Troubる   作:eeeeeeeei

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二十四話 三巴×狼煙

ーーーーーー

 

 

 綺麗に片付いた、と言うよりかはシンプルな部屋。

 四人掛けの少し小さめのダイニングテーブル、二人掛けのソファーとその前にガラスのローテーブル。窓際には観葉植物が置いてあり、あとはテレビ台の上に乗ったテレビがあるだけのリビング。

 ユウリがこの家に住み始めた頃から何度も本を読みに来ていた。

 その時から、特に何も変わっていない家。

 変わったのは、空き部屋だった何も無い部屋の主人が私になった事。

 

 私は、ミカンに選んでもらった緑色の少し大きめなパジャマを着ている。夕食も終え、すでに入浴も済ませてリビングでテレビを見るでもなく、眺めていた。

 

「ほれ、コーヒー。甘めにはしといたぞ」

 

「………」

 

 ユウリも既にお風呂から出ており、湯気が立ち昇るマグカップを二つ持ってキッチンから歩いてきた。

 あれから数日程しか経っていないのに、顔の傷はすでに少し痕を残すだけで、ほとんど治っており、折れた手足や肋骨の腫れもないので、見た目は健康体にしか見えなかった。

 

「いらなかったか?紅茶は昨日きらしたんだよな…明日買っとくな」

 

「いえ…いただきますよ」

 

 私が何も言わなかったので不要だと思われてしまった。

 そうして笑顔で差し出されたマグカップを受け取って、口をつける。

 確かに、口当たりはわずかに甘い。後から来る苦味もそこまで強いものではなく、香りもいいし、おいしい。なによりも、あたたかかった。

 

「…あたたかい」

 

「寒いからなー。体の芯からあったまる感じするよな」

 

「…えぇ。そうですね」

 

 あたたかい。もちろんこのコーヒーもそうだが、なによりも心があたたかかった。

 私がここに住むようになってまだ数日しか経ってはいないが、ユウリは、いつも優しい。

 食事を振る舞い、家事をこなして、こうして団欒の場を作る。

 

 でも、私は何もしていない…すべて与えてもらうだけで…

 ただ、何をすればいいのかもわからない。

 

 カラの時の話を聞き、ユウリの両手も過去に血に塗れている事を知った。

 ユウリは、命を奪う事を罪だと呼んでいた。

 ならば私たちは二人とも背負いきれぬ程の罪を抱えているだろう。少しずつ降ろせばいいと、私には、兵器として生きるなと言う。

 

 ではなぜ、カラではなくなったユウリは未だに戦場に身を置く?

 

 そんな事を思っていたところで、ユウリが立ち上がった。

 そろそろ、いつもの台詞を言うのだろう。

 

「じゃあ俺はそろそろ寝るな。おやすみ。ヤミ」

 

「えぇ、おやすみなさい。ユウリ」

 

 一人では決してすることの無かったおやすみとおはようの挨拶をする事が、日課となっていた。

 

 

 おやすみ、といいつつもまた……ユウリの部屋から微かにだが、力強い、エネルギーの高まりのようなものを感じる。

 ユウリの能力、体から発するオーラを使った力で、色々と行なっているとは言っていたが、正直よくわからない。

 ただ、この修行というのもユウリは日課のように行なっている。

 欠かさない事も大事らしく、ユウリの部屋では何が起きてても修行だから気にするなと言われているので、放っておいてはいる。

 以前の、ハンターとしてのユウリと戦った時とは比べ物にならないくらいユウリは強くなっている。あの時は、正直続けていれば私がハンターを斬り殺していただろう。

 

 でももし、今度戦う事があればどうなるかはわからない……

 

 そんな事……ありもしない事だと考える事をやめ、私も部屋に戻り眠る事にした。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 街の明かりも消え、あたりは夜の闇に完全に包まれている。

 そんな深夜の暗闇の部屋に、愛しい人の寝室へとワープで移動する。

 ただ、このワープ装置は衣類ごとワープすることができないため、私は全裸だ。

 でも、この人の前では恥ずかしさよりも、喜びが圧倒的に勝っていた。

 

「ふふふ♡ユウリさんが、いけないんですよ……」

 

 あの日から、ずっとあなたを思っていた。

 誘拐によって地球に来たことすらあなたと出会う為に起きた事だとすら感じる。

 もう、随分と待った。待ち焦がれた。

 勘違いはありましたけど、やっぱりあなたは私が思っていた通りの人。

 私は眼下に眠る、想い続けていた愛しのユウリさんに跨り、シャツのボタンを全て外した。

 あらわになった胸に軽く口づけをして、舌を這わせる。

 

「ちゅ…っ…ちゅっ…」

 

 部屋に着いたと同時に散布した、この子の花粉のおかげで今も眠り続けているユウリさん。

 

ーーーキレイな寝顔。

 初めて見た日から思い描いていた白く金色にも輝く髪は、艶のある黒髪へと変わっていた。でも、今は閉じられているが、彼の灰色の瞳は黒髪の今の方が映える。黒い髪もお似合いですよ♪

 その前髪を指でとき、おでこに口をつける。そして左頬へ。

 このキレイな顔は、数日前までボロボロだったのに、今は少し痕を残す程度まで回復していた。でも、このお顔に痕など残らないように、私は毒素を吸い出すように何度も口付けをする。

 

「ん…ちゅる…はぁ…」

 

 そして鍛えられた、一度力を込めれば鋼にもなるだろうが、今は柔らかい胸に顔を埋めて深呼吸。

 

「ん〜〜♡」

 

 胸からお腹へ、また胸に、そして肩へと、私を守ってくれた際に出来た傷に舌を這わせる。私の傷、私のためにできた傷。だから私が癒してあげますね。

 

 耳のそばに口づけをすると躰が少し震えているのがわかった。

 フフッ♫

 感度の良かった耳を舐め、耳たぶを軽く口に含む。

 

「…ん…はむっ…♡」

 

 そのまま私の手はどんどんと下の方へと行き………あ…ここが、お好きなんですか♡

 

 でも、こんなにも私が想っているのに……ユウリさんが、悪いんですよ。私の…私の方が、ミカンさんよりも…ヤミさんよりも…もっと、ずっと早くユウリさんと出会い、こんなにも想っているのに…

 

 なんで他の方なんかと…!!

 

「……っ!!」

 

 いけないいけない、今日はここまでですね。ユウリさん♡

 

 お姉様とリトさんが婚約してしまえば、私たちは、この先ずっと二人きりで生きていけるんですよ。

 それとも、このまま二人でどこか遠い星へと逃げてしまうのも、いいかもしれませんね♪

 

 

 そうして私は、この部屋から消えた。

 

 

ーーーーーー

 

 

ーーーバンッ!!

 

 勢いよく扉を開け、この部屋の主人の名を呼ぶ。

 

「ユウリ……!」

 

 飛び込んだ部屋からは、先程までは微かに気配がしていた。殺気のような、怒気も感じたが……今は全くしない。

 今までしてなかっただけでユウリの修行の一環なのかはわからないが…

 

 部屋に入ると妙な匂いが充満しているのがわかる。眠くなるような、意識が少し薄れてくる。

 

「………どうやら無事のようですね」

 

 ユウリの髪を撫で、顔を見るが、ただ眠っているだけのようだ。

 規則正しく胸は上下しているが、着ていた服ははだけ、上半身はあらわになっており、下半身は……っ!!!!

 

「……どんな夢見てるんですか…あなたは…」

 

 ユウリの下半身を視界におさめて、見ているかもしれない夢を想像してしまったため少し妙な気分になる。

 この匂いのせいか、寒いが仕方ない。換気のために窓を開けてユウリのベッドに腰掛ける。

 

 この匂いのせいか、無事を確認し安心したためか、気付かぬうちに私も意識を手放していた。

 

 

ーーー

 

 

 誰もいない、一人きりの暗闇の中で、金色の髪に黒い衣装の少女が泣いている。

 寂しさのせいか、虚しさのせいか、誰もいないその場にしゃがみ込み、涙を流して嗚咽を溢している。

 不意に、一陣の風が吹き、少女が顔を上げると、

 

 其処には黒い衣装に包まれた男。顔は無く、永遠に続いていそうな程の暗闇。男は振り返り少女に背を向けると、前には大量の暴徒が蠢いていた。

 

 男は少女に背を向けたまま、獣のような咆哮をあげて暴徒の群れへと向かい次々と殺戮の限りを尽くし始めた。

 

 ボンテージに身を包んだ宇宙人の女の細首を握りつぶし、体からこぼれ落ちたその女の頭はボールのように地面を跳ねている。

 

 スーツを着た男性の四肢を切り飛ばし、その男性だったものは達磨のように地面でコロコロと揺れている。

 

 そのまま暴徒の群れの中心へと飛び込むと、群がるもの達の体を手刀で千切り、眼球を指でくりぬき、拳で腹に穴を開け、どんどんと死体の山を築いていく。

 

 ただ、聞こえる獣の咆哮は、寂しそうにも聞こえた。

 

 泣いていた少女である、昔の私が振り返ると、そこにはみんながいた。

 地球に来てできた、初めての友達。友達の兄であり、私の標的(ターゲット)。デビルーク星の王女たち。結城家の住民を中心とした面々が、怯え、震え、しゃがみ込んでいる。

 だがそこに、なぜか一人だけ、見知った顔の男がいない。

 

 そう思い、振り向いていた顔を戻すと、いつのまにか、殺戮を行なっていた獣の頭部を覆っていた暗闇は晴れていた。

 ようやく見えたその男の顔は、先程いないと思っていた一人の男。

 その顔を歪ませ、涙を零しながらも殺戮を続けている男。

 

 その男へと、みんなは恐怖しているのだろうか。

 胸が、痛くなる。

 男が殺している者たちは、過去私が殺した者たちだ。

 

 あの男は優しいから、私の代わりにやってくれているだけなんだ。

 大事な人の為に、自らを傷つける事をかえりみない男なんだ。

 永遠の暗闇にも思えたかもしれないが、その男の本質は、私の闇を照らすほど、眩しい光なんだ。

 

 もういい。

 私も手伝うから…

 この手は既に血に染まり、汚れている。私もあなたと同じなんだ。

 私は立ち上がり、その男の背に抱きつき、名前を呼ぶ……

 

「…もう、一人で背負わなくていいんですよ……ユウリ」

 

 私の罪と、カラの罪。

 どちらが重いかなどわからない。

 二人で背負いましょう。今は、家族なんですから…

 

 

ーーーコンコンーーー

 

 

 突如二度鳴った音で目を開けると、そこには先程まで夢で抱きついていた男の顔が眼前にあり、私はユウリに包まれるように抱きしめられている。そして私の手も、男の背へと巻きついている。

 つまり、抱き合っていた。

 

 

「……$#○*€☆♪〆°?」

 

 誰かに声をかけられたような、でもわからない。

 声のような音が聞こえた方を向くと、目があった。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ーーーヤミが夢から醒める少し前。

 

 今日は土曜日で学校はお休み。

 前々から約束していた、ヤミさんと買い物に行く為、ユウリさんの家へと向かう。

 

 いつものようにチャイムを鳴らすこともなく、合鍵を使ってマンションへと入る。

 この部屋の鍵を持っているのは、家主であるユウリさんと、私。それと、最近この家の住民になったヤミさんの三人だけ。

 

 

「ヤミさん、来ましたよー?」

 

 玄関を開けて家に入るが、どうやらまだどちらも起きていないらしい。

 玄関から見えるリビングの扉のガラスからは光が漏れておらず、カーテンも閉めているのか暗いままだった。

 

 めずらしいな……

 

 もともとユウリさんの朝は早い。

 家事をこなしていた事もあり、結城家では誰よりも遅く寝て、誰よりも早く起きる事の方が多かった。

 

 昨日は、仕事ないって言ってから起きてると思ったんだけどな。

 

 ヤミさんの部屋には、誰もいない……

 もしかして、と思いながら、ユウリさんの寝室をノックして扉をゆっくりと開けると………

 

 

 

 

「………なに、してるんですか?」

 

 抱き合って眠る二人。

 いや、ヤミさんは起きている。なぜなら目があったからだ。

 だが、私の問いには答えない。

 まだ寝起きではっきりと目が覚めていないからか、ヤミさんも予期せぬ事態だったからかはわからないが、ただただ呆然としている。

 

「なに、してるんですか?」

 

 もう一度問う。

 

「ミ、ミカン……これは違うんです…!」

 

 ようやく覚醒したのか、飛び起きて私へと昨日の出来事を語り始めるヤミさん。

 

 殺気を感じてこの部屋へ、妙な匂いがして、急な眠気に襲われて、換気のために窓を開けた為おそらくユウリさんが寒くて抱きついてきた、と。

 

 

ーーーふーん。

 家族って、そういう意味でヤミさんは言ってたんですかね?

 いまだに寝ている家主は置いておいて、

 ちょっと、詳しくお話ししましょう。ヤミさんーーー

 

 

ーーーーーー

 

 

 黒に覆われた、闇の住民たちの世界。

 そこで、日本にある城のような建物が並ぶ、まるで江戸時代の城下町のような場所。

 その中でも最も大きな城の天守閣。

 そこで、城下を見下ろすように、黒髪の男が柵へと寄りかかっていた。

 

「ま、死んだんじゃない?アイツよわっちーもんな」

 

 柵に寄りかかったままの男へ、白く真っ直ぐな髪を胸元まで伸ばし顔に大きな傷痕のある男が話しかける。

 

「…… 神黒(カグロ)、お前でもわからないのか?」

 

「この世にいないって事はわかるよ。ただ、死んだってか消えたっぽいねー。お得意の電脳世界であろうが死んだら俺にはわかるし」

 

「……俺の方か、お前の言っていた方がやったのだろう。別に黄透(キスク)がいようがいまいが特になにも変わらない」

 

 白髪の男は振り返り、城の奥へと戻ろうとするが、

 

「じゃ、俺がちょっと行ってみよっかなぁー」

 

 立ち止まり、振り向かないままに声を発した。

 

「ダメだ。それは許可しない。お前はここにいろ」

 

「許可とかカンケーなくない?俺はあんたの部下でもなんでもないぞ?それに、あんまりうるせーと奥で寝てんの俺が殺しちまうぞ?」

 

 白髪の男の長い髪が重力を無視したかのようにくしゃくしゃになって揺れ動き、もはや大気ごと震わせる。

 神黒の方を向くその顔は、あまりの怒りのせいか元々の端正な顔を悪鬼のような形相に変えている。

 

「その前にお前を殺すぞ……!!!」

 

 黒と白の間の空間に亀裂が入りそうな程の気と気のぶつかり合いが起きるが…

 

「冗談だって、何マジになってんだよー。そんな事しないって」

 

 張り詰めていた気は一気に霧散した。

 

「ただ、さっきのも半分は本音。俺はおまえに止められる筋合いはねぇよ」

 

 白髪の男は肩をすくめ、少しため息をついた。

 

「……仕方ない。黄透を殺れる奴がいると言うし、目障りではあるしな。時間はかかるが、このまま地球に向かう」

 

「ならオッケー」

 

「…ただ、その前にーーーー」

 

 黒いもやに包まれた、大きな惑星程もあるなにかが地球へと動き出した。

 

 

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