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……ここは……どこだ…?
つい最近もこんなことあったなーなどと思いながら、いったいどれだけ寝ていたのか、うまく動かない体を無理やり動かす。
上半身をゆっくりと起こして辺りを見渡した。
ーーここは、病室か。
白を基調とした部屋で、ベッドの隣には小さな棚があるだけの小さな部屋。
窓は一つあり、白いカーテンが風で少しだけ揺れている。
棚の上にはガラスの花瓶がおいてあり、薄い緑色の花とオレンジ色の小さな花が飾られていた。
微かに香る花の匂いに気持ちが落ち着く。
今回は周りも騒がしくなく、じっくりと自分の現状を再確認することができる。
まさか"また"死んで、次はここに転生したのかと思考を巡らす。
体もようやく起きてきたのか、先程よりはスムーズに動く自分の肉体を観察する。
千切れかけていた右肩も、腹に空いた穴も、他の皮膚と比べるとくすんだように変色して凹んではいるが塞がっていた。
どのくらい寝ていたのだろうか、治っている傷を見て、俺の第二の人生はまだ終わっていなかったんだと確信した。
ーー俺は一度死んでいる。
初めて死んだ際の詳細は省くが、確かに、確実に死んだ。
まず死ぬ間際になって気付いたのだが、俺は後天的な”特質系”の念能力者だったのだ。
それまでは”具現化系”として生きており、主に戦闘用に作った能力は、肉体が変わっても健在だったようでこの前の獣人戦でもその力を十分ではないが発揮できた。
能力名は『
自分の
”変化系”でその結界に硬化と弾力性といった性質を付与することができ、
さらに”操作系”で操る能力だ。
俺はなぜか変化形より操作系が得意だったため、簡単なパターンであればオートで操作することもできる。
名前の通り元々の俺のオーラ量での《円》の範囲は六畳一間くらいが限界で、また、制約を立てていたのでより小さな結界であればあるほど強く効果を発揮する結界を生み出すことができる能力なのだ。
だが、獣人戦での使用感で言うとこの肉体の今のオーラ量は六畳には程遠く、良くて押し入れ程度。
さらに性質変化にあたってはバスケットボールサイズくらいがギリギリで、それ以上になるとほぼ変化せず、操作に関しても指を動かしたりといった補助がないと上手く操作できない。
結界の具現化だけはイメージがモノを言う部分なので問題なかったことが唯一の救いか。
ーーこれではせいぜい『
これをうまく使えないと強化系に適性の無い紙防御な俺は食らうとすぐに死んでしまうのだ。
獣人を倒せたのも、相手が宇宙人ということもあり念を知らなかったと言うことが大きい。
もしも向こうも念がつかえれば今の俺では勝てなかっただろう。
基本をおさらいするが、念能力のというのは
強化系・変化形・具現化系・特質系・操作系・放出系の6系等あるのだが、基本は特質系を除く5系統に分類される。
基本に分類されない特質系とは、文字通り他にはない特殊な能力。
念能力者は向き不向きはあるが、基本的に自身の系統以外の基本系統の能力は修行さえすれば身に着けることができる。
だが、この特質系に限っては修行による習得はできない。
特質系であるものは2パターンしか存在せず、生まれつき特質系の性質を持っているか、何らかの影響で、後天的に自分の系統が特質系に変化するかしかなく、俺は後者だったのだ。
各系統の相性は、
その謎は俺が特質系だったため解決したが、特質系の得意な系統は具現化系・操作系なので通りで……と今更ながら思う。
もう修行していた肉体は死んでいるのでなんだが、変化系が伸びなくなってからも費やした修行時間を返してほしい。
他にも制約と誓約といった、いわゆる能力における誓いを自分にたてることによってより強力で高度な能力を生み出すこともできる。
この具現化系・変化系・操作系と基本系統の3つを盛り込んだ 『
『
この能力はいたって単純。
自分が死んだ際、自分と同じタイミングで死んだ”人間”に憑依転生する能力。
転生先の肉体が虫であったり、自我すら持たないものであった場合に困るので"人間"にという取り決めをおこなったのだが、問題なのはその場合俺の念の力では足りず、転生に失敗するのではないかと不安がよぎったのだ。そのため、この能力には3つの誓約を立てた。
①自ら意図しない死である場合にのみ発動する
②肉体は捨てる
③自分の死と同時に死んだ者にしか転生できない。
そのため、この能力の場合は自殺、もしくは自身を殺害依頼して死んだ場合には発動しないし、これのために慣れ親しんだ肉体は捨て、魂しか転生できなくなってしまったのだ。
死ぬ間際ということあり焦っていたので仕方ないとはいえ、なんとも大きな博打に出てしまった。
そもそも転生先の肉体が死因は老衰の高齢者の肉体であったり、沈没した船内で溺死した肉体など、どうあがいても転生後にもう一度死ぬ状況の肉体に転生する可能性もあったのだが、
俺は賭けに勝ったのだ!
しかも男だ!
女性になるのも死ぬ時は仕方ないと思っていたが、今まで男として生きてきたのだ。
今から女性として生きていく覚悟は、きっと実際になってからでないとできない。
もっとも、今回も狼型の魔獣や、とんでもない強さの人型だが化物に襲われいつ死んでもおかしくない状況だったのだが……
ーー生きててよかった。
自己分析を終え、生きている喜びを噛み締めていると扉が開き、誰かが部屋へと入ってきた。
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「ようやくお目覚めね。おはよう。
「……おはよう、ございます」
当たり前だが、見覚えのない女が入ってきた。
今呼んだのは、まさか今回の俺の名前か?
もう一回言ってくれないかな。
突然だし全然聞き取れてない。
「私はミカド。体調は問題なさそうね。早速だけど、なにがあったか、覚えてる?」
ミカドと名乗る女性は医者なのだろう。
俺の体に不調がない事はわかるらしい。
さらにこの質問、どこからの事を聞いているのか、俺の能力にすら気付いているのか、どうとでも取れる質問をしてきた。
ーーここは無難にさっきの願いをぶつけてみよう。
「いえ……なにも。ちなみに、さっき呼んだのは、俺の名前ですか?」
「ーーそう……ええ、あなたの名前よ。七瀬 悠梨くん。なんでもいいのだけど、何か覚えていることはないのかしら?」
ミカドはそう言う。俺は『ナナセ・ユーリ』という名前なのか。
「いや、本当に何も覚えてません。名前も、聞いてもピンともきませんし」
その後、俺は簡単なテストを受けた。
一般教養に対する質疑応答のテストは、まぁ…無難にこなせたと思う。
一通りの質問に答えると次は紙を渡され、一番上に名前を書いて下の質問に答えていって欲しいと言われた。
俺は書こうと思ったが、下のほうにある文字?のようなものを見て固まる。
ーー言語が、違う……
これは、まずい。
俺のいた世界でも文字の読めない仲間はいたが、俺は普通に読み書きできたのだ。
これは明らかに違う文字。とっかかりすらもなく、判別もつかない。
質疑応答の際に国の名前も聞いたがここは日本で、この星は地球というらしい。
日本という言葉も、地球という言葉も初めて聞いた。
更には飛行機というものもあり、飛行船よりもはるかに速い速度で空を飛ぶ乗り物もあるらしい。
もともとの俺の世界では暗黒大陸という危険地帯が人類の生存域を囲っていたため、船や空を飛べる乗り物は極端に遅かったのだ。
文字の読み方、書き方を聞くたびにミカドは神妙な顔になっていく。
ペーパーテストを途中断念したところでミカドは何か考えるそぶりをして、色々と俺に伝えてきた。
俺は車で事故にあい、運転していた父親と母親はその時に2人とも死んだこと。
なかば駆け落ち同然で結婚していたらしい2人には親戚らしい親戚もおらず、俺はこのまま施設?というところに送られる事になりそうとの事。
俺は無感動にそうですか。
とだけ答えた。
もともとの世界でも俺は捨て子で親などいないし、孤児たちで集まって生活していたため、ここで言う施設というのも似たようなもんだろうくらいに思っていた。
その後、いくつか体を検査されたが問題もないようで、1週間程経過を見たら俺は退院できるらしい。
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私は自室に戻り考える。思ってはいたが両親の事は何も感じていないようだった。
本当に何も覚えていないのか、自分の今後にすら何の反応もなし。
そもそも質疑応答の結果を見るとこの星とは異なった文化の知識を有しているようで、記憶喪失というよりかは、別の人格に支配されているのか?
そこで一度思考を中断する。
ーーまあ、体に異常はないようだし、この子を預かる経緯も説明してくれなかったわけだし、知られたくないのかもしれない。
一応体に異常はないのだ。
問題ない。
と、デビルーク星には報告しておくか……
あ、あと面会できるようになったら連絡が欲しいと言う人もいたな。
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この病院内の移動であればある程度許されるようになった俺は初めて鏡で自分の姿を見た。
前の世界での年齢は誕生日すら知らないのでわからないが18,9ぐらいだったと思う。
ただ鏡に写った自分の姿は十代半ばくらい、といったところか。なるほど、ガキだの子供だのと言われるわけだ。
たしかに幼さの残る顔つきだ。
身長もずいぶんと縮んだもんだ。
160あるかないかくらいしかない。
体はそれなりに鍛えていたのか少しは引き締まっている。
ただ、目を引いたのが髪だ。
もともと『ユーリ』が染めていたのか、俺という人格に引っ張られているのかわからないが、もはや白に近いほどの金髪なのだが、生え際のほうは黒髪となっており、ところどころメッシュのように黒と白がまざっている。
長さは肩まであり、かなり鬱陶しい。
俺はもともと黒髪の短髪だ。
ミカドにお願いしてその日のうちにひとまず切ってもらった。
どこぞの喰種であり准特等捜査官のような感じなってしまったが、短くなったので気分も良くなった。
ここ2、3日は簡単な検査とパソコンを使っての勉強をしていた。
その中で弁護士という男性が来てミカドと共に色々と伝えてきたが、要は俺の両親の財産は俺のものになるが、18歳になるまでは俺は使え無いとの事。
管理は弁護士がするそうだ。
ひとまず、親と住んでいたらしい家の維持はしてくれとだけ伝えた。
施設についても説明してくれたが、生活の時間割とやらの話以外はまったく頭に入ってこなかった。
今まで自由にしてきた俺には考えられ無い程に徹底的に管理されている。
「え、施設って、え?ここって実は刑務所みたいな所なんですか?」
俺は2人に質問したが、俺の思う答えはなかった。
施設、めちゃくちゃ行きたくなくなった。
ーーその日の夜、俺はこのまま逃げてしまおうかと本気で考えていた。
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また1日、退院に近づいた。
施設に行く前に必ず脱出しよう。
昼食を食べながらそう心に決めた所でミカドが俺の病室に入ってきた。
「あなたにお客さんがきてるわよ」
はて、俺は首を傾げた後に頷いた。
客?この世界に知り合いはいないけど……
「良かった!無事だったんだ!!」
誰かと思ったが、茶色のツンツン頭な少年、リトだった。後ろにはあの時にもいた妹もいた。
あと1人、黒髪のツンツン頭の男性。2人の父親か?
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俺はその後リトとなんてことない会話をしていたが、リトの妹は相変わらず何も話さない。
そういう時期なのだろうか?
女の子の相手は自分よりも年上か、自分よりも強い人としか話したことがないので扱いがわからない。
俺は無意識に何かしたのではないかとリトに聞いてみたが、わからないとのこと。
なんだかよくわからないが俺はミカンを苦手な人のジャンルに入れた。
リトたちと一緒にいたあの男性はやはり2人の父親だったそうで、ミカドと、施設用の資料を持ってきていた弁護士と外で話をしているようだ。
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そしてその日の夜
ーーここは…どこだ?
もはや口癖になりつつあるセリフを脳内で再生している俺は、なぜか結城家の玄関前に立っていた。
ネーミングセンスが無です。。。すみません。。。