ーーーーーー
「……ユウリ、あなたが、カラだったんですね」
「…………ああ、そうだよ」
既にあれから5分以上が経ち、誰もいなくなったとらぶるクエストの中で、魔王城に三人だけが残っていた。
「…ミカンは、気を失っているのですか?」
それは、俺も気になっていた。
俺の頬に触れたあとから、ミカンは気を失っている。
あの時ミカンから感じたのは……オーラのように思えたのだが…
今はオーラも出ておらず、わからないが、呼吸はしており脈もある。死んでいない事はわかっていた。
「…恐らく、ね」
「……カラ、いやユウリに色々と聞きたいことがあります…」
「そう、だな。カラはもういない。カラにすらなれなかったやつとも、さっき別れたよ」
「…そうですか……あなたの目的は、何なのですか?」
まぁ、そうなるよな。俺がヤミだったら、敵か味方か知りたいしな。
「【
「…聞いた事はありますが……実在するんですか?」
やっぱり、普通は御伽話の類とでも思われてるんだな。
デビルーク王は知っていたが、やはりあのクラスまでいけば、当然か。
「実在するし、さっきのやつはそこの一員だ。俺の、というか俺の世話になってる人の目的が、黒蟒楼の本来の主に寄生してる奴を狩る事だよ。俺は話を聞いて、理由は、その人の個人的な事に関わるから言えないけど、俺も手伝う事を決めたんだ」
「たしか……星を喰い、永遠に生きるという巨大な
ヤミの赤く輝く、双眸が俺を捉える。
適当な嘘でもついてるんじゃないかと思ってるのかな?
安心しろよ。もう、嘘も隠し事もやめだ。
リトにあんだけ偉そうなこと言ったんだし、どう思われようと俺の事は全部ぶち撒ける事に決めていた。
それで、今の関係が壊れるとしても…
「俺も最初聞いた時は半信半疑だったんだけどな。そこから逃げてきた奴らとかにも話を聞いてさ……まーとはいえ居場所がわかんないから、こうしてやって来た奴を返り討ちにするしか、今のところはやりようがないんだけどね」
どうやら信じてもらえたようだ。
「……そうですか。ではもう一つ……
なぜ、言ってくれなかったんですか…?」
鋭かった眼光は弱々しく変わり俺の眼を見つめている。
「…私は、ユウリと出会って、変わったと思います。ユウリが、一人じゃなくなったって言ったんですよ…?巻き込まれるって、じゃあなんで私を、巻き込まなかったんですか…?」
「………それは、知られて、また昔に戻るのが怖かったから、かな…それに、俺の個人的なもんだしな…」
ヤミのこんな感じは初めてだ。怒ってるのか……?
最近は笑う、というか微笑むくらいであれば少しは見れるようになったし、リトや校長の魔の手に怒る事もある。だけど今のヤミの感情はそのどれとも違って、さっぱりわからなかった。
しばらく沈黙が続く……
あれ?なんかミスったのか…?
と心配していたら、全く予想だにしていなかった言葉が聞こえた。
「……ユウリ、私と、家族になりませんか?」
ーーーーーー
「………は?」
目の前にいる、呆けた顔をした男。
ミカンがメインコントロールを出ていった事に気づき後を追ったのだが、玉座の間に入ろうとした時、空間に穴が開いた。そこへと飲み込まれていくキスク。その後空間は閉じ、床に倒れているミカンを介抱し始めたユウリが座り込んだところで話しかけた。
その前の戦いが壮絶だった事を物語っており、いつもの黒コートはボロボロに朽ちていて、もはや上半身は裸同然。
フードの暗闇の奥の素顔は、なんとなく予感していた通り、見知った顔の男だった。
体は見た事は無かったのだが、いくつもの傷跡があり、特に右肩を裂かれたであろう傷と腹の穴を塞いだような傷跡が一番目を引いた。
今は地面に胡座をかいており、胡座の上にミカンを寝かせ、右側の太腿にミカンの頭を乗せて右手で優しく頭を撫でている。
左手は床へと投げ出されていて、恐らく骨でも折れているのか、二の腕が赤黒くなっており、異常な程に腫れていた。
肋骨もいくつか折れているようだし、左のスネも砕けているのか青黒く変色している。
見える肌は何箇所も火傷のように肌は爛れ、顔も数カ所爛れている、どこをどう見ても満身創痍なこの男。
あの、玉座の間を離れる前に感じた、この世の悪意を具現化したかのような禍々しいナニカを発したのも、この男だと思う。
カラにすらなれなかった、と言うのが何を意味しているかはわからないが、それが理由なのか、今はどこかスッキリした顔をしていた。
なにがユウリをそうさせていたのか、なぜ私に言ってくれなかったのか。
言葉を発した後に自分でも不思議な感覚になった。なぜそんな事を言ったのか。
正体を隠していた事に不満を?
あんな連中とやり合う事を黙っていた事に不満を?
たぶん、どちらでもない。
あんな禍々しい物を溜め込むまで相談しなかった事に不満を感じていたのかも知れない。ユウリと一緒にいたいと思ったから、思いを共有したいと思ったから、あんな言葉が出たんだろうか。
何度恋愛小説を読んでも理解できなかった、いくら想像してもわからなかった、恋愛という感情。
ユウリといれば、それがわかりそうな気がしたから。
だから、家族になりたいと思えた。
ーーーーーー
ここは、何処なんだろう?
さっきまで玉座の間にいたはずだ。
ユウリさんが殺されてしまったのだと、自分でもわけがわからないくらい頭はグチャグチャになっていたのだが、ユウリさんを包むもやもやが気になって、頬に触れたら、ここにいた。
また、ゲームの世界なのかな?
それとも、私も死んでしまったのだろうか?
周りはガラクタのゴミ山ばかりで、新しいゴミなのか、山の天辺あたりにはカラスが群がっている。体に悪そうなガスもそこかしこで発生していた。
ユウリさんが心配だったけど、最後に触れた時に、なぜか大丈夫だと確信していたので、正直、そこまでの不安は無かった。
「ガァぁぁぁぁあ!!!」
突然、叫び声がした。獣の様な、呻き声にも聞こえる。
怖いはずなのに、自然と足が向かってしまう。
「ーーーッ!」
子供…?まだ5歳にもなっていないくらいだろうか?
黒髪で、灰色の眼の焦点は合っておらず、歯を剥き出して叫ぶ口元は涎に塗れている。
そんな子供が、自身の二倍はあろうかという、いかにもガラの悪い大男に向かって飛びかかっていた。
「ぐぁぁぁぁあ!イデェェェエ!!このガキ!やめろコラァ!!」
「ク、ソガ!コロ!」
言葉を、話せないのだろうか?
カタコトでなにかを言おうとしているように思えた。
目の前の光景は、正真正銘の獣が人間に襲いかかっているようにしか見えない。
ただ、どことなくその子供に誰かの面影を感じる……
「え……?」
突如場面が変わる、灰色一色で、地面は無いのか、自分も浮かんでいる感覚。
何なのだここは……よく見たら、私の手も透けている気がする。右手には、何これ!?
「キャア!!」
右手を振り回すも取れる気配はない。少し透けており、これはいったい……さっきからずっと付いていたのかな?何も、起きないけど、
でもよく見ると、可愛い、のかな?右手を覆うモヤモヤは、丸っこくて、そこに三つ窪みがある。
顔、に見えない事もないな。
『対象にまだ触れています。続きを再生しますか?』
「え?今、喋った……?私に、話しかけてるの……?」
『対象に触れている間、その対象の体験を観る事ができる。それが私、【
ワンダー、グラフ?能力?何のことかわからないが…
これは、ユウリさんの過去ってこと?
だとしたら、黙って見るなんて悪いとは思うけど、何でこんな事になったのか、私は知りたい。
『続きを再生しますか?』
「……うん、お願い」
またも場面が変わり、さっきまでのゴミ山に帰ってきた。
やっぱり、あの子供はユウリさんだったんだ。
でも、ここはいったい何処なんだろう?少なくとも、日本にはこんな場所は無いはずだけど……
ユウリさんも、ララさんと同じく宇宙人だったの?
右手の子の顔の三つの窪みは、左から順に
【◀︎◀︎】 【▶︎】 【▶︎▶︎】
となった。ビデオと同じなのかな?試しに右の三角二つ並びを押してみると、場面が速く動き出した。左の三角二つ並びを押すと、場面が巻き戻る。真ん中の一つの三角を押すと動き出し、もう一度押すと止まった。やっぱり、操作はビデオと一緒のようだ。
さっきよりも大きくなった子供が、大人達に何度もボロボロにされても仕返しに行っている。
何度も、何度も、それを繰り返している。
怪我をしても、箱の中で眠るだけ。ゴミを食べ、また怪我をさせられて、またやり返して。
なんて生活をしているんだろう。少しづつ、言葉を話すようになり、落ちている漫画を好んで見ているようだ。
その後、まだ3歳にもなっていないであろう子供を殺した人に殴りかかっているが、一方的にやられてしまった。そしてまた這いずって箱へと帰る。それを、もう何度も繰り返してる。
もう何十回目かの挑戦で、またも地面に這いつくばり動かなくなったユウリさんを、その男性は連れ帰った。
それからは、ユウリさんは寝起きは変わらず箱のようだが、その男性に付いて回っていた。
決して、楽しそうでは無いが、人間としての振る舞いを覚えようとしているように見えた。
ユウリさんは、笑っているし、言葉も話せるようになって言った。
でも、なんだろう…全部、不自然だ。
笑っているというよりかは、口角を上げて口を開けて、声を発しているような、全部作業的だし、話す時も急に芝居染みた話し方になったり、女性のような口調になったり。
一番目についたのは、死にかけの時に笑ったり、相手を殺した時にも、笑っていた事……
ゴミ山に埋もれた漫画や、男性の小屋にあるテレビで見た事を実践しているだけなのかも知れない。見た目はもう8歳くらいにはなっただろうか。でも、中身は物心ついた子供以下のようで、やってる事は獣と同じだ。
気付いたら、私は泣いていた。
なんでユウリさんは、笑えているんだろう…こんな目に、合っていたのに。なにが、ユウリさんを変えたんだろう…
『対象が離れました。発動条件を満たしていないため【
「え?」
またも、場面が変わった。
ーーーーーー
「よかったぁー!みんな無事だよね?あの、キスクは……」
呆けていた俺の前にララが現れる。
ヤミも驚いており、さっきの答えは後で、とでも言うように顔を逸らしていた。
「あぁ。無事だよ。キスクはもちろん倒してやったぞ。だいぶやられはしたけどな。ララはどうしてここへ?」
「私だけじゃ無いよっ!」
「ユウ兄!ミカン!ヤミ!無事でよかった!!」
「みんな無事だったんですね」
「おいユウリ!心配させるなよ!」
「私のビンタで、いなくなったなんて、言われたく無かっただけだから!生きてたのなら、早く帰ってきなさいよ!」
リト、西蓮寺、ナナ、古手川が声をかけてくる。
「……その、傷は……」
「ん?」
モモだけはなぜか俺を見て震えており、
「ごめんなさい!!あなたが、私の…」
「いってぇ!!!」
抱きついてきたのだが、左手は折れてんだよ!デビルーク星人の力で来られると、流石に痛い!
「ご、ごめんなさい!………あの、私を、覚えていますか?」
「あぁ、もう握るなよ。そっち折れてんだから。あと、覚えてるよ。お互い無事でよかったな」
モモは、俺を覚えてたんだな。
「はい!私は忘れた事などありませんでしたよ!でも、あの綺麗な髪が……どうして…」
髪?あぁ、そういえば黒に戻ってるから……
「ユウ兄!ミカンは、ミカンは無事なのか?」
「あぁ。気を失ってるだけだ。大丈夫だよ」
「良かった…って、ユウ兄もボロボロじゃんか!?大丈夫なのかよ!?てか、ユウ兄がハンターで、なんで!?」
「一回落ち着け。落ち着いたら、全部説明するから。ひとまず、戻ろうか。ララ、元の世界には戻れるんだよな?」
リトが気を失ってるミカンに焦り、無事を確認すると次は混乱して俺へとまくし立てる。マジで落ち着いくれ。体も精神も割と限界なんだよ。
「うん。大丈夫だよお兄ちゃん。これで、みんな元の世界へ!」
はぁ、かなり疲れた。松戸さんと加賀見さんとも話さなきゃな。
あとは、ミカンのオーラの件も気になるし、ヤミの発言もうやむやで終わってしまったし、リトとララとモモはいろいろ聞きたそうにうずうずしてるし、古手川はなんだかよくわからんがチラチラ見てくるし、ナナは戻ったらご飯を食べに行こうと誘ってくるし、やる事はいっぱいだ。
西蓮寺だけが普通に微笑んでくれており、普通体験しないような危機的状況だったってのに。なんか癒されるな……リトが惚れるのもわかる。
慌ただしくも騒がしい、でも楽しげな空気の中、このゲーム世界に入ってきた時と同様に、光に包まれた。
この連中に囲まれて、幸せな気持ちで満たされていた。
光が落ち着く前までは……
ーーーーーー
「戻れたのは良いけど、何でこんなところなんですのぉーーーっ!!!」
光が無くなると、そこはジャングルだった。
「校長がワニに!!」
最初に聞こえたのは、天条院の声か、次のは取り巻きの九条凛、だったかな?
【円】を展開し、側にはやはりもう一人の取り巻きである眼鏡をかけた藤崎綾とルンも確認できた。
あと、九条凛の発言の通り、確かに校長がワニに食われているが、たった今ワニにすらペッと吐き出されたようだ。あの人って、実際何者なんだろう?
「あ、リトくんのお兄さんも、ララのせいでここに!?」
「まぁ、そうみたいだな。ルン、そこの開けたところにいろ。変に森に入る方が危ないから」
「え、あ、はいっ!!」
森にはかなりの動物がおり、毒性のありそうな蛇とクモは確認できたからな。あんまり逃げ回られた方が守りづらい。
俺の服装も体もボロボロのままだ。
【円】の範囲に入っているのは永遠にジャングル。ただ、近くに川があり、そっから辿れば村くらいあるか。
魔王城にいた敵メンツだけジャングルに返すって、何の嫌がらせだよ、まったく。
「キャ、キャァァーーーーッ!!」
「「沙姫様っ!!」」
校長を吐き捨てたワニが天条院に食らいつこうと大口を開けている。
取り巻き二人の悲痛な声に、ルンも目を伏せるが、
「ふっ!」
右足で結界を踏み抜き飛ぶ。
そのまま開いたワニの上顎を掴んでさらに飛ぶ。
ワニは後方宙返りをしたように飛び、そのまま川へと投げ込んだ。
「ほら、もう大丈夫だ」
尻餅を付いている天条院の腕を取り立たせた。
が、なんか顔が赤く無いか?恐怖のあまり、かな。
「わ、私のために、そんなボロボロになってまで……」
「え?いや、これは違くて…というか、三人もルンと同じところにいろ。バラバラになられると、守れない」
「ーーーキュン♡」
天条院の様子がおかしい気がする……
そんな事はお構いなしに怒り狂ったワニと、その仲間たちまでもがこちらへと戻ってきた。
「さ、流石にこれは……」
九条凛が前に出て構えを取ってるが、何か武術の経験でもあるのかな?
まぁ、さっきまでの相手と比べたら、なんとも無いレベルだから大丈夫。オーラを放出し、ワニたちを覆う。
「オイ。来るなら殺すぞ…」
野生の動物なら、これだけ殺気を込めたオーラで脅せば……
ーーー案の定、みんな逃げていった。
「な、ワニたちが逃げていく…?」
「す、すごい…」
藤崎綾とルンが逃げていくワニ達をみて呟いたところで、またも体が光に包まれる。よく見ると周りのみんなも包まれていた。
はぁ。これで、無事に帰れたら良いんだが。
……流石に今度こそ帰れるよな?