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「……行きまふよ?」
「まふって…食いながら喋るなよ。かわいいけど、ガキっぽいぞ?」
「ん………私が…かわ…いい?」
口に含んでいたたい焼きを飲み込み、目を見開いて、頬を赤く染めて、さらに小首を傾げる、たい焼きを手に持った宇宙一の元殺し屋。
「あん?なにを今更──ほら、行くんだろー?」
そんな元殺し屋の様子を気に止めることもなく、先に行こうと促すが、何かぶつぶつと呟きながら動かない。
「……プリンセスと同じ事を…まさかユウリに…」
「ぶつぶつなに話してんだ?どーかしたのか?」
なおもこちらの世界に戻ってこないので、少女が手に持っていた、たい焼きの入った袋を奪うと空いた手を引き歩き出した。
「…なっ!なにを…?」
「あぁ。ごめん。ミカンとは良く手ぇ繋いで歩くからさ」
繋いだ手をぱっと離し、素直に謝る。
「あっ…」
「とりあえず、待ってるだろうし行くぞー」
情緒のおかしなヤミが少し気になりながらも、目的の場所へと二人で向かった。
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「結城リト……いつもワザとやってないですか…」
「い…いえ…」
ありのままに、いま起こったことを言うと、
ヤミと結城家に来たのだが、庭から話し声がするので庭のほうに向かい、角を曲がった瞬間、
リトがヤミのパンツに両手を添えて、顔を股間に近づけていた。
なにがどうなったら、こんな事になるのか…
「そうですか」
という事で
「ヤ…ヤミさん!」
「あ、お兄ちゃん!」
「ミカン…今日はおそろいではないんですね」
「えっ」
突然関係のない話をするヤミ。お揃いって何?二人じゃなきゃわからんなんかがあるんだろうか。
「結城リト、ムダ死にはやめてください」
「…なっ!」
「話、聞こえてきてたから。調子の悪いセリーヌのために必要なものを取りに、Sランクの危険惑星で薬の
あらかた話は聞こえてきてた。
リトの誕生日にララがプレゼントした植物であるセリーヌの様子がおかしく、どうやら病気のようで、惑星なんとかってとこで薬になるラックベリーを取ってくれば良いんだよな。
セリーヌとも、もう一年くらいの付き合いだし、番犬ならぬ番植物として家を守ってくれてたし助けてやらないとな。
「ユウリ、行く前提で話をしないでください…!」
「ユウ兄、そうだよな!セリーヌは家族だ!!見捨てるわけにはいかねーよ!!」
「うん。ララが連れてきてくれた、結城家の一員だし。後は足の問題なんだけど、ヤミの宇宙船は何人乗れんの?」
「……はぁ…わかりました…そこまで言うならこの私も行きます。ルナティーク号ならこの人数でも乗れますから」
「ありがとー!!ヤミさん!!」
「さっすが!!」
渋々引き受けてくれたヤミ。だったが、ミカンとララからお礼を言われ、照れているのか少し頬が赤い。
「………では、船をここに」
そう言って何か端末を操作するヤミ。ピッという軽い電子音がすると、漆黒で少し金色の装飾が入った宇宙船が空に現れた。
「わーーっ。これがヤミちゃんの宇宙船かーー!」
「…はい。共に幾多の死戦を乗り越えた
さて、これで行けるのだが、その前に少しだけ保険をかけときたい。
「ミカン、今日ララが西蓮寺と古手川を呼んでるはずだから、二人にコレを渡しといてくれ。あと、コレはミカン用だ」
そう言って、黒い携帯ストラップのようなものを渡す。
「なんですか?──ん?コレ、ボタン…?」
受け取ってくれたミカンがストラップについたボタンのような丸い部分を押すと…
──ブンッ──
「わっ!え?何、何ですか!?」
ミカンが黒コート姿に変わる。俺と同じもので、違うのはサイズと襟裏にボタンがついてる事。フードも被っている状態なので顔は全く見えず、ミカンとは見た目ではわからない。
顔の見えない悪役のような格好をした小柄な者が可愛らしい声を上げながらあたふたとする絵面はなかなかに面白い。
「ふふっ。俺の仕事着と同じもんだよ。ただ緊急のボタンが襟の内側についてるから、危険があればそれを押せ。かなり固いから気をつけてな。それは俺にも伝わるから、すぐに飛んで行く」
「あ、ありがとうございます……ふふ。ヤミさんの次はユウリさんとお揃いですね」
「…ヤミの次ってのはわかんないけど、まぁそうだな。あとは良く人質にされてるし、あの二人にも渡しておいてくれ。普通の服より耐久やら耐火性がかなりあるから、何かあれば直ぐに纏うようにな。あと、リトとみんなの分も一応あるから渡しとく」
「すごーい!お兄ちゃんとみんなでお揃いだねー!!なんか、リトがしてたゲームのキャラみたい」
「確かに。──まぁ完全に敵の機関だったけどな……でもありがとうユウ兄!」
最後に、ぴょんぴょんワープくんDXの据え置き型を地球にセットしてルナティーク号に持ち込んでおく。
これで、保険はかけれたかな…
「じゃ、セリーヌを頼むぜミカン」
「うん!気をつけてね」
「ミカンもな。じゃあ、行ってくるな」
そうして、惑星ミストアへと向かうため、ルナティーク号へと乗り込んだ。
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「へぇーこれが宇宙!先が見えないし、広いなぁ!それにルナティークの移動速度半端ないな!本当に外で息できないのか?」
「あったりまえだろォ!俺は宇宙一はやいぜ!あと、宇宙空間に酸素はねぇぞニイちゃん!」
「やっぱそーなんだなぁ!!にいちゃん呼びは、俺がヤミちゃんの兄ちゃんって事?それともキャラ?もしくは俺もルナティークのお兄ちゃんを襲名したのか?」
「
「気になると知りたくなるんだよ。ヤミちゃんって呼んでみろよルナティークも。俺は呼んだことないけど」
ルナティーク号の人工知能とずっと楽しそうに話してるお兄様。
でも視線は時折……
「………」
お兄様とは対照的に、リトさんはどこか元気がない。
そんなリトさんへと視線を向けるお兄様はリトさんが心配なんでしょうね…
ルナティークとの話が落ち着いたのか、リトさんの横に腰掛けたお兄様。
「リト、あんまり思い詰めんなよ。セリーヌは助かる。もちろん俺らも無事でな」
「ユウ兄…そうだな。助かるんだもんな!」
「まぁ、お前がいつものようにドジっても俺が助けてやるから」
「な、なんだよいつものようにって!流石に危険惑星でこけないって!」
リトさんは、お兄様と話をしたあとは思い詰めたような顔から、やる気に溢れた顔になった。お兄様は、セリーヌさんも、リトさんの事も、みんなのことが大切なんですね……
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「モモ、そのラックベリーってどんな物かはわかったりするのか?」
着陸後の行動の話すらしていない。
植物と言えば、モモなので目的のものくらい知っておきたかった。
「見た目は、地球のリンゴのような物なのですが、果実を図鑑でしかみた事がないような希少種ですので、どこにあるかまでは……」
「そうか。見た目がわかるだけでも十分だよ」
「着陸後は、私が植物たちの声を聞いていこうと思います」
モモは植物と心を通わすことができる。確かに、それが最優先か。とは言え何が起きるかはわからない。植物にも、心があるんだ。きっと良い心も、悪い心も…
「なら、ここから先はモモ頼りだな。でも無理はするなよ?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございますお兄様♫──必ず助けましょうね。セリーヌさんを」
ピンク色の癖っ毛を指で弄びながら、返事をしてくれる。
そうだな。何が起きるかはまだわからんが必ず、助けようと思った。
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「随分と、霧が濃いな…みんな慎重に動けよ」
惑星ミストアに着陸した。その前に、霧の影響により発生している強力な磁気によって予定の侵入経路を変えていたので、ある程度予想はしていたが、確かに濃い。
今は俺とリトだけ黒コート姿に変わっている。
俺はジッパーだけ口元まで上げて、顔の上半分しか出ていない状態になる。
──ゾワ──
「!!」
ん?モモの様子がおかしい。
「どうしたの?モモ」
「──モモ!!」
モモの様子がおかしかったのでララが声をかけた時、モモの側にあった花が突如膨らんだのを確認できたので、叫ぶ。だが、少し遅かった。
「きゃっ」
花粉が吹き出し、モモにかかるがその場からモモを押し飛ばした。
「吸い込むな!呼吸を止めろ!」
俺もコート越しとはいえ少し吸ってしまった。
「ケホケホッ」
くそ!モモはモロに吸ってしまったか。毒ではなさそうだが…どんな効果があるかはわからない。
次は──【円】で確認したところ、ツルがリトに迫っている!なんなんだこの星は!これが危険度Sって事か──
「うっ」
「リト!?」
リトの足に植物が絡まり、ララが叫ぶ。
天高く放り投げられそうになる前に、既にリトの元へと飛んでいた。
「疾ッ!!」
リトの足に絡まる植物を結界の刃で切り裂き、リトの足を俺が掴みみんなの元へと投げた。
「ん!?」
なぜか、結界を解いたつもりもないのだが手に生成していた具現化の刀が消える。それに、俺の体の動きが遅い。オーラも普段通りに練れない…まさか、体力とオーラを削られたのか?
そのまま他のツルに絡みつかれ投げられる。
「くっ!!全員固まって動け!俺は別行動する!!」
「お兄様!!」
モモが落ちていく俺を呼びながら掴み、飛んでくれようとするのだが…
「く、うぅ〜〜…」
俺と同じで、力がうまく入らないのか?
「モモ!俺を離せ!自分だけなら飛べるだろう!?」
「い、嫌です!!──あっ!反重力ウィングが…っ!」
──パッ──
モモの翼が消える。この花粉か、霧が電気機械にも作用するのか!?
「くっ、掴まってろ!!」
背中を掴んでいたモモの手を払い。振り向いて抱きしめる。
「お兄様!!」
底が、霧で見えないが、おそらくはかなり深い。初めの【円】の範囲では底がわからなかったので最低でも50m以上穴が続いているのは確かだった。
「キャーーー!!」
「大丈夫だモモ。しっかり掴まってろよ。ったく、無理すんなって言ったろ…」
モモの頭を抱きしめて、俺で包む。後は、上手く練れないオーラで【堅】を行い、衝撃に備えて落ちていく、途中。
花弁を広げた巨大な鳳仙花の花のような物が目に入った。しかも、それは壁中に生えていた。
「こ、これはキャノンフラワー!!でも、大きすぎる!?」
「大丈夫だから。舌噛むぞ」
種なのかなんなのか、開いた花弁の中央から、
これが宇宙Sランクの危険惑星ね。
認識を改めると共に、オーラを今出せる最大限まで高めた。
ーーーーーー
なんだろう。頭を撫でられてるのかな。
──安心するような、気持ちいい。
「ん…んん……」
「お、起きたか」
「あ……ユウリさん♡──また……私の為に…」
私は気を失っていたようだ。目を開けるとお兄様のお顔。
でも、またところどころお怪我をされてるように見え、顔も血を拭ったような跡が見えた。
「ん?ユウリさん?まぁ別にいいけど……体は平気か?どこかおかしなところとか無いか?」
それなのに、私の事ばかり…こんなにも心配してくれる…
「あ…はい。私は大丈夫で……あれ?」
かくんと、自分の意思ではなく膝が曲がり、その場に座り込む。
「モモも、力が上手く入らないのか?」
「え、えぇ。先程の、『パワダの花』の花粉のせいだと思います。極度に体力を消耗させるもので、たしか効果は一時的だったはず…」
「そうか。毒性なものじゃ無いなら大丈夫か。ひとまずこの近辺でラックベリー探すか」
「え?お姉様たちと合流しなくても…」
「大丈夫だろ。上にはララもヤミもいる。俺たちの方が弱体化しちゃってるから、上は任せて、この辺りをひとまず探そう。──よっ」
「キャッ!お、お兄様…!?」
突然、私の体を持ち上げておんぶしてくれたお兄様。
「ここは水辺に近すぎる。動ける動植物がいたら、この辺りに来そうだから移動した方がいいかなって。そういう植物もいるだろ?」
言う通りだ。今いるのは、湖のような場所の上に生えている、リュウキンカに似てはいるが、比較にならないほど大きな葉の上にいたようだ。
「そう…ですね。大型のものも多いようですから、移動した方が良いとは思います。でもお兄様は…」
「俺の方が吸い込んだ花粉の量は少ないから平気だよ。岸まで移動して少し見て回るか」
お兄様の背中…広くて大きな背中。
すごく、安心する──
そう思いながら、森の中で、お兄様に背負われて歩く。
大きな木の幹を足場に、上下左右に縦横無尽に歩いているが、お兄様の背中はあまり揺れない。気を使わせているのが痛いほどにわかる…
「……すみません。足手まといになってしまって…」
「気にすんな。俺がもっと速く反応してれば良かったんだが…」
「そんな事は…!」
「悪かったな。なんだか悪意を感じる森だし──こっから警戒は最大限だ」
お兄様、私のように森の声を聞けるわけでもないのにわかるのか…やっぱり特別な人なんだ…
話を終えた後のお兄様は、話に聞くオーラというものを展開しているのか、上手く言えないが力強く暖かい何かが広がっていく感じがした。
少し無言になっていたからか、急に話題を変えて話し出すお兄様。
「…でもさ、凄いよな。ララは発明の天才。ナナは動物と、モモは植物と心を通わせる事ができる。──それって、みんな生まれつきなのか?」
「そうですね………」
少し、昔の話をした。王室での勉強や、ナナとの喧嘩も数多くしてしまっていた事、お姉様は昔から変わらず、私とナナは手を焼かされていた事などなど。
私の昔の頃なんて話す気はなかったのに、お父様とはまた少し違う包容力というか、なんだか話しやすくてつい喋ってしまった。ユウリさんに、私の恥ずかしい昔の話なんて…
「ははっ。楽しそうでいいじゃないか。──でも、ララの事は、ちょっと舐めすぎだぞ」
「え?──お姉様を舐めすぎ、と言うのは?」
「ララは、その辺の奴なんかよりもよっぽどしっかり者で、底抜けに優しく、純粋だって事」
あの子供っぽいお姉様が、しっかり者?天真爛漫でいつも騒がしくて、落ち着きのないお姉様なのに…純粋で優しいって言う事はわかるけど、
「ララの事、好きか?」
「──もちろん、大好きですよ」
考えていた私に、突然の質問。お姉様の事、そんなの、もちろん好きに決まっている。
「なら、いいんだ。ララも、地球に来たときに自分にはしっかり者の妹が二人いるって言ってたから。ララの真意は俺の憶測だから、あとは自分で考えな」
お姉様の、真意?王宮で騒ぎをおこしたときは、発明品の失敗と、暴走した時……そういえば、私がナナと言い合いしていた時は決まって暴走だったような……
「少し、おっしゃりたい事がわかった気がします……お姉様は、お兄様に本当に心を開いてるんですね」
「そうだと嬉しいけど……モモは、まだ俺には心を開いてくれないのか?」
「──え?」
「気を使ってるのかなんなのか、俺に対するモモは何かを隠してる気がしてさ。図々しいのはわかってるけど、ずっと気になってる」
隠し事、というか私は、あなたのことが…
もう、散々我慢した。四年も待った。初めて会った時から、ずっと私の気持ちは変わらない。このまま、デビルークの後継者になってしまうのは嫌だけど、抑えきれない私の想いを伝えようとしたところで、
「お兄様…いいえ、ユウリさん、私は……!!」
急に、お兄様の背中が強張った……
「──モモ、気を付けろ。何か、来る…!」
そう呟いて少しすると、霧の中に何かの影が見えた。
ーーーーーー
「モモーーー!!兄上ーーー!!」
「お兄ちゃーーーん!!」
「モモーーーー!!!」
不気味な、霧の深い巨大な森の中に幼さの残る男女の声が響き渡るが、探し人からの返事は聞こえない。
「だめだ───いない!」
「……少し、危ないかもしれませんね」
ナナが返事が無いことに不安そうに叫び、ヤミが花粉を吹き出し、今はしぼんでいる花を見て呟く。
「な、何が!?」
「図鑑で見た事があります。これはパワダの花ですね。この花の花粉は生物の体力を著しく低下させる効果があったはず…」
「それじゃあ、ユウ兄とモモは!?」
「ユウリはどうかわかりませんが、プリンセス・モモは確実に吸い込んでいました。おそらく今の彼女は地球人以下の動きしかできないでしょう…」
「なら!今すぐ助けに行かなきゃ!!」
今の二人の置かれた状況をヤミが説明するが、焦ったように騒ぎ出すリトだが、また別の方向から焦ったような声が聞こえた。
『ララ様、この霧のせいか…き、機能が…テ…イ…シ…』
「ペケ!?」
ララの着ていた衣服がブレる。そうして、ペケは機能を停止して衣服から通常の状態に戻り、ララの纏う衣服は消えて、産まれた時の姿へと変わった。
「ラ、ララ!!?」
「ペケの機能が、停止してる…」
「姉上!兄上からのストラップを!ケダモノに襲われちゃうぞ!」
「あ、そうだね!」
こうしてララも黒コート姿へと変わり、ペケを胸元に抱える。
ララの思うケダモノとナナの言うケダモノは一致していないようだが。
「よし!じゃあ早くユウ兄とモモを…!」
「そう簡単にはいかないようです。──それに、ユウリが付いているのならプリンセス・モモは心配いりません」
「「「ギギギギ!!」」」
──ザザザザザザ──
「なんだこいつら!?」
食虫植物を巨大にし、根は外に出ているのか自身で動くことのできる植物たちに囲まれる。花の中央には牙が生えており、不気味な声とヨダレを垂らして辺りを囲うように展開していた。
「な!こいつら、俺たちを食べる気か!?あんなの一口でお陀仏だぞ!!?」
植物の不気味な声と、リトの焦った声が森に響いた──