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「今日は、なにすんの?」
いつもの朝。
ユウリの作った朝ごはんを食べ終えて、私は紅茶を、ユウリはコーヒーを飲んでいる。出掛ける前の大抵の光景。
そして、ユウリはいつもなにをするのかと予定を聞いてくるので、いつものように今日考えてる事を伝える。
「…今日も、学校に本を読みに行こうと思います」
「そうか。意外とオススメなのはあの奥の方にある歴史系が俺は好きだったな。ちょっとボロいのが残念だけどわりと面白かったぞ。………じゃあ、行ってくるな」
「…はい、いってらっしゃい」
おすすめの本を紹介して、残っていたであろうコーヒーを飲み干し、仕事へと向かうユウリを見送る。
ユウリは先月高校を卒業したので、働いている職場へと出かけていった。ハンターとしての仕事、悪さをする宇宙人を狩るのが仕事だそうだが、そんなに頻繁に起こる事なのだろうかとも思う。私が知らないだけで、他の事務的な作業もあるのかも知れないが。
一月以上前に起こった、私が、ユウリと抱き合って寝ていたことで…ミカンにはかなり詰められてしまった。
あの時のミカンの目は、銀河大戦当時の戦士にも匹敵する怖さを持っていたと思う…
ただ、起きてきた当のユウリはまったく覚えていないし、何とも思っていなかったらしく、そのままミカンを宥めきってしまったので、その時は、ものすごく感謝をした。
あれからも、たまに似たような事態が起きる事はあるが結局原因はわからない。最近では、ユウリの部屋からあの妙な匂いがする間隔が、どんどんと狭くなっている。
ユウリの部屋に、張り込むのもいいかもしれない…
でも、今でもたまに、ふと思う。なぜ私はあんな夢を……
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「そろそろ、【発】で作った能力教えてくれません?」
俺は事務所につき、松戸さんと加賀見さんの【念】の修行を見ながらも、今までほっておいたことを口に出して聞いてみた。
半年先か、十年先か、はたまた明日か。
いずれ来る決戦の時に味方である二人の能力を知らないままでは不安が残る。
「……それは、ようやく僕らを信用したってことかい?」
よく言う。
俺は信用してる。あなたは俺を捨て駒なり当て馬に使いたいのはわかってる。隠さなくてもいい。
「いえ、割と前から信用はしてますよ……信頼にレベルアップしたいだけです。お互いにね。俺は全能力をさらけ出してもいいですよ」
顔を少し下げたため、メガネが事務所の電気の光を反射し、松戸さんの目を伺えなくする。だが、オーラの反応は……
「……いいだろう。だが、大方君の予想とあっていると思うよ」
「ありがとうございます」
ここで、協力関係を結べるのは大きい。
任せられる部分は任せたいし、俺だって死にたくはないが、それ以上に死なせたくない物の方が多くなってしまったから、助けられる可能性は1%でも上げておきたい。
松戸さんは、裏切らないでくださいね。
「僕の能力は加賀見くんの補助でしかない。加賀見くんの事は、以前話した通りだが、それについては詳しく調べたかい?」
「…ヘスティア、でしたよね。ギリシア神話に出てくる、炉の女神で合っていれば、本の知識程度なら有りますね」
『それは、合っている事は少なく、間違いは多くある』
ずっと黙ってこちらを見ていた加賀見さんが、前へと出て話す。明らかに、雰囲気も口調もいつもとは違う。声すらも、違っていた。
『私は父であるクロノスに飲み込まれた。合っているのはここだけだ。』
ギリシア神話、俺が読んだ物では、ヘスティアはクロノスの第一子。予言で子孫に討たれると出たクロノスが、我が子を恐れて飲み込んだ。と言う話だったと思う。
その後唯一飲み込まれなかった末子のゼウスに討たれたクロノスが飲み込んでいたゼウス以外の兄弟を吐き出し、最後に出てきたのがヘスティア。炉の女神として、炉から離れることができない神。おっとりとした、呑気な性格だったとか。オリュンポス十二神の席すらも甥のディオニューソスに譲るくらいの慈愛の心のある女神だったと書かれていたが……最初すら違うのか?と言うか、本当に、神なのか?
『そもそも私が飲み込まれたのは予言の前だ。クロノスの目的は、全宇宙での神々の戦争でできた己の魂の傷を、全て私に擦りつける為に私を永らく腹に入れたのだ……ゼウスに腹を裂かれたクロノスの体からようやく出てきた私は、自由に動くことすらままならない体に変えられていた。ゼウスに処女を誓っただと?ゼウスこそが私を愛した者たちを私から遠ざけ、私の体を治そうともしなかった。それを炉の神だのと称して……
あの虫ケラの如き卑しき者共が!!!
この私を!!何が女神だ!!オリュンポス十二神の座をディオニューソス如きに譲るはずがないだろう!!そのせいで、なんの肩書きもない私は、いまや魂を啜る悪魔だ!!!』
加賀見さんは顔を歪め、腕や足、体はボコボコと音を立てて人間ではないような、異常な変化を見せ始める。その異形へと変わりゆく体からは、ドス黒い
悪魔…神々…そんなものが本当に?と思っていたが、目の前のコレと、漏れ出している、オーラではない、瘴気を見ると、思わざるを得ない…これは、本物だ…
『闇のソナタ』、魔王が作曲したとされる独奏曲。聞いたものは呪いを受けるなどと言うオカルト話は昔の世界でも在ったが、これを見た今、それもあながち怪談話ではなかったのかも知れないとすら思える。
「契約違反だ。そんな言葉使いは許さん。君はあくまでエレガントに、美しくなければならない。その体から、出て行ってもらうぞ」
『………はい、先生。』
そう言った加賀見さんの身体はしぼんでいき、いつもの綺麗な姿へと戻っていた。立ち振る舞いも言わずもがなエレガント。
だが、声は相変わらず違ったままで、ニヤァと音がしそうな程に上がりきった口角は不気味に見える。瘴気が無くなってもなお、魔の者の纏う雰囲気は消えてはいなかった…
元々、松戸さんの教え子で合った加賀見リイサさんの魂と器を狙っていたヘスティア。だが、ヘスティアは己の意思で動く事ができなかった。
その、ずっと見ていた加賀見リイサさんは殺され、そこで現れたのが松戸さん。
その時の加賀見リイサさん殺害の理由は知らないが、殺ったやつを殺すことが松戸さんと加賀見さんの目的。
ヘスティアは、最後に自分のものになるはずだった加賀見リイサの美しい魂と器を壊した者へと恨みを抱き、松戸さんと契約を結んだ。
松戸さんは愛していた、とは言わなかったが、教え子である加賀見さんを殺された恨みと、自身の恨みもあり、そのために悪魔と契約をして加賀見さんを形成したのだ。
俺が【念】を教えるためにした契約で聞けた事は、二つ。
一つは松戸さんの目的と理由。それは先程のことでわかる。恨みを晴らす事。
もう一つが加賀見さんの正体と能力。
結果、吸収型の宇宙人なんかではなかった。
今の加賀見さんは、リイサさんを含めた十人の死体の部位を混ぜ合わせて松戸さんが作った肉人形。残りの九人がなんだったのかは知らないが、人と悪魔と宇宙からの来訪者だとは言っていた。とはいえ、もちろんそのままでは動くはずもない、そんな事は完全に人間の領域を超えている。
だから、そのつぎはぎの体と、それぞれの体に宿っていたバラバラの魂の残りカスを繋ぎ合わせて、今の加賀見さんを形成しているのが悪魔ヘスティア……
「じゃあ、ヘスティアの事を知ったところで、僕らの能力は……」
…とんでもないな。
まさか自力で制約と誓約に気付くとは……
それに、女神であり、悪魔……味方であれば、これ程頼りになるものもない。
ただ……たぶん長くは持たないだろうな。
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「なぁ、兄上。今日はどこに行くんだ?」
「ん、中華とかにしてみようかと思ってるけど、嫌なら変えようか?」
「うんん、嫌じゃない。行こー!」
「チューカ、なにか不思議そうですけど、楽しみです。お兄様。ありがとうございます」
兄上の仕事は今日は休みだったから、約束通り昼のご飯を食べに行くのだが、モモも付いてきた。
そしてさっきからずっとこの態度、まーたいい子ぶってる…
「それにしても、もうお怪我は治ったのですか?」
「ん、治ってるよ。一ヶ月もあれば治るだろ。それよりモモ、あんまりくっつくなよ。胸があたっちまうぞ」
「おいモモ、兄上も嫌がってんだろ。離れろよ」
「ナナだと、あたる事はないですものね」
むっ。コイツ自分がちょっとあるからって……あたしだって…
「兄上は、ミカンやヤミと仲良いし、大きいやつは嫌いなんだぞ!」
「…え?そんな事ないですよね!?お兄様!?」
「別にどっちでもいいよ。そいつに似合ってれば。大半の男はおっきい方が好きだとは思うけどな。ただ、モモは自重しろ」
大半は置いておいて、兄上は胸の大きさは気にしないのか!よし!
ん?なんであたしは今喜んだんだ?
「そ、そうですよね!良かったです♡」
でも、モモのさっきの焦りよう…
デビルーク星でも、父上に地球行きを許されてからはハンターハンターってずーっと言ってたもんな。モモは、ハンターである兄上が、好きなんだよな…?
なんで、あたしはこんな気持ちに…?
気のせいか。お腹すいてるからかな。
地球のごはんはおいしいから、楽しみだなー!
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「これなんで机回るんだ?」
「中華料理って、色々と取り分けるからな。みんなが取りやすいように、ここを回して好きなの取るんだよ」
「へぇーー。あっ!兄上それとって!」
「だから、そーゆー時に回すんだっての」
キャッキャと子供のようにはしゃぐナナ。
王宮で礼節を学んでいたはずなのに……
落ち着きのない双子の姉を見ながら思う。
ユウリさんはそんなナナにも色々と教えてあげている。
優しい人だから。
異世界人だって言うのには驚いたけど、私の気持ちは変わらない。
今晩も行こうかしら……
でも、そろそろヤミさんが張り込んでいそうな予感がするので、ガマンしなきゃいけませんね……
「モモ、食べないのか?辛いの苦手だったらこれならいけるだろ?」
考え事をしていたので箸が止まっていた私に、ユウリさんが点心という種類の小籠包というものを取ってくれるが、
「ありがとうございます♫でも、これはどうやって食べるのですか…?」
銀色のスプーンにマルっとした白い薄い皮に包まれたもの。箸で割って食べるのだろうか?
「そのまま一口で行くんだよモモ。さっき言ってたのに、聞いてなかったのか?」
「一口でなんて、そんなわけないでしょうナナ」
「いや、合ってるよ。中に入ってるスープもうまいから」
え?本当だったんだ。ユウリさんが言うのならそうなんだろう。意を決して少し大きく口を開けて口に入れるが…
「……ただ、熱いから気を付けろよ」
「ーーっ!!」
ちょっと遅いですよお兄様!!口に入れた後に言わないでください!!熱くて少しむせてしまった…はしたなく…
「あはは!おべっかモモの素が出たな!」
「ははは、わりーわりーちょっとわざとだったけどさっきナナには言ってたんだぞ?」
「もー、ひどいですよ…お兄様」
イジワルはされたが、王宮とは違う、自由な、楽しい食事だった。
そこにユウリさんがいて、ナナがいて、お姉様たちもいたら、もっと賑やかになるんだろうな。
ユウリさんの住む地球はいいところですね。
ユウリさんの過去は聞いた。この世界の方ではない事も。
それでも、やっぱり私はあなたが好きな事は変わりません。
二番や三番は嫌です。私が1番でないと。
わがままかも知れませんが、私だけを見てはくれませんか?
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「食べたー!」
「ナナ、はしたないですよ。ご馳走様でした。お兄様♡」
「うん、じゃあ出るか」
俺たち三人は食事を終えて、二人を家に送る。
家と言っても、ララのラボと一緒で結城家に異次元空間をくっつけており、そこが住居スペースなんだそう。
特に何事もなく向かっていたのだが、視線を感じ【円】を展開、見知った、と言うか何度か見かけたやつがこちらを伺っているのがわかった。
用があるのは、まぁ俺だろうな……
「悪いな。ちょっと用事ができてさ、俺はここで!じゃあな」
「あ、お兄様」「ちょっと、兄上!」
二人に手を振り、路地を曲がる。
待っているであろう人通りのない路地まで来たところで、ようやくご対面できた。
「どうした?外に出てるなんて、なにか合ったのか?」
「……ユウリさん、助けて…ください…」
そう言って、俺の元へと来た奴は倒れた。
どうやら気絶しているだけのようだが……
ーーーざわーーー
怒りで、心がざわつく。
なにがあったかは知らない、わからないが……
どこの誰かは知らないが、俺のツレに手を出すって事がどんな報いを受けるか、教えてやろう。
気絶した、小さな子を腕に抱き、黒コート姿に変わると空を駆けた。
結界師から名前を拝借してる陣は色々と独自設定で変わっておりますが、パラレル世界という事で、ご理解と容赦頂ければ……