Troubる   作:eeeeeeeei

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二十話 昔昔×決別

ーーーーーー

 

 

「姉上!ここが、メインコントロールルームだ!」

 

 目的地へと到着し、宇宙規模で見ても天才的頭脳を持ち、発明家でもあるララが仰々しい機械の前へと行きモニターを見ながらコンソールを高速でタイピングする。

 

「プログラムが、凄い勢いで書き換えられてる!?」

 

「どうりで転送システムが使えないわけだ」

 

 恐らく電脳世界の住人であるキスクが乱入と同時にプログラムを攻撃したのだろう。電脳世界の住人であれば元々プログラムであるマジカルキョーコの姿で現れ、ヤミの斬撃を全て無効化できた事にも説明がつく。

 ララの言葉を聞き、デダイヤルのような物を操作していたナナは元の世界に帰るためのアイテムが使えなかった理由がわかったようだ。

 

「そんな、どうにかできないのか!?」

 

「大丈夫!ウィルスが入ったみたいだけど、私が修復するから順に元の世界に!」

 

 リトが焦ったように言うが、ララは問題ないと見ていた。

 

 その一番の理由は、キスクが現在戦闘中だという事。モニター上で見てもプログラムへの攻撃は止まっており、ララは会話中であろうともタイピングの手が休まることは無い。

 

「良かった!これで、帰れるんだな!」

 

 ララの言葉に全員は安堵し、ヤミとミカン、デビルーク三姉妹以外はその場に座り込んだ。

 

「というか、自然の流れで一緒にいるけど、二人は誰なのよ?」

 

 古手川が、覆面は既に外しており、素顔を晒しているピンク髪の二人へと尋ねる。

 

「あ、そうだったな。デビルーク星第二王女のナナ・アスタ・デビルークだ」

 

「第三王女のモモ・ベリア・デビルークです。今回は、皆さんをこんな事に巻き込んでしまってすみません…」

 

 二人は名乗るが、状況が状況のため二人とも声に元気はない。

 ララの双子の妹という事で、リトとミカンは元々ララとユウリの会話から知っており、ヤミは自分で気付いていた。

 モモは謝罪して、この【とらぶるクエスト】に皆を招待したのは自分たち二人で行った事だと話した。

 

「ごめんね、妹達が迷惑かけちゃって」

 

「……プリンセス、玉座の間以外の場所にいる人間を返すように設定はできますか?」

 

「え、できるけど……あ!そうか!」

 

「そうですね。でなければあのキスクという者まで出てきてしまう……ただ、それだと…」

 

 ヤミの忠告によりララは気付き、モモも理解したようだ。

 ただ、モモはハンターも戻って来れないという事を理解しており、どうにかできないかを模索している。

 

「モモ。ハンター、さんはきっと大丈夫だよ。パパと喧嘩できるくらい強いんだから」

 

「お姉様……」

 

 命の恩人を再度見捨てたような形になって落ち込んでいる妹を気遣い声をかけるララ。

 モモも、姉の意図を理解して、気持ちを立て直していた。

 

「よしっ、これでオッケーだよ!うん、バッチリ!あと5分で自動的に皆元の世界へ転送されるよ!ナナとモモは戻ったら、どうしてこんな事したのかちゃんと説明してね!?」

 

 流石は、天才ララ。メインコントロールに付きわずか数分で電脳世界の住人のウィルスを破壊し、元の世界に戻るプログラムを完成させた。

 ナナとモモは、姉の言葉にうなずいていた。

 

「…そういえば、七瀬先輩はどうなったの?」

 

「古手川がビンタで倒しちゃったもんな」

 

「あ、あれは仕方ないでしょ!七瀬さんが望んだ事だし、あんな近くに……立たれたら誰だって……」

 

「ゲーム内で死んだ場合はスタート地点に戻るから、城の前にいるはずなので大丈夫ですよ」

 

 ハルナの疑問にリトが同意したところで、古手川は顔を赤くして答えた。

 疑問への答えはモモが行ったが、モモが答えた事は間違いではない。

 ユウリが教室の机に用意されていたユウリ用の(・・・・・)招待状を使っていたら、ユウリのこの世界でのスタート地点は、確かに城の前の予定だったのだから。

 勇者一行用ではなく、敵キャラ用の予備の招待状を渡したナナも、プログラムには全く関わっていないため、とらぶるクエストに来たユウリのスタート地点が玉座の間だった事など、わかるはずもなかった。

 

 

 

 それとは別に、あと5分とのララの発言から、メインコントロールルームを出た者が二人(・・)いた事には、安堵していた皆は気付いていなかった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

『ちっ、認めろよ。お前もオレたちと同じで狂ってんだろ?一緒に来いよ。オレから言ってやるから』

 

「オレは、狂ってない…」

 

 嘘だ、きっと俺は狂ってる……

 だから、みんなには絶対に知られたくないと思ったのだから…

 

 

ーーー

 

 

 初めは、挨拶だと思ってたんだ。そうする事が当然なのだと。

 

 箱で育ち、言葉もしゃべれず、何をどう表現したらいいかもわからなかったオレは、まだヒトになれていなかったんだ。

 

 殴られようとも、蹴られようとも、それが自然なやり取りなんだと思っていた。

 

「ったく!殺したいスイッチ入っちゃうだろ(・・・・・・・・・・・)

「ほら、血だよ血、俺は血が見たいんだよ(・・・・・・)

「この、クソが(・・・)!」

「このガキもう動かねぇぞ、つまらないな(・・・・・・)

「死体が見たいだけなのに(・・・・・・・・)、なんで生きてんだよ」

 

 己に吐き捨てられる言葉を少しずつ覚えていく日々。

 

 痛かった。辛かった。死にかけたことも何度もある。

 でもその度に、何日後であろうがやったやつを探しだし、同じ事をやり返した。それが当然の事のように。

 オレにしてくれた事を、オレもしてあげようと思っていたから。

 そうしていくうちに、自然と苦痛を表す言葉を知り、次に謝罪の言葉を知った。 

 

 ある程度の言葉を覚えた頃に、オレと同じ目に合っている捨て子を見つけた時は、オレが代わりにやり返してあげた。

 前の世界でも、本の世界であれ、映像の世界であれ、主人公は敵にやられても諦めず、最後には必ずやり返して勝つ。もう二度とされないように。

 

 そんな事を何度も繰り返している内に、最後にそいつらが見せてくれる、絶望と後悔に塗れた顔を見るのが好きになっていた。

 だって…本で見た、映像で見た、悪役の最後と同じだったから。

 

 ヒトになれなかったオレは、それを見るたびに自分も主人公だと信じてやまなかっただけだ。

 

 

 ……やり返す事が、不可能だった、あの人に出会うまでは。

 

 

ーーー

 

 

 あぁ。そうだ、これがオレだったんだ。

 

 この世界に来て、人であった昔の自分の記憶は全て取り戻していた。

 ただ、ヒトですらなかった時の記憶は、たった今思い出した。

 

 純粋に、みんなを巻き込みたく無いって気持ちももちろんある。

 でもそれ以上に、ハンターとして狩を行なっていく内に、ヒトでは無い頃のオレに戻るかも知れないって気持ちが、意識できない心の奥底にあったのかも知れない。

 

 俺はこうなるって、わかってたんだな。

 

『やりたいようにやればいいだけだろ?何を躊躇してんだか。まぁ、そんなに嫌なら殺してやるよ…

 ーーー【栄光(えいこう)白い槍(しろ  やり)】』

 

 棒立ちの俺を、自己の中で葛藤しているように受け取ったのか、苛立ったように言うキスク。

 

 最後のセリフと共に、手に持っていたキューが、槍と盾が一体になっているような形に変わった。

 槍の先端には先程の数倍の大きさはある光球が輝いている。

 

「………」

 

 攻防一体のガンランスのようなもんか。あきらかに、絶界を警戒してるな…

 

 赤黒い結界を二つ生成し、自身の周囲をバツの字に旋回させる。近付いてくる、オレが脅威と認識したものへと襲い掛かるように自動(オート)操作のオーラも込めている。

 

『ハ!何にしろ、お前じゃオレは殺せねェよ!!』

 

「殺せない、ね」

 

 薄々予想はついていた。余裕があるのはわかるが無防備すぎた。先程消し飛ばしてやった時も、恐怖の感情は見て取れなかった。

 やっぱ、ツマラナイナ。

 

 放たれる光弾。まるで光速で突っ込んでくる自動車みたいだ。絶界で地面を消し、潜る事で躱す。足元に粘度を高めた結界を生成し、飛び跳ねたところで、狙っていたのか、空中のオレへと光弾が向かって来ているが、頭上に結界を生成し蹴り上げることで急降下して躱す。どうあっても、近づかせたく無いらしい。

 地面に降り立ちキスクを見ると、周りには先程と同じサイズの光弾がいくつも浮かんでおり、それは、今もなお数を増やしている。

 

『死ななかったら、【黒蟒楼(こくぼうろう)】に連れ帰っといてやるよ』

 

「そうか」

 

 【黒蟒楼(こくぼうろう)】か、松戸さんの目的の組織。

 一気に本拠地に乗り込むのもいいけど、今はまだ無理だ。

 

 これは、躱すのは、やりようはあるが面倒だな。それよりも、連れて帰る、ね。

 

『つっても、こいつを喰らって生きてた奴は、まだいねェんだけどな!【(せい)なる金色の旗(きんいろ  はた)】!!』

 

 一斉に光弾がオレへと向かってくる。

 それは、まるで煌めく旗のように。

 完全に飲み込まれ全身が大きな布に包まれるように絡まり、電撃が襲い続ける。

 ようやく電撃も収まり、金色の旗が消えたところで、黒コートごと体もズタボロになったオレは地面へと転がった。

 

『……死んだか?』

 

 

 流石に、キツイな。

 絶界は何度か見せたから違和感を持たれたくなかったので、【堅】の防御と旋回させていた絶界のキューブで直接的な破壊力のある電撃の塊だけを消したのだが、撃ち漏らしが多く、かなりのダメージを喰らってしまった。

 自信満々な技だけはあるな……実際、意識が飛びかけた。

 それに、用心深い。まだ近づいてこないか…

 

 仕方ない、余りしたくはなかったが、

 オレは【念】を体内で操作し、心臓を押しつぶし鼓動を止める。

 

 ぐ、ぅぅぅ………

 

 後は、オートで、オレに触れたら心臓を再圧迫するようオーラを込めて……

 

 

ーーーーーー

 

 

 どうしても気になって、元の世界に戻れるっていうのにこの玉座の間へと戻って来てしまった。

 

 そこで見たはじめの光景が、ハンターと呼ばれる黒いコートの男の人が、金色の壁に飲み込まれていくところだった。

 圧倒的な電撃、まるで旗か何かのように揺らめきながら、最後は包むように黒いコートの人を飲み込み、消えた。

 

 眩しさのあまり閉じていた目を開けると、上半身を全て隠していたコートは千切れ飛び、右肩の、お腹の、背中の傷痕。それに、今や見慣れた黒髪は露わとなっていた。

 

「………ユウリさん…?」

 

 いつか見た夢が、フラッシュバックした。

 

「イヤァァァ!!!」

 

 ダラリと転がり動く気配がない。

 駆け寄って揺さぶっても、力の入っていない、人形を揺らしている感覚。手をとっても、脈は無く、近くで見ると、目は空いてるが、瞬き一つしない。肌は何箇所か焼け焦げたようになっていた。

 死んでる……?嘘だ、死ぬはずが無い。私と、リトを守ってくれるって!約束したんだ!!

 

「嫌だ!!死んじゃ嫌だよ!起きてよユウリさん!!」

 

『死んでるか。まぁそうだろうな』

 

 不快な音がする。なんなんだこいつは、コイツが、ユウリさんを…!!

 

「お前が、お前のせいで!!」

 

『はいはい、オレが殺ったのは確かだけど、仲良く殺してやるから許してくれ』

 

 こちらへとゆっくり近づいてくる。

 私は、殺されるの?

 

 ユウリさん……

 

 ーーーえ?これは、なんだろう?

 ユウリさんを包んでいる、このオーラみたいな、もやもやしてるのは……

 

 もう一度ユウリさんの顔に手を当てると……

 

 

ーーーーーー

 

 

 来たな!

 心臓をオーラが無理やり動かし、止まっていた血液は再び動き出し、体全体に血を巡らす。

 

 これでぶち込んでや……あれ?ミカン?なんで?

 

『はいはい、オレが殺ったのは確かだけど、仲良く殺してやるから許してくれ』

 

 キスクがこちらへ歩いて来ている。

 作戦的には成功してるが……

 どうする?でも、やるしかない。ここでしくじれば恐らく逃げられる。

 頭ではわかってるのに、決断できない。オレがミカンに知られるのが怖い。

 もう会えなくなる気がする。もう名前を呼んでもらえなくなる気がする。

 それでも、コイツは今ここで消さなきゃ、ララ達が……

 困惑し、動き出せなかった俺の頬に、

 

 ミカンの手が触れた。

 

ーーーそれだけで、満たされたーーー

 

 ミカンと、リトと、ララと、みんな。頭の中に、この世界で出会った人達が浮かんでくる。

 

 オレのやり方はどうやら違ったらしいんだ。

 今まで悪かったな。俺はオレに頼ってたんだ。

 狂ったわけじゃなくて、俺の心を壊さないために、主人公なオレは俺を守ってくれてたんだよな。

 大丈夫。この世界は、こんな俺にも優しくしてくれるんだ。

 だからもう寝てていいよ。

 

 一生分の楽しみを、この四年足らずで貰えているんだ。

 だからもう、嫌われてもいい、軽蔑されてもいい。

 コイツは……俺がここで消す。

 

 心臓へと凝縮させていたオーラを体外へと出し、練り上げる。

 もう、キスクは射程に入っていた。

 

「バカが、のこのこ近づいて来たな」

 

『なっ!!』

 

 寝転がったまま、右手と左手を、空気を掴むように軽く握り、こじ開ける。

 

堕天堕悪の閨(ベリアル・ゲート)

 

 既に捉えた。電気であろうが、もう逃げられない。

 呆然としているミカンの手を優しく退けて、俺は立ち上がった。

 

『な、なんなんだコレは!?テメェ!なにを…!!』

 

 空間が裂け、その奥は、次元の歪み。

 様々な色が揺らめき、万華鏡のように無限に姿を変える出口の無い亜空間が覗いていた。

 

「殺せないなら仕方ない。今は生かしておいてやるよ。これから先は、一生一人で孤独に生き死ね。

ーーー最後に、お前の絶望に歪む顔が見せられなかった事が、残念でならないけどね」

 

『ふざけ……』

 

「………おやすみ」

 

 

 開いていた亜空間への扉を閉じた。

 

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