Troubる   作:eeeeeeeei

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三話 新生活×秘密

ーーーーーー

 

 どうしてこうなったんだっけ?

 

 俺は玄関で立ち尽くしているとリトに声をかけられた。

 

「いらっしゃい!ここが俺ん家だよ!案内するね!」

 

 半ば強制的に家に連れ込まれ

 

「いらっしゃい。あなたが2人を助けてくれたユウリくんね。私は林檎。リトとミカンの母親よ」

 

 小柄で可愛らしい女性に迎えられた。

 こちらも挨拶を返してリトに引き続き家の中を案内される。リビング・トイレ・風呂場等々の案内をされ最後に、

 

「ここが俺の部屋!ユウリの部屋ができるまではしばらくは俺の部屋で我慢してね」

 

「ん、わかった」

 

 返事をしながらコクコクとうなづいていると、声が聞こえた。

 

「おーい!夕飯できてるぞー!」

 

 二人でリビングへ向かう。時刻はもう19時を回っており、腹も減っていた。

 

 簡単な自己紹介も兼ねてそれぞれの話をしながら用意されていた夕食を食べた。

 話も落ち着き、本格的に食べる事に集中しながら俺は結城家へと来た経緯を振り返る。

 

 病院で俺がリトとミカンといるあいだに、才培さんは弁護士とミカドと話していたようで、施設行きには反対だったようで、ならば自分が親代わりとなり自分の家に住まわせるという話になったようだ。

 

 そんな簡単に決まるものなのかはわからないが、俺は施設嫌いになっていたので二つ返事でOKした。

 

 その後検査には3日後に来てもらえれば良いということでそのまま結城家で生活をする事になった。

 その際に才倍さんからお礼を言われていたのだが、どうやら俺がリトとミカンと別れた事故現場付近では通り魔が出ていたようで、被害者が何人もいたそうだ。

 

 おそらく俺が目覚めた時にはその場にいなかった茶毛の獣人がやったのか、吹き飛ばした位置にたまたまいた人たちを襲ったのかはわからないが。

 

 そういう事もあってか、リトは車から転がり出てきて、通り魔に襲われても死んでいない俺をゲームのキャラかなにかにでも例えているのか懐いてきており、いきなり両親を亡くし記憶もない俺を不憫に思ったのか、才培さんは俺を受け入れてくれたのだ。

 

 夕食を終え、なんてことない話や今後の話を終えて、就寝の時間に。

 リトの部屋に行き、寝ようと思ったのだが、リトはどんどん話しかけてくる。

 自分の好きなゲームの話だったり、家のこと、家族のこと。

 俺のことも聞いてくるが残念ながら答えられることが限りなく少ない。

 獣人の件もあるので、宇宙人というのはこの世界では普通なのかと思っていたが、それもどうやら違うらしい。

 そんな事を話しているうちにリトは寝ていた。

 

 起きてからいろんな話を聞いたがと俺のもといた世界とは似てはいるが、たしかに違う世界なんだと実感した。

 ハンター協会はないし、そもそもハンターがいない。

 『就寝同時起床(ハロー・ワールド)』がちゃんと発動したのは良かったがまさか別世界に飛ぶとは思っていなかった。

 

 能力発動の瞬間は成功するのか不安だったが、見事成功したら以前の世界で所属していた集団からは解放されるし、やりたいことも特にないので好きに旅でもしようと思っていたのでちょうどいい。

 リトが眠るベッドの横に敷かれた布団に入り考えていたが、俺もだんだん眠くなってきたので、リトを起こさないように小さく呟いた。

 

「ーーーおやすみ」

 

 

ーーーーーー

 

 

 翌日、またミカドのもとへ行き簡単な検診を受ける。

 

 異常はないようで、この調子なら何か違和感を感じたらここに来る程度で良いらしい。

 

 記憶に関することはそのうち思い出すかもしれないし、二度と思い出すことはないかもしれないとだけ言われたが、正直『七瀬 悠梨』の記憶が蘇ることは絶対にないだろうし、俺自身の昔の記憶は既に戻っている。

 忘れていることがないとは言い切れないが……

 

 その後結城家へ帰り俺ははじめて勉強というものを行う事になった。

 

 今は世間的に夏休み。

 これがあけると俺は中学三年生らしい。

 リトは同じ中学の一年生、ミカンは小学校の二年生だ。

 

 この長期の休みが開けると学校というものが始まるので、文字の読み書きもうまくできない俺は勉強をさせられる事になったのだ。

 今はミカンと同じ、小学校二年生レベルの勉強をしている。

 数字は奇跡的に同じだったので算数は中学レベルであれ問題ない。

 

 問題は社会、この世界の地理や歴史なんて知るはずがない。

 国語にいたっては赤子の如く、まずは文字を覚えるしかない。

 

 しばらくは勉強漬けだな……

 

ーーーーーー

 

 この生活が始まり約一年が経った。

 

 いろいろとあったが、自分で自分を褒め称えたいくらいに俺はかなり頑張った。

 

 まずは勉強に関してだがはじめて学校と言うところに行った。

 同い年くらいの人間と、机に座って教師の話を聞く。

 もともと捨て子なので学校なんて行った事もなく、全てが新鮮だった。

 

 ただ、もちろん授業にはまったくついていけない。

 

 まず文字の解読から始めなくてはならないので当たり前なのだが、ノートすら取れない。

 一度面倒になってハンター文字でノートを書いていたのだが、隣の席のクラスメイトに俺のノートを見られたようでギョッとした顔をしていた。

 

 その日以降、俺はハンター文字の使用はやめた。

 

 なぜならその翌日から、なぜかいまだに戻らない白黒混じり髪色のせいもあってかクラスのやつからは謎の記号をノートに書き連ねるかなり痛いヤツと認定されたからだ。

 

 この世界の仕組み的には中学を出れば義務教育というものが終わる。

 

 つまり社会人になって職につけるのだが、才培さんからは記憶喪失のため世間一般の常識にうとい俺に

 

「高校はちゃんと行って卒業しろ。このまま社会人になったらお前のこの先が心配だ!」

 

 と言われたので必死に勉強したが、いまだ一年遅れの中学二年生の勉強をしている自分のレベルでは無謀ということはわかっていたので少し狡い事をする事に決めた。

 

 試験当日、なんとか念能力を駆使して、完全にアウトな方法だったが俺は見事に彩南高校の合格を勝ち取ったのだ。

 

 試験でも使用した念能力だが、こちらが最近は安定しない。

 

 原因はわからないが俺の魂と肉体がまだ馴染んでいないのか、前肉体の十分の一程のオーラ量となった転生初日の戦闘時よりも更に弱くなっている。

 

 もはや基本のオーラ操作も覚束ない念初心者に成り下がってしまったので、今は四大行と凝などの応用のオーラの流れを操る修行ばかり行なっている。

 オーラ量はほんの少しだが増えていってはいる。

 これは爆発的に増やせるようなものでもないので地道にやっていくしかない。

 この世界であればそこまで戦闘力は必要ないとは思うが、初日に出会った化け物もいる。

 そういうわけで完全に必要ないわけではないし俺自身、修行や自分が強くなることは好きなので日課のように行なっている。

 

 この春から、俺は晴れて高校生となりリトも中学二生。

 ミカンも小学三年生になった。

 この頃から才培さんは仕事が忙しくなってきたようで、アトリエに籠ることが増え、林檎さんも仕事で海外に出ることとなり、家には基本的に俺とリトとミカンの三人となった。

 

 リトは俺を『ユウ兄』と呼んであれから本当の兄のように懐いている。

 ただ、ミカンとは相変わらずで、いまだに名前を呼ばれたことすらない。

 三人での生活が始まってからは、より距離を置かれていた。

 

 

ーーついこの間までは。

 

 

ーーーーーー

 

 

 私はあの人が嫌いだ。

 

 初めて会った時も私は危ないので爆発した車から近づくが、リトがいくので仕方なくついていったが。

 

「ーー大丈夫?」

 

 リトが心配そうに声をかける。

 

「うん、俺は大丈夫。おまえらは?」

 

 転がったままの体勢で私たち二人を見ている。

 なぜだろう、なんだか、怖い。

 

 リトがさらに心配して声をかけているが、この人はなんでもないような顔をしている。

 そもそも今はもう私たちとは別の方向を見ている。

 遠くてよく見えないが煙の奥に見える大きな人影を眺めているようだ。

 その目に私は恐怖を感じていた。

 

 その後リトがなおも心配をして声をかけているが、最後は少し怒っているように私たちに離れるように言っている。ようやくリトも折れたようだ。

 全く、なんでこんな状況でまでお人好しになれるのか。

 そこが良いところでもあるのだが……

 

 私はリトに手を引かれてようやくこの場を後にすることができた。

 リトと家に帰った後、リトは興奮したようにお父さんとお母さんにさっきの事を話している。

 私はあの場からずっと走りっぱなしで帰ったし、今日の事は早く忘れたかったのでその日はすぐに寝てしまった。

 

 翌日、昨日のことが大事件になっていた。

 通り魔も出たそうで、被害者は20人以上。

 

 あの人も、殺されたのだろうか?

 

 私はなんだか怖くなりそれ以上考えない事にした。

 

 あれから何日か経ったあと、あの人は生きていたことがわかったそうで、お父さんがお見舞いに行くというのだ。

 私とリトとお花を持って病院に行ったが会うことはできないということだった。

 それから二週間経った頃にまたお見舞いに行き、その後なぜかこの人も私たちと暮らす事になってしまった。

 

 この人がうちに来て半年が経ち春休みになったが相変わらず私はこの人とは大した会話もしないままだった。

 夕食でお母さんがみんなに向けて話があると言って、その内容はこの4月から本格的に仕事を再開するようで、海外を拠点に働くというのだ。

 

「ユウリも高校生になるし、リトもミカンも大丈夫でしょう?」

 

 そう言ってお母さんは4月から海外に行ってしまった。

 

 最近はお父さんも仕事が忙しいみたいで、アトリエに篭り家に帰ってくることもほとんどなくなってきた。

 

ーーー全部この人のせいだ。

 

 この人がいるから、私の家族はバラバラになってしまった。私はこの人がもっと嫌いになった。

 

 三人で暮らすようになって二ヶ月もした頃、中学二年生になったリトが林間学校に行った日、その日は天気が悪かった。

 

 学校が終わり家についた頃に雨が降りだした。

 その後雨はどんどん強くなってきている。

 あの人も傘を持っていたにもかかわらずびしょびしょで帰ってきて、今はシャワーを浴びている。

 

 今日はリトは帰ってこない。

 あの人と家に二人きり。

 

 いつもよりも広く感じられるリビングで私は一人思う。

 

 なんで私はあの人が苦手なんだろう?

 何を考えてるのかわからないから?

 私の周りはわかりやすい人ばかり。

 見ているとどんな感情でいるのかなんとなくわかってしまう、いつしかわたしの得意な事になっていたのだが、あの人はわからない。

 

 それが怖いのだろうか?

 ほぼ一年間一緒に生活をしてきて、あの人が悪い人ではないことくらいとっくにわかっている。

 

 ただ、リトを取られて、お父さんもお母さんも帰ってこなくなったこの状況をあの人のせいにしているだけ。

 私がお子様なだけな事も、本当はわかっている。

 今日はリトがいないのもあり、心細さのせいと、自分の小ささに自分自身が嫌いになってしまいそうになる。

 

 瞬間、目の前が真っ白になった。ーーーそして轟音。

 

 私の悲鳴は雷の轟音に掻き消され、誰にも届いていないように感じた。

 停電もしてしまい、暗い部屋の中で、この世界に一人ぼっちになってしまった気さえしてきて、私は怖くて床に座り込み、震えながら顔を伏せたところで、背中に温もりを感じた。

 

「ーー大丈夫」

 

 声が聞こえる。

 優しい声だ。後ろから抱きしめられている。

 なんでだろう。すごく、安心する。

 

ーーー閃光

 

「きゃぁ!!」

 

 再度の落雷の轟音にまた恐怖が蘇って、自分の首に回されていた腕にしがみついた。

 

「大丈夫だから」

 

 また、優しい声。

 掴んだままの腕と、背中に感じる温もりと、だんだんと遠くなっていく落雷の音に、私はもう大丈夫だと安心していた。

 

ーーーーーー

 

「ーーユウリさん」

 

 雷雲は離れていき、今は雨音だけがしている。

 いまだ首に回された腕を掴んだまま、私は初めてこの人の名前を呼んだ。

 

「ん?」

 

「ーー今まで、ごめんなさい」

 

 後ろから抱きしめられている形なので顔は見えない。

 どんな顔をしているのだろうか。

 呆れているのか、はたまた怒っているのか。

 私は人の感情を読む事は得意なはずなのだが、ユウリさんには通じない。

 

「ーーごめん」

 

 なぜか私もあやまられた。

 ユウリさんは悪くない。

 私が一方的に嫌っていて、ユウリさんはきっとそんな私に興味もないので距離を取っていると思っていた。

 

「なんで、あやまるんですか?」

 

「ーーミカンには、嫌われてるのはわかってる。家族ってのは、実はまだよくわかんないけど、嫌いな奴とは仲良くしたくないってわかるし、俺もミカンの距離に合わせるだけでなにもしなかったから……まあリトはなんとかしようとしてたんだけどね」

 

 あと、抱きついて。

 と照れたように付け加えてユウリさんは話してくれた。

 私は勘違いしてた。

 【記憶喪失】であるユウリさんこそが、この世界にひとりぼっちだったのだ。

 

 七歳も年上なのに私と同じ勉強をしてる時はバカな人なんだなんて思っていたが、バカなのは、私の方だった。

 あの人の考えてることがわからないのではなくて、私が見ようとしていなかっただけだ。

 お父さんとお母さんがいなくなった後、料理以外の家事は全部ユウリさんがしてくれていることも、知ってて知らないフリをしていた。

 自分の小ささに気づかされる。

 

 俯いたままなにも答えない私を変に思ったのか、ユウリさんの腕が動く。

 私は掴んでいた手を離した。

 てっきり離れていくのかと思っていたが、背中の温もりはそのままだ。

 顔を上げると、ユウリさんのてのひらが上を向いており、薄い青色の光が見えた。

 

「ーーえ、」

 

 なんですか、と続きは言えなかった。

 

 よく見るとその光は薄青色に光るまんまるな玉で、ふわふわと浮いていき私の顔の前をただよっている。

 不思議な光景だった。

 

「女の子はイルミネーションが好きだって、クラスのやつから聞いたんだけど……もしかして違った?」

 

 耳元で聞こえる少し不安そうな声。

 なんだか、すごく安心した。

 自分が勝手に作っていたユウリさん像がどんどんと壊れていく。

 

「ーーいえ、合ってますよ。季節外れですけど、元気、出ました」

 

「なら良かった。ーーーこんなこともできるよ」

 

 てのひらの上にあったはいくつもに別れ、今ではいろんな大きさの光る玉が浮かんだり沈んだり、消えたり増えたりしている。

 私はそんな不思議な光景に目を奪われていたーー

 

 

 

「お」

 

 ユウリさんの呟きと同時に部屋が明るくなり、幻想的な、不思議な光景も終わりを迎え、後ろに感じる温もりもそっと離れていった。

 

「ーー今のは、ユウリさんが?どうして、こんなことができるんですか!?超能力ですか!?」

 

「なんなんだろうね」

 

 部屋も明るくなり、今は向かい合う形で座っている。

 私の質問にユウリさんは笑って答えたが、まったく答えになっていない。

 

「超能力、なのかな?よくわかんないけどできるんだよ。あ、ただでさえこの髪のせいで周りからは変な奴認定されてるから、ミカンだけの秘密にしてもらえると嬉しいんだけど…」

 

 リトはうっかり口を滑らしそうだし、と付け加えてユウリさんはちょっと困ったような顔で言った。

 

 超能力、なのかはわからないらしいけど私とユウリさんだけの秘密。

 その日は今までが嘘のように二人でいっぱい話をした。

 リトや、学校の子たちとは違い大人な話ができて私はすごく楽しかった。

 ようやく私はユウリさんを家族だと思えるようになった。

 

 この日から、私はこの人のことが、嫌いから、ちょっと好きに変わった。

 

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