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「それで、私のところへ?」
今、私の前にはお姉様とリトさん、ハルナさんと古手川さんの四人と、何かわからないが頭に一枚の葉っぱが生えた可愛らしいカエルのような、手のひらサイズの方がいらっしゃっていた。
「なんだーあたしにコイツの翻訳してほしいわけじゃないのか?」
『なんだこの無礼な小娘は!』
なんでもこの今ナナへと怒りを露わにしている
「あの……普通に考えて、お兄様のことではないんですか?」
「「……あ」」
「もうっ。ユウリさんが生命力をオーラに変えて使ってるって話をしてくれたの忘れたの?」
ユウリさんの能力の説明を受けていたはずのお姉様とリトさんは、どうやら完全に忘れていたようですね。ミカンさんも私と同じ事を思っていたようだ。
ハルナさんと古手川さんがキョトンとされているのはわかりますが。
『ふむ。こちらの小娘も少しは力はあるようだが、より強いものがいるのであればそちらの方が良かろう。では、貴様が案内せよ!』
ミカンさんもユウリさんと同じ力を使える事を見抜いている?この方は、見かけによらず相当な力の持ち主のようですね……
ただ、ユウリさんを巻き込んで何をするつもりなのかは知っておきたい。
「それはかまいませんが……何をされるのですか?」
『うろ様の寝床の修復じゃ』
「寝床の修復…。ではそのうろ様とは、どのような方なのですか?」
『恐れ多いぞ人間。うろ様はこの星の神なるぞ』
「神様!?」
全員の声が、思わず揃ってしまったようだ。
なんだか、とんでもない話になってきましたね……
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「それで、俺のところへ?」
『貴様が生命力を操る術師じゃな。見ればわかる。では行くぞ!』
「ちょっと待て。その前に、うろ様ってこちらの方であってる?」
突然ユウリの家に来た七人と豆造。
玄関で、この星の神であるうろ様の寝床を直すようにと言われたのだが、その前に来ている来客者がそれだろうと、リビングへ案内した。
『うろ様!!?』
「…いらっしゃい」
リビングのソファーに座るヤミ。
その前のテーブルには山盛りのたい焼き、と全身を茶色の毛に覆われ着物を着たナニカがいる。
笠の天辺あたりからはツンツンと毛が飛び出してちょんまげみたいになっており、目はまん丸。鼻は見あたらないがその辺から口を隠すように髭が伸びている。
ヤミ六人分くらいはあろうかというサイズのその茶色のナニカは伸ばした指に大量のたい焼きを突き刺して食べていた。
『なんと、それがしよりも先に術師を見つけていらっしゃったとは、失礼をいたしました』
「あ、良かった。やっぱりうろ様で合ってたか。ヤミと意気投合?してるっぽいし修復ってのしてもいいよ。神ってのを詳しく聞きたいし」
『ふむ。良いだろう。こちらの方こそがこの星の神、うろ様である!ユウリと言ったか、貴様は中々の腕利きと見える。うろ様の寝床は貴様が直すがいい」
という事でもふもふとたい焼きを食べ続けているヤミとうろ様の二人は置いておいて、残りの全員で豆造の話を聞く。モモがずっと気になっていたのかはじめに豆造へと質問をした。
「まず、この星の神って言うのはどのようなものですか?神が実在するなどと言う話は宇宙でも聞いた事がありません」
『ふむ。良いだろう。神とは言っても貴様らが想像するようなものではない。言うなれば、この日本で言うところの土地神や
「………ちょっと、すごいお話すぎるね…」
「もう、非常識を通り越しすぎてついていけないわ……」
「あはは。あたしもよくわかんないや」
「すごいすごい!宇宙の歴史の勉強でもこんなの習わなかったよー!」
「確かに、元の世界でも聞いた事のない話だな」
なんともスケールの大きな話。
春菜と古手川の常識人組は早々についていけなくなり、ナナは理解しようとすることをやめたようだ。
他のみんなは続きが気になるようで、嬉々として発言したララとユウリは目を輝かせ、リトとミカンは息を飲むように、モモは思案するような顔で聞いている。
『そもそも神は現世にはおらん。この世に在るのは星神のみ。星神と言うのは【
「たまぐら、って言うのはなんなのー?」
『──魂蔵とは、あらゆる力を自身の中に無尽蔵に蓄えられる性質の事じゃ。蓄えた力は様々な力の源となり、力がなくならない限り消滅するような事もない。そのような性質を持つものは、極々稀じゃがな』
「つまり、うろ様がこの星や生命を作った、と言うわけではないし、生まれた時から星神ではなかったと?」
『…貴様らは全てのものが意思のある誰かに作られたとでも思うておるのか?そんなわけが無かろう。意思あるものに無からの創造などできん。
「「神を喰うって!?」」
全員が驚愕するが、ユウリとリトは神を喰うという行為に反応し、声が揃った。
『いわば神殺しよ。星神の持つ莫大な力を得ようとするただの愚か者じゃ』
つまり、神殺しをしたものは神の力を得る事ができると言う事か、ならば、黒蟒楼の伝説は…それに、地球の神を喰った奴は、星ごと喰ってはいないし、黒蟒楼のような奴が、まだ他にもいるのか…?
ユウリの脳内ではさまざまな思考が巡っていた。
『もう良いか?──では貴様のやる事の説明をしよう。星神であるうろ様の寝床は異界にある。そこは神の領域。半端な者では意識を保つことすらできぬが、見たところ空間支配の術も心得ていよう。そうであれば
「空間支配……結界の、コレの事か?」
── ピキィン ──
手のひらに小さな結界を生成する。
『そうじゃ。自身を守らねば、意識を神域に持っていかれるぞ。貴様は直す者、そこの小娘も多少は生命力を操れるようじゃから繋ぐ者としてついてまいれ』
「わっ、私!?」
「えーずるいよお兄ちゃんもミカンも!私もやりたい!」
『いかん。この小僧以外は入る事は許さぬし、そもそもできん。小娘も入口の道標の様なものだ』
ララは豆造に自分も入れてもらおうと話しているが、リトは心配そうにユウリと話している。
春菜と古手川は一応真面目に話を聞いてはいたようだが、ナナは既に飽きており、ヤミとうろ様とたい焼きを食べていた。
ーーーーーー
その後、細かな事は行ってやらねばわからぬ!
との事だったのだが、術師である俺は寝床で生命力の歪みを直すのが仕事で、ミカンは異界の出入口で俺とこの世を繋ぎ止める役目。
「私が、もしもユウリさんを繋ぎ止められ無かったら……」
「大丈夫だって」
「なんでそんな気楽に…私のせいでユウリさんが戻ってこれないかも知れないんですよっ!…やっぱり、辞めませんか……?」
『なにを言うておるんじゃ!このこむす──』
弱気になるミカンに、怒る豆造をユウリが手のひらで制した。
「ミカンだから大丈夫だって。星神さまには、しっかりこの星守ってくれなきゃ困るしな」
実際のところ、神と言うものを知る事で黒蟒楼の強さを図りたいと言う目的もあったのだが、今の言葉も、また本音だった。
頭を撫でながら言うユウリの顔を見て、ミカンも覚悟はできたようだった。
「ユウリさん…、もうっ、わかりましたよ」
『……では場所を変えるぞ』
そう言って、豆造曰くうろ様の寝床の出入口へと来たのだが、そこに着き、思わずリトの口から言葉が溢れた。
「彩南…高校…?」
『うろ様は昔からこの土地が好きでな。この場所が昔でいうここらの中心じゃったから、入口はここにある。』
「なんか、宇宙人がこの街に集まる理由がわかった気がするな」
ララやミカド、はぐれ宇宙人しかり、他の宇宙人たちの多くも何故か日本の、この街へと来るものが多い。その理由の一端は星神の寝床の出入口がここにあるから、と言う事が関係しているのかもしれないと思えた。
ーーーーーー
『では行くか。小僧、決して気を抜くなよ』
「それは良いけど、先にアレを片付けたいんだけど?」
旧校舎と本校舎の間の林にある小さな池で、いよいよ神の住む場所に行く、と言うところでユウリさんが池の先を指差す。
何も無いと思ったのだが、その先から音が聞こえてきて、徐々に姿も見えてきた。
現れたのはスーツを着た女性。のようだけど…なにか変だ。そこにいないようと言うか、生きている感じがしないと言うか…
── バチュン ──
そんな事を思っていると、
立ち止まった、その女性のシャツの真ん中が、内側からの膨らみに耐えきれず音を立てて裂け、中から何かがニュルルと出て着た。
「…うふふふっ。まさか本当に地球に神がいるとはねぇ。強い力を辿って見たけど、良いものを見つけたものね。碧暗さまに良い土産話ができたわ…」
下半身は蛇、上半身は人間だが、爬虫類混じりの、ヘビ女とでも呼べるような女型の化物が何かを喋っている。それでも、放つプレッシャーはかなりのモノ。
この方、強い……!!
「それにしてもブサイクな娘ばかりね。勿体無いでしょうから、この男たちは私がもらって帰ろうかしらぁ」
私たちをブサイクですって!?それに、よりにもよってユウリさんとリトさんを気にいるとは、この雌ヘビには退場していただきましょうか…
『うろ様の御前で喧しい。消え失せい』
「──え」
── ばくん ──
私は、少し口撃をしてやろうと口を開こうとしたのだけど、先に豆造さんが小さな体で前へと踊り出た。
と思ったと同時、私の目の前でヘビ女はマヌケな声をあげると突如現れた凶悪な植物に食べられるように、跡形も無く消えた。
「こ、これは?」
『それがしの飼っておる異界の植物じゃ。では仕切り直しじゃな。行くぞ小僧』
「…強いな」
『星神であるうろ様の側近が弱いわけが無かろう。そんな事はどうでも良いわ』
そんな事を二人は呑気に話しながら池の中へと飛び込んで行き、うろ様が続いて飛び込み、ミカンさんはその池の前に座り、豆造さんから渡されていた枝を握りしめて眼を閉じていた。
ーーーーーー
なるほど。しきりに言われてたのは『これ』の事か。
豆造から神の領域では気抜くな。と
なんだか自分の意識をシールのように剥がされているような、自分という存在への理解度がだんだんと無くなって行くような感覚。
このような感覚への多少の恐怖もあるにはあるが、思ったよりも大した事はないし、色々と知りたがりな性格だから恐怖よりも好奇心が優っていた。
「ここが、神の領域…」
『うむ、そうではあるが、まだ入口。ついてこい小僧』
まるで誰かの【円】の中にいるような…いや、体内のような感じで、確かにすごい場所だと思った。
豆造に続いて、そこら一帯に生えている見たこともない植物たちを掻き分けながら進む。
ーーー
しばらく歩くと、豆造がこちらに振り返り指をさす。
『着いたぞ、あそこだ』
そこには、木の枝がいくつも重なって出来た巨大な鳥の巣のようなものが有った。
「なるほど、あの中を直せばいいんすね」
『うむ、しっかりやるがいい』
中に入ると、外の枝は後から覆ったものだと気づく。これは、マリモみたいなものに、後から巻きついてるのか。
それによって、オーラが乱れてるのかな…これを鎮めれば、いや欠けてるところを足せばいいのかな。
強力なのだが、何処か凸凹というか、虫食いになっている感じがするオーラ。マリモの壁面へと【周】を行い、希薄になっている部分に己のオーラを集中させると吸われていく感覚がある。加賀見さんにオーラを吸われている感覚に似ている気がした。
「これなら、もうちょいで直せそうだな」
マリモの放つオーラの凹凸を平し、虫食いも無くなったところで、急にかなりの量のオーラを吸われる。欲しがられているのか、奪われているのか……まるで子供の欲求なようなものを感じる。マズいと思い止めようと思ったが、既にかなりの量を吸われ、寝床はふた回り大きくなったところで吸収はとまった。
大きくなったことにより巻きついていた木の枝は全て弾け飛び、鳥の巣から、穴の空いた巨大マリモみたいになった。
「最後のが長く続いてれば、ちょっとやばかったな……まっ!これでどうすか?うろ様」
俺の言葉に反応したのか、寝床が直った事がわかったからか、うろ様が嬉しそうに寝床に近寄ってくる。
かわいく見えなくも無いし喜んで貰えたならよかった。
ぴょんと跳ねて、大きくなった寝床にうろ様が入ると……
─── ズゥゥゥゥゥン ───
「ぐぅっ!!」
とてつもない重圧。
「…ぐ、こ、これは、気に入って貰えたって事で…いいんすか?」
『良くやった。だが、そこから離れろ』
「…きっつ」
豆造の忠告通り、うろ様の寝床から距離を取ると、だいぶ楽になった。
『神の寝床にも耐えておるのは流石ではあるが、普通人の身ではこの地にすら耐えられん。うろ様も眠りにつきたがっておるし、うろ様がお眠りになられたら出口は消えるぞ。早うここから出ろ』
神の領域とはよく言ったものだ。
ここは、神を中心に据えて初めて神域と化す。今この場所は俺が入った瞬間とは比べものにはならない程の重圧感。今は、最終的には自分の意識そのものが消えて無くなってしまうようにすら感じる程に、自分という感覚が薄くなってきている事がわかる。
「確かにそっすね。じゃ、って出口は……?」
『落ち着け小僧。繋ぐ者がおろう』
次々と草や木が生い茂り、薄くなる意識を奮い立たせている状態の俺だが、入ってきた道がなくなっていた事はわかった。
豆造の言葉でミカンの存在を思い出し、ミカンのオーラを感じる方向へとゆっくりと歩き出す。
絶界で邪魔な木々は消しながら歩いているが、次から次へと生えてくる。そのため絶界を常に維持し続けている状態なのだが、突如、聞いたことのない声が頭に直接響いた。
【感謝するぞ…異世界からの迷い子よ】
「……どーいたしまして。うろ様」
寝床へと振り向き、嬉しそうなようで、少し皮肉を込めたような微笑みを浮かべて手を振るユウリを眺めるうろ様。
まん丸な目を細めて去っていくその背を追うが、なにを思いユウリへと声をかけ、その背を見ていたのかは、豆造にすらわからなかった…
ーーーーーー
「あ…」
「ど、どうしたんですかミカンさん!?」
「───ただいま。ありがとなーミカンのおかげで戻って来れたよ」
無事に、帰ってきてくれた。
あれからミカンさんはずっと目を閉じていたが、急に声をあげたので何事かと思ったが、ユウリさんが戻ってくるのがわかったみたい。
ミカンさんはそのままユウリさんに抱きついて、ユウリさんは撫でながらお礼を言っていた。
二人の繋がりが…少し羨ましい。
「お兄ちゃん!」「兄上!」
「「神様の寝床ってどんなのだった!?」」
「ん。マリモだな、ありゃ」
「「マリモ!?」」
ユウリさんは姉二人から質問攻めを受けているし、リトさんとミカンさんからは心配されているようだ。
「モモ、なんかすげー植物もあってさ、見たこともないような───」
「そうなんですね。私も見たかったです…」
こうして優しくしてもらえるのは嬉しい。
けど、ミストアから帰って以降、ユウリさんと私の関係は進んでいない…
「ユウリ…うろは喜んでいましたか?」
「そうだな、ピョンピョン跳ねて喜んでたと思うぞ」
そろそろ、私もちゃんとアピールしないとミカンさんかヤミさんに取られてしまいそうですね…
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「確かに、星神がいるようですね」
「ふーん」
「ボクの部下から連絡が来ましたから、使えない割には役に立ってくれましタヨ」
「あっそ」
「興味は無いのデスカ?あなたは神殺しデショウ?」
「…欲しい強さじゃ無いんだよ。あれらの強さは種類が違う。全然楽しくねーししんどいだけだ」
「そうデスカ」
「…で、なんで白の前に俺に言ってくるわけ?」
「あなたは興味無いようですが、ボクはあるので。──ボクと取引しまセンカ?」
「取引、ねぇ……」
ふふふっ。
コイツさえ飼い慣らす事ができれば、ボクが…!