Troubる   作:eeeeeeeei

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三十四話 海×喪失

ーーーーーー

 

 

「ありゃ、知ってたんすか……?」

 

「僕の、というか君も所属してるはずなんだが…職業を忘れたのかい?」

 

「いや、霊媒系に、神が絡んでくるものなんですか?」

 

「付喪神はわかるだろう?それも良し悪し。結局は魂に作用するものさ。星神とは、その桁が違うだけだよ」

 

「はぁーーーなるほどっすね。確かにそう言われると…神という名に引っ張られすぎてたんすかね」

 

 昨日の出来事を一応報告しにきたのだが、松戸さんはご存知だったようで。

 霊魂として良いものが付喪神だのと祀られ、悪いものは悪霊として退治、除霊される。松戸さんの仕事そのものだった。

 もっと、オカルト的な本を読もうと今更決めたのは二人には内緒だ。

 

「そうですね。とは言え下界の方々は神界に属するものを神としてイメージする人が殆どでしょうから」

 

「神界ってのが神話の方の神様の世界みたいな感じって事っすか?」

 

 加賀見さんと松戸さんから色々と教えてもらうが、正直ちんぷんかんぷんになった。行けるものなら楽しいだろうが、神界に人間が行く事は不可能だそう。星神すらも、神界からすればただ寿命を超越しただけの存在で特に意識することもないとまで言い切っていた。

 

 確かに、うろ様と豆造の強さはわかった気がするが、俺の求める強さではなかった。

 オーラと四肢を使っての血湧き肉躍る戦い、とでも言えば言いのか、いわゆるスリルを感じる戦いは彼らとはできない。

 圧倒的な気によって、戦うことすらなくただ死を与えられる。だが、それを超えた時は確かに星神であろうと狩る事もできるだろうとは思っていた。

 

「ま、行けないんじゃ良いです。神々は下界に降りてくるとかもないんでしょう?」

 

「そうですね。降りようと思うものはいないでしょう。──ここは、小さすぎるので」

 

 少し遠い目をする加賀見さん。

 小さすぎるか。俺の寿命使い切ってもこの宇宙は絶対に回りきれないだろうし、俺は全然ここでいいや。

 

 

ーーーーーー

 

 

「それ、俺も行かなきゃダメなのか?」

 

「せっかくだから、ユウ兄も行こうよ」

 

「別にお前らだけで行けばいいじゃん?」

 

 仕事終わりにリトが話したいことがと言うので喫茶店でコーヒーを飲みながら話をしているのだが、なんでもサキの所有するプライベートビーチに招待されて一緒に行こうとの事。

 

「ユウ兄が出て行ってからこうやって遊びに行く事って無くなってたし、俺も来て欲しいんだよ」

 

「んー。海でしょ?汚いし、あんま見せたくないんだよな」

 

「…ごめん」

 

「ばか、俺がじゃなくて見た側に悪いからだよ。西蓮寺とかもいるんだろ?気ぃ使わせるし。────んな目で見んなよ…泳がないけど、それでもいいなら、な」

 

 傷だらけの体を見られる事に抵抗は無いが、リトのように見た側に気を使われるのは嫌いだった。

 俺が気にしてない事なのに、なんで他人が気にするのか…

 

「ホントか!?じゃあ、俺みんなに伝えてくるから、ありがとなユウ兄」

 

「はいはい。──遊びも恋もいいけどさ、勉強もしろよ。ヤミがお前の頭の悪さを鼻で笑ってたぞ」

 

「うっ!まさかヤミとそんな事話すのかよ…?」

 

 この間リトのテストの点を見たそうで、ヤミの態度を思い出す。

 嫌そうな顔をするリトをからかいつつ、氷が溶けて薄くなったコーヒーを飲み干した。

 

 

ーーーーーー

 

 

「ユウリ様、ようこそいらっしゃいましたわ!」

 

「あぁ。いつも悪いなサキ。こんな大人数で押しかけて…」

 

「良いんです。他は、オマケのようなものですから♡」

 

「そうか。そうだとしてもありがとな。俺、海って何気にちゃんと見るのは初めてだから嬉しいよ」

 

 サキの別荘へと辿り着きお礼を言う。オマケってのは、なんかのパーティーのついで的にみんなを呼んでくれたって事かな。

 でも、もともと巨大湖メビウスしか知らなかったし、こっちの世界の海は台風騒ぎの時に見ただけだったから、テンションも上がっていた。

 

「ちょっとした余興と、夜にはバーベキューもご用意しておりますので、お楽しみくださいね♡」

 

「おぉ。何から何までありがとな。なにも返せるものが無いから申し訳ないな…」

 

「そんな、お気持ちだけで十分ですわ♡」

 

 その後もいくつか会話をして、それぞれ着替えるために男は男、女は女の部屋へと別れた。

 

 

ーーー

 

 

 視界に入るのは白と青ばかり。

 上を見ると、白い雲と青い空に、今は前を見ても、白い砂と青い海のコントラストが果てしなく続いている。

 

「キレーだなぁ」

 

「ユウ兄、海見た事ないんだっけ?」

 

「夜の海だけだな。元の世界は湖しかなかったし。

──おい!そろそろ慣れろよ。別になんもしてねーだろが」

 

 リトとたわいのない会話をしつつ、隣のビクついた猿山へと声をかける。

 

「ホントっすか…呪ったりとか…」

 

「しねーってかできねーよ。俺の事は気にしないで良いから、二人もさっさと遊んで来い」

 

 しっしと二人を追い出すと、若者二人は、普段よりも限りなく裸体に近い水着姿の女性たちを目に焼き付けているようだ。

 

 その後何人かと会話をして、みんなが海で楽しんでいる様子を眺めていたのだが…

 

「あなたは、泳がないんですか?」

 

「ん?まーな。保護者的なノリで来ただけだから」

 

 レンか、いつもルンの方だったから話すのは初めてかもな。

 俺の格好は一応下は海パンだが上にTシャツと丈の長いパーカーを着て麦わら帽子を被っている。男にしたら、今から泳ごうと言う格好では確かにないな。

 

「あの……ララちゃんは、ボクに振り向いてくれるでしょうか?」

 

「それ、なんで俺に聞くの?」

 

「だって、あなたは王宮でもいなかった、ララちゃんがお兄さんと呼ぶ程に心を許してる人だから…」

 

「そーなのか?」

 

「小さい頃から見てきてるから…わかりますよ。だから聞きたいんです」

 

 恋の相談ね。なんか、ホントに兄キャラが定着してきたな……

 

「…ま、知らねーとしか言えないわな」

 

「そんなっ!?」

 

「別に意地悪でもなんでもないぞ?好きなら諦めなきゃいいだろ」

 

「それはそうですけど…」

 

「10年後に、もしも成就しなかった時に今の時間を無駄だと嘆くなら、今すぐ諦めろ」

 

「それでもボクは…ララちゃんを諦める事なんて…」

 

「じゃあ、頑張ってみれば良いんじゃないか?まだまだ若いっ、のかは知らんが…惚れた方がやれる事なんて、頑張る事しかないだろ?」

 

「そう、ですね…!頑張るしかないんだ…!!」

 

 惚れた方は頑張るしかない。たとえ叶わなくとも、自分がどう思うかしかない。リトは、一体どうするんだろうな。

 レンは迷いが無くなったようだが、恋愛相談は今後やめて欲しい。俺に経験はないんだから、様々な知識を総動員して自分だったらを話すくらいしかできない。

 

「ありがと…ちょ…う、うるさいぞ!今はボクの番なんだからお前の相談は後で…!」

 

「ルンと話してんの?」

 

「え?あ、そうですよ」

 

 突然俺に背を向けて、ダイナミックに独り言を繰り出すレン。

 ルンと話してるそうで、今の今まで意識のない側は寝てるように意識がないのだと思っていたけど、話せる程に意識もあるんだ。

 

「それってさ、ルンの時もレンは意識があるのか?感覚とかも共有してたり?そもそも体がルンの時のレンはどういった状態で存在してるんだ?意識の中でも部屋とかあったりしてそこに意識が存在するのか、それとも完全にルンの視覚を共有してるとか?」

 

「えーと…─── ボクもちょっと泳いできます!」

 

 気になったので、色々と聞いてみたのだが、俺の質問攻めに答えることもなく、走って行ってしまった。

 

 もし悠梨が生きていたら、ありえない話だけど俺もあいつらみたいになってたのかな…

 

 

ーーーーーー

 

 

「ユウリ様。そんなところで座っておられず、あちらでスイカ割りなどいかがですか?今準備をしておりますので」

 

「おぉ、良いよ。わざわざありがとな」

 

「その〜、泳がれたりは、されないのですか?」

 

「生憎、体に自信が無いもんでな」

 

 一人パラソルの下に座っていたユウリ様へと声をかける。

 凛と共に沙姫様のために海でユウリ様との仲を進展させようとしていたのだが、一向に海に入ろうとしないので聞いて見た。

 すると、思いもよらなかった返答が返ってきた。

 

「ご謙遜を。服の上からでも鍛え上げられた肉体という事はわかります」

 

「そうゆう意味じゃないんだけどな。つまらないなんて思ってもないし、気にしなくて良いよ」

 

「あの…ユウリ様は、沙姫様の事は、どのようにお思いでしょうか?」

 

「ん?サキにはすごい感謝してるよ。アイツらも、特にララとその妹達、リトとミカンもそうかな。こうやってみんなでワイワイするのはあまり無かっただろうから、すごい楽しんでると思うよ。もちろん俺もね」

 

「あの、そうではなくて……」

 

「綾ッ!」

 

 沙姫様をどう思ってるのか知りたかったけど、凛に止められる。

 そうよね。沙姫様を差し置いて私が聞くなんて、さしでがましい事をしてしまった……

 

「え、なんか違った?────」

 

 私と凛のやりとりを見て、頬をかきながら言うユウリ様。自分に非があったのかと思っているようだ。ホントに、優しい方だな、と思ったのだが、突如、目を細めて小声で何かを呟いたが、その声は聞き取れなかった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「うぉわぁぁぁああ!」

 

「ペタンコで悪かったなーーーッ!!」

 

 高速で砂浜を、慣性の法則を無視して滑るリトは、そのままナナの胸を触って急停止。そしてナナにぶん投げられて回転しながら空を舞う。

 

「──また、か」

 

 綾と凛はユウリの視線の先に気づいたのか、リトのあげる叫び声に気付いたのか、ユウリに遅れてサキへと向かって空を舞うリトを呆然と見上げていると、空中のリトは突如現れた結界に包まれた。

 

──ボヨン──

 

「わっと!!た、助かった──ユウ兄!ありがとう!!」

 

「え、な、なぜ結城リトが空に浮かんで…ま、またララの発明ですわね!!」

 

「私じゃなくて、これはお兄ちゃんのだよ?」

 

「え、ユ、ユウリ様の…?」

 

「全員、海から出ろッ!!!」

 

 サキ、綾、凛はユウリの能力を知らないため驚き、ララの発明品だと思ったところで、

 空気を揺らすほどの大声でユウリが叫んだ。

 

 

ーーーーーー

 

 

 ミストアと同じ…ではなく、より希薄ではあったが海の中に気配を感じたために注意を促したのだが、少し遅かったようだ。海が、絶対に波では起こりえないほどに水面は盛り上がっていく、

 

 

──ざばぁぁぁぁあ──

 

「水の、バケモノ!?」

 

「お兄様、無闇に突っ込んでは!!」

 

「モモ!ちょ、アイツなんとかするから、離れろって…」

 

「ちょっと!なにをしているんですの!!?」

 

 巨大なスライムのようなものが出てくる。

 俺はスライムへと攻撃を加えようとしたところで、モモが俺の背中から抱きしめてきた。

 

 

──ベチャン

 

 

「ゲッ」

 

「あっ、やっ……!」

 

 粘液のようなもので俺とモモは拘束され、先ほど振り返った為に、正面から完全に密着状態となる。モモの瞳が少し潤み、漏れ出す吐息が首へとかかる。

 

「ちょ、モモ??」

 

「ヌルヌルしますユウリさん…っ!んっ、はぁっ、」

 

「こら、落ち着け!って、うぉ!」

 

──ブン!

 

 そのまま水の腕で上方へと投げられたところで、

 

「ユウリ、油断しすぎです。…あなたもユウリから離れてください」

 

「ヤミ!後ろ!」

 

「…くっ、うぅ…ニュルニュル……」

 

 ヤミの変身(トランス)により拘束を解かれる寸前、水の全てが体の一部なのか、一瞬で移動してきたヤツの触手にヤミは囚われる。

 

「こいつ!アクアン星の原子生物ミネラルンだ!すっごいレアなやつだけど、なんだか様子が…!?」

 

「ナナなら説得できないのか!?」

 

「無茶言うなよ!知能が低すぎて会話なんて無理だ!」

 

「そんな、ユウ兄とヤミまでやられたのに、どうすれば…」

 

 ナナの発言で正体がわかり、リトが説得をするように促すも無理らしい。

 

「キャーーー!」

 

「ハルナ!!このっ……!!」

 

──どぷん──

 

「な…ッ!ララ!西蓮寺!!」

 

 西蓮寺も触手に襲われてそのまま捕食されてしまった。それを見たララは飛び蹴りを入れるも、ララもそのまま取り込まれてしまう。

 体が水でできている為透けて見えるが、呼吸がままならない事はわかる。苦しそうに顔を歪め、口からは酸素が泡となって漏れ出ている。

 

「クソッ!こうなったら!!」

 

「ゆ、結城くん!?」「リト、無謀だよ!!」

 

 リトはスイカ割り用の棒切れを持って果敢にも突撃するが…

 

「ガボゴボ…ッ!!」

 

 突撃の甲斐もなく、水に囚われてしまった。

 だけど、諦めずにもがき二人の手を掴んだ。

 

「ミカン、リトの行動は無謀ではなく勇気だよ。──良くやった、後は任せろ」

 

「ユウリさん…」

 

「まずは……ッ!」

 

 結界で巨大なテニスラケットのようなものを生成し、リト目掛けて振り抜く。

 巨大ラケットは水をかき分け、リトたちを掬うようにミネラルンから出すことに成功した。

 そのまま吹き飛んでいくリトたち三人を、巨大なスイカのバケモノが木の枝のような腕を使って空中でキャッチする。

 

「ゲホ、ゴホ……」

 

「お兄様!三人とも無事ですわ」

 

「さて、あとはこいつをどうするかな…ナナ、何かわかることないか?」

 

 今は生成した結界の上に立ち、ミネラルンは顔のような部分を含めた広範囲を結界で囲ったために動かなくなっていた。

 

「確か、体のどこかに核があったはず、そこに衝撃を加えればなんとかなるかも!」

 

「衝撃と、核か…衝撃で包んでしまえば、核がどこにあろうと関係ないよなぁ…」

 

 ユウリは自身の前へと結界をいくつか連ねて生成すると、オーラを込めた右腕を結界へと突き出す。

 

「『暴王の咆哮(タイラント・ブラスト)』!!」

 

 衝撃は結界を駆け抜け、ミネラルンを包んでいる結界の中すらも駆け巡り、内側から結界を破壊する。

 爆発四散するように水の体は弾け飛んだ。

 

「す、すごい…」

 

 誰の呟きかは定かでは無いが、四散したミネラルンの目の見える部分を結界で再度囲むが、気絶したようにミネラルンは動かなくなった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「てか、お静ちゃんの念力で三人救出できたかもな」

 

「わ、わたしですか!?」

 

「うん。操作できるんなら、できたかもなって」

 

「あうぅ…そうかも知れません…すみませんでした…」

 

「いや、全然責めてるとかではなくてね…」

 

 ユウリさん、今はお静さんとお話しされている。

 あれからミネラルンはドクターミカドに引き取られ、帰って行ったのだけど、お静さんは残られている。

 

 既に夕食を終えて、天条院さんの別荘の大部屋で今は団欒の時間、みんな近くの方とお話しをされていた。

 

「村雨さんは念力だったりをもっと控えるべきよ!今回は七瀬さんがいたおかげで助かったからいいものの、もしいなかったらどうなっていたかわからなかったわよ」

 

「いや、そんな言ってやんなよ古手川。お静ちゃんも、もうちょいコントロールがうまくできたらいいんだけどな。生命エネルギーじゃなくて、霊力っての使ってるんだっけ?」

 

「集中が乱れちゃうとどうしても…そうですね、霊力とかも、特に意識した事はなかったんですけど…」

 

「ちょっと七瀬さんも、甘いことばかり言って……今回も危険だったんですからね!!」

 

「まー落ち着けって」

 

「ユウリ様、コーヒーのおかわりは如何ですか?」

 

 ちょっとみない間に…天条院さんは言わずもがな、古手川さんはおそらく、そしてこの藤崎さんはまだわかりませんが少し距離が近いような…

 ユウリさんを取り巻く女性がどんどんと増えている…これは、よくない傾向ですね。

 

「…家で飲むコーヒーの方が美味しいですね」

 

「あー、それはちょっとわかるかも」

 

「な!これは最高級のコーヒー豆ですのよ!!」

 

「ミカンもヤミも味に慣れてるからだろ?俺はこれも好きだけどな。藤崎、ありがとう。いただくよ」

 

 全く、ユウリさんは相変わらず優しすぎる。

 私も待つとは言ったけど、これじゃあ……

 リトさんと、お姉さまの仲も進めなくてはならないのですが、こちらはこちらで…

 

「結城くん、助けてくれてありがとう」

 

「ははは。俺は何もできなかったよ…ユウ兄がいてくれて助かったよ。」

 

「そんな事ないよ。水の中で、苦しかったけど、結城くんが私の手をとってくれたのわかったから」

 

「そーだよー!お兄ちゃんよりも先に、リトが私たちを助けてくれてたんだよっ♬」

 

 西蓮寺さんがどうやらリトさんの思い人のようですね。

 デビルーク星は一夫多妻も認められていますから、このまま二人と結婚して頂いても私はかまわないのでですが…

 

 その前に、私の方も動かなくちゃ。

 

 自分でも気づかないほどに、変わらない関係と、次々と現れる恋敵たちに、私は焦っていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「うふふ♡」

 

 既にみんなが寝静まった夜。

 それぞれに部屋があてがわれ、今日は双子の姉との相部屋でもなく、思い人も、隣の部屋に気配を察することに長けた金髪の少女もいない。

 

「それにしても、相変わらずかわいい寝顔ですね♬」

 

 お兄様は殺気には敏感ですけど、無害な気配では起きないと言った聖人のような人。

 それを知るまでは催眠効果のある花粉を使い続けていたのですっかりヤミさんには怪しまれてしまいましたが…

 

「でも今日は、疲れてしまいましたね。私も、寝てしまいそう…」

 

 ユウリさんのシャツを少し開け、胸にうずくまるようにして目を閉じる。

 大好きな方の匂い。指先にかかるのは肩に走る大きな傷の縫い跡。いつしか自分のためについてしまったこの傷を触り、口づけをする事が増えていた。

 

「んっ…ちゅ…」

 

「んん…」

 

 いけない、起きてしまいそうですね。最後に頬へと口づけをして、私も意識を手放した。

 

 

ーーー

 

 

「あっ…はぁ…や…」

 

「むにゃ…」

 

 快感に襲われて目をあけると、あたりはまだ薄暗い。

 早朝の、太陽がのぼる前の灰色の時間。

 横に眠る、ユウリさんの瞳の色と同じ色をした時間帯。

 

 快感の正体を探ろうと意識を起こすと、

 

「ひゃん!ユ、ユウリさん…あっ!」

 

 いまだ眠っているユウリさんの下半身に、私の下半身はくっついている。

 眠る前にはだけさせたためか、シャツもズボンもずり落ちており、私も上半身はあらわになっており、下は下着姿の状態になっていた。

 

「ユ、ユウリさん、起きているので…!!ああっ!?」

 

 私が少し離れようとすると、ユウリさんが私の尻尾を握る手に力を入れてそれを阻止する。

 

「あ、ユウリさんったら…寝ていながらに…♡」

 

 そう言うと、夏だというのに冷え込む朝方だからか、ユウリさんは私の尻尾を自分の顔へ押し付けて顔を左右にフリフリと振る。

 

「んむっ!!やぁっ…」

 

 思わず出てしまう嬌声を抑えるべく、はだけた自らのシャツを噛み、声を押し殺す。

 

「あんっ…そんなに暴れないでくださいユウリさん…口や鼻がこすれて…んんっ♡」

 

 私の身体が微かに震えたところで

 

「ぱくっ」

 

「ひっ!?尻尾、噛んじゃだめえぇ…!!」

 

 びくんと、自分の意思とは無関係に波打つ体。

 私の体がはねたためか、尻尾を弄る手の動きはとまり、すっかりベットの下へと落ちてしまった布団を求めているのか、うんうんと言いながら私の体を抱きしめる。

 目の前に、ユウリさんの顔。お互いの息がかかるほどに近い。

 だんだんと、近づいていく。

 

「んっ」

 

 

 私からか、それともユウリさんからかわからない、覚えていない。

 唇と唇が触れ合った瞬間、意識が飛んだから。

 

 感じたのは、喪失感。

 

 女の子が夢見るファーストキスを、眠りながらに奪われた喪失感とかではなくて、単純に、時間と意識を喪失した。 

 唇から走る快感が全身で弾けて、頭はまっ白になる。

 

 まさかキスで意識を飛ばされるなんて思いもしなかった。

 たとえ初めてだからと言って、こんなにも凄い行為だったのだろうか。

 男女の躰には相性があるという事は知っていた。もしかしたらだけど、私とユウリさんの相性がピッタリなのかもしれない。

 

 

──── もう一度……無意識に、私はユウリさんと再度キスを…

 

 

 とは、いかなかった。

  

「……モ、モモさん、な、にを…?」

 

「…」

 

 ユウリさんの目が開いており、意識が覚醒し始めたのか、だんだんと顔に熱を帯びていく。

 あの快感を、あの幸福を……

 

 それを求める私はユウリさんの言葉を無視して、

 

 もう一度、唇を重ねた。

 

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