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「どうやら来たようね」
大魔王であるマジカルキョーコがそう呟いた。
流石はゲームのキャラクター、この城に勇者一行が入ってきた事には気付いてるのか。
ペケがこっそり場外に脱出している事には気付いていなかったのか、放置したのかはわからないが、ペケが逃げ出すって事は、ララは状況を知らされてはなかったようだ。
どうやら勇者パーティーは予想通りリトとミカンと西蓮寺とヤミ。
と、なぜか古手川までいる。アイツ苦手なんだよな……
それと、ヤミはやはりゲームの中でも
アイツを勇者一行にいれたらこうなる事は予想できたと思うが、それも何かの狙いがあるのか?
ナナのあの感じだとそう言った事は考えてなかっただけってのもあるか。そうなるとモモの考えが読めないな。ララやナナと同じでどこか抜けてるって線が濃厚か。
「大魔王、下僕の出番は、まだなんすか?」
「ふふふ。もう少ししたら、ね♡」
ララが目覚めているのも確認済みだし、確かにもうすぐ、だな。
NPCではなかった城の者たちは戦うまでもなく敗走しており、ルンに至っては校長に追いかけ回されている。
ーーー出番ね。せいぜい無様に負けてやるか。
一晩たったので体の調子は戻っているが、この嫌な感じはなくならない事に若干の不安を抱えながらも玉座の間の、豪華な大魔王の椅子の脇にある普通の椅子に腰掛けて、その時を待っていた。
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「答えは決まりましたぁ?」
宿屋でヤミが倒してくれた中ボスから出てきたアイテム【キョーコの導き】を使って大魔王城の目の前まで飛んできた。そこでペケと合流してララの元まで一直線に突き進み、と言ってもほぼヤミの
昨日の夜の答えを聞きたがってるのか。
昨夜、宿屋で寝ている俺へキョーコが言った、ララを見捨てて、俺がキョーコの彼氏になれば元の世界に戻れる。ララを選ぶか、キョーコを選ぶか。
キョーコを倒しても戻れるけど、キョーコのHPは無限で実質倒すことは不可能。
それでも、俺の答えは決まってる。
「そんなの考えるまでもねー!!ララを返してもらう!!」
「それってつまり、リトくんはララちゃんが好き……って事かな?」
「な、なんの話だよ!」
「だってそんなに必死になってんだもん。今ここでハッキリさせてよ。このコの事…どう思ってるの?」
玉座の間の赤地に金色の刺繍が施された大きなカーテンが僅かに開き、中からララと、覆面を被った小柄な二人が出てきた。
は?今ここで、春菜ちゃんの前で、ララに俺の気持ちを……
「リト……」
ララ、俺は、俺は、ララの事を、
「どーなのリトくん?このコの事…好きなの?」
「な、なんでそんな事!」
「それが一番大事なんですよぉー。ちゃーんと答えたらぁ、ラスボス特権であなた達みんな元の世界へ返してあげちゃうかもですぅ〜〜」
「な…なんですって!?」
古手川の声、そうだよな、帰りたいよな。ミカンと、春菜ちゃんはなにも言わない。
俺は、どうする……?どう答えればいい……?実際のとこ、俺はララの事をどう思ってる…?
「その前に、俺が出よう」
ーーーえ?
「ララも来たし、タイミング的には別に良いだろ大魔王様?」
「…お兄ちゃん?」
「んー、まぁいいよぉー!」
「な、なんでユウ兄が…!?」
なんだか大量に湧いて出てきそうなザコキャラみたいな格好をしたユウ兄が、俺に向かってゆっくり歩いてくる。
ララもユウ兄に近づこうとしたが、覆面二人に阻まれたようだ。
「ユウリさん…!?」「……ユウリ?」
ミカンとヤミも驚いており、ユウ兄へと問いかけるが
「リト、お前が決心つくまで、俺でもボコって考えろ」
いったい、何を言ってるんだ?
「な、なんでリトがユウリさんを…」
「俺のゲームでの立ち位置は大魔王の下僕で職業は偽者」
偽者?下僕?話に全くついていけない。
「まぁ、ともかく俺のキャラ的なクリア条件はここでお前に負ける事。だから、なんて答えるか考えながらで良いから俺を倒してくれ」
ーーーーーー
やれやれ、随分と面倒だな。
ナナとモモの狙いは、リトからララに告白させるって事か。
そして全然攻めてこないリト。まぁ、そんな気はしていた。
このまま動かなければ大魔王がなんかちょっかいかけてきそうだな。
「リト、お前はお前の思っていることを口に出せば良い。そんなすぐに答えられるほど器用じゃないだろ?こうゆう時は、変に作らず本音ぶちまけりゃいいんだよ」
「ユウ兄……」
世話が焼ける義弟だな。
どうせ答えなんて出さないのに無理に答えを求めすぎるんだよリトは。とはいえ、困惑していた顔も、決心した顔に変わったようだ。
これで、リトの返事の道筋は決まったかな。
じゃあ後は、さくっとやられますか。
「もう、決まったみたいだし、誰でも良いぞ。そういえば古手川いるし、お得意のビンタで仕留めてくれ。俺はLv.1でHPも10しかないから」
「な、お得意って、そんな…」
さっさとして欲しい。そもそも、やられたら俺は先に帰れるのかな?
そう思いながら古手川と息がかかるほどの距離まで近づく。ミカンがジト目で見ているが、誰もやらないんだから仕方ない。
「キャァー!」
左頬に何かを感じた後、目の前が真っ暗になった。これで、いいのかな?
ーーーーーー
んー、思い描いていたものとは、全然違います。
もっと無様に、近しい人たちの前でやられて欲しかったのに。
これじゃあたいしたオシオキにはなっていないですね。
私は棺桶に入った七瀬ユウリさんを見ながら思う。
でも、声が、似ている気がする。
あの時に、安心させてくれたあの人の声に。
声まで似ているのか。お父様の話じゃハンターさんは地球人とは思えない程の強さを持っているはず。
やっぱり、顔だけじゃなく声まで似せている偽者よね。
結城リトさんも、ここまでお膳立てしたのに、お姉様の事を【好きかもしれない】なんてそんな中途半端な返事じゃなくて、はやくお姉様と結婚してもらわなくちゃいけないのに。
あーぁ。大魔王マジカルキョーコの最後の、全員がゲームオーバーになるまで全てを燃やし続ける炎も結城リトさんの、花屋のジョウロにプログラムしていた究極技【ライトニングシャワー】でやられてしまったし、仕方ない……
諸々、次の機会ですね。
「あ〜れ〜〜」
これで大魔王も消滅し、終わりになっちゃった。次はどんな……
ーーバヂバヂバヂーーー
『ア、アアアアァァァァァァアアアア!!』
突然の電気のスパークのような音と共に叫び出すマジカルキョーコだった物。あれ、これは、プログラムの問題?じゃないはずだけど……
『なんで、デビルークの王女が勢揃いしてるんだ?』
マジカルキョーコの顔が能面のようになり、二つあるはずの目は一つの大きな漆黒の穴となり、こちらを向いている。聞こえる声は電子音のような不快な音を奏でている。
『まぁいいや、デビルーク王が来てた理由はコレだったみたいだな。とりあえず、三匹とも拐っていくか』
手が震えている、手だけじゃない、体全体が震えている…
これは、恐怖だ、この感情を、この感覚を私は知っている。あの時と同じ……
ーーードガァァァァァァン!!ーーー
直後、何かが爆ぜた。
「…………何だ、お前は?」
声が聞こえ、爆音と爆風で閉じていた目を開けると目の前に、黒コートでフードを被った男が私達を守るように背を向けて立っていた。
ーーーーーー
「「「ハンター!?」」」
「………」
「え、この方が、ハンターさん……?」
デビルーク王との戦いを見ていたリトとララ、西蓮寺の三人が叫ぶ。
ヤミは無言で俺を見ていた。
モモの反応はイマイチわからないが今は無視だ。
状況を掴めていないだろう他のみんなは呆然としている。
ゲーム内で死ねば職業もリセットされるようで、服装が戻ったのはラッキーだったな。棺桶の中で自らのジャケットのポケットから黒い筒を取り出し、黒コート姿へと変わったは俺は右腕にオーラを集中させ【硬】の状態にして地面を殴り、衝撃で棺桶ごと破壊して脱出したのだ。
ただ、爆音の出どころが棺桶だった事をヤミには気付かれていたかもしれない。
それにしても、豹変したマジカルキョーコを【凝】で見ても、先程と変わりないが、感じる殺気は本物。纏う空気感も完全に違う。
ヒュ!!
空気を裂く音と同時にヤミがマジカルキョーコの背後に周り
『金色の闇か、お前じゃ俺は殺れねェよ』
電気の集合体、もしくは集合体ではなく、体こそが電気で出来てるのか?
「……やってみなければ、わからないでしょう?」
ヤミはその後も幾度となく斬りつけるもやはり効果はない。突如ヤミが飛び退いた。
「くっ………!」
飛び退き膝をつくヤミ。感電したのか、金色の髪からはパリパリと少しだけスパークが見える。
『お前についた賞金もついでに貰っとくかぁ』
「ヤミ、全員を逃せ。お前じゃ相性が悪い」
尚も挑もうとするヤミを手で制した。
こいつは、わかる……俺が一人で……
「カラ、あなたは……」
『身体エネルギー、あぁ。お前が
「……お前は何だよ?」
カグロ、それがアイツの名か……
『俺か?俺は……』
マジカルキョーコの体が突如ゲームのバグのように、バチバチと音をたてて段々と変わっていく。
そして、現れたのは、真っ直ぐ伸びた金色の髪を胸のあたりで切り揃えている男。その髪は顔の前すらも覆っているが、大きな青色の一つ目が宇宙人である事を物語っている。長袖の白のジャケットを羽織ってはいるが、丈が異常に短くヘソの上ほどまでしか無いし、ジャケットの前は開けており中には何も着ていないので透き通るように白い肌の、筋肉質な体が見える。手に持ってるのは、棍よりも細い、ビリヤードのキューのような武器。白い靴に白いピッタリとしたズボンを履いている。
黒ずくめのロングコートである俺とは逆のような格好をしていた。
『
キスクと名乗る男はビリヤードのキューのような武器をふるい、眼前に六つの光球を作り出し、キューでそれを打ち出した。
ーーーピキィンーーー
何か仕込みがあるかも知れないが…全ての光球の真上に巨大な結界を生成。それを一気に圧縮させ、光球目掛けて落とす。
ドンッ!!
全て地面に叩き落としたが、核のようなものが入っていたようで地面が球の形に凹んでいた。
『……やるじゃねェか』
電気の中に核、これがなにかはわからないが普通の人間であれば容易に穴が空いてたな。
そして、その核もそのまま霧散した、と言う事は電気の塊ってところか。空気は電気を通さない。あのレベルの電力であれば、先程のサイズで空気ごと圧縮した結界であれば絶縁破壊は起こしても叩けるって事か。
それにしても、六つの球。狙っていたのは、
俺、ヤミ、リト、ミカン、西蓮寺、古手川
デビルーク三姉妹以外は、いらないって事ね。
はぁ、やっぱり、久々に会うホンモノのクズか……
なんだかんだ、この世界の初日以降はヤミとデビルーク王のようなまともな奴か、せいぜい小悪党しか相手にしてないもんなぁ。
初日は青毛の獣人の顔面を踏み砕いたくらいで、後は俺が死にかけてたしな。
【円】で確認するも、みんなはまだいるか。早く逃げてくんないかなぁ……
左手で他の者には暗闇にしか見えない顔を覆う。
これからの事を思い、見えないとはわかっていても、歪んだ口元を隠すように。
早く逃げてくれないと………
ーーースイッチ、ハイッチャウダロ……
一瞬、体からオーラが吹き出す。
『ははははははは!!』
「………」
『なんだぁ、同類かよ!!お前はなんて名だ?』
突如笑いだすキスク。同類?オレがお前と?
馬鹿言うな、別に俺は殺しがしたいわけでも快楽殺人者でもない。
オレはただ、お前がしてきたであろう事を、全部お前にしてやりたいだけ。
顔を覆っていた左手をダラリと垂らし、棒立ちになる。
「名前なんか……無ぇよ」
先程漏れ出たオーラは既に両足に凝縮されており、それを地面へと放った反動で肉薄。
地面を蹴ってすらいないのでキスクは初動を捉えられていない。その中途半端な長さの武器とさっきの技、それに、斬り刻むヤミへのカウンターすら行わなかった動き。と言う事は、得意レンジは中・遠距離で、接近戦は電気の体任せで攻撃は、どうせ苦手なんだろ?
余程、電気の体に自信があるんだろうな。ニヤけた顔には余裕も見えるしな。
その顔が苦痛に!苦悶に!歪んだところがミタインダヨ!クソガ!!
殴る瞬間に拳を絶界で覆う。
キューを持つ右肩を殴り、腹に穴を開け、左肘、右太腿を殴り、蹴り、左足以外の四肢の繋ぎ目を消し去ってやったところで、キスクの姿がブレる。
と思ったら一瞬で10mは移動しており、壁際まで下がっていた。その姿はさっき迄と変わりない。電気の体か、削り切れば消えるのか?
『なんだ……テメェ、何しやがった!!」
感じるのは、怒りと困惑。
ナンダ、痛みは無いのか、ツマラナイナ。
お前が今までやってきたであろう事を全部与えてやりたいのに。
その時のお前の、死ぬしか無い未来への絶望と過去への後悔に塗れた顔がミタイダケナノニ……
ーーーーーー
「プリンセス、ここから出る方法はわからないのですか…!?」
ヤミは珍しく焦っていた。
相手の強さ、纏う空気はどれも一級品。
更に、アレは何度か見た、無駄な殺しすらも楽しむタイプだ。自分はまだしも、他の者は一刻も早くここから離れるべきだと判断していた。
通常の戦闘時であれば総合的に見てもヤミのほうが上だ。
しかし、攻撃が通らない事を攻略する糸口が全く見えない。
このまま他の者とハンターとアレの観戦を続けるわけにもいかず、そばにいれば戦いの余波で無駄に死人が出てしまう。
最悪、人質に取られる可能性もある。
今この場でアレに対抗出来るのはハンターしかいないだろう、とヤミは分析していた。
「カラが、ハンターがアレの相手をします。私達は早く離脱を……!」
『
その瞬間。
ヤミは……いや、ここにいる全員が同時にそれを感じた。
先程までのアレの、キスクの殺気が、明らかに異常とも呼べる程に増したのを。もはや姿すらも変わっている。
「あ、アレって…」
「なに、なんなのあの、球……?」
「………いけない!みんな逃げて!」
ハルナが気付き、古手川が空中に浮かぶビリヤードの球のような物を指差して、ララが叫ぶ。
その時、ヤミは見た。と言うよりも宇宙一の殺し屋と言われるほどかつては戦場に身を置いていた彼女だけが気づけた。
上空に現れ、縮みながらも高速で落下する青い結界を。
「アレ…?嘘……」
ミカンが愕然としている。その理由を知るのは、ミカン本人と、今ここにいない彼女の兄代わりだけ。地面へと減り込み消えていった青い結界は、彼女と彼だけの秘密だったからだ。
自分たち目掛けて打ち出されていた光球は眼前で叩き落とされ、地面に穴を開けていた。
「ミカン、ボーッとするな!速く逃げるぞ!ララ!案内してくれ!」
「こ、こっちだ!姉上!メインコントロールルームへ!!」
「あの方を、またあの方を置いていくなんて!絶対にできません!私も何かお手伝いを…!」
リトが叫び、ミカンの手を取り走りだす。
ララではなく、覆面の片方、赤色の球をつけた方が答え、もう一方の緑色の球をつけた方は残るべきだと叫ぶ。
「……あなたはバカですか?あなたたちプリンセスはいるだけで邪魔になるんですよ……!」
ヤミは緑色の球をつけた覆面姿のモモを掴み、赤色の球をつけた覆面姿のナナへと投げつけ、ナナは自身へと飛んでくるモモを掴み走りだす。
ーーーーざわーーーー
「!!!」
ヤミは先程のキスクの時とは別の、むしろそれとは比べ物にならない程の禍々しいナニカを感じとったが、それは一瞬で消えた。
『ははははははは!!』
『なんだぁ、同類かよ!!お前はなんて名だ?』
不快な電子音の笑い声が耳から入るが、どうやらキスクはハンターへと興味が集中したらしい。
「名前なんか……無ぇよ」
直後ハンターがキスクに襲いかかる。その隙に、全員は玉座の間を全速力で後にした。
最後に、殿を務めていたヤミだけが、ハンターであり、カラであり、ユウリである男の変化に気付いていた。