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まだ日も出ていない夜明け前、松戸探偵事務所のソファーで、室内なのにコートを着た小柄な老人である松戸と、ソファーに座らず、近くの椅子に腰掛けている加賀見さんへと報告に来ていた。
「……というわけで、一匹狩りました。昨日はそのまま医者に行ってたんで遅くなってすみません」
「いや、構わないよ。それにしても、
「そうなんですか?っても、見ての通り俺も相当やられたんで幹部じゃないとしたら結構ヤバイ組織だとは思いましたけど」
「あぁ、やつらの幹部には名前に色が入るらしい。こいつは黄色だ。そして、君の狙いは黒だったんだろう?」
「………へぇーそうなんすね。ちなみに、幹部は何人いるかわかってるんですか?」
「僕が調べた範囲だと、碧と銀と黄がいたが、黄色はもういない。わかるだけだと、君の狙いと僕の狙いを入れても、4人以下という事はないね」
「なるほど。まぁ、俺がやったのは斥候みたいなもんでしょう。電脳世界の住人のようだったんで、移動速度はまさに化物でしたし」
「そうだな。銀は戦闘部隊、碧は情報部隊な事は分かっている。あとは、数人の幹部ぐらいはいるだろうとは見てるよ」
「なるほど。一匹やっちゃったんで、地球へ来ますかね?」
「いや、仮に幹部は来ても、本命はここには来ないだろう」
「……わかるんですか?」
「勘だよ」
「勘ですか…ま、頼りにしときます」
「それより、その傷治そうか?」
「いや、遠慮しときます。操作は流石にされたくないんで」
「クッ。そんな事今更する気はないよ。それに【念】は使わない。加賀見くんの血は使うがね」
まぁ、本当だろうな。二人ともオーラに揺らぎはなかった。
契約もあるが、それ以上に念能力に目覚めてくれたおかげで腹の読み合いはかなり楽になった。
相当経験を積まなければ、感情と精神に作用するオーラの揺らぎを一定に留めるのは難しい。もちろん揺らぎはわずかだが、日陰者として生きていた俺はそういった部分を見抜く事には慣れている。
お互いに信用はしているが、信頼はまだできない。俺とこの二人の関係はそんな感じだ。
「なら、お願いしようかな」
「では七瀬さん、傷口を見せてください。治すといっても、回復を早くするだけですが」
「それで十分ですよ。ここでいいですか?」
顔の左頬に貼られたガーゼをとる。火傷の後なので、ベリベリと新しくできかけていた皮膚も一緒に剥がれ、血が滲み出てきているのがわかるが仕方ない。
そこに直接加賀見さんの指が触れ、少し押し込まれる。オーラを解いてるので普通に痛いし、体内に何かが入ってくる気持ち悪い感覚がする。
「……これで、俺の行動も筒抜けっすか?」
「そうだね。加賀見くんの一部が君の中にいるのだから」
「真弓は喜んでますよ」
血液が喜ぶって表現はよくわからないが、少し微笑んで言う加賀見さんにしかわからないものがあるんだろう。
普段ならミステリアスなクール美人の微笑みなんて絵になるが、俺からすると頬の傷口に指を軽く突っ込まれながらなんで、かなり恐怖だな……
「ま、もともと見られてるんだし今更気にしないですよ」
「電脳世界は盲点だったからね」
「ええ、流石に見る事はできませんでした。でもこれで、大まかな位置はわかりますよ。……あと、四六時中見てるわけではないですから安心してくださいね」
なるほどな。まぁ逆に俺が異次元に閉じ込められた時の脱出方法の一つにはなる可能性はあるし、メリットにもなるか。
最後のは妙な含みを感じるが……ミカンとの事言ってるのか?
「あ、最後にひとつあるんですけど、最悪の場合は金色の闇に依頼かけてもいいですか?」
「………理由は?」
オーラが揺らいでるな。眼鏡の奥に見える目も鋭さが増す。まぁ隠す気はないか。
「時と場合によりますけど、今回クラスのやつが複数で来た場合キツいのと、その傀儡軍団の数が気になってます。お二人の能力もあるとは思いますが、俺の予想は一対一での即殺狙いの能力か、
能力の予想を言ったところでもオーラが揺らぐ。まぁそうだよな。目的は知ってるんだ。予想は立てやすい。
「なるほど、だが彼女が僕の元へと割り込む可能性は?」
「ないっすね。本命潰すときは出向きますよね?あくまでも地球が戦場の場合のみです。仮に地球が戦場になったとしても、周りの雑魚の掃除はアイツが適任ですよ。その場合は俺の周りの警護依頼をかけますが。あと、変にほっとく方が割り込んでくる可能性が高いんで、依頼としてターゲットを指定した方が早いです」
「………手綱は、握っておいてくれよ」
「もちろん。彼女も俺の近しい人間なので。間違っても、手は出さないでくださいね?」
「……あぁ」
「まぁ依頼する事は無いとは思うんですけどね。じゃあ、これで失礼しますね」
ほぼほぼ本音だ。最近のヤミの行動は読めない。今回の場合は相性が悪く初めは引いたが、ミカンがいたとはいえ勝てないであろう相手がいる場に戻ってきたのは普通に考えるとありえないからな。今はあいつも損得無しに動く可能性があるし動きが読めない分、ある程度の手綱を握りたいのは俺も同じ。
あとは、俺も予想しない状況で乱入してきた時の松戸さんへの牽制目的がほとんどなので依頼をするつもりなど、最初から無い。
そういえば、ヤミとも話さないとだな……
事務所から出ると、太陽がまもなく昇りきるところだった。
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「ヤミ」
「……ユウリ」
日が完全に出てくる前、空が青一色になる直前。
ビルの屋上の端に座っていた私の元に、空から男が舞い降りてきた。
黒いコート姿だが、フードは背中へと垂れていて、いつも口元まで覆っていたジッパーは鎖骨まで降ろしており、いつも暗闇に隠れていた顔は、見慣れた、焦がれた男の顔。
この感情は、わからない。
なぜ、顔を見ただけで、会っただけでこんな気持ちになるのだろう?
これが、恋愛という感情なのだろうか?
やはり、私にはまだ理解できない。
「……傷は、もう癒えたのですか?」
「いや、顔見ろよ。まだボコボコだろ?」
そう言いながら、私の隣に腰掛けて額に貼ってあるガーゼを指さしている。左の頬には、火傷で爛れた皮膚の下に真新しい傷のようなものも見える。
ただ、顔の事を言っているのではない。
左腕と左足、地球人レベルであれば平気でいられるはずは無いと思うのだが……
「ん?あぁ。腕と足は、俺の能力で固定してるから平気だよ。まだ治ったわけじゃないけどな」
私の視線に気がついたようで、プラプラと左足をバタつかせて見せる。
「…そうですか」
「とりあえず、たい焼きでも食う?」
「……いただきます」
ミカンと、ユウリと初めて公園で出会った時と同じセリフ。
紙袋に入ったたい焼きと、ご丁寧にあたたかい茶まで用意していた。
二人で朝日を見ながら、話すことなくたい焼きを食べる。
何をしにきたのだろう?あの時の返事を言いに来たのではないのだろうか?
「なぁヤミにも言っときたい事があって、実は俺さ、ーーー」
紙袋に4つ入っていたたい焼きの二つ目を食べ終わったところでユウリが話し出した。ユウリはひとつ目を食べ終えたところで、まだ袋にはひとつ残っている
話されたのは、ユウリの昔話。
いや、ユウリのではないな。カラと、カラになるまでの話。
話を聞いて、地球人離れした強さは理解できた。それと、カラでの人生と、その意味も。そして、結城リトとミカンとの絆も……
「カラは、私と似てますね」
「いや、全然似てねーよ。俺はバカだから、死ぬちょい前に気付いたからな。ヤミは、まだまだこれからだろ?」
まだまだこれから、と言うのはわからないが、確かに私は死ぬつもりはない。空はすっかり青くなり、太陽は完全に顔を出している。この寒がりの男は少し風が吹いたためか、ゴソゴソとジッパーをアゴまで上げていた。
「だからさ、結局家族ってのは、俺にもわかんないんだ」
これが、あの時の返事か。
私とは、家族になれない。
お互い知らないもの同士が傷の舐め合いのように家族ごっこをするのは、嫌だと言う事だろうか。
それとも、結城リトとミカンがいる中に、私は入れないと言う事だろうか。
ここにユウリが舞い降りてきた時のあたたかい気持ちは消えて、残り一つのたい焼きと同じようにどんどん冷めていっている。
「……だからさ、俺と一緒に住まないか?」
そう言ってこちらを見るユウリの灰色の瞳が、私を捉えたように離さない。
確かに、私とは違う。似てなどいなかった。私には、他人にこんな感情を抱かせる事は、きっとできない……
でも、
「嫌か?お互い知らないもの同士、家族ってのを体験してみないか?」
そこまで言わなくても、答えは決まっていたのに…
「……まぁ、ユウリがそこまで言うのなら、仕方ないですね…」
「おい、ずるいぞ!言い出しっぺはヤミだろ!」
なにやら騒ぐユウリを無視して私は最後のひとつのたい焼きをとりかじりつく。
「あ、それは俺の最後の………ん?顔赤くないか?もしかして照れてんのか?」
ニヤニヤと笑って私を見てくる。
意外と意地が悪い……
「…違います…たい焼きが熱いからです…」
すっかり冷めたはずのたい焼きを、思ったよりもあたたかく感じたのは、私の顔が熱いせいでは無いはず……
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ヤミと一緒に住む話をした後。
二人で俺の家に行き、空いてる部屋を掃除して合鍵を渡したので、ヤミは今の住居である、宇宙船ルナティーク号から荷物を移すと言って出て行った。
邪魔になってもと思い、その後俺は学校に向かっていた。
あと一ヶ月も経たないうちに卒業だ。この道を通る事ももうほとんど無くなるんだなと、少し感傷に浸りながら歩く。
思えばリトが高校に入った夏、ララが現れてからはトラブルの連続だ。
うさんくさい御伽話がどんどんと現実を帯びていき、その幹部を倒し、過去の自分との決別も果たした。
「……さむ」
二月の冷たい風が吹き、肌寒さからマフラーを鼻まで上げてもそもそと歩いていると、前方に初々しいカップルにも見える二人が歩いているのが見えた。急に二人同時に顔を見合わせて立ち止まる。その後すぐに男の方はバタバタと手を振って焦った様子だが……何してんだあいつは?
「……今日は晴れらしいぜ!」
「見りゃわかるだろ。なに言ってんの?」
「あ、七瀬先輩。おはようございます」
思わずつっこんだところで、赤いラインの入ったピンク色のマフラーをした西蓮寺が振り向いて挨拶をしてくれた。
「おはよ西蓮寺。リトは、どうかしたのか?」
「な、なんでもない!」
なんだかソワソワしてるが、もしかして告白したかったのか、な?
そう思った時に、やってしまったと後悔した。
「二人の邪魔して悪かったな。じゃ、俺は寒いからコーヒー飲んで行くわ」
「え、学校には行かないんですか?」
「二人の邪魔って…!!」
「いーんだよ今更。逮捕とかされない限りは卒業できるんだから。西蓮寺、リトがおかしな事言ってるからよろしくなー」
「よ、よろしくって……」
申し訳ないことしたなと反省しつつ、路地を曲がり、自販機でホットコーヒーを買った。
少し、時間潰して行くか。
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「ったく、ユウ兄はほんと自由だよなー」
「ふふっ。ああゆう思った事を実践できるところはララさんにも似てるよね。もちろん結城くんにも、ミカンちゃんにも似てるけど」
七瀬先輩が急に現れて、急に去っていった後から、結城くんとは普通に話せている。でも、よろしくって言った後のあの笑い顔は、少し悪戯っぽくニヤけていたようにも見えた。
「確かに…俺には似てないと思うけど、ララに似てる。やっぱ宇宙人と異世界人だと共通するものがあるのかな?」
「そんな事ないと思うよ。宇宙も異世界も関係ないよ。あの二人の、持って生まれたものじゃないかな?」
結城くんにも似てるよ。優しいところも、頼れるところも。
私は声には出さないけど、そう思ってる。
「そっか。そうだよな。そんな事で括れないよな」
七瀬先輩が異世界から来た人だって話はさっき聞いた。
でも、私はそんな事は気にしていない。
確かに、ゲームの時は怖かったけど、私達を守るために出てきてくれたんだし、あのララさんのお父さんの時もそう。
きっと、私たちと変わりなんてないんだと思っていた。
そうして、結城くんとお話ししていたら、渡したいものを渡さないままに、いつのまにか学校へと着いてしまっていた。
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学校に来たはいいものの、なんかうるせーな。
走り回る音と、ギャーギャーと喧しい騒ぎ声がする。
でも、なんか様子が変だな?
またララの発明か、宇宙人が悪さしてるのか?後者であれば、危険な事もありうるか。
即座に【円】を展開し、学校を覆えるだけ覆うが、男が女を追いかけ回したり、その逆だったり、同じ性別同士でもしている。あと、普通に抱き合ったりもしてる。なんだこのカオスな状況は……
【円】の範囲を少し変えると、体育倉庫に座り込む西蓮寺が確認できた。
あの子、前もここに捕まってたな……
内心で思いながら体育倉庫へと駆け、扉を開けると、
上気したように赤い頬、潤んだ瞳、指を少しくわえる仕草もあってか、やけに色っぽい西蓮寺がいる。地面に座り込み、少し開いた股の隙間からは下着がわずかに見えていた。
「結城くん……結城くん、好き……ガマン…できない…!」
ーーーは?
色んな事が頭を駆け巡っていたのだが、とんでもない事を口走ったので正気に戻る。そして西蓮寺はそのまま走って出ていった。
なにこれ?全くわからん。もしかして俺が知らないだけで、地球人には十年に一度くらいの発情期でもあるのか…?
もういいや。【円】で確認しても、命に関わりそうな事はおきてないし、もうほっとこう……
そうして、俺は考えのをやめた。
ーーー
教室への道中、何人かに迫られるものの【隠】を使った不可視の結界で壁を作り寄せ付けない。
集団催眠かと思いつつ歩くと、どっかで見たことあるような巻き髪が……
「沙姫様、先程ララからもらったチョコはお食べになったのですか?」
「まさか!あんなものとっくにその辺にいた校長にあげてしまいましたわ。凛、綾、あなたたちもさっさと捨ててしまいなさい」
「……はい」
天条院たち三人組か。どうやらまともなようだな……
というか、ララのチョコってのが引っかかる。
「あ、あなたは……!!」
「どうやら三人はまともみたいだな。今なにが起きてんのかわかるか?」
今まですれ違った奴とは違い、まともな会話をしていたので一応聞いてみた。
「あ、あの…あなたは…」
「天条院くん〜〜〜〜♡好き好き〜〜〜♡」
何か言おうとする天条院に、突如現れたパンツ一丁の校長が抱きつく。が、二人が元々こうゆう関係なのかは知らないのでとりあえず放置してみるが……
「な、この方の前で、離してください!!それになんで裸なんですのぉ〜!?」
あぁ、嫌がってるのか。
じゃあ校長引っ剥がすか。
「流石に犯罪っすよ。こーちょー?」
抱きつく校長と天条院の間に右腕を差し込み結界を生成。さらに結界のサイズをどんどんと大きくしていき無理やり引き剥がし、さらに不可視の結界で軽く押しつぶし動けないようにする。
「三人とも逃げたほうがいいぞ。今校内はこんな奴らばっかりだ」
二人の取り巻きの方を向き、声をかけるが、いまだにボーゼンとしている。倒れている天条院の腰を持ち、無理やり立たせると二人はようやく動き出した。
「すまない!」「あ、ありがとうございます!」
二人とも天条院を受け取ってくれたのはいいが、天条院はなぜか動かない。
「あ、あの……あなたがなぜ、学校に…?」
「俺?それは……ん?」
「て、天条院、くーん……♡」
「ひっ!!?」
ゾンビ化したような校長が、たいして力は込めていなかったとはいえ俺の結界を持ち上げながらも起き上がる。
ほんと、何者なんだこの人?
「一応、後輩だしな……」
リトとララもパーティーやらなんやらで世話になってるし、助けてやるか。結界を解き、校長の腕を掴んで一緒に窓から飛び降りる。着地前に結界を生成。そのまま結界を経由して地面に着地。そして校長を地面に転がるように放り投げる。
随分と面倒な事になってるし、教室へ行くのも面倒に感じたところで、そういえば昨日からほぼ寝ていない事を思い出した。
騒ぎが落ち着くまで、旧校舎で寝てよ……
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「ふーん。まぁ、ララのせいってかそれはミカド先生のせいだな」
「そーだよー私だってリサミオに追いかけまわされたんだから」
帰り道、リトとララに出会って三人で帰る。
あれから旧校舎に用意してある寝床で寝ていたのだが、結局学校終わりまで寝ていた。おかげでかなりスッキリした。
そこで今日起きていた事の顛末をリトから聞いたのだが、ララが手作りチョコを片っ端から配ったようで、それにはミカド先生のレシピ通りだったそうな。
というか話を聞いて思い出したけど、今日バレンタインデーだったんだな。
「でも効果時間短くて良かったな。俺は地球人特有の発情期でもあるのかと思ったぞ」
「そんなのないよ!俺だって大変だったんだから…」
「へぇー、それって、西蓮寺絡みかなぁ?」
「な、なんで!?西蓮寺が関係あるんだよ!!?」
あの後どうなったのか、今更思い出して気になったので弄ってみると、案の定顔を真っ赤にして慌てふためいていた。
西蓮寺のあの様子だと本当に何か起きてないかとも思ったが、この初々しさでは一線は超えてなさそうだ。
「別に、試しに言ってみただけだよ。じゃ、俺はここで。またな」
「あ、待って!お兄ちゃんにもチョコ作ったんだよ!はい、チョコ」
そう言って渡されるがさっきの話を聞いた直後だから、なんか抵抗があるな。それを悟られたのか、ララが続けて話し出す。
「これはお兄ちゃん用の特製だから大丈夫だよー!あとねーこれはリサミオからで、これはハルナからで、これは誰だったかな?渡してって言ってたやつで…」
めっちゃ出てきたけど、義理ばっかり。まぁ、悪い気はしないので快く全部受け取る。
「そうか。ありがとなララ。リトも気をつけて帰れよ」
そうしてリトとララと別れ、一人家に帰った。
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「ただいまー」
「…おかえりなさい」
「ん、ただいま」
「ユウリさん、おかえりなさい」
「あ、ミカンも来てたのか。ただいま」
ヤミさんから、ユウリさんと住むって聞いた時は衝撃だった。
なんでもユウリさんからどうしてもと言われ仕方なくとヤミさんは言っていたが…
きっと違うんだろうとは思っている。
あの時のヤミさんは私に目線を合わせないし、なにかを隠している気がしたから。
「ユウリさん、なんでそんなにヤミさんと一緒に住みたかったんですか?」
「え?なにそれ?あ、ヤミまた俺のせいにしたろ。ヤミが言い出しっぺだよ。家族を知らなかった者同士、勉強してみるかって感じかな」
「………」
やっぱり。
友達であり、今日からライバルになってしまった。
少し顔を赤らめてそっぽを向く友達を見て思う。
「それより、なんでミカンが?」
「ヤミさんの引越を手伝ってたんですよ」
そう。学校終わりに突然現れて、ユウリさんと住む事になったと言われ、普通の部屋には何がいるのかを聞かれた事から始まった。
「お、じゃあ部屋できたのか?見てもいい?」
ヤミさんの部屋、実は椅子くらいしかない。
寝る時も横になる必要はないって言ってまだ衣類くらいしかなかった。
そのままユウリさんは部屋を見たあと、リビングへ戻ってきて、
「なんもないじゃん?」
まぁ、そう思うよね。
その後、ベッドや机などの家具をユウリさんの読書部屋の本を三人で見ながら、といってもほぼ私が決めながらまた三人で買いに行く約束をする。
そろそろ、夕飯を作りに戻らないとな時間。
まだ渡したいものも渡せていない。タイミングを計りすぎたかな…
「ユウリ、その紙袋はなんなんですか?」
ユウリさんが帰ってきた時にリビングへと置いていた紙袋を指差してヤミさんは言う。
「ん、チョコだよ。全部義理で、しかもララからもらったんだよ」
そう言ってカラカラと笑うユウリさん。
「ミカンは帰らなくて大丈夫か?」
むぅ。やっぱり、意外ともらってるし、いくつか本命っぽいのも見受けられる。でも時間も無いし、ここしか無いな。
「私も、チョコレート作ったんです。どうぞユウリさん」
「うん。ありがとなミカン」
ユウリさんが来た初年度以降は毎年あげていたので、普通に受け取ってくれた。だから、念をおしておこっと。
「それじゃあ、私は夕飯作らなきゃなので帰りますね。それじゃあまた。ユウリさん、ヤミさん。
ちなみに、私のは義理じゃないですよ」
「え、?」
そう言って、私は玄関から出ていった。