかすごい聞いてくるし、でも、私も悪い気分はしなかったので色々と答えてやった。喋りすぎたせいか、なんだかお腹が空いてきたな。
ーーーぐぅぅ〜ーーー
「ん?腹減ってんのか。なんか食いに行くか?」
「本当か!?よしっ行こう!どっちだ?」
七瀬悠梨。良いやつだ!流石姉上が兄上と呼ぶだけはあるみたいだな。それに、話しやすいし、私の事にも、私の友達の事にもすごい興味を持っていた。
なんだかいい気分。私も、兄上が欲しくなったかも……
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「これ!すっごいおいしい!!」
「そうか。良かったな」
ナナ・アスタ・デビルーク。俺が唯一会ったことのなかった三姉妹の真ん中。
結局、彩南高校に向かってる最中でお腹が鳴っていたので、その辺のファミレスに入り、今は俺の目の前で大盛りのパスタを完食寸前だ。
でも、動物と心を通わせるって、なんか良いな。
色々と読んできた漫画だったり、小説だったりであるような主人公特性というか。
【念】でも再現不能そうな能力だし、素直に感動していた。
「ユウリ!これも頼んで良いか?」
「ん、いいよ。すんませーん!」
「私はこの苺のティラミスってやつを!」
「俺はブレンドのお代わりで」
デザートも食べれるのか。こんな小さな体の一体どこに入っていってるのか……
というか、今更だが学校行けってあれだけ言ってたのにもういいのかな?
「そう言えばさ、俺に何をさせたかったんだ?」
「あ!忘れてた!」
事務所に乗り込んできてあんなに騒いでたのに忘れるって……
そう言えば、学校で何かしろっていってたな…あ、
「ーーー机見ろって言ってなかったっけ?」
「そうだよ!もーいっか、この予備で」
なんだかよくわからんが懐から封筒を取り出して俺に渡してくる。
わりとしっかりした封筒だが、宛名もなければ送り主の名前も書いていない。
「なにこれ?開けたらいいのか?」
ナナはちょうど苺のティラミスをスプーンで救い上げたところだったのでそのまま口の中へとスプーンをいれ、コクコクとうなずいている。
まぁ、開けろって事だよな。【凝】で確認するも、特になにも感じはしないが……俺は封筒を開けると、中には、
【招待状】このカードを開いてください
とだけ書かれている二つ折りのカードが入っていた。
どっからどう見ても怪しさ満載。
「これ、開かなきゃダメか?」
今度は三口目を口に入れた瞬間だったため、またしても人形のようにコクコクと頷いていた。
はぁ、全く気乗りしない。実はさっきから嫌な予感がしており、俺の頭の中で警鐘がガンガン鳴っている。
「ほら!いいから」
渋り続けている俺のカードを取り上げたナナは俺に向けてカードを開いた。
俺は視界にカードが入ると【堅】を展開し、同時に、光に包まれた。
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【七瀬ユウリがエントリーしました!】
謎のポップアップがまぶたの内側に浮かんでいるように表示される。
エントリー?なんだそりゃ。光に包まれた後から【円】を展開しているが、今のところなにも感じられない。
と思った瞬間に、地面を感じ、壁を感じる。ここは、建物だな。でかい…城か?
前から何かくるが、これは、人なのか?
「ふふふ。私がこの大魔王城の主であり大魔王のマジカルキョーコよ!」
見た目は、魔女?何かが頭に引っかかっているが……あー!ララがハマってたテレビの主人公か。
今は【凝】で見ているが、どうやら実態はないのか、電気信号の塊のように見える。
「そしてあなたは私の、魔王の下僕よ!!!」
俺が何も話さないからか、勝手に話出す自称大魔王。アニメみたいにしっかりポージングもしている。
それを無視しつつここに飛ばされたアイテムであろう側に落ちているカードを拾い、見ると
【これは体感RPGです。クリアするまでは元の世界へ戻れません。】
ゲーム、ね。壁や地面の感じは本物ではない、電脳世界の中か?しかし【念】は使えるし、服装も変わりない。生命エネルギーであるオーラを出せると言うことは、肉体は少なくとも本物。では衣類はと思ったが、ポケットに入っていたものもそっくりそのまま入っていた。じゃあ電脳世界内に肉体を存在させているって事なのか。その辺はよくわからないが、この肉体が意識だけではない事は確かなようだ。
この状況で真っ先に思い浮かんだのは、【グリード・アイランド】。ハンター専用で念能力者にしか遊べないゲームソフトの存在を思い出した。たしか、ゲームを起動すると肉体ごと消えるって話を聞いたことがある。似たようなものか?
あとは、クリアすれば戻れる。戻れるってことはクリア以外でも何らかの条件を満たすことができれば、戻れる可能性もあるが、【念能力】で作られた空間ではないから制約と誓約と言った厄介な条件や術者がいるわけではないだろう。純粋にクリアするしかない可能性が高い。
「ちょっとぉー!聞いてるの?あなたは私の下僕なのよ!!」
「大魔王様。下僕はちょっと考え事してるんで後でもいいですか?」
耳元でキャーキャーと騒ぐ大魔王様を適当に流して状況分析を進める。
俺を下僕と呼ぶ、と言う事は少なくとも俺とこいつは敵対していない。ある程度おちょくって確かめるか。
【円】の範囲内には見知った人間が何人か確認できている。
眠っているのか、横になっているララ。
そのララのそばに二人、片方はナナ。と言うことはもう片方がモモかな?
城内の一階に天条院と、その取り巻き二人と、くしゃみの男女宇宙人もおり、今は女の方のようで、ルンか。
最後に、なんだ、校長?
この城内にいる人間は俺を含めると計九名。
リトがいないのが腑に落ちない。
「ちょっとぉ〜!お願いだから話を聞いてよぉ〜〜〜!!」
「もうちょっと静かにしてて。大魔王様」
この呼ばれてる人間がどうやって選ばれたかは謎だが、ナナが配っているのは確定済み。モモも配っているのかもしれないが、今の城のメンツ的には、ララに近しい人間が選ばれているはず。
にも関わらずリト、ミカン、西蓮寺がいないのはおかしいし、校長レベルでいる中でヤミがいないのも疑問だが、あいつが素直に招待状を開くかは怪しい。そもそもヤミは肉体もあるこの世界では完全にチートキャラ。そもそも呼んでいない可能性もあるな。
それに、ここは大魔王城だ。ゲームで言えば最終目的地。と言うことは今ここにいない、リト・ミカン・西蓮寺・ヤミ?が勇者一行って事かな。もしかしたらザスティンとかもいるかもしれないが、おそらくこちらの悪役メンツに対してヒーローが過剰になるからそれはないだろう。
ただクリアというのは何が条件か、誰の思考上でクリアの判定が出るのか。
大魔王を倒す。がクリア条件であれば俺が今コイツを消せばクリアだが、俺の初期位置をここにして、俺は敵キャラ。おそらくコイツが俺を攻撃しないように、俺からの攻撃判定もないだろう。実際、電気信号の塊を消すには絶界を使うか、『
ならば、大魔王を倒す人物は決まっているし、クリアの鍵は間違いなく『ララ』だ。
と言うことはゲームのクリア条件と、俺にとってのクリア条件はおそらく……
「もぉいい……」
「じゃあ俺にとってのクリアはリト達一行にララの前でぶちのめされれば良いのか?」
ひとまず導き出した答えを伝える。
「えぇぇ〜!!私が説明して驚かしたかったのに!!可愛くない下僕!!」
「まぁ、ちょっとスッキリしたんで、寝ますね。大魔王様」
そう言って俺は玉座の脇にある椅子に座り目を閉じた。
これだけおちょくっても攻撃をしてこないって事は、俺はこいつの中で味方と見て間違いはない、かな。
目を薄く開けるとワナワナと震えている大魔王の姿。それを確認した後、再度目を閉じて、寝る。
一応警戒を解くわけではないが、少しでも体力を回復させておきたい。
何だか、嫌な予感がする。せめて修行後のこの体が本調子まで上がればいいんだが……
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「どうかしたの?結城くん」
「いや…ララとユウ兄はいないかと思って」
「あの招待状、やっぱりララさんじゃないんじゃないかな?」
「俺もそんな気がする…ララだったら、すぐ姿を見せそうなもんだし」
リトとハルナさんが考察しているが、私もそう思う。ララさんじゃない誰かの仕業。それにメンツ的にユウリさんがいないのが少しおかしい気がするが、あれで用心深いから手紙を開けなかったのかな?
「こんな世界に連れてこれるくらいだから、宇宙人の仕業だとは思うけど…」
こんな世界。
今から6時間くらい前。私は小学校に登校した後、机の中に手紙を見つけた。何だろうと思って開いたのだが、もう少し注意すれば良かったと後悔している。
そこからはなぜか開けた平原にいて、近くの街でハルナさんと出会った。
そこからはリトと古手川さんと合流して、ゲームの世界で転職をして冒険が始まったのだが、今は夕方になりヘボンの街というところに着いたところだ。
もう5時間近く冒険をしているから流石にみんな疲れていた。
ここまでで、
私は【魔導士】Lv.4
リトは【花屋】Lv.4
ハルナさんは【勇者】Lv.5
古手川さんは【武闘家】Lv.5
まで成長したが、普通のゲームを考えてもこれだけの時間をかけてレベルが一桁代は厳しい。
戻れる条件はクリアになっていたが、何レベルくらいで魔王を倒せるのかもわからない。
正直、ちょっと不安だ。
「だ、大丈夫さ!いざとなったら俺が皆を守ってみせる!!」
「【花屋】が頼りになればいいけど。でも、頼れるで言うと、ユウリさんとヤミさんがいないのは、わざとなのかな?」
そう、ヤミさんもいない。ユウリさんとヤミさんという頼れる二人がいない事を、口に出してみんなに意見を求めてみる。
「……七瀬さんが、頼りになるわけないじゃない!あ、あんなハレンチな人!」
え?ーーー古手川さんに、ユウリさんはハレンチな事をしてるって事?そんなわけがない。ユウリさんはそんな人じゃない。
「ミ、ミカン!宿屋があったぞ!ようやく休めるな〜!」
私が口を開こうとしたら、あからさまに割り込んできたリト。今は、邪魔しないで欲しい。なんでそう言えるのか、私は聞きたい。
さっきまでの疲れはもう消えている。今は宿屋も、後でいい。
「米川さん、一体ユウリさんのドコがハレンチなんですか?」
「ちょっ、ミカン!」
「古手川よ!私に、抱きついてきたり、してるからよ!」
抱きつく?ユウリさんが?この人に?
ーーーなぜ?
それは、ありえない。
「それは勘違いだと思いますよ。ユウリさんが意味もなくそんな事をするなんて、絶対にありえません」
「な、なによ…?」
「七瀬先輩は、私もそんな人じゃないと思う」
「古手川、あれは事故だし、どっちかと言うと助けたんだと思うんだけど…」
「………」
ハルナさんとリトも古手川さんに反論してる。
良かった。今の古手川さんから感じるのは、罪悪感。
私がユウリさんと話せるようになった時、罪を認めて、悪いと感じれるのは優しい事だって、罪悪感って、別に悪いものではないよって教えてくれた。
ーーーなんだかギクシャクしちゃった。
私もまだまだ子供だな。つい、ムキになってしまった。少し反省しなきゃ。
古手川さんは、大袈裟に言っているだけ。たぶんいろんな意味で損をしている人なんだろうな。
「古手川さん、ごめんなさい。思い方は人それぞれだけど、ユウリさんはそんな人じゃないから、ちゃんと見て欲しかっただけなんです」
「私も、ごめんなさい。……でも、七瀬さんとは、どういう関係なの?」
どういう関係、ちゃんと考えた事なかったかも知れない。
義理の兄?でも私の思いは……
「俺とミカンの兄ちゃんみたいなもんだよ。この間まで一緒に住んでたから。俺もミカンと同じ気持ちだし、ユウ兄に会った時はもう一回ちゃんと見て欲しいな」
「わかったわよ。確かに、あなたの方が相当ハレンチな事してるしね」
今は古手川さんとリトがなにか言い合っているが、私のザワついた感情はもう戻っていた。
「ミカンちゃん、もう落ち着いた?」
「ハルナさん、すみません。なんだか変な空気にしちゃって」
「うんん。大事な人を悪く言われたら、誰だってそうだと思うよ」
ハルナさん、良い人だな。リトにはもったいないくらいだけど。
そうして私たちはベッドが三つしかない宿屋でまたも一悶着あったがようやく休めたのだった。
ーーーーーー
「ほら、下僕。起きなさい」
「起きてるよ。大魔王様」
「そろそろこちらも動き出すから、早く着替えなさい!」
着替える?ん?
「マジカルチェーンジ!!」
俺の服装が、変わる。
「よわそー何これ?」
「いいじゃない!似合ってるよぉ〜〜」
ニヤニヤと俺を見ている大魔王。
俺の格好は完全に雑魚キャラ。ショッカーの覆面無し版のような……
ボディラインのわかるぴったりとした上下黒い服に黒いグローブと黒のロングブーツ。ベルトのバックルが異常にでかく顔くらいあり、大魔王の帽子の太陽と同じデザインが刻印されていて、胸の部分には骨のようなデザインの銀色の線が描かれている。
「雑魚キャラじゃん。まー良いけど。で、どっか行くのか?」
「ふふ。気付いてるみたいだから教えるけど、結城リトくんがちゃーんとお姫様を助けてくれるかどうか、確かめてくるの♡」
電脳世界のくせにワープはできないのか、キャラを守っているのか、ホウキに跨り城を出て行く大魔王。
俺の目の前に浮かぶポップアップには、
【偽者 Lv.1 HP10】
そう表示されていた。